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これまでの話
Battle Day0-Day135 のあらすじは、以下のリンクをご覧ください、
登場人物は右サイドに紹介があります、
Day170- あらすじ
コオの父は、紅病院から北寿老人保健施設(通称北寿老健)に移った。大部屋に入った父は、前回の個室より、いいと漏らす。
父は、コオにノートを買ってきてくれるよう頼み、コオは父の回復ポテンシャルを感じる。
妹・莉子との考え方は違うが、父に長生きしてもらいたい、というのは同じなのだ、とコオは思う。北寿老健での週末に時折訪問してくるカラオケサークルのボランティアイベントで、コオは音楽療法の有効性を感じる。
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2回も脳出血を起こしたのに、父には、運動機能や認知に問題がない。ただ、言語野に出血があったことで、文字の読み書きに支障が出ていた。それは紅病院では顕著だった。文字が思い出せない、本を読んでも、文と文をつなげて考えることができない、と嘆く父に、コオは繰り返し言った。
「パパは、言語野に出血があったんだからそりゃ、何もないってわけにはいかないよ。今、文字の読み書きあたりは脳の回路がしっちゃかめっちゃかになってるんだよ。私仕事でさ、脳に傷が入ったときにすごい勢いで修復細胞がわーってあつまってくるの顕微鏡で、見たことあるよ。そりゃもうすごいの。でもそうやって、まずはそれ以上障害が広がらないように、人間の体の中の細胞が動くのよ。」
「ほぉ、そうか。」
「でも、ね、そのあと、ちゃんと刺激が来ないと、回復しないの。刺激があるとちゃんと回復するんだけどね。つまり、回復するためには使わないといけないのよ。」
だから使って、と、以前コオが渡したのは般若心経が書いてある紙と水筆のセットだった。特殊な紙に、なぞれるように薄い灰色で般若心経が書いてある。セットになった筆に水をつけて、なぞると墨の黒になる。乾くと、また消える。何度でも書ける。周りを汚すこともない。
般若心経なんて、何が書いてあるのかコオはさっぱりわからないが、思い出せない漢字を、ひたすらなぞるだけでも、いいだろう、とコオは思ったのだ。
父は真面目な性格だから、ちゃんとそれを使ってみたらしい。効果があったのかどうかはわからないが、コオに、般若心経の解説書がほしい、と言った。
「お姉ちゃんが前くれた、般若心経。あれ、どうせなら意味がわかったら、なぞってても、もっと面白いと思うんだ。」
「お安い御用。解説書、なるべく易しいやつ探してみる。」
コオは引き受けた。何かをしてみたい、と思えるということは回復を示しているということだ、とコオは思い、嬉しかった。
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コオの父は、紅病院から北寿老人保健施設(通称北寿老健)に移った。大部屋に入った父は、前回の個室より、いいと漏らす。
父は、コオにノートを買ってきてくれるよう頼み、コオは父の回復ポテンシャルを感じる。
妹・莉子との考え方は違うが、父に長生きしてもらいたい、というのは同じなのだ、とコオは思う。
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父は、北寿老健のカラオケイベントで歌うことを本当に楽しみにしていたし、コオも、歌うことが精神的に、そして脳機能の回復にいいのは確かだと思っていた。自分以外の人が歌うときも、楽しそうにしている父を見るのがコオはうれしかった。車いすの老人たちが、一生懸命前に出てきて歌おうとするのは、ぼんやり曲を聞いていただけの時より、ずっと活力にあふれて見えたから、コオは、これは全ての老健で標準にした方がいいのではないかと思ったくらいだ。
音楽の、脳への効果・影響。コオはそれをうまく説明はできなかったが、確かにある、とこの時感じた。それなのに、曲がりなりにもピアノ講師を仕事にしていた莉子が、精神性の疾患にかかったのは皮肉なことだった。そうコオが思うようになるのはもっとずっと後の事なのだが。
