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あらすじ
私が、生きていく上で注意していることがあるとすれば、それは好きなものを好きでいることができるように生きているということです。いつでもその時好きと思うものに対して何の障害もなく好きでいられるように、自分の気持ちを邪魔するかもしれないものを無限の未来を縛るおそれがあるものを、心や環境の中に存在させないようにしています。
残酷なことかもしれませんが、好きなものを好きでいるために、私にとって世界は一瞬一瞬が0からはじまります。

 

ひと言
先日、自宅の本棚にあるこの本を久しぶりに手に取った。
奥付を見ると昭和六十三年十月十日 初版発行 平成元年二月二十日 六版発行。
銀色夏生の詩集、すごく流行ったなぁ。大好きな詩集で、今でも時々読み返しているこの本のことを、このブログに書いていないことに気がついた。
職場の仕事机の上にある卓上カレンダーの台座に、平成元年(1989年)から、貼ってある
いろんなところへ行ってきて  いろんな夢を見ておいで
という言葉を25年ぶりに貼り換えてみた。

 

 

 

 

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「君のそばで会おう」

 

 

終ってしまった恋がある
これから始まる恋がある
だけど
僕たちの恋は決して終りはしない
なぜなら
終らせないと僕が決めたから

 

 

自信をもって言えることは
この気持ちが本当だということ

 

 

いろんなところへ行ってきて
いろんな夢を見ておいで
そして最後に
君のそばで会おう

 

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職場のグルメの人に教えてもらい「杏亭」津島店へ行きました。
亀島の「杏亭」が2013年10月にこちらにもお店を出したということです。
家族で出かけたので、人気の担々麺(汁あり・汁無し 各750円)の両方をいただきました。

 

四川の坦々麺なので、もっと辛いと思っていましたが、コクのあるゴマと特製ラー油のスープは、思わず「んっ」と唸ってしまうぐらい今までの坦々麺とは違う独特の味です。私は好きな味ですが、これは好き嫌いがはっきり分かれる味だと思います。
汁無しの太麺もセモリナ粉を混ぜているじゃないかと思うようなパスタのような独特の味で、食べた瞬間、私は多治見の信濃屋さんの「支那そば」が頭に浮かびました。
でもうまい!私は汁無しのほうが好みかな。次はまぜそばの追いメシのように最後にライスを入れて食べてみたいと思いました。
 
杏亭( 食べログ 愛知 )
愛知県愛西市北河田町郷前

 

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あらすじ
君に私の息子の最後の言葉を贈りたいのです。親友を失った青年と、ある秘密を抱えた先生の間で交わされたメールを軸に織り成す、喪失と再生の物語。あの『悩む力』の著者が、苦難の時代を生きる若者たちに真剣に向き合った、注目の長編小説。

 

ひと言
NHKテレビ「100分de名著」の「夏目漱石 こころ」の解説をされていた姜 尚中さん。「先生、ほんと恋は残酷です。」(P72)確か漱石の「こころ」にも「恋は残酷ざんすよ」というフレーズがあったよな。読了後に知ったことだが、主人公の直広という名前は、自殺された息子さんの名前らしい。3.11東日本大震災の遺体引き上げのボランティアの記述は身につまされる思いで、1日もはやくすべての行方不明者の方が、ご遺族のもとに戻られることを切に願う。

 

 

直広君、人生に生さる意味があるのか、人は何のために生さるのか、そんな大それた問いにわたしは答えられません。なぜなら人が生さる意味は人から与えられるものではなく、みずから発見するものだと思うからです。そしてそれは、人がその都度、その場所で具体的に課される問いに答えていくことで発見されるものではないでしょうか。(一 与次郎)

 

 

