たろすけ日記 -2ページ目
誰も聞いてなかったが、裕美だけ、

「志奈子ちゃんはタフな女の子だから誰よりも長生きできるよ」裕美。

「父ちゃん、乾杯しよ!さっきのアドバイスで明るい気分になってきたし」俺。

「おぉ、そうやな。俺も食い気よりも飲み気が強いわ」おとん。

「いただきま~す!」誰よりも早く食べ始めた志奈子。時刻は17時を少し回ったところ。こんなに早くに晩ご飯食べるなんて、滅多にない。俺とおとんはゆっくり飲み始めた。おかんは2枚目焼いてる。裕美はそれをボーっと見てた。テレビもつけてるけど、面白い番組はなし。DVDでも見るか?

「カラオケはいつでもいいけど、食べてる間に映画でも見ようよ」俺はそのままテレビの下の引き出しに行きDVD探し始めた。あった!ニコラス・ケイジの「天使がくれた時間」!好きなんだ、こういうラブロマンスものって!そのままPS3に入れて起動しようとした。

「お兄ちゃん、そんなの裕美さんと二人で見るものでしょ!せっかくだから嵐のライブかけてよ!」志奈子。それもそうだな。家族で見るような作品じゃないか。嵐の探してかけた。

「うん、アリガト!おぉー始まる始まる!」いつになく嬉しそうな志奈子。「って、裕美さんって嵐とか好き?」

「ええ、大好き!」裕美。おっ~と、半年間付き合ってこんなことも知らなかったとは!?

「誰が好きなの?」俺。

「翔クン」裕美。

「って誰?」俺。

「あー、世間知らず!櫻井翔クンよ!可愛いくてハンサムなヒト!」志奈子。

「みんな同じにしか見えない」俺。

「嵐ファンに殺されるよ。嵐のメンバー何人かも知らないでしょ?」志奈子。

「4人か?」俺。

「もういい!黙って見てろ!」志奈子。

「分かった分かった」俺。しばらく嵐のDVD見てた。あぁ、この曲聴いたことがあるなって位の印象しかなかったけど。「裕美はどうしてその、『翔クン』が好きなの?」

「・・・優しそうだから。それだけ。アイドルとして好きなだけだし。今は・・・ね?」

「あー、妬けちゃうな。あ、お兄ちゃん、そろそろ大事な話聞かせてよ!」志奈子。

「みんな食べ始めてから、な」まだおとんとかおかんのが出来てなかった。俺のはもう作ってくれていて、それをおかずにビール飲んでた。美味しいんだ、これがまた!それは言わずに黙って嵐見てた。

みんなにお好み焼きが行き渡り、ゆっくり食べ始めた。俺は1枚目食べ終わり、もう1枚欲しくなったので自分で焼き始めた。時間はどんどん過ぎて行き俺の2枚目も焼けた。お皿に入れて回りを見るとみんなゆっくり食べている。裕美は俺の方をじっと見てた。頃合としては今がいいかと思い、

「ゆっくり食べてていいんだけど、みんなに話したいことがある」とたんにみんなの視線が俺に降り注ぐ。うわ、何か緊張してくる。「えっと・・・」
(続く)
「・・・俺は賛成や。横山さんみたいな女の子お前にはもったいない位やけど、あの子もお前が好きなんやったらお前はそれ以上にあの子大切にせなあかんけどな」

「有難う。勇気持てた。父ちゃんと同じで彼女の両親、とりわけお父さんがなかなかだけど、後は徐々にほころび始めてる。最初から何でも上手く行くなんて思ってないけど、俺、彼女大切にするよ」

「どんな事情があるのか分からんけど、お前やったら間違ったことはせんやろし、とにかく、今を精一杯楽しんで社会人になって一人前になることやな。後悔だけは残さんことや」

「うん、お互い曲がったことは出来ない性分だから、これからも問題もなく過ごしていけると思う。彼女のお父さんがネックだけど」

「反対されてるんか?」

「彼女から声かけしてるんだけど、家でも顔会わすことがないから。どうしたらええんか分かんのよ」

「電話でもしてみたらええんやないか。裕美さんの自宅に」

「電話か、ええアドバイスやね。東京戻ったらやってみる」

「そやな。最初は断られるけどな。でも何度もかけてたら何とか会うてくれたしな。頑張れ。何か分からんことあったら連絡くれたらええし。お母さんでもええやろし。聞きたいのはそれだけや。ほな帰ろか」立ち上がって家に帰った。おとんのアドバイスは勇気百倍だった。

