たろすけ日記
「・・・明日」

「明日?」

「思いっきり抱きしめて・・・ね?」

「今すぐにでも抱いてあげられるけど」

「今はイヤ。真っ暗じゃないとダメなの」

「真っ暗か・・・。よく分からないけど、いいよ。それで裕美が落ち着くのなら」

「うん、鮫君が抱きしめてくれてたらこんな不安なくなると思うの」

「明日は明日。今日は今日のこと考えようよ。初詣行ってカラオケだし。お雑煮も食べたいし、あ、昨日の年越しそば残ってないかな?あれも食べたい」

「食べることばっかりね。鮫君らしいけど」

「早くに起きたからお腹も空いてきた。裕美もお腹空いたろ?」

「コーヒーでお腹いっぱい」

「ずいぶんと経済的なお腹だな。一緒に暮らすようになっても我慢してくれそう」

「フフ、そうね・・・」

家に着いた。時刻は7時半過ぎ。やっぱり誰も起きてない。

「みんなまだ寝てるから俺の部屋でネットでもする?あ、俺昨日ブログ更新するの忘れて寝ちゃった。せっかくの大晦日だったのに。」

「ブログって誰かいると書けないものね。お姉さんの部屋にいようか?」

「いや、裕美がそばにいてくれないと泣いちゃうよ」

「甘えん坊さんなんだから。私もだけどね」

そのