たろすけ日記 -3ページ目

元旦。眼が覚めたのは6時を過ぎたあたり。昨日何時に寝たんだろ?まだ暗いし寒い。

トイレ行って、そーっと部屋から出てリビングに下りてみるとまだみんな寝てる。静かに洗面所で洗面と歯磨きをして、そーっと玄関開けて新聞取り、そのまま抜き足差し足で部屋に戻り電気をつけて新聞読み始めた。隣で物音が聞こえた。

あ、裕美起こしたか?しばらくじっとしてた。やっぱりガサゴソする。間違いなく起こしてしまった。そのまま部屋を出て隣の裕美の部屋をノックした。コンコン。

 


「はい?」小声で声が漏れた。


「ゴメン、起こしちゃって。入っていい?」俺も小声で伝えた。


「・・・まだダメ」こそっと返ってきた。しばし俺も直立状態でいると、こっそりドアが開き「起きるの早いね?いつもこうなの?」とドアの隙間から小声で話しかけてきた。


「言ってなかったっけ?冬も夏も大体6時には眼が覚めるんだ。まだみんな寝てるけど、初日の出見に行かない?一緒に見てみたい」


「近いの?」


「ん、昨日行った大井戸公園。すぐだよ」


「分かった。着替えるからちょっと待ってて」と言ってドアが閉じられ、俺も少し待っていた。しばらくしてドアが開き、


「明けましておめでとう。今年もよろしくね」と裕美が深くお辞儀したが、ずっと俯いてる。


「明けましておめでとう。俺の方こそよろしく」と返したが俯いたまま。「どうしたの?」と訊いてみると、


「トイレに行きたいのと、鮫君、起きたばっかりの私の顔なんて見せられないでしょ!」小声で少しむっとしてた。


「あぁ、ゴメン気がつかなくて。じゃ俺外で待ってるよ。でも、裕美って化粧してなかったよね?」


「ホント鈍いヒト。私も薄化粧してるよ。ま、いいから外出てて。ちょっと時間かかるけど、お父さんたちが起きないように気をつけてするから」


「分かった、じゃ」部屋に戻りジャンパー着て玄関のキー取って外に出た。寒い!そのうち慣れてくるとは思うけど・・・裕美誘ってマズかったかと思いつつ待ってると、こっそり玄関の扉が開き裕美が出てきた。急いで来たから裕美も今回は化粧してないようだった。素顔でも十分綺麗なのは今の薄明かりでもよく分かるんだけどな。


「朝早くからゴメン。昨日途中で寝ちゃったから覚えてない。ホントは裕美とゆっくり大晦日過ごしたかったのに」


「鮫君上がったから私もそのまま上がったよ。ちょっと残念だったけどね」


「もうそろそろお日様上がってくる。上がる前に公園行こ!」手を差し出して、裕美も合わせてくれたので、二人で薄明るくなった光景に少し焦りながら公園へと向かった。玄関は何かあるとヤバイので施錠した。
(続く)

大井戸公園の木

「父ちゃんお風呂入っていい?」


「ええよ。俺は最後でいい」


「じゃ、入ってくる。もうすることもないし、紅白も始まるからそれまで志奈子とでも喋ってたら?」


「うん、私も裕美さんとお話したかったしね、二人で」


「何か意味ありげな言い方やなぁ。ま、いいけど」そのまま洗面所行って服脱いでお風呂に入った。

「わぁ~」思わず言葉が出てしまった。裕美の残り香が微かに残ってた。何か甘くて切なくなるような裕美の匂い。

いかんいかん。風呂場の窓開けて身体洗って湯船に浸かった。冷気が入ってきたが、あぁ気持ちいい!