「ただいま」

帰るともうお好み焼きの準備は出来ていた。いつものように食卓に新聞敷いてその上にプレート置いてそれぞれのお皿とお箸が用意されていた。ソースとケチャップ混ぜたのとマヨネーズも出していた。

「じゃ、そろそろ作ろうか」おかん。

「賛成!お腹も空いてきたんだ」志奈子。

「正月にお好み焼きもええもんや。お母さんには悪いけど、元々おせち料理とか好きやないし」おとん。

「俺も嫌い。食べたいもんって数の子しかないもんな。裕美は?」俺。

「おせち料理ってウチで食べることってしなくなったから・・・、私はお母さんのおせち美味しかったです。特に栗きんとん!」裕美。

「アリガト、裕美さん。さて裏返してと、最初誰が食べる?」おかん。

「私にちょうだい!お腹空いてるの私しかいないでしょ?」志奈子。

「俺はええよ。父ちゃん、お酒飲んでいい?俺は食べるよりも飲みたい」俺。

「やったー。じゃ私が一番・・・、あ、ゴメンなさい、裕美さん先に食べる?」志奈子。

「志奈子ちゃんが先に食べたら?いいですよね、お母さん?」裕美。

「この子はいつもこうだから。食い意地張ってる子供よね」おかん。

「べ~だ。私みたいなのが一番生き残れるタイプなんだ。知ってた?」志奈子。
(続く)
おとんも暇そうに新聞とかテレビ見てたが、
「鮫行、ちょっと散歩でも行くか?」と言ってきたものだから、

「ええよ、でもどこ行くの?」

「大井戸公園でも行くか?」

「また?別にいいけど。母ちゃん、男連中は暇なんで散歩行ってくる。じゃ行ってきます」と言って出かけた。

正月は人通りが極端に少ない。ここ尼崎もいつもなら誰かは歩いてるのが普通なのだが、今日は誰もいなかった。

二人でとぼとぼ歩きながら、おとんが俺をちょっと見て、
「鮫行」

「何?」

「お前がこれから言いたいことって、横山さんのことやろ?」

「え?バレてた。・・・でも何で分かんの?」

「お前がウチに帰ってくるのいつもあの子と一緒やろ。誰でも分かるわ」

「そう、彼女との将来のこと。話しておきたくて聞いて欲しいんだ」

「お前、あの子のこと好きか?」

「うん。好きだ。浮ついた気持ちじゃなく将来のことも考えて」

「・・・そうか。公園着いたな。寒いけどちょっと座ろか」とベンチに二人腰掛けた。公園も冬なので誰もいない。

「・・・父ちゃんには事前に話しておくけど、俺彼女と結婚したいと思ってる」

「そうか・・・」おとんはタバコに火をつけゆっくり吸い込んだ。「お前も俺と一緒やな」と呟いた。

「何が・・・?」

「・・・俺もお前の年頃にお母さんと付き合い初めてな。もうちょっと年取ってたか。就職してすぐ結婚したんよ。こんな話聞いたことなかったやろ?」

「初めて聞いた。父ちゃんって見合いで結婚したもんだとばっかり思ってた。恋愛結婚だったんだ」

「そや、やから横山さん大事にせなあかん。恋愛も結婚も大変なんは女性の方やからな。お母さんの親御さんには最初反対されてな。俺以上にお母さん大変やった」

「そんなことあったん。知らんかった」

「お母さんの両親には何度も何度も通って何とか賛成してもらえたから良かったけどな」

「父ちゃんも学生の頃から母ちゃんの爺ちゃん婆ちゃんに会ってたの?」

「あぁ、お母さんオンリーやったからな。反対されたらされたで燃えたな」

「へぇ、父ちゃんも普通の男やったんや。それ聞いて安心した」

「何が?俺だってまだ若い。49や」

「いや、年じゃなくて行動がってこと。父ちゃんの歩いた道、俺も今歩いてる」
(続く)
阪急電車で武庫之荘~夙川まで乗って少し歩いて神社に着いた。凄い人ごみだった。回りにゆっくり押されながらどうにかお賽銭箱まで着いて鐘を鳴らしてお賽銭入れてお祈り。