町の北のほうに小さな湾があって、カキとホタテの養殖をしているんですけど、そのいかだにひっかかった水死体が一体あったのです。本当に、見るも無残な状態でした。養殖いかだって、綱が何本も水面下に垂れさがっているのですけど、その遺体、流されてきて、身体じゅうにそのロープが巻きついて、はずれなくなったのです。で、その状態のまま水流の中でさんざんかき回されたから、首と上半身と下半身と腕と脚と、それぞれ何回転もして、ぜんぶがあっちこっちを向いているような状態になっていたのです。ばらばらにちざれなかったのが不思議なくらい。そこで僕たち、それ以上損壊しないように用心しながら綱を全部切って、いかだから離したんですけれども、内臓は破裂して全部流れちゃっていますし、目玉も両方なくなっているし、ひどい状態で……。で、そのあと僕、遺体安置所に行く用事がありまして、ちょうどその遺体の奥さんとお子さんがおいでになっているのを見かけたんです。お子さんは当然、そこにお父さんが寝てると思いますね。で、「お父さん、お父さん!」って駆けよっていこうとしたんです。そしたらお母さんが、「見ちゃダメ!」ってすごい形相でお子さんを押さえて。それだけならまだしかたがないのですけど、お母さん自身もまともに旦那さんに向きあおうとされなくて、とても嫌な顔をなさって、こんなの見たくなかった、見つからないほうがよかったって……。無理もないかもしれません。でも、僕、とても寂しくなったのです。たしかに変わり果てた姿ではありましたけれど、遺体ってそんなにけがらわしいものかな、もし見ないほうがいいようなものなら、それを引き上げている僕たちがやっていることはいったい何なんだって考え込んでしまったんです。それまで僕、つらいけれども、恐いけれども、みなさんのためになることをしていると思ってたんです。それが僕にとっての唯一の気持ちの支えになっていたのです。それは疑いがなかったのです。でも、ご遺族がそんなもの引き上げなくていい、見つけてくれなくていいって言うんだったら……、なんだかわからなくなりますよね。自分の信念みたいなものが揺らいでしまいました。(三 海女)

 

 

先月の下旬に、一体の男性の遺体を引さ上げたときのことです。もう震災からニケ月以上たっていましたから、きれいな状態で発見されることはなくて、その方もかろうじて五体が揃っているだけの無残な状態だったのですが、たまたまそのあと遺体安置所に行ったら、行方不明のご家族を捜している女性の方がおいでになっていたんです。その方、遺体をためつすがめつご覧になってたのですけど、しばらくして、急に何かにびくっとしたようなそぶりをされて、崩れるようにその遺体に抱きつきました。そして、「お帰り、お帰り、お帰りなさい」って号泣されたんです。あとで警察の方に聞いたら「結婚指輪」でわかったのだそうです。奥さんだったんです。
……。……。 
うまく言えないんですけど、「死」って結局、「生」を輝かせてくれるものじゃないでしょうか。先生は「死」の中にはその人の人生の「記憶」があり、その人の「過去」があるっておっしゃいました。だから「死」によってその人は永遠になるって。僕はそれと同じことを言っているのかどうか確信がないのですが、遺体を一つひとつ引き上げて、一人ひとりの死と向きあっているうちに、とにかく、僕、「自分、生きなきゃいけない」ってすごく思うようになったのです。生きなきゃいけない。そして、せっかくこうして生きているのだから、無駄に生きちゃいけない、やりたいことはやるべきだって思うようになったのです。
……。……。
今度の震災では、行方不明のご家族に対して、三ヶ月を目安に死亡届を出すというガイドラインが設けられました。で、死亡届を出さないと、お金の問題やいろいろな措置とかが受けられないのですけど、僕たちがいると遺族の方、いつまでも届けを出さないで期待して待ってしまうのだそうです。踏ん切りがつかないのだそうです。僕はいままで希望があることが希望だと思っていたのですが、「希望」があることが残酷になることもあるんですね。希望が人を傷つけたり、人を苦しめたりすることもあるんですね。
(四 看取り)

 

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あらすじ
関が原の戦いから12年、天下は豊臣から徳川へ。伊賀を追い出され、京で自堕落な日々を送る“ニート忍者”風太郎。その行く末は、なぜか育てる羽目になった、ひょうたんのみぞ知る!? マイペース忍者・黒弓、美貌の忍び・常世、かぶき者の頭目・残菊、謎の貴人・ひさご様……さまざまなキャラクターが織りなす驚きに満ちたな物語のクライマックス、その舞台は、難攻不落の大坂城!著者二年半ぶりの大大大長編は、初の時代小説にして万城目ワールド全開、興奮と感動のラストが待っています。
(2014年本屋大賞 第5位)

