脚本家/小説家・太田愛のブログ -19ページ目

二月になる。

菜の花の辛し和えを作り、たらのめと蕗の薹の天麩羅を揚げる。


明日は節分。

花屋に柊鰯を作る柊が並んでいた。

柊鰯は節分の夜のための魔よけで、柊と焼いた鰯の頭を門口に挿したもの。

柊の葉の棘が鬼の目を刺し、鰯の臭いが鬼を追い払うという。


節分の夜、豆をもって追われる鬼は、狂言や御伽草子に出てくる鬼のようにどこかユーモラスだ。

その一方で、祭事や儀式に残る鬼は、王朝時代以降、時の権力にまつろわぬ者として誅殺されいった者たちの姿でもある。


『鬼は放逐される運命を背負うことによってのみ農耕行事の祭りに生き、折伏され、誅殺されることによってのみ舞台芸術の世界に存在が許された』と書かれたのは、歌人の馬場あき子さんだ。

為政者によってしつらえられた祭りの中では、鬼は成敗される悪の権化として現れる。だが、人々が祭りや舞台の中に、討たれ放逐される者としてであっても鬼を生き延びさせたのは、鬼たちの悲憤や怒り、苦しみにどこかで共感したからではないか。

馬場さんの歌集「飛花抄」の「一 鬼狂い」の中に次のような一首がある。


しずめかねし瞋を祀る斎庭あらばゆきて撫でんか獅子のたてがみ      馬場あき子


(しずめかねし いかりをまつるゆにわあらば ゆきてなでんか ししのたてがみ)


この十五年ほどお世話になっている日本バーテンダー協会、元・渋谷支部長のKさんのお誘いで、

先日、取材をかねて『全国バーテンダー技能競技関東統括本部大会』を観戦に行った。


関東ブロックで予選を勝ち抜いた34名のバーテンダーさんがエントリーされており、午前中に学科試験とフルーツカッティング、午後には課題カクテル(今年はアドニス)と創作カクテルの製作を競う。