初日の出と同様裕美一色。それとこの後始まる相談が上手く行きますように!裕美はと言えば初めての神社に興奮気味だった。声もかけられなかった。

お昼は途中にある回転寿司食べた。おとんが出してくれた。有難う、父ちゃん。
そのまま電車に乗り家に帰った。

帰ってすぐおかんが熱いお茶用意してくれた。疲れたときの日本茶はとても美味しかった。食卓囲んで5人でゆっくりしながら晩ご飯の話に移って行った。ホント食べることばっか・・・。

「食べたばかりで悪いんだけど、晩ご飯どうしようか?」おかん。

「何か変わったのが食べたい。何が作れる?」俺。

「そうねぁ・・・。豚肉とかお野菜はあるけど」おかん。

「お好み焼きとかいいな!」志奈子。

「お父さん、そうしますか?」おかん。

「任せる。腹に入ったらなんでもええ」おとん。

「じゃ、そうしましょうか。志奈子も手伝ってね」おかん。

「私にもお手伝いさせてください!」裕美。

「じゃ、裕美さんにもお手伝いしてもらうわね。でもあなたたちカラオケって言ってたんじゃないの?」おかん。

「私疲れたからな・・・。あ、お兄ちゃん、ゲーム機でカラオケ出来るのあったよね?」志奈子。

「PS3か?」俺。

「それしようよ!家でカラオケも悪くないし。部屋暗くしてね。それに今日はカラオケ以上に大事なお話が待ってるから!」志奈子。

「でもPS3ってどこに行ったかな?俺の部屋にはあると思うんだけど探してみる」と言って出て行く俺。

「楽しみにしてるよ!」志奈子。

部屋の押入れを開けて探してみた。結構奥深くにあった。もう使わなくなったもん。でも、今でも使えるのか?そう思いながらもリビングに戻って接続しネットの確認。何とか使えそう。

「何とかいけそう。晩までこのままにしとこう」俺。

「わーいわーい!裕美さんも遠慮しないで歌ってね!」志奈子。

「最近はこんなものがあるんだね。知らなかった」裕美。

そんな感じで昼間は過ぎていき、おかん・志奈子・裕美はお好み焼きの準備していき、俺はといえばボーっとしてるか猫のトラ捕まえて遊んだりしていた。
(続く)
「有難うございます。でも、私は2つで十分です。美味しいんですけどお腹がちっちゃいみたいですから」裕美。

「じゃ、私が食べる。裕美さんには悪いけど」志奈子。

「志奈子。少しは場をわきまえんと。横山さんがおるんやから」おとん。

「は~い。いいんだけどな。私って運動してるから太ったりすることもないし、ね、裕美さん?」志奈子。

「志奈子ちゃんはスポーツしてるからかな?細いよね」裕美。

「一応標準体重です。裕美さんの方がずっと細い。細いから誰かが守ってくれそうだし。顔も手もちっちゃいしね。今はお兄いちゃん守ってくれてるけど、これからどうなるのかな?」志奈子。

「フフ、私も彼も変わりませんよ、志奈子ちゃん」裕美。つられて俺も口元緩めてしまった。

「アイタタ、お正月から世話ないな」志奈子。

「父ちゃん。今日もいつもの神社だよね」俺。

「あぁ、えびす神社やな」

「何時くらいに出るの?」

「11時くらいでええんとちゃう?なぁ?」おとん。

「そうですね。その位ならゆっくり行けるでしょうから」おかん。

ちょうどいい頃合だと思ったので、改まって、
「父ちゃん、母ちゃん。初詣終わって帰ってから話したいことあるんだけど、時間ある?」俺。

「なんや、いきなり改まって」おとん。

「俺も今年20歳の成人迎える。まだ学生の身やけど、俺自身の節目として聞いて欲しいことがある」俺。

「私はいいわよ。どうせ正月なんて見たい番組もないし退屈だから。お父さんもいいでしょ?」おかん。

「俺もかまん。どこも行くことないしな」おとん。

「有難う」俺。

「分かった!昨日言ってた大事な話ね?ね、私も聞いていい?」志奈子。

「・・・いいよ。お前は妹なんだし、俺の家族だしな。いいよね?」裕美に顔向けた。裕美は頷いて、

「出来たらお姉さんにも聞いて欲しかったけど、今日は来ないんだよね?」裕美。

「姉ちゃん家族が来るのは2日の明日の夕方って決まってるから。今日は来ない」俺。

「分かった。あとは任せるね」裕美。

そんな感じでお雑煮の朝食も済み、西宮戎神社へ向かう準備を始めた。

えびす神社は電車で行ってる。駐車場がないし正月は物凄く混んでるから。ここは福男選びでテレビのニュースでも出てる有名な神社だ。もっとも福男は10日6時からなので今回は関係ない。
(続く)
こっそり志奈子の部屋のドアが開いたようだった。時刻は8時半になろうとしていた。