 

ひと言
「鴨川ホルモー」「鹿男あをによし」「プリンセス・トヨトミ」「偉大なる、しゅららぼん」みんなわけがわからないのにとってもおもしろい万城目さん。今回は…♪ と楽しみにしながら読み始めたが、なかなかページが進まない。ん?ちょっといつもの「万城目ワールド」とは違うなぁ。750ページ 長すぎるやろー! 。(チャンカワイの「惚れてまうやろー!」 的な、みたいな これはキングオブコメディの今野 のノリで、長すぎるやろー!と声に出して読んでください)この女の子が「プリンセス・トヨトミ」へと続いていくのか。また「プリンセス・トヨトミ」を読み直そうかなぁ。

 

 

 

「百」「何?」いや、何でもない、と俺は首を横に振った。「何よ」「何だ。お前、泣いているのか?」
「泣いてなんかいない」「その赤子の、親に、なってやってくれ」奴の手に添えた俺の手が、強く握り返されるのを感じた。百の手はとてもあたたかく、少しだけ触れた俺の頬はひどく冷たかった。「阿呆の風太郎」「何だ」「速い南海の国に連れていくかもしれない」「ああ、構わん」「得体の知れぬ異国の言葉だけ話すようになるかもしれない」「ああ……、構わん」
 「でも、いつになるかわからないけど、必ずここに戻ってくる。この子を連れて、また戻ってくる。そのときに風太郎のことを教える。この場所で、どうしようもない阿呆から、あんたを渡されたって」心配ない、黒弓も戻ってくるはずだ、と伝えたかったが、舌が思うとおりに動いてくれなかった。

 

 

 

……。……。

 

 

「なあ、百市」「何、風太郎?」声の感じから、相手はだいぶ顔を近づけているはずだったが、目を開けているのに、ただぼうっとした白いものしか、前に映っていなかった。もう一度、「百市」と奴の名を呼んだ。果たして、それに対し百が呼び返してくれたのかどうか、わからなかった。ただ、こうして最後に呼びかけられる名前がある、というのはとてもいいものだ、と思った。そう言えば、俺は海というものを結局、一度も見ることがなかったな――、と今ごろになって気づきながら、身体の深いところからゆっくりと這い上がってきたあたたかいものに、なるほどこういうものか、とひどく腑に落ちた気分になって、誰にも気づかれぬよう静かに目を閉じた。 (終章)

 

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ひと月半毎に伊吹山の麓へ水を汲みに行っているのですが、その道中の国道258号の駒野の交差点の北東、近鉄養老線「駒野駅」のすぐ北にある「尾張屋昌常」のレアチーズ大福が絶品だという話を聞き、水を汲みに行く途中に立ち寄りました。
今回で立ち寄るのは3回目で、ふるーつ大福や抹茶ムース大福もいただきましたが、やっぱりレアチーズ大福(160円)が絶品です。

 

ここの月見の森(どらやき)は雑誌やTVで取り上げているということなので、今度は月見の森も食べてみたいです。レアチーズ大福は絶品ですので近くに行ったときは是非立ち寄ってみてください。
 
菓匠 尾張屋昌常
岐阜県海津市南濃町駒野

 

 

8月16日追記  食べログに 口コミを書き込みました
食べログ 尾張屋

 

 

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あらすじ
娘を殺されたら、あなたは犯人に何を望みますか。
別れた妻が殺された。
もし、あのとき離婚していなければ、私はまた、遺族になるところだった。
東野圭吾にしか書けない圧倒的な密度と、予想もつかない展開。
私たちはまた、答えの出ない問いに立ち尽くす。

 

