映画を思い出す時には『画』が蘇ってくる。
所謂、『名場面』というやつなんですが、
思い出す名場面には、
同じ撮影監督が就いていることが多いですね。
先日、
「陰影を使った見事な撮影」と言って紹介した『ゴッドファーザー』(1972)では、
ゴードン・ウィルスが撮影監督をしてました。
そして、
彼が担当した作品には、
中期のウディ・アレン作品があります。
『アニー・ホール』(1977)や『インテリア』(1978)などのカラー撮影も素晴らしかったのですが、
やっぱり決定打はモノクロ作品だった、
『マンハッタン』(1979)でしょう。
夜のマンハッタンに撃ちあがる花火、地下鉄、摩天楼、
そしてマンハッタン橋。
モノクロなのに色がついていました。
話によると、一度カラーで撮影したフィルムをモノクロに再加工したらしいのですが、
ものすごく美しかったです。
劇場で観ることができてよかったなあと思っています。
『ブロードウェイのダニー・ローズ』(1984)でのデリカッセンの街並みの横移動撮影もよかったなあ。
『画』だけでちょっと感動しちゃいましたよ。
大御所の撮影監督と言えば、
ヴィルモス・ジグモンドも外せないですね。
『スケアクロウ』(1973)や『続・激突カージャック』(1974)などのザラついて乾いた画もとても味があってよかったんですが、
『未知との遭遇』(1977)で雄大なデビルスタワーを写実的に撮った後、
『ディア・ハンター』(1978)でのペンシルバニアの街の美しさにはびっくりしました。
仲間同士で鹿狩りに行くシーン、結婚式のシーンの美しさ、
一転して激しい戦闘シーンやロシアン・ルーレットのシーンなどの汗の一粒まで捕らえた濃厚なシーンなど、
彼でなくては取れなかったでしょう。
でも、彼の撮影監督としての最高傑作は、
『天国の門』(1980)でしょう。
これは疑う余地はありません。
作品自体は、アメリカの恥部と言われたジョンソン郡戦争を描いたということで、
批評家や観客たちから散々の評価を受け、
史上最悪の失敗作と言われている本作ですが、
画面は本当に美しい。
広大なワイオミングの風景をこれ以上ないという色彩で切り取った。
美術も含めてどうしてオスカーが取れなかったのだろうか。
ひょっとしたら、私的に史上最高に映像が美しかった作品として記憶されているかもしれません。
映像の魔術師と言われた、
スタンリー・キューブリック監督にも名撮影監督が就いていました。
ジョン・オルコット。
『2001年宇宙の旅』(1968)の人類の夜明けのシーン、
ラストのモノリスのシーンも無機質なのに神秘的でしたね。
『時計仕掛けのオレンジ』(1971)での別のグループとの乱闘シーンもよかったですね。
音楽と映像がものすごくマッチしててとても興奮しました。
そして決定打は、
『バリー・リンドン』(1975)。
画期的だったロウソクだけの光量だけでワンシーン撮っちゃいました。
凄いですよね。
こちらはオスカーを受賞しています。
ダニー少年の三輪車を延々と追いかけた『シャイニング』(1980)も良かったですね。
ちょっと好きな佳品、『料理長殿ご用心』(1978)の撮影監督だったのも、
うれしくなります。
登場してくる料理がどれも本当においしそうで。
日本からは、
黒澤組に就いていた中井朝一を。
『七人の侍』(1954)の雨中の決戦場面が有名ですが、
私は『蜘蛛巣城』(1957)の幽玄な場面を一押しとしたい。
予言の老女の現れるシーンの幻影的なことと言ったら!
素晴らしいです。
そして黒澤組からはこの人も外せません。
宮川一夫。
『羅生門』(1950)で当時のタブーを破った陽光の直撮影が有名ですが、
黒澤監督の絵コンテに忠実に基づいた刃物の光、慟哭した三船の表情、崩れ落ちる京マチ子の色香、
どれをとっても一級品です。
溝口健二と組んだ『雨月物語』(1953)の撮影も良かったですね。
霧の中から湧いてくるような妖気のようなものがビンビンこちらに伝わってきました。
楽しいオペレッタ時代劇だった、
『鴛鴦歌合戦』(1939)も撮ってくれているのが嬉しいな。
思いつくままにっ振り返ってみましたが、やっぱり印象に残る映画にはいい『画』がありますね。
いい撮影監督はいい『画』を撮ります。
次は音楽でも書いてみようかな・・・