「俺たちもそろそろ下りようか。新聞も持っていかないとおとんが怒るだろうし」

「うん。下りましょ」

二人で下りてリビングに入ると、おかんはすでにお雑煮作ってるのとおせちの準備のようで台所にいた。おとんも起きていてリビングのソファに座ってボーっとテレビ見ていた。志奈子は洗面所で顔でも洗ってるのだろう、いなかった。

「おはようです、明けましておめでとうです。今年もよろしくお願いします」

「おはようございます。明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願い申し上げます」二人異口同音に近い調子で挨拶。深々とお辞儀したものだから俺も釣られてお辞儀した。

「あぁ、おはよ。今年もよろしく」おとん。

「おはよう。今年もよろしくね」おかん。既におせちは食卓に置かれていた。いろんな料理が用意されてたけど、俺は数の子しか食べないのがクセとなっていた。

「わぁ、美味しそう。時間かけて作ってくれてアリガト」俺。

「あんた、朝からどこ行ってたの?物音聞こえてたけど。ま、いいからお座りなさい」おかん。

「裕美さんと初日の出見に大井戸公園行ってきた。ちゃんと拝めたよ」俺。

「寒いのによく行ったね。裕美さんもきちんとお日さん見れた?」おかん。

「はい。寒かったですけど気持ち良かったです。太陽も綺麗に見えました。お世話になりっぱなしばかりですみません。何かお手伝い出来ることがあったら声かけてください」裕美。

「もう遠慮なんていいのよ。あなたはウチの家族みたいなもんだから。立ってたらしんどいでしょ、どうぞ座って。お父さんもご飯出来たから来て」おかん。

「父ちゃん、ごめん。新聞部屋で見てた」と言ってソファのおとんに新聞渡し食卓の丸椅子に座った。新聞を開きかけたおとんだったが黙って食卓に座った。リビングのドアが開き志奈子も入ってきた。

「おはよう。今年もよろしく」回りに軽く会釈。今日は普段着の格好。当たり前か。

「志奈子、お雑煮運んで」おかん。

「私にさせてください」裕美。とそのままお盆にお雑煮のお椀取って食卓に運んだ。

「じゃ、みんな揃ったことだし、いただきます。今年もよろしく」おとんが言って、

「いただきます」お箸を取って食べ始めた。

「うん、久しぶりのお雑煮も美味しい!」志奈子。

「母ちゃんの料理は何作っても美味しいもんな」俺。

「どういたしまして。鮫行、お餅3つじゃ足りないでしょ。お代わりあるからね」おかん。

「アリガトです。彼女のもある?」俺。

「もちろん。いくらでも食べてちょうだいね」おかん。
(続く)
「あさご?」

「朝に来るって書いて朝来。ほらここにある」PCで兵庫の朝来の地図裕美に見せた。

「豊岡の南にある町?」

「うん、兵庫県も広いよ。多分誰も知らない町だろうな。人口も3万位かな?」

「私も元々は東京の郊外に住んでたよ。三鷹だけど知ってる?」

「聞いたことはあるけど、場所なんて分からない。西の方だろうけど」

「ちっちゃい頃そこに住んでたよ。あの頃の方がまだ幸せだった」

「いろいろあったんだな。俺も赤ちゃんの頃まで朝来にいたらしいけど、今は年に1回行く位だからあんまり印象ない。爺ちゃん・婆ちゃんがいるだけだし。他に何かない?」

「鮫君は私に訊きたいことある?」

「俺?そうだなぁ。・・・裕美が話したくなったときでいいよ。裕美の過去の話になるけどね。こんな日からどうこう聞きたくもないし」

「そう・・・」寂しげな表情見せる裕美。わ、いかん。また余計なこと言ってしまった。

「ゴメン。多分まだ話したいことあるんだろうけど、明日の夜、ホントの二人っきりになったときに訊くよ。それでいい?」

「・・・うん」

「とにかく、今日は忙しくなりそうだから頑張って過ごそう!得意のカラオケも聞かせて欲しいし。裕美のカラオケも智さんと会って以来だしさ、って一昨日だったけど」

「そう、そうよね。私が話したいことって今するものじゃないものね。バカでした。ごめんなさい」はにかむような笑顔をうっすり見せる裕美の表情に俺自身までがうっとりしてしまった。慌てて気を取り直し、