ひと言
読み終えた後、感想は?と聞かれたら、何と答えていいのかわからないというのが正直な感想だ。
忠臣蔵のような人々が喝采するような仇討が明治6年に禁止され、これからは近代国家として国がその処分を代行することになった。遺族の多くは、たとえ返り討ちになるリスクがあったとしても、国ではなく自分の手で仇討本懐を遂げたいのだ。自分の手で仇討する機会を取り上げた国は、もっと遺族の立場に寄り添った仇討を代行するべきではないだろうか。
加害者を厳罰に処したからといって、被害者が戻ってくるわけではないし、それで問題が解決したことにならないことは遺族が一番わかっている。でもこのやり場のない怒りや悲しみをどこにぶつけ、遺族は何を心の糧にしてこれからを生きていけばいいのだろう。

 

 

「ごめんなさい。あの、あたし、大丈夫じゃないです。やっぱり……やっぱり無理かも。……ごめんなさい」仁科は少し間を置いた後、「これから行きます」といって電話を切った。約一時間後に彼はやってきた。コンビニで買ったという温かい飲み物とサンドウィッチの入った白い袋を提げていた。花恵はペットボトルに入ったホットレモンを飲んだ。身体の芯から温まりそうだった。
「一人、気になっている子供がいましてね」仁科はいった。「生まれつき心臓がよくないんです。不整脈が頻繁に起きて、いつ突然死してもおかしくない状況なんです。だから仕事が休みの日でも、なるべく様子を見に行くようにしています。それで今夜も行ったのですが、その子がやけに元気だったのです。そして僕に向かって、こんなふうにいいました。先生、僕のことは大丈夫だから、今夜はほかの人のことを心配してあげてよって。何をいってるんだと思いましたが、その瞬間、なぜかあなたのことが頭に浮かびました。それで急に気になりましてね、先程電話をしたというわけです」彼は白い歯を見せた。「電話して、正解だったみたいですね」
花恵の胸に熱いものがこみ上げてきた。これほど優しさに溢れた言葉を聞くのは生まれて初めてだった。涙が止まらなくなり、あわてて仁科が差し出したティッシュペーパーを目の下に当てた。「仁科さん、どうして訊かないんですか。あたしが死にたい理由を」彼は困ったように頭を掻いた。「見ず知らずの人間に話せるような内容ではないと思うからです。人は、そんなに軽い理由で死にたくなったりしません」(15)

 

 

 

「あの時、主人に出会っていなければ、あたしぱ間違いなく死んでいました。息子も生まれてはきませんでした。主人は二十一年前に一つの命を奪ったかもしれません。でもそのかわりに二つの命を救いました。そして、医師として多くの命を救い続けています。主人のおかげで、どれだけ多くの難病を抱えた子供たちが助かっているか、あなたは御存じですか。身を削り、小さな命を救おうとしているんです。それでも主人は何の償いもしていないといえますか。刑務所に入れられながらも反省しない人間など、いくらでもいます。そんな人間が背負う十字架なんか、虚ろなものかもしれません。でも主人が背負ってきた十字架ぱ、決してそんなものじゃない。重い重い、とても重い十字架です。中原さん、かつてお子様を殺された御遺族としてお答えください。ただ刑務所で過ごすのと、主人のような生き方と、どちらのほうが真の償いだと思いますか」声のトーンは上がり続け、最後のほうでは悲鳴に似た響きを伴っていた。
(22)

 

 

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あらすじ
和睦が崩れ、信長に攻められる大坂本願寺。毛利は海路からの支援を乞われるが、成否は「海賊王」と呼ばれた村上武吉の帰趨にかかっていた。折しも、娘の景(きょう)は上乗りで難波へむかう。家の存続を占って寝返りも辞さない緊張の続くなか、度肝を抜く戦いの幕が切って落とされる! 第一次木津川合戦の史実に基づく一大巨篇。
(2014年 本屋大賞1位)

 

