「五方よし」経営を再考する | がいちのぶろぐ

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環境問題と経営の接点、中小企業の戦略やマーケティング活動,
観光・伝統産業関連などについて、「がいち」が考えたこと、思ったことを書きとめてゆきます。

最近テレビやSNSなどで、「SDGs」の〝シンボル・バッジ〟を身に着けている人を見掛けることが少なくない。私自身、もう数年間もリュックサックにバッジを着けている。

 

 

 

そもそも「SDGs」とは、「Sustainable Development Goals(持続可能な開発(発展)の目標)」という英語の頭文字をつなぎ合わせた、国連が提唱する社会目標だ。

 

 

 

また、テレビ番組などを見ていると、時おり「コンプライアンス」という言葉と出会うこともある。コンプライアンスは、「法律の順守」や「社会規範の尊重」といった意味だ。

 

当然ながら、ひとの日常生活というだけでなく、企業活動などにもこの規範の尊重が求められる。「何をしようと、儲けたもの勝ち」という企業ばかりでは、社会は成り立たない。

 

これを拡張した考え方として、「CSR(企業の社会的責任)」という概念がある。経営の神様・松下幸之助氏は「企業は社会の公器」という言葉で、その精神を表現されていた。

 

 

 

環境問題や労働衛生問題などで、企業が果たす役割は大きい。さらに最近は、サプライチェーン、つまり仕入先や下請企業などとの公正な取引という視点も、これに含まれる。

 

その上、企業にはお客さまに対しても商品を通した責任がある。〝製造物責任〟とも言われるが、これもCSRにとっては重要だ。マーケティングの視点からも軽視できない。

 

こうした諸々の動きをひっくるめて、かつての〝近江商人の経営への姿勢〟である「三方よし」という言葉が少しずつ復活し、また用いられるようになってきた。

 

「三方よし」とは「売り手、買い手、世間」の三方から、その取引が〝良い〟と判断されるという考え方である。

 

売り手と買い手だけでなく、〝世間〟つまり社会にとっても、その取引が「公正かつ有益」なものでありたい、という意味が含まれている。

 

最近のことだから、〝わが社も、こんな経営理念の下に経営を行っている〟という会社も少なくないと信じたいし、そうであってほしいと願っている。

 

ところで私が旧知のある会社は、今までも大学と共同で最先端技術の開発を行うなどの取り組みを続け、中小企業ながらもその業界内では少しは名前を知られた会社である。

 

この企業はもう5年以上も前から、「CSR報告書」の〝経営理念〟が書かれたページで、「五方よし経営」を自社の理念と宣言している。

 

この「五方よし経営」のことを、昨年の5月にこのブログで紹介したことがあった。ほぼ1年前のことになる。それ以来今日に至るまで、毎日、何人かの方に読んでいただいている。

 

まず何よりも、「エッ、五方よしだって?」と思われるだろう。そう、「三方よし」では止まらず、この企業では「五方が良くなければ」と考えている、ということだ。

 

では「三方よし」に加えられた、残る「二方」は何だということになる。それらはこの企業によれば、「手代(てだい)よし」、「孫子(まご・こ)よし」と表現されている。

 

 

 

「手代」とは、その会社で働いている従業員とサプライチェーンを指している。「手代よし」という考え方は、マーケティングの世界でも「インターナル(内部)・マーケティング」として注目されている。

 

その趣旨は、〝従業員が惚れこむ企業〟になろうということであり、従業員など内側の人間が企業に対して抱く「ロイヤルティ(忠誠心)」が、重要視されるようになっている。

 

「孫子」とは、兵法家の〝孫子(そんし)〟ではなく、この場合は「まご・こ」と読む。〝子孫〟と書くと自分の子や孫と思われるから、ひっくり返して「孫子」となっている。

 

「孫子(まご・こ)よし」は「持続可能な社会」に役立つ企業になる、という大きな願いである。〝将来世代〟に対する企業責任を果たして行く、という趣旨で5つ目に入った。

 

こうして、自分たちは「五方よし」の経営をして行くことを経営理念として掲げた、ということになる。

 

ここまで来れば、「CSR経営」という範囲を超え、国連が提唱する「SDGs(持続可能な発展のための目標)」の世界に足を踏み入れていると言っても良いだろう。

 

近江商人の「三方よし」経営で言われている「世間よし」を広く解釈すれば、「CSR」を越え「SDGs」になるとも言えるが、そこをあえて切り分けることでより明確にした。

 

こうして掲げた企業としての経営理念が、「五方よし」という考え方になる。こんな会社がどんどんと増えて行けば、きっと地球の将来は良くなると思う。

 

ただし、「コンプライアンス=法律の順守」すらきちんとできていない企業にしてみれば、耳の痛い話だろうと思うけれど。

 

国連の「SDGs」の目標では〝誰ひとり取りこぼさない〟というスローガンも、合わせて掲げられている。

 

つまり、〝貧困をなくそう〟や〝質の高い教育をみんなに〟など、世界の全ての人を対象に考えよう、ということである。

 

京都市でも「SDGs」の先進都市を目指しているけれど、本当に〝誰ひとり取りこぼさない〟で実行できるのだろうか。