歌が終わると、コオと父は父の部屋に移動し、一応他のベッドから仕切るカーテンを閉めて、お土産のお菓子を広げて見せる。父は目を輝かせて、それを食べながら昔の大学時代の話、もっと昔の話、時には会社の話をする。それがコオと父の週末になった。大相撲がテレビでやっているときは、少し早めに食堂に移動し、横に座って夕飯の時間までぽつぽつと父の大相撲の解説を聞きながらそばにいる。
日増しに暑くなってきていたが、北寿老健の空調は完ぺきだったので、コオのアパートから遠かったのは確かだが、壁が薄くてエアコンを切ると5分後には蒸し風呂のようになるアパートよりよほど快適だった。
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コオの父は、紅病院から北寿老人保健施設(通称北寿老健)に移った。大部屋に入った父は、前回の個室より、いいと漏らす。
父は、コオにノートを買ってきてくれるよう頼み、コオは父の回復ポテンシャルを感じる。
妹・莉子との考え方は違うが、父に長生きしてもらいたい、というのは同じなのだ、とコオは思う。
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月に1,2回土曜日の北寿老健には、ボランティアのカラオケサークルがやってきて、大食堂で歌を披露してくれる。
さすがにリーダーはプロ並み(セミプロ?)だが、それ以外の人は色々だ。老人保健施設に来るので、歌は小学校唱歌とか、童謡、懐メロなど。老人たちは、食堂に集まり大半の人はぼんやりと聞いているが、一部一緒に口ずさんでいる人たちもいる。コオは父の横に座り、聞いていたが一度、、
「歌ってみませんか?」
と言われたので、父と一緒に、コオはマイクを取って歌った。もう、何の歌だったのかはあまり覚えていない。ただ、父がすごくうれしそうで、父のバリトンは結構きれいに響くので、ボランティアの人も喜んでくれた。その後、他にも歌いたいという入所者がいて、ボランティアの人たちは以降、入所者の参加型に切りかえた。
「歌うとね、なんか頭がすっきりするんだ。」
と父はいった。コオは今でも、あのとき父と歌った自分たちがきっかけで、ボランティアの歌が参加型になったのだと感じているし、それは父だけではなく、入所している老人たちすべてにとてもよかったのではないかと思っている。
歌いたい、と積極的に手を挙げる人はたくさんいたし、ただ聞いているよりもそのイベントは盛り上がりを見せていた。
歌うこと、音楽を奏でること。これは人の気持ちを明るくするし、精神的にいいものなのだな、とコオは改めて思っていた。
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コオの父は、紅病院から北寿老人保健施設(通称北寿老健)に移った。大部屋に入った父は、前回の個室より、いいと漏らす。
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「それから、色々記録を付けてるんだ。だから、ノートとボールペン、次に持ってきてくれないかな。」
父はコオにA4ノートを見せた。紅病院にいた時にコオが買ってきた、コクヨのノート。入院したばかりの時は、どうしてもびょういん、とかいても何故か《ひ》というひらがながかけなった、父。しかし、今1行日記のような感じで、日付とお通じのあった時間とか気になったこととかを書き留めてある。脳出血での入院直後の、日付もわからず、ひらがなもおぼつかなかった状態からすごい進歩だ、とコオは思った。
「お安い御用だよ。明日持ってくる。」
コオは近くでお菓子を少し買ってきていた。原則としては食べ物の差し入れは禁止なのだが、本人の目の前で渡して食べるのを見ている限りは大目に見てもらえるようだった。万が一喉につまらせてしまったりしたとき細かるからだろう。
コオが、「今日はお土産があるんだ」といって、お菓子を取り出すと、父は目を輝かせた。
「おお、それは嬉しいな・・・!ここは・・・なんていうか、ちょっと物足りなんだよなぁ、食事が。」
ブルーベリー味のカロリーバーを開けてあげると、父はうまいうまいと言いながら、あっという間に食べて、
「もったいないから、あとはおやつにまた取っておくよ」