ひと言
とてもおもしろかった2009年本屋大賞第2位の「のぼうの城」、今年2014年の本屋大賞(第1位)だし、第一次木津川合戦が題材。
木津川合戦って、本願寺の海上封鎖をしていた織田水軍が、毛利・村上水軍の焙烙玉(中に火がくすぶっており、目標に当たると中身が出て一気に燃え広がる武器)焙烙火矢の前に大敗し、本願寺への補給を許してしまう。信長は、九鬼嘉隆に命じて、大筒・大鉄砲を装備し、焙烙火矢が効かない鉄甲船6隻を造り、毛利・村上水軍を撃退し本願寺を孤立、降伏に追い込んだやつだよな。
その村上水軍の娘に焦点をあてて小説を書くなんて、さすが和田 竜さん目のつけどころがいいなぁ。どんな作品なんだろう。とにかく第一次木津川合戦だから勝つんだよな。とわくわくしながら読んだ。
でも、んっ、上巻がなかなか読み進まない。上巻の終わりから下巻にかけてはおもしろくなってくるのだが、読了後は少し消化不良気味。
こちらの期待が大きすぎたのかもしれないが、この内容は上下巻にする必要はないように思う。
全国書店員が選ぶいちばん!売りたい本が本屋大賞なのだから上下2巻3200円の本は売りたい本第1位なのかもしれないが、本屋大賞が、全国書店員が選ぶいちばん!読ませたい本になってほしいと思った。

 

 

 

「瀬戸内を出たとき、あいつらは極楽往生がすでに決まっていると信じていた。それでも、弥陀の御恩に報いるために、行かぬでもいい戦に行って命を捧げたんだ。戦場では退けば地獄だと脅され、話が違うと知っても、あいつらは仏の恩義を忘れようとはしなかった。オレは見事だと思った。立派だと思った。オレはそういう立派な奴らを助けてやりたい。オレはあいつらのために戦ってやりたい」話すうち、大きな瞳からはぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。それでも景は構わず、顔中を涙で濡らしてあえぐように訴えた。「戦に出るに値しなかろうが、たとえ門徒どもに撥ね付けられようが、オレはあいつらのために戦うんだ」
……。
兵には疑問もある。可愛い娘を戦場にやって、百戦練磨の父親が行かなくていいのか。「御屋形様はお発ちになりませぬので」難ずるように訊くと、「わしなど、いるかよ」武吉は笑った。恐るべき秘術の名をもう隠そうともしない。「三十年ぶりに鬼手がでるのだ」「へ?」首を傾げる兵に、武吉は言い放った。「我が娘が戦に赴けば、当方の勝利疑いなし」(66)

 

 

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あらすじ
売れないアラサータレント「おかえり」こと丘えりか。唯一のレギュラー番組が、まさかの打ち切り…。依頼人の願いを叶える「旅代理業」をはじめることに。とびっきりの笑顔と感動がつまった、読むサプリメント。

 

ひと言
最近は原田マハさんばかり読んで泣かされています。どうしてこんなにあたたかい爽やかな本ばかり書けるんだろう。

 

 

そろそろ、旅も終わりに近づきました。今回、旅をしてみて、気づいたことがあります。なつかしくて美しい風景、ささやかだけどあったかい出会いがあるから、旅に出たいと思う。そして、「いってらっしゃい」と送り出してくれて、「おかえり」と迎えてくれる誰かがいるから、旅は完結するんだ。そんなふうに思いました。この旅は、真与さん、あなたがいたから、できました。「いってらっしゃい」と送り出してくれて、「おかえり」と迎えてくれる。だからこそ、私、旅人になれました。今度は、私が、そうしてあげたい。真与さん、あなたに「いってらっしゃい」と「おかえり」を、心をこめて言ってあげたい。
角館の人たちみんなが、あなたが来るのを待っています。あなたが来てくれたら、きっと言ってくれるはず。また来てくれたんだね、おかえりなさい。そんなふうに、笑顔で手を振って。真与さん。生きて、どんどん生きて、旅へいってらっしゃい。大好きな人と、青空の下、満開の桜の下、生きて、笑って、旅をしてください。私は今日、旅をしました。あなたがもう一度旅立つ日のために。(6)

 

 