裕美がすぐそばにいそうな感覚になる。何かそのまま眠ってしまいそう・・・。少し浸かって急いで出て髪と身体洗って髭剃ってまた浸かって出た。暖まったし気持ちよかった。着替えてそのままリビング入った。


「早っ!もう出た。・・・いつものことか。ひょっとして紅白楽しみにしてんの?」志奈子。


「いや、お腹も空いてきたなって思って、急いで出ただけ」裕美はリビングのソファに座ってテレビ見てた。おとんとおかんは食卓に座っておとんはお酒飲み始めてた。料理はウチでの恒例のすき焼きだ。


「もう出来てるから食べよ」おかん。


「うん、あっち座ろ」と裕美を促して食卓に向かった。いつもは壁にくっつけてる食卓だが、5人なので食卓を中に寄せて壁際に丸椅子置いた。俺は丸椅子に座り、俺の右手に裕美・おかん、左手に志奈子・おとんで座った。


「さ、おあがりなさい」おかん。


「いただきま~す」と言って前のような取り箸使って食べ始めた。


「鮫行、やるか?」おとんが缶ビール出してくれた。


「アリガト」プルトップ開けて一口飲む。旨い!裕美も飲みたいんじゃないかと思って、


「飲む?」と訊いてみたが、


「お酒はもう当分いいです」と断った。だよな、わずか1週間前のことだったもんな。あの事件?も。


「だよね。訊いてみただけだし」とそのまますき焼きつついた。


「あ、始まるよ」志奈子。テレビ見てみると紅白が始まった。さぁいよいよ今年も最後だ。


5人が5人ともボーっとテレビ見てた。いつものウチの風景だな、これって。いつもと大きく違うのは姉ちゃんが裕美に変わったこと。


今晩は俺もお酒が飲みたい気分だったので、思いっきり飲んだ。酒好きのおとんだからビールも焼酎もたくさんある。そのまま酔ってきておとんと何話したのか、裕美がどうしてたのか分からなくなって、転寝してしまった。


おかんに起こされて部屋に上がって寝てしまった。時間も分からなかった。裕美も一緒に上がってきて姉ちゃんの部屋に入ったのは覚えてたけど、そのままDown

大晦日はこうして終わってしまった。
19歳最後の大晦日裕美とゆっくりしたかったんだけどな・・・。
(続く)

「そうよ。志奈子ちゃんって可愛いもの。私だったらほっとかないし今は部活で忙しいから出来なくてもそのうちきっといい彼氏見つかるよ」裕美。

「そうかなぁ。私別に彼氏いないのは寂しくもないけど、男友達って欲しい。女の子じゃ相談できないこともあるし」志奈子。

「大丈夫だって。志奈子は俺と違ってタフだし、一番の違いは楽天的ってこと。その気持ちがあればいつか必ず出来る、彼氏もな」俺。

「でもお兄ちゃんたちもお姉ちゃんみたいにならないでね。出来ちゃった婚はやっぱり恥ずかしい」志奈子。

「お前も想像し過ぎっての。第一俺たちはまだそんな関係じゃないし」俺。

「へぇ、まだなんだ。お兄ちゃんは正直だから私も好きなんだ。嘘が全然つけない子供みたいなとこが安心出来るんだよね」志奈子。

「まぁ、それはお前の想像に任せるよ。俺たちは疚しいことはしてないのは事実だし。もっともあれが疚しいって言う俺自身が疚しいのかもしれないし」俺。

「恋人同士ならあれも当たり前でしょ。いつかは私もしてみたいけど、ねぇ、裕美さん」志奈子。さっきから黙ったままの裕美を見ると、裕美はぼんやり遠くを眺めてて、その実何も見てないような空想の世界に入ったような自分の世界にいるような感じで、微かに軽いため息をついていた。俺たちは彼女の視界に入ってない。

「どうしたの?ぼんやりして」俺。その言葉にやっと気付いたようで、正気の表情に戻り、

「あ、ゴメンなさい。ちょっと想像してたの」裕美。

「何を?」俺。

「私の花嫁姿とか・・・」裕美。

「うわぁー、また大胆だな、裕美さんって。逞しい想像力ね」志奈子。

「あ、ゴメンなさい。私のクセなの。忘れてね」裕美。

後ろからおかんの声が聞こえた。
「あなたたち、そろそろお風呂入ったから裕美さん、先に入って」おかん。

「あぁ、結構時間経ったんだ。裕美から入ったらいいよ」俺。

「え、私から。でも、私何もお手伝いすら出来てないし」裕美。

「いいのいいの、裕美さんはお客さんなんだから。急いで入ってね。あとが支えちゃうから」志奈子。

「でも、そんな図々しいこと出来ないよ」裕美。

「いいからいいから」俺。とにかくグズグズしてる裕美の肩を引っ張ってお風呂に入ってもらった。

裕美がいなくなってから自然志奈子との会話も途絶え、俺はそのままつまんない正月番組見てた。

結婚か・・・。裕美のウェディングドレス姿とか綺麗だろうなと俺も想像しつつニンマリしてた。

そのうち裕美が出てきた。しばらくドライヤーで髪乾かしてたようだが、リビング入ってきて、
「一番のお風呂有難うございました。とっても気持ちよかったです」と言ってきた。