といって、残りのパックを大事そうに、ベッドの隣にある収納スペースの引き出しの中にしまった。父はもともとお菓子類が好きで、まだコオが小さい時にタバコをやめたのをきっかけに、おやつの量が増えた。口さみしいと、おやつに手を出すパターンだ。家にお菓子を置いておくとすぐ父が見つけて食べてしまう、と母や莉子はよく文句を言っていた。 買ってくるのは構わないけど、カロリーとか、塩分は気を付けないといけないな、とコオは心にメモをした。でも、何の楽しみもなく、ここにいるよりもう、好きなものをある程度食べて楽しんだ方が、精神的にはずっと平和で意義がある。だからこそ、コオは、莉子の父を軟禁するようなやり方はあまり気に入らなかったし、この施設から父がでて、また軟禁状態になるのが心配であった。
それでも、コオは、莉子は父を心配していると思いたかった。だから、父が自宅介護だった時、ケアマネージャーの立石にも北寿老健のケースワーカーにも父のリハビリの件については同じようにこう伝えていた。
「めいっぱいリハビリしてほしいです。妹は自宅にいるとき父を軟禁のような状態にしていました。でも、それは、父に少しでも長生きしてもらいたい、たとえ動けなくても、ともかく生きていてほしい、という想いだったんだと思います。父に生きていてもらいたい、という思いは一緒なんです。私は寝たきりになるより、めいっぱい動けるだけ動いて、自分で色々なやりたいことことを最後までやって、それで亡くなるならそれは、天命だ、そちらの方が父にとっては幸せなのではないか、と考えているだけです。」
そうだ、次の面会の時は、簡易型の囲碁のセットを買って持ってこよう、とコオは帰り道電車に揺られながら考えていた。
、
コオのモデルKはこの話の原案者でもあり、
毎回このブログをチェックしてくれていますが、体調が若干不良だったので
間隔があいてしまいました。
彼女がいないとストーリーも進まないので。
見せないでアップもできませんしね💦
さて、しばらくコオのお父さんの老健での暮らしの話がしばらく続きます。
この間、莉子とは極力接触を避けているので、
しばらくメンタルヘルスジャンルから介護ジャンルに変更します
この数か月が、動きがありつつも、平和な時期ではあったでしょう。
しかし、すでに遼吾と別れたことで傷ついているコオを
父の言葉は更に傷つけていき、コオは、初めて《毒親》という言葉
そして8050問題というワードを意識していくことになります。
日々疲れてゆき、傷つき、そしてあがき続けるコオを応援してください
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コオの父は、紅病院から北寿老人保健施設(通称北寿老健)に移った。大部屋に入った父は、前回の個室より、いいと漏らす。
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父はさして広くはない北寿老健の3階のフロアをゆっくりと、コオを連れて回った。
「ほら・・・ここは個室だ。僕は前は、この部屋に入ったんだ。」
父の大部屋とは反対側の廊下の個室の前を通ると、父はそう言った。
6人の大部屋と同じ広さの個室はゆったりはしていた。今は誰も入っていないようだった。
4月に2週間、父はここにいたのだ。コオは、それを知らなかった。FAXの紙が詰まっていて、莉子が流してきたFAXを見落としていたのだ。コオがそれを知った時はもう、父は退院して、莉子との暮らしを始めたところだった。紅病院の看護師やケースワーカーは、莉子はほとんど見舞いには来なかった、と言っていた。最低限の洗濯物のための10日から2週間に1度。すると、この北寿老健にいた時も、計算するとおそらく1度しか来ていなかったのではないだろうか。
コオは遼吾の事を思い出した。北寿老健にいる父を一度も見舞っていない、と、莉子がコオを含め、遼吾の事も電話口で責めたといっていた。紅病院にいるときは莉子の5倍はコオは父を見舞っていたと思う。けれど、莉子は一度もそれをいうことはなく、ただ、前回の北寿老健に入った父をコオは見舞わなかった、と責めた。そんなり莉子も何度も来ることはなかったのだろう、だから余計父は寂しかったのかもしれない。
部屋に戻ると父は言った。
「それで、お姉ちゃん、パパは、どれくらいここにいられるのかな?」