「そうそう、その調子だよ。いつもの裕美らしくなってきた。俺も嬉しいし」

「うん、鮫君の話聞いてると元気出てきた」

と話してるともう一つの東部屋から物音が聞こえてきた。再び二人口に指当てて黙ってた・・・。寝坊助の志奈子まで起きてきたんだ。時刻はまだ8時。あいつ多分紅白も最後まで見ただろうし、よく起きられたものだ。

「とうとうあいつも起きてきた」

「みたいね。志奈子ちゃん朝は弱いの?」

「弱い。いつもなら無愛想だけど、裕美がいるから愛想よくしてるんじゃない?あいつも裕美のファンになってるみたいだし」

「私は芸能人じゃないんだけどな」

「いや、裕美は芸能人以上のヒトだよ。誰が見ても振り返る美人だし」

「・・・もう勘弁して。私は私なんだから。鮫君には話出来始めてるけど、志奈子ちゃんにはまだまだこれからのことだし」

「昨日俺が風呂入ってるとき話さなかったの?だったら今日言っちまえよ、俺の家族の前で何もかも。そしたらすっきりする」

「・・・考えてます」
(続く)

$たろすけ日記-未設定
「・・・明日」

「明日?」

「思いっきり抱きしめて・・・ね?」

「今すぐにでも抱いてあげられるけど」

「今はイヤ。真っ暗じゃないとダメなの」

「真っ暗か・・・。よく分からないけど、いいよ。それで裕美が落ち着くのなら」

「うん、鮫君が抱きしめてくれてたらこんな不安なくなると思うの」

「明日は明日。今日は今日のこと考えようよ。初詣行ってカラオケだし。お雑煮も食べたいし、あ、昨日の年越しそば残ってないかな?あれも食べたい」

「食べることばっかりね。鮫君らしいけど」

「早くに起きたからお腹も空いてきた。裕美もお腹空いたろ?」

「コーヒーでお腹いっぱい」

「ずいぶんと経済的なお腹だな。一緒に暮らすようになっても我慢してくれそう」

「フフ、そうね・・・」

家に着いた。時刻は7時半過ぎ。やっぱり誰も起きてない。

「みんなまだ寝てるから俺の部屋でネットでもする?あ、俺昨日ブログ更新するの忘れて寝ちゃった。せっかくの大晦日だったのに。」

「ブログって誰かいると書けないものね。お姉さんの部屋にいようか?」

「いや、裕美がそばにいてくれないと泣いちゃうよ」

「甘えん坊さんなんだから。私もだけどね」

そのまま1時間位俺の部屋でパソコン開けてネットしてた。いつもの通りアメブロのランクとか見ながら一喜一憂して過ごした。当然昨日更新しなかったからDownだったけどな。あとは新聞読まずにネットの新年のニュースをあれこれ話しながら時間が過ぎていった。

ガタゴト音がした。東部屋で寝てるおかんが眼を覚ましたようだ。二人喋るのを止めてしばらくひっそりしてた。おかんだ。ドアを開けてトイレに入ってそのまま下に下りていった。

「もうしばらく待ってよう」

「どうして?」

「今日出かけるからおかんも化粧するよ。そんなときに顔合わせたら向こうもムッとするだろうし。それにまだ裕美と一緒にいたいよ」

「そうね。それと、女性のヒトって自分がお化粧してるとこ見られたくないものだよね。こういうときはそっとしてあげた方がいいか」

「だろ。でもそろそろネットも厭きてきたし。何か訊きたいことある?ここでしか訊けないこともあるかもしれないし」

「そうね・・・、鮫君って元々尼崎に住んでたの?」

「言ってなかったな。違うよ。ウチって元々尼崎のまだ北にある朝来ってとこなんだ。って知らないか?」
(続く)