次は俺入れさせてもらおう。
姉ちゃんたちも帰った。ちょっとの間だったけど家族がいなくなるのは寂しかった。

でも、こんなもんだ。第一姉ちゃんはもう嫁いで別の家庭の人になってる訳だし。でも、茜ちゃんと別れたのはやっぱり寂しかった。でもまたいつか会えるからいっか。

俺はリビングのソファに裕美と座って話し始めた。
「あんな感じの姉ちゃんだったけど、やっぱり別れると寂しい」俺。

「素敵なお姉さんよね。鮫君のお姉さんだからしっかりしてたし」裕美。聞いてた志奈子も割り込んで座ってきた。

「お姉ちゃんは私以上にしっかりしてるけど、気が強いよ。言いたいことはどんどん言ってくるし」志奈子。

「ま、ウチの兄弟の年長者だからそんなもんだろな。結婚してますますきつくなってきたみたいだし」俺。

「お姉さんと寛さんってどんな風にして知り合ったの」裕美。

「興味ある?」俺。

「え?そりゃそうよ。鮫君のご家族の方なんだから・・・いつかは私のお義姉さんになるかもしれない方だし」裕美。

「うわぁー、何か凄いこと聞いちゃった。裕美さん、私のお姉さんになってくれるんだ」志奈子。

「あ、ごめんなさい。ちょっと話飛ばし過ぎちゃった。志奈子ちゃん、今のは忘れてね」裕美。

「えー、私忘れられないよ、裕美さん」志奈子。

「言葉のアヤだって、志奈子。彼女を困らせたらダメだって」俺。

「そう言いながらホントは結婚したいんでしょ、裕美さんと?」志奈子。

「ま、いつかお前にもきちんと話す。それは置いといて」俺。

「またいつもの逃げ口上か。いいけど。あ、お姉ちゃんのことね」志奈子。

「うん」俺。裕美の方に向かって、「姉ちゃんも学生の頃から寛さんと付き合っててね。姉ちゃんも寛さんもお互いアツアツでさ」

「私もお手上げだったな」志奈子。

「どんな風に?」裕美。

「ほとんどお互いの家に入り浸りだった。ウチに来る方が多かったか。しょっちゅう寛さんウチ
に来てず~っと姉ちゃんの部屋に二人で閉じこもってさ。何してたんだろな?」俺。

「恋人の関係だったから分かるでしょ」志奈子。

「そのまま結婚されたの?」裕美。

「そう。大学出てそのまま結婚式挙げたもんな。おまけに出来ちゃった婚だったし」俺。

「あの頃は私も参ってました。あれからもう3年になるのかな。私まだ中学生だったし刺激的過ぎたよ」志奈子。

「俺だって。姉ちゃんたち見てたら自然腹立ってきた」俺。

「二人ともヤキモチ妬いてたんだ。でも、いいね、そういう関係って」裕美。

「今の裕美さんたちもそうでしょ。いいな、私だけ除けもんだもん」志奈子。

「お前は俺と違って部活やってるからな。でも、いつか出来るって、彼氏も。俺でも出来たんだから」俺。
(続く)