競技観戦は午後の部から。

バンケットルームに詰めかけた500名を超える関係者、観戦者が見守る中、
選手たちは四名ずつ演壇に登壇し、「スタート」の合図で一斉にカクテルを作り始める。

ツワモノそろいのバーテンダーの方々はあくまで優美にシェイカーを振られるが、

そこは一年に一度の関東大会、見ているこちらにまでヒリヒリとした緊張感が伝わってくる。

ここで入賞した七名が全国大会に進み、全国で優勝した一名が世界大会に挑む。


審査の結果、今年の総合優勝は銀座支部、バー・フォーシーズンズの吉本武史さんと決まる。


脚本家・太田愛のブログ-大会

吉本さんの創作カクテルのタイトルは「シャーロック」。

このタイトルに心を惹かれるのは私だけではないはず。

レシピはオールドトムジンにマスカットリキュール、マラスキーノリキュール、グリーン・バナナ・シロップ、フレッシュ・ライム・ジュースというもの。

詳しい審査結果はこちら


私は普段はシングルモルト一辺倒でカクテルはマティーニかダイキリくらいなのだが、

その日一日、美しい色と名前を持つカクテルを眺めるうち、

改めてカクテルを開拓してみたい気持ちになる。
なんといっても、世界大会でここ二年続けて日本代表のバーテンダーさんが優勝している。

実は、日本は知る人ぞ知るカクテル王国なのだ。



1月22日発売の「小説現代 2月号」の『ブックマーク』のコーナーを書きました。

日頃、自分が好んで読んでいる書籍を紹介するコーナーです。


学生の頃から何度も読み返してきた作品や、近年、興味深く読んだものまで

五冊ほどの書籍を紹介しています。

本好きの方は是非。





お正月明けに実家に帰省。久しぶりに母とキッチンに立つ。

リフォームしたキッチンは使い勝手がよく、料理を作る気持ちも華やぐ。

不意に子供の頃によく作ってもらったシチューが食べたくなり、

母と並んでお喋りをしながらじゃがいもを剥く。

出来上がったシチューはローリエの香る昔通りの味。

ロールパンとサラダを添えて美味しくいただく。


夜、しんとした自室に戻る。部屋は私が進学のために上京した十八の時のままに残されている。

机の引き出しには赤線を引いた教科書や落書きのあるノート。

書棚には当時読んだ本。

父の書棚から持ち込んだ本もそのままにある。

この部屋で友人と本の感想を話し合ったり、好きな音楽を聴いたり。

あの頃と何ひとつ変わらない自分の部屋に戻ってくると、

どうしてかいつも少し胸が苦しいような切ない気持ちになる。


やはらかに光る記憶の薄片に降りこめらるるやうに眠りき      横山未来子






十七年ぶりの豪雪となった一昨日の深夜、すでにみぞれとなった雪も止み、

路面はすっかり凍っている中を歩いた。

午後に見た降りしきる雪はもう遠い出来事のようだ。

長靴の底から硬いシャーベットを踏むようなシャリシャリした感触が伝わり、

砕ける雪氷の透明な音が静かな夜の街に吸い込まれる。

暗い空にはもう雲はなく、オリオンやアルデバランが淡く光る。


池袋サンシャインビルの下ならむ刑場ありてそこに雪降る 佐伯裕子


付記:昭和23年12月23日、巣鴨プリズンに収監されていた歌人の祖父はA級戦犯として刑に処された。


最後になりましたが

相棒元日スペシャル『アリス』の感想をお寄せ下さった皆さま、どうもありがとうございました。




相棒元日スペシャル『アリス』、ご覧下さった皆さま、

ありがとうございました。

お楽しみいただけましたでしょうか。

新しい年が、内村刑事部長と同様、皆様にとって良い年になりそうでありますように。


さて現在、小説『犯罪者 クリミナル 』シリーズ第二弾を準備中です。

どうぞご期待ください。




明けましておめでとうございます。

新しい年が平らかな明るい年となりますように。


さて、本日夜9時は、相棒元日スペシャル『アリス』の放映です。

昨年の『ピエロ』とは一転、今回は右京さんと享くんが少女たちの謎を解く物語です。

実は、エンドロールの最後に和泉監督のお名前がクレジットされるところまで、

謎解きはさりげなく続いております。

最後の最後までお見逃しなきよう。


また、『犯罪者 クリミナル 』の献本プレゼントにご応募下さった7023名の皆さま、

どうもありがとうございました。

脚本家・太田愛のブログ-雪輪

本日より相棒公式ホームページにて、相棒元日スペシャル『アリス』の

予告編最新60秒版がご覧になれるようになりました。

プロデューサー伊東仁氏による抒情的でキレの良い予告編!

しかもミステリ的な情報も満載です。

私は何度も観てしまいました。何度見てもカッコいい癖になる予告編です。

皆さま是非、ご覧ください。→こちら


『犯罪者 クリミナル』の読書メーターでの献本プレゼントの応募期間は12月30日正午までです。

奮ってご応募ください。→こちら

アマゾン の方は27日現在、在庫僅少となっています。


昨日から北風が冷たく、外に出るのに勇気が必要な毎日。

皆さま、風邪をひかないように気を付けてください。


「読書メーター」にて『犯罪者 クリミナル』の献本プレゼントが始まりました。

応募期間は12月23日から30日までです。

サイトに飛びますと、あらすじの詳しい紹介などもございます。

どうぞ奮ってご応募ください。

詳細はこちら→読書メーター・献本ページ


「感想メール」をくださった皆さま、「これから読みますメール」を下さった皆さま、

また「予約中ですメール」をくださった方、ありがとうございます。

年の瀬を迎えて寒さもますます厳しくなってまいりますが

どうぞ、皆さまお健やかにお過ごしください。





相棒11 2013年元日スペシャル『アリス』、脚本を担当しました。

(楽しみにしているとメールを下さった方々、ありがとうございます)

今年の元日スペシャル「ピエロ」は、男たちの犯罪に右京さんと尊くんが巻き込まれるサスペンスでしたが、今回の「アリス」は一転、少女たちの謎を右京さんと享くんが解いていくというミステリー。

「アリス」は、みなさんお気づきのように「不思議の国のアリス」からきています。では予告を少々。

≪57年前のクリスマスイブの午後、17歳になる美しい旧華族の令嬢が失踪する。同じ夜、彼女が宿泊していたホテルが謎の失火により全焼した≫

というわけで、あとは『ザ・テレビジョン』の見出しの通り。↓

―57年前の2つの悲劇に隠された警察庁と旧華族の闇に迫る!

この過去の悲劇に端を発する新たな事件が現代で進行していきます。

元日夜9時より。是非、ご覧くださいませ。


さて、クリスマスシーズン。「犯罪者 クリミナル 」(角川書店から発売中)プレゼントのお知らせです。角川書店さんのご厚意により、『読書メーター』から上下セットで5名様に【献本】プレゼントいたします。応募期間は12月23日から30日。抽選結果は1月8日以降に当選者の方にお知らせいたします。是非、御応募ください。『読書メーター』のサイトはこちら 。(書籍を検索いただくと読者の方のレビューがご覧になれます)

また「犯罪者 クリミナル」の感想をお寄せ下さった皆さま、ありがとうございます。このところ複数の方から同じ質問を頂くことが重なりました。「どうしてこの小説を書きたいと思ったのですか」というものです。この小説を執筆するための取材とリサーチを始めたのが七年前ですので、今あらためて自分自身の動機に向き合う契機を頂いたような気がしました。

様々な思いが渾然一体となっているのですが、核となったのは「鬼」を描きたいという思いでした。

私たちが今、生きているこの社会で、人であるからこそ「鬼」とならざるを得なかった者たち。

怒りと絶望から、或いは力ない者たちへの身を切るような心寄せから、自ら叛逆の道を選んだ者たち。心やさしく、孤独で、しかし毒のように激烈な彼ら現代の鬼が、圧倒的な権力に対して仕掛ける一度きりの犯罪を描いてみたい。それが一番の動機だったように思います。お楽しみいただければ幸いです。