私は、膝の上のトートバッグから藤色の袱紗を取り出して、白いテーブルクロスの上に置いた。それから、悦子会長を正面にみつめると、言った。「残念ながら、お望み通りの『成果物』を持ち帰れませんでした」 一瞬、空気が張り詰めた。「……だめだったの?」孫娘の受験の合否を開くように、素の表情で悦子会長が訊いた。その様子がなんだかかわいらしくて、私は思わず微笑んだ。「『空になった袱紗を成果物といたしましょう』。確か、そのようにご依頼を受けました。……その通りにはできなかったので」そう言って、私は、悦子会長のほうへ袱紗を滑らせた。会長は、真っ白なクロスの上に浮かんだ藤色の袱紗に視線を落とした。両手に取ると、ガラス細工に触るように、そうっと袱紗を開いた。「あ……」短い驚きの声が、悦子会長の口から漏れた。その様子は、お墓の前で袱紗を開けたときの真理子さんに、不思議なくらいそっくりだった。袱紗は、空ではなかった。中にあったのは、一枚の和紙と、もみじのひと葉。和紙に書かれていたのは、たったひとりの姪からのメッセージ。

 

 

悦子おばさまへ  旅をなさいませんか。 
私の母と娘がやすらかに眠る場所へ。
新しい人生を歩み始めた私と、ご一緒に。  
真理子
 
悦子会長は、しばらくのあいだ、真理子さんが作った和紙、あたたかな色合いとやさしい手触りの一筆箋に視線を落としていた。もみじのひと葉に、そっと指先で触れる。震えるまぶたを閉じた瞬間、ひと筋の涙が頬を伝って落ちた。会長を囲む人々は、何ごとが起こったのかとざわつき、目をみはったが、袱紗の中に手書きのメッセージともみじのひと葉があるのを認めると、悟ったように静まり返った。それは、きっと、悦子会長が、長いあいだ待ち望んでいた瞬間だった。母が、白分が、いつかきっともう一度会いたいと願っていた、幼い妹。その妹の忘れ形見。せつない思いが、ようやくつながった瞬間だった。ハンカチで目頭を押さえ、悦子会長が言った。「あなたは、ほんとうにもう、いったい何をしでかすのやら。旅人『おかえり』は、いつもこんな調子なのかしら?」うるんだ声で「はい……」と答えようとすると、「こいつはいつも、この調子なんで。待ってるほうはちっとも気が休まりませんや。ったく、心配ばっかりかけやがって」横から社長が口をはさんだ。完全に、涙声だ。(12)

 

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あらすじ
ファッション雑誌編集者の藍は、仕事でゴールデンリトリーバーのリラと出会う。ペットショップの店員さんに「今日買わなければ殺処分される」と言われ、リラと恋人の浩介と三人で暮らし始めたものの、仕事が生きがいの藍は、日々の忙しさに翻弄され、何を愛し何に愛されているかを見失っていく…。浩介が去り、残されたリラとの生活に苦痛を感じ始めた頃、リラが癌に侵されてしまう。愛犬との闘病生活のなかで、藍は「本当に大切なもの」に気づきはじめる。“働く女性”と“愛犬”のリアル・ラブストーリー。

 

ひと言
最近は、とても読みやすく素敵なラブストーリーを書く原田マハさんに泣かされている。
小学生3、4年の時に拾ってきてしばらく飼っていた雑種の犬のことを思い出しながら読んだ。
「一年間でも、一分間でも、犬の時間は一緒なんです。どれだけ濃い時間を一番好きな人とともに過ごせるか。それが犬にとって、一番大切なことなんです」
最初は可愛がっていたのに…、毎朝 学校へ行く前に散歩に連れていくのがだんだん面倒に思えてきて……、最後は病気になって、自分が学校に行っている間に保健所に引き取られていったのに、悲しいとも思わなかった。涙も出なかった。ほんとうにごめんなさい。

 

 

 