「いえ、今は私の方が小田島君に頼ってますよ。今の私は彼に引っ張ってもらってますから」裕美。

「いいなぁ、私も彼氏とか欲しいな。でも部活があるから無理だもんね」志奈子。

「あんたはこれから受験でしょ。来年から3年なんだし。男なんて作る暇ないわよ」姉ちゃん。

「でもな。私も裕美さんみたいに幸せいっぱいに笑ってみたいな。私もパッと見可愛いでしょ?」志奈子。

「部活焼けが消えたら誰か見てくれるかもな。今のお前って男顔負けに肌黒い、今みたいな冬でも」俺。

「あー、またこいつ喧嘩振ってきた。でもお兄ちゃんが強くなったのは裕美さんのおかげよね」志奈子。

「小田島君の元々の性格ですよ。A型って暗い暗いって言うけど、本当は違うの。人よりちょっと空想好きなだけ。菜摘さん、志奈子ちゃんの血液型は?」裕美。

「B」二人。

「え!そうなんですか!?B型の人って私にはとっつき難いんですけど、お二人とも違いますね。優しいし」裕美。

「そう言ってもらって有難いけど、ねぇ?」姉ちゃん。

「私達って相当冷たいよ。平気でズケズケ何でも言っちゃうし。私のこと嫌ってる人もいるし」志奈子。

「B型らしい。いっつもGoing My Wayの気分屋でどんだけ悔しい思いさせられたことか」俺。

「あんたってトロいのよ、見てて。イライラするの。今は変わったけどね」姉ちゃん。

そうこうするうちに茜ちゃんが起きたようで、姉ちゃんのそばにやってきた。

「・・・・・」黙ってる。どうしたんだろ?子供の寝起きは気分悪いもんな。

「起きた?お茶でも飲む?」姉ちゃん。

「・・・おしっこ」

「分かった。おいで」と姉ちゃんが茜ちゃんを連れてトイレに。時刻は17時前になろうとしていた。冬の日が沈むのは早い。あたりももう薄暗くなっていた。

「お母さん、私そろそろ帰るね」茜ちゃんを連れて戻ってきた姉ちゃんはそう言いながら玄関に向かった。

「気をつけてね、もう暗くなってるから。あんた2日には来るんでしょ?」既に靴を履きかけてる姉ちゃんに向かっておかんが言った。

「そうね、寛さんの実家行った後に来るわ」

「そう。今年もあとわずかだけど良いお年を」

「ええ、お父さんもお母さんも。鮫行に志奈子、それと裕美さんもいい年迎えてね。じゃ」と言って出て行った。
(続く)

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「お姉ちゃんも思うでしょ。裕美さんみたいな人がよりによってお兄なんかと付き合ってるって、前代未聞だよね」志奈子。

「言える範囲でいいから教えてよ」姉ちゃん。

「・・・一目ぼれみたいなもんだよ、な」俺。

「・・・そうですね」裕美。

「それじゃちっとも分かんない。どうやって知り合ったの?」姉ちゃん。

「ナンパで」俺。

「嘘おっしゃい!あんたがそんなこと出来るわけない」姉ちゃん。

「あー、言うよ言うよ。俺たち同じ速記部なんだけど、6月のもう半年前か、合宿があって、そんときの宴会で彼女飲めないお酒飲んで気分悪くなってたのを介抱したんよ。それがきっかけ」俺。

「あのときの私ってバカでした。飲めないのにみんなが楽しんでるの見てたら飲んでみようって思っちゃって」裕美。

「元々お酒弱いんだ」姉ちゃん。

「はい、苦いだけです、私には」裕美。

「そういう彼女なんでお酒は駄目なの」俺。

「で、そのきっかけがずっと続いてるの?もう半年になるけど」姉ちゃん。

「まぁ一応」俺。

「そうですね」裕美。

「あんたもエライ変わったね。高校のときは誰が見ても根暗にしか見えなかったのに。でも、裕美さん、アリガトね。こんな頼りにならないの相手にしてもらって。少しは心配してたんだぞ、鮫行」姉ちゃん。

「姉ちゃんには悪いけど、俺今も根暗だよ。一人のときは誰とも喋らないから根暗。たまに一人酒してネットしてるし」俺。

「そんなのは普通でしょ。根暗って言うのは家族といても黙ってた高校時代のあんたのこと。今はホント普通になったね」姉ちゃん。

「普通以上に生意気になってる。私のこと小ばかにするし」志奈子。

「はいはい、ごめんなさい。昔はいっつもネガティブにしか考えなかったけど、大学も第一志望入ってこうして彼女みたいな女の子と付き合ってる俺の人生、毎日がバラ色だよ」俺。