「うん、私が聞いたりしらべたりしたところでは・・・ここは老人保健施設、っていうところで、いずれは自宅に帰る、ってことを想定しているの。リハビリ機関だよね。だから、基本は3か月。その時にもう一度状態の見直しが入る。それで、まだリハビリがしばらく必要、ってことになったらまた3か月はのびる。要はリハビリしたら戻れるような人しかここは入れないところなんだよ。パパは、自分で歩けるし元気だから延長になるかどうかはわからないけどね。」
「うーん…そうか…3か月って言うと…」
「秋までだね。まだ、残暑はあるかもしれない。一番暑い時期はここで過ごせるからよかったけど。」
父は、あまり、自宅に帰ることに乗り気ではないように見えた。
空調がきいて、看護師や介護士たちがいて、明るい食堂がある。コオも、あの日当たりの悪い実家に、また軟禁のような状態に父が戻るのかと思うときが重かった。
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父は北寿老健(老人保健施設)に移った。
北寿老健は、遼吾と健弥のマンションに近くそれはつまり、紅病院より、更にコオのアパートより遠いということを意味した。
アパートの直ぐ側から駅まで行くバスは、1時間に一本のみ。終点の駅からはJRだ。1度乗り換えて老健の最寄り駅からは歩いて10分から15分。
老健は明るい陽がさしこむ建物で、父のいる3階までエレベータで行くと、広い食堂が正面にある。食堂と少し区切った区画は、大画面のテレビが置いてあって、大相撲の夏場所にチャネルが合わせてあった。相撲好きの父は、そのテレビコーナーで他の入所者たちとテレビを眺めていたが、コオに気づくと立ち上がろうとした。
「パパいいよ。相撲見てたんでしょ、いいよ、見てて。」
「いや、今日のはな、いいんだ。あんまり面白くない。それよりせっかく来てくれんだから。」
父は、食堂から左側に廊下をたどった。
父は6人の大部屋だった。介護ベッドはカーテンで仕切られていて、父のベットは窓際だったが、東向きで午後の時間は薄暗かった。
「食堂はいいね、明るくて。あっちに居るほうが、話し相手もいていいんじゃない?」
「ああ。まぁ、話せる相手はあんまりいなんだがな。前よりずっといいよ。前入っていたのは、個室で、なんていうのかな、孤立感が半端じゃなかった。」
個室を望む人もいるのだろうが、父は、そういった。
エレベータの中で、個室の値段をすでに見ていたコオは(前回は個室しか空いてなかったのに、莉子は・・・)と思いながら、父には
「じゃあ、良かったね、大部屋で。でも、なるべくあっちの食堂の方に居るほうがいいよ。」
といった。
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あらすじ BattleDay136-Day169
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コオの父は再び脳出血を起こし、前回と同じICU入院となった。
コオは、父と同居していた妹の莉子は当てにならない、と見切りをつけ、病院のケースワーカーに事情を話し、
自分を連絡先の一つに入れてもらった。
父・莉子のことに加え、夫と通じ合えず孤独感に苦しみ、壊れていくむコオ。 離人症らしき症状がでていたが、コオは泣きながら働き続ける。
コオは、父と面会時に、莉子はパイプオルガンで仕事をしていくつもりだ、と聞いていぶかしく思う。また、
金銭的に恐ろしく莉子が甘やかされていたことを改めて知る。
父を励ます一方、全く話の通じない妹莉子とのやりとり。支えのないままに家族と暮らすこと。
疲れ切ったコオは、夫遼吾とわかれ、職場近くに一人引っ越した。
病院に行くには1日がかりの面会になるが、自宅介護時のケアマネージャー・立石のすすめもあり、コオは、父の気持ちを聞き出すことにする。そして、初めて莉子は精神的に病んでいないのか、と父に問うが、父はそれはない、といった。コオはその時点で聞いた父の言葉を立石に伝える。
父の退院が近づき、今後のことについて話をするためコオは紅病院のケースワーカー、日辻と病院で面談。
暑い夏に向かい、莉子が退院後、北寿老人保健施設施設を希望していることを知る。父の移動先が決定して間もなく、コオは新しい北寿老健のケースワーカーを訪れ、様々な事情を話す。
改めて、莉子はプライドが高すぎて、コオに何かを頼むことができないのだ、とコオはしみじみと考える。