「その・・・ね、・・・指切りして」どこか躊躇いがちな裕美が手を出してきた。

「いいよ。また今回はどんな約束?はい、指きりげんまん・・・」そのまま右手同士の指きり始めた。

「嘘ついたら、針千本呑~ます」裕美にとっての薬のような指きり。何となく安心した表情を浮かべた。何の指きりかは教えてくれなかったけど。

「寒いからもう帰ろ。ここには神社もないし。歩きながら話そうか」

「うん」もしかして裕美は今日のこと反対するのかなと思いつつ、行きと同じように手をつないで家に向かって歩き始めた。周りは静かで歩いてる人もいない。

「・・・もしかして言うの止めて欲しいとか?」

「ううん、そうじゃなくてね」

「何でも言ってよ」

「私・・・今とっても幸せなんだ」

「俺だって。あ、缶コーヒー飲む?」自動販売機が見えたので買おうと思った。

「うん、飲みたい」裕美はブラックでよかったよね?」頷く裕美を見て、財布取り出してボタンを押した。俺はカフェオレ、裕美にブラックコーヒー渡して「で、何だっけ?」

「アリガト」とぼとぼ歩く二人。何か別れ話でもしてるような雰囲気だな。「・・・私ね」

「うん」

「このままでいいのかなって思ってるの」

「何が?」

「私の父のことはまだ何も進んでないよ。でも、それ以外はもう障害がないよね」

「そうだね。お父さんとは近いうちに会えたらいいと思ってるし。障害っていったらそれ位かな」

「それが怖いの」急に立ち止まって俺の顔覗き込む裕美に俺もずっと裕美を見つめてしまった。

「どうして?今の俺たちに怖いもんってあるわけない」そのまま顔をそらし歩き出した。

「ひょっとしてさっきの指きりってこのこと?」

「うん・・・、でも」

「でも?」歩きながら裕美の顔見てみるととても真面目な顔してた。

「いつかは今がなくなりそうな気がして」

「考えすぎだよ。今は俺たちが生きてる限り永遠に続くよ、絶対」

「絶対?」

「絶対だよ」

「ホントに?」

「うん、本当に」

「分かった・・・」

「・・・ホントかなぁ?」
(続く)

「誰も起きてなかった?」


「と思うけど」


「そう・・・」吐く息も白いのが見えてきた。大丈夫だと思いながら足早に公園向かい着いた。誰もいなかった。急いで来たので少し疲れた。が、身体も温まり日の出見るには申し分のない快晴だ。


公園までずっと裕美と手をつないで行った。今年も一番から裕美と一緒って感覚が身体を包み込んでて嬉しかった。時間は7時になろうとしていた。日の出もそろそろじゃないか?


公園に入って一番見晴らしのいい所に二人手を握ったまま佇んでいた。じっとしてると寒くなってきたけど、日差しが見えてきた。今年一番のお日様。いつもと比べてとても眩しかった。


「あ、出てきた!」


「ホント!綺麗」


「一緒にお祈りしよ!」


「うん!」

裕美から手を離してそのまま合わせて眼を瞑り太陽に向かって祈願した。いつまでも裕美と一緒にいられますように、今年も裕美と何事もなく過ごせますように、裕美のお父さんと会えますように、裕美といつかは結婚出来ますように・・・。いけない、お願いすることは一つだけだったよな、と思いつつ目を開けて裕美を見るとまだお祈りしてた。


飛行機の中の裕美の寝顔思い出した・・・。こんな女の子が俺の彼女なんだとしみじみと思ってると、明るい日差しが裕美の顔を照らした。フッと眼を開けて俺を見つめた裕美。いつもと違って、とても落ち着いていた。またいつもの?神々しさが裕美を包んでいた。その表情に俺は何も言えなかった。


「・・・」黙ったままの俺に


「お祈りしてたの」


「・・・どんな?」


「鮫君は?」


「・・・これからもずっと裕美といられますようにって」


「一緒だね」


「うん」


「同じことお祈りしたんだね」


「今年の始まりだし」


「・・・ねぇ?」


「ん?」


「今日本当にご両親に言うの?」


「そのつもり。今年やっと成人迎える俺たちのけじめみたいなもんだし、人生の節目だもん」
(続く)