*********************
これまでの話
Battle Day0-Day135 のあらすじは、以下のリンクをご覧ください、
登場人物は右サイドに紹介があります、
Day170- あらすじ
コオの父は、紅病院から北寿老人保健施設(通称北寿老健)に移った。大部屋に入った父は、前回の個室より、いいと漏らす。
****************************
「それから、色々記録を付けてるんだ。だから、ノートとボールペン、次に持ってきてくれないかな。」
父はコオにA4ノートを見せた。紅病院にいた時にコオが買ってきた、コクヨのノート。入院したばかりの時は、どうしてもびょういん、とかいても何故か《ひ》というひらがながかけなった、父。しかし、今1行日記のような感じで、日付とお通じのあった時間とか気になったこととかを書き留めてある。脳出血での入院直後の、日付もわからず、ひらがなもおぼつかなかった状態からすごい進歩だ、とコオは思った。
「お安い御用だよ。明日持ってくる。」
コオは近くでお菓子を少し買ってきていた。原則としては食べ物の差し入れは禁止なのだが、本人の目の前で渡して食べるのを見ている限りは大目に見てもらえるようだった。万が一喉につまらせてしまったりしたとき細かるからだろう。
コオが、「今日はお土産があるんだ」といって、お菓子を取り出すと、父は目を輝かせた。
「おお、それは嬉しいな・・・!ここは・・・なんていうか、ちょっと物足りなんだよなぁ、食事が。」
ブルーベリー味のカロリーバーを開けてあげると、父はうまいうまいと言いながら、あっという間に食べて、
「もったいないから、あとはおやつにまた取っておくよ」
といって、残りのパックを大事そうに、ベッドの隣にある収納スペースの引き出しの中にしまった。父はもともとお菓子類が好きで、まだコオが小さい時にタバコをやめたのをきっかけに、おやつの量が増えた。口さみしいと、おやつに手を出すパターンだ。家にお菓子を置いておくとすぐ父が見つけて食べてしまう、と母や莉子はよく文句を言っていた。 買ってくるのは構わないけど、カロリーとか、塩分は気を付けないといけないな、とコオは心にメモをした。でも、何の楽しみもなく、ここにいるよりもう、好きなものをある程度食べて楽しんだ方が、精神的にはずっと平和で意義がある。だからこそ、コオは、莉子の父を軟禁するようなやり方はあまり気に入らなかったし、この施設から父がでて、また軟禁状態になるのが心配であった。
それでも、コオは、莉子は父を心配していると思いたかった。だから、父が自宅介護だった時、ケアマネージャーの立石にも北寿老健のケースワーカーにも父のリハビリの件については同じようにこう伝えていた。
「めいっぱいリハビリしてほしいです。妹は自宅にいるとき父を軟禁のような状態にしていました。でも、それは、父に少しでも長生きしてもらいたい、たとえ動けなくても、ともかく生きていてほしい、という想いだったんだと思います。父に生きていてもらいたい、という思いは一緒なんです。私は寝たきりになるより、めいっぱい動けるだけ動いて、自分で色々なやりたいことことを最後までやって、それで亡くなるならそれは、天命だ、そちらの方が父にとっては幸せなのではないか、と考えているだけです。」
そうだ、次の面会の時は、簡易型の囲碁のセットを買って持ってこよう、とコオは帰り道電車に揺られながら考えていた。
、