「しょってるな。あんたホント変わった。顔つきも前みたいなウジウジした顔じゃなくなったし」姉ちゃん。

「ご馳走様。彼女と付き合い始めて俺も変わることが出来た。もし裕美がいなかったら・・・高校の延長の毎日送ってたろうな」俺。

「でしょうね。ま、あんたが明るくなってくれて良かった。ホントアリガトね。裕美さん」姉ちゃん。
(続く)

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「うーん、俺って元々明るかったよね?」俺。

「どこが!?」姉ちゃんと志奈子。

「熱くてとっても美味しいです。出来立てのお餅食べたのもしかして初めてかな?」裕美。

「だろ、ウチの餅は美味しいんだって!良かった。彼女もウチの一員になったな」俺。

「あんた、裕美さん大事にしなきゃ、ね。でもウチのカラーに染めていくのはまだ早い。裕美さんってまだ子供子供してるし」姉ちゃん。

「裕美さんは裕美さん。お兄ちゃんがどんなにしたって変わるわけない」志奈子。

「志奈子ちゃん、私ずいぶん変わったよ、小田島君と付き合い始めて」裕美。

「え!?どう変わったの?教えて教えて!」志奈子。

「それはね・・・」裕美。

と話してるときに、おかんから
「もう炊けたわよ、鮫行、重いけどしっかりね」

「あ、出来たんだ。よし!」炊けたお餅をお櫃から取り出して食卓の小麦粉撒いたところに置いた。「うん、出来た。次お餅千切るよ」俺。

「ええ、お父さんにそれ渡してから手伝って」とおかん。

「よっしゃー」と両手に小麦粉つけてまだまだホカホカの餅を千切り始めた。千切った餅をおかん・姉ちゃん・志奈子・裕美が綺麗に丸めていく。

それぞれの役割分担をきっちり済ませたおかげで滞りなく終了。途中茜ちゃんが眠ってしまい姉ちゃんが抜けてしまったけどね。

残りもマイペースで終わった。ウチの餅つきも疲れたけど無事終わってホッとした。餅は既に大きなプレートに並べられている。こんな時期だからあんこ入りの餅も腐ることはない。疲れた。

後はしばらくぼんやりしてるだけか。もうどこにも行きたくないし。でも・・・。家族は食卓座ってのんびりしてる中、俺は裕美とリビングのソファに座った。

「ご苦労さん。お餅つきも無事終わったね。これからしばらくしてお風呂沸かして入ってもらって・・・、菜摘、今晩どうするの?寛さん来るの?」おかん。

「悪いけど、私帰るね。寛さん多分もう帰ってると思うし、茜も落ち着いて眠れないだろうし。また改めて来ますね」姉ちゃん。

「そう、寛さんもどうしたのかねぇ。茜ちゃんまだ寝てるけど、起きてから帰る?」おかん。

「そうね。今起こしたら泣いちゃうし、ちょっとそのままにしとこうか。その間に・・・」姉ちゃんは俺たちのいるソファに来て「鮫行と裕美さんにちょっと訊かせてもらっていい?」

「え?何、また急に」俺。

「あんたみたいなのがどうしてこんな人と付き合ってるのか知りたくなっただけよ」姉ちゃん。

志奈子のときと同じだなと思って頬を緩めてしまった。それ聞いて志奈子もこっちに来たけど。

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(続く)

「茜ちゃん忘れてた。ずっとほったらかしてたからな」お茶飲んだ後、茜ちゃんはしばらく座っていたが、退屈になったのか俺たちのそばで腰下ろして小石を拾って一人遊びしてたのだ。「茜ちゃん、ごめんね。もうおうち帰ろうか?」

「うん、おじちゃん、だっこ」

「はいはい、だっこはちょっと難しいからおんぶして帰ろうね」茜ちゃんをおんぶして家に帰った。その光景は若夫婦と一粒種の子供って感じで違和感なかったな。裕美との結婚。具体的にはまだ何も決まってないけど、裕美と結婚したい。しばらくは二人で生活送っていつかは子供も欲しい・・・。

と思う間もなく、帰ると家族はみんな餅つきに忙しかった。食卓に餅つき機置いて回りに新聞紙敷いて餅作ってる。

「ただいま、遅れてごめん、手洗って手伝うよ!」

「遅くなってごめんなさい、すぐお手伝いしますね」裕美と一緒に洗面所行って珍しく石鹸で手を洗って食卓に行った。

「お帰り、楽しめた?これから炊けた餅米出すから適当に千切って丸めて。鮫行は千切る係りで裕美さんは丸めてね。それと適当にあんこも入れないといけないけどこれは私がするから。ほら、あんたたちもちゃんとやってね!」

「は~い」tension低いな。姉ちゃんも志奈子も低血圧。茜ちゃんはじっと餅見てる。食べるなら姉ちゃんが千切ってやらないと喉詰まらせてマズイことになるな。おとんは餅米の水洗い役で次の餅米既に洗い終わってて暇そう。

大勢でやった方が手っ取り早い。確か餅炊くのは4回やってよな。後2回か。もち米が炊くのを待ってあんこ入りの餅を一つ頬張った。

「うん、美味しい。正月気分が味わえる」

「これ、鮫行、裕美さんがいる前ではしたない!」

「ごめーん、いつもならこんなこと当たり前なのにな。あ、ゴメン。まだ遠慮してるな。裕美も食べたらみんな同じになる。食べてみて」

「え、私はいいよ。お母さんのサンドイッチでお腹いっぱい」

「えー、裕美って小食やなぁ。それに比べてこの人たちのよく食べること!何個食べたの?」姉ちゃんと志奈子に顔向けた。

「あんたも裕美さんの前なんだから遠慮しなさいよ」と姉ちゃん。

「酷~い、私まだ2個しか食べてない」と志奈子。

「彼女みたいな小食になりなさい!ってウチじゃ無理か。いっつもガバスカ食べてるもんな」

「ええカッコしぃ。裕美さんの前でそんなに威張りたいか」と志奈子。

「お母さん、志奈子ちゃん、お餅いただきます」また裕美のフォロー。俺も言い過ぎた。

「悪い。言い過ぎた。別にお前馬鹿にして言ったんじゃない。分かって欲しいけど」

「素直になったね。それでいいのよ。でもあんたホント変わったね。昔は全然喋らなかったのに。裕美さんと付き合い始めたからかな?」と姉ちゃん。
(続く)

公園着いたものの、
「ブランコないよ」と茜ちゃんがむずかってきたので、

「かくれんぼしようか?おじちゃんとお姉ちゃんで」

「うん、しようしよう!」と言ってくれたのでホッとした。近くの公園ってここしかないもんな。

「じゃ、おじちゃんが鬼になるよ」言いだしっぺの俺が鬼になった。「二人とも逃げて!」二人ともいなくなったのを見計らって「行くよ!」と言って探した。茜ちゃんはすぐ見つかった。

「茜ちゃん、見~つけた!」そのまま置いておくのは危ないと思ったので「お姉ちゃん一緒に探そうか」とゆっくり茜ちゃんの歩調に合わせて裕美を探す。裕美はちょっと離れた木陰に隠れていた。「はい、お姉ちゃん見つけた!」

・・・疲れたので「ちょっとベンチに座ろうか」と言ってベンチに座った。茜ちゃんも疲れてるようだったので、持ってきたお茶注いであげた。黙って美味しそうに飲んだ。

「裕美もお茶もらう?熱くて美味しそう」

「ダメだよ。それは茜ちゃんのだから」

「そう・・・だよな。人のお茶飲んだら怒られるか」

「フフ」何故か裕美が笑い出した。

「どうしたの?エチケットがないって笑ってんの?俺もまだ常識に欠けてるとこあるから、それはゴメン。でもウチの家族だったら何でも取り合いするよ」

「ううん、そうじゃなくって茜ちゃんが本当に私たちの子供に思えて笑ってたの。菜摘さんには悪いけど」

「俺たちの子供?」

「うん、鮫君と私が17のときに出来た子供みたいだなって思ちゃって・・・、フフ、おかしいでしょ?」

「いや、裕美も空想好きだな。俺にはそんなの全然浮かんでこなかった。この子は俺にとっては姪っ子ってくらいにしか思えなくてね。でも可愛いだろ?姉ちゃんには似てないし、今日来てない寛さんにも似てないしね」