矢印がある。カーソルを下へ動かして行くと、
→ → →
矢印がつながって、ずっと下に、控えめな一行を発見した。
あなたの周りに、心地よい風が吹いている気がしました。またいつか、お会いできますように。
そうだ。風を起こしたのは、彼のほうだ。だから私の周りに、風が吹いてみえたんだ。そう思った。そう思う胸の中に、不思議な風がまた吹いていた。私は画面上で点滅するカーソルをしばらく眺めていたが、やがて一文字一文字、ゆっくりとキーを叩いた。
「またいつか」って、「これからすぐ」に変換できますか?(3)

 

 

 

 

「名前がある限り、誰かに呼んでもらえるだろう、きっと生きていけるだろう、って信じてたんです。だから、勝手につけました。すばらしいところにもらわれていくように、『シャングリラ』の『リラ』。恥ずかしいなあ。変えてくださいね」そう言っていた。浩介も私も、もちろん変えるつもりなんてなかった。たったひとつの命につけられた、たったひとつの名前。変える必要なんて、どこにもなかった。(4)

 

 

 

 

先生は私が肩を落とす様子をみつめていたが、おだやかに語りかけた。
「誰にもわからないんですよ。延命治療をしたほうがいいかどうか、なんて。飼い主さんは、少しでも長生きしてもらいたいと一生懸命になる。でも、犬にしてみれば、長いか短いかなんて、問題じゃない。一年間でも、一分間でも、犬の時間は一緒なんです。どれだけ濃い時間を一番好きな人とともに過ごせるか。それが犬にとって、一番大切なことなんですよ」先生は、その日初めて笑顔をみせた。あたたかな笑顔だった。
「せいいっぱい、可愛がってやってください。この子にもあなたにも、後悔のないように」
 私はうつむいた。リラの目が、そこにあった。まっすぐに私をみつめている。私だけを信じて、私だけを頼りに、ここにこうして生きている。生きているんだ。もう、堪えられなかった。息を吸い込むと、一気に涙があふれ出した。私は、泣いた。立ちっ放しで、手放しで。泣けて、泣けて、もう止まらなかった。恥ずかしいほど、思いきり泣いた。そのあいだ、宮崎先生は、ただ黙って私をみつめていた。慰めの言葉もない。肩を叩くでもない。けれど、先生のあたたかな心情は、黙っていても伝わってきた。いまを生きる、ささやかな命。その灯火が尽きるまで、見守ってあげよう。他に、なんにもしてあげられないけど。(11)

 

 

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あらすじ
悲しいのに、幸せな気持ちにもなれるのだ。七年前、二十五才という若さであっけなく亡くなってしまった一樹。結婚からたった二年で遺されてしまった嫁テツコと、一緒に暮らし続ける一樹の父・ギフは、まわりの人々とともにゆるゆると彼の死を受け入れていく。なにげない日々の中にちりばめられた、「コトバ」の力がじんわり心にしみてくる人気脚本家がはじめて綴った連作長編小説。
(2014年 本屋大賞 2位)332点

 

ひと言
読了後の感想は、ほんとうにいい本と出会えてよかった♪。大賞作品をまだ読んでいないけど、自分的にはこれが大賞じゃないかと思いました。本の帯の書店員さんの言葉「やさしいゆったりとした時の流れを感じる小説にとてもいやされました! 人がコトバがやさしい。ゆったりとした物語の中にキラッキラッと輝くコトバが入っていて幸せをかんじました」通りの本です。

 

 

 

