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これまでの話
Battle Day0-Day135 のあらすじは、以下のリンクをご覧ください、
登場人物は右サイドに紹介があります、
Day170- あらすじ
コオの父は、紅病院から北寿老人保健施設(通称北寿老健)に移った。大部屋に入った父は、前回の個室より、いいと漏らす。
父は、コオにノートを買ってきてくれるよう頼み、コオは父の回復ポテンシャルを感じる。
妹・莉子との考え方は違うが、父に長生きしてもらいたい、というのは同じなのだ、とコオは思う。
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父は、北寿老健のカラオケイベントで歌うことを本当に楽しみにしていたし、コオも、歌うことが精神的に、そして脳機能の回復にいいのは確かだと思っていた。自分以外の人が歌うときも、楽しそうにしている父を見るのがコオはうれしかった。車いすの老人たちが、一生懸命前に出てきて歌おうとするのは、ぼんやり曲を聞いていただけの時より、ずっと活力にあふれて見えたから、コオは、これは全ての老健で標準にした方がいいのではないかと思ったくらいだ。
音楽の、脳への効果・影響。コオはそれをうまく説明はできなかったが、確かにある、とこの時感じた。それなのに、曲がりなりにもピアノ講師を仕事にしていた莉子が、精神性の疾患にかかったのは皮肉なことだった。そうコオが思うようになるのはもっとずっと後の事なのだが。
歌が終わると、コオと父は父の部屋に移動し、一応他のベッドから仕切るカーテンを閉めて、お土産のお菓子を広げて見せる。父は目を輝かせて、それを食べながら昔の大学時代の話、もっと昔の話、時には会社の話をする。それがコオと父の週末になった。大相撲がテレビでやっているときは、少し早めに食堂に移動し、横に座って夕飯の時間までぽつぽつと父の大相撲の解説を聞きながらそばにいる。
日増しに暑くなってきていたが、北寿老健の空調は完ぺきだったので、コオのアパートから遠かったのは確かだが、壁が薄くてエアコンを切ると5分後には蒸し風呂のようになるアパートよりよほど快適だった。