「私たちに似てるんじゃない?」

「え!?」

「きっと茜ちゃんは将来の私たちの子供に生き写しなの。だからこんなに可愛いの。・・・赤ちゃん私も欲しいな」

「ちょっと、話が飛びすぎって!・・・裕美が子供好きってのは安心出来たけど」

「言ってみただけです。私たちまだ学生だし赤ちゃん欲しくても出来ないし。でも鮫君、欲しい?」

「裕美との子供なら欲しいけど・・・でもまだ早いよ。現実的に考えるまでもなくね。それにまだ俺は裕美としばらく二人でいたいし」

「ごめんなさい。でもいつかは赤ちゃん欲しいな」

「俺で良かったら、いつかね・・・」と二人で話してる間に茜ちゃんがむずかりだした。

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裕美も楽しそうだった。普段の食事はいつも一人のようだし、そうなると会話なんか出てこない。寂しい食事なんだろうな。少しでも俺の家族の会話聞いて仲間に入って欲しかった。そうは思っていても、裕美は相変わらず聞く一方で終わったが・・・。

「ごちそうさまでした」食事も終わり、餅つき機の準備をして、後は姉ちゃん一家が来るのを待っていた。13時半になろうとしていた。

「こんにちは」そうこうするうちに姉ちゃんたちが来た。裕美を連れて玄関に行った。玄関には姉ちゃんと茜ちゃんの二人で寛さんは来てなかった。

「コンチハ。久しぶりやね。こちら今お付き合いさせてもらってる横山裕美さん。今日からしばらくここ泊めてもらうよ」

「菜摘さん初めまして、横山です。いつもでしたら親子水入らずの年末に押しかけてしまってごめんなさい。今日はよろしくお願いします」

姉ちゃんはちょっとあっけに取られたような表情(多分裕美の綺麗な顔に)だったが、

「初めまして。菜摘です。もう結婚しちゃってこの家出てますけどよく帰ってますよ。鮫行がお世話になってるみたいで、これからもよろしくね。茜もご挨拶しなさい、って分かんないか」茜ちゃんはぼんやり回りを見ていたが、

「こんにちゎ」と小さな頭でちょこんとお辞儀してくれた。その仕草がとっても可愛かったので、

「こんにちは!茜ちゃん、鮫行だよ、茜ちゃんのおじちゃんだぞ、分かるかな?」って言ってしまった。だって可愛いんだもん、姉ちゃんと違って?・・・姉ちゃんはちょっと棘があるからあんまり話さない。俺が高校の頃からずっとそうだった。姉ちゃんはどことなく唯我独尊的な性格でB型特有の自己中心的な性格。俺にはそれが合いそうになかった。

「・・・わかんにゃい」ちょっぴりしょんぼりしてる茜ちゃん。いいなぁ・・・。ふと思いついて、

「姉ちゃん、茜ちゃんと公園行ってきていい?」

「え?でもあんた餅つき手伝うんじゃないの?」

「いいよ、行っといで」とおかん。

「じゃ、まかせるよ。私も子守り疲れたしね」

「アリガト。じゃ茜ちゃん、一緒に公園行こ!裕美も来て」裕美も当然誘った。

「こうえん、いきまっしょ!」どんな仕草も可愛い茜。思わず微笑んでしまう。

「可愛いな、私もお供するね。お母さんごめんなさい、お手伝いちょっと遅れます」とは言いつつも嬉しそうな裕美。

「いいよいいよ、せっかくのお休みだもの。ゆっくりしてらっしゃい」

「鮫行、オムツはもう取れてるけど、おしっことか気をつけてね」

「はーい。じゃ、行ってきます!」と言って3人家を出た。

10分で着いた大井戸公園。バラで有名?な公園だが今は咲いてない。あるのは樹木くらいか。滑り台もブランコもないから茜ちゃんは怒るか。やっぱり尼崎離れてるから茜ちゃんも俺のことは誰だか分かってなかったが、単純に公園で遊べることに喜んでた。

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(続く)