ふいに、テツコは、どこかで焼き立てのパンの匂いがしたような気がした。「あの時の、夜のパン屋さんみたいなもんなんだ」テツコがつぶやくと、ギフは一拍おいて、「ああ」と湯につかった時のような声を出した。「そう。よく覚えてたねぇ。一樹の病院の近くの、あのパン屋」
それは暗い夜道にあった。ギフとテツコは夜になると、二人きりでよく歩いていた。病院の帰り道だったからだ。一樹がガンだと知らされて、手術も無理だと言われて、それでもまだ元通りの生活に戻れるかもしれないという、かすかな希望を抱いていた。
職場と病院と家とを何回も往復したあの暗い道。寒かったし、悲しかったし、二人とも疲れきって口もきけなかった。その時、行く先にポツンと明かりが見えた。猫が跳ねている立て看板が出ていた。近づくと、パン屋だった。もう夜の十二時を過ぎようとしていたのに、中では昼間のように人が働いていた。テツコとギフが入ると、「もうすぐ新しいのが焼き上がりますよ」と店の人に言われ、二人は待った。その時の二人は待つのに慣れきっていた。病院のあらゆるところ、検査結果を聞くための部屋や支払い所、手術室、詰所などで、ただひたすら待っていたからだ。パンの焼ける匂いは、これ以上ないほどの幸せの匂いだった。店員が包むパンの皮がパリンパリンと音をたてたのを聞いてテツコとギフは思わず徴笑んだ。たった二斤のパンは、生きた猫を抱いた時のように温かく、二人はかわりばんこにパンを抱いて帰った。悲しいのに、幸せな気持ちにもなれるのだと知ってから、テツコは、いろいろなことを受け入れやすくなったような気がする。(ムムム)

 

 

 

 

「じゃあさ、魔法のカードちょうだい」と言うと、岩井さんは、「何、それ」と絶句した。
「一番強いのくれたら結婚してもいい」岩井さんのことは、正直、わからないことだらけだが、誰よりも「ほんとうに美しいもの」がこの世にあると思いたい人なのだろう。女の子に名刺を三枚渡したことなど、すっかり忘れているらしく、「何の話?ねえ何だよ。ヒントちょうだい。ヒント」と電話の向こうで大騒ぎしている。テツコも女の子も岩井さんも、生まれてから今に至るまで、まだ一度も「ほんとうに美しいもの」なんて見ていない。でも、だからと言って、ないわけじゃない。「一番強いのって、何だよ」「女の子にあげたヤツ、魔法のカード」「ああ、アレかあ」優位に立った時の余裕の声で「アレね」と何度も言う。小細工の好きな岩井さんは、徹夜してスペシャルなカードをつくってくれるだろう。それさえあれば、うっかり自分の足元にある暗い淵をのぞきこんだとしても、戻ってこれるだろう。
そうか、私が欲しかったのは、それだったのか。テツコは歩きながら、なんだ、そーだったのか、と思った。自分の帰るべき家に明かりが灯るのが見えた。たった今、一足先にギフが帰ってきたのだろう。ただひたすら、そこを目指しながら歩こう。怖いものなど、何もない。(魔法のカード)

 

 

 

 

「どこ行ってたんだよ」岩井がもう一度言うと、テツコは「はい」と紙袋を渡した。京都の店の名前が入っている。岩井はそれをめざとく見つけた。「京都、行ってたの?」うん、とテツコはうなずいて、「超、寒かった」と言った。紙袋の中身は、茶碗だった。 「何でまた、茶碗?」と岩井が言うと、それを見ていたギフが「あ」と小さく叫んだ。「岩井君の茶碗、買いに行ってたのかぁ」岩井は、何だか見覚えがあるような気がして、食器を上から見たり、ひっくり返したりしていたが、そうだ、これはテツコとギフが普段使っている茶碗とよく似ている、と気づいた。「今度来る時は、それ持ってきてね」一緒にご飯を食べた時の、ちょっと寂しかった気持ちを思い出し、岩井は頭をかいた。テツコはギフの方を向き、あらたまった様子で、「お義父さん」と言った。お義父さんなんて呼ばれたのは初めてだったらしくギフはギョッとなって、おびえたような顔になったが、観念して座り直した。
「もういいよね。一樹は死んだってことで」ギフは、うんとうなずいた。
「もう、ここにいないってことで、もう、そういうことで、いいよね?」ギフは、うんうん、とうなずいた。 そのまま三人が、黙って座っていると、電球がバカになっているのか、照明がチカチカと点滅した。ギフが見上げて、「一樹もそれでいいと言っている」と言った。
……。……。
酔っぱらったギフが饒舌に人生を語る。
「人は変わってゆくんだよ。それは、とても過酷なことだと思う。でもね、でも同時に、そのことだけが人を救ってくれるのよ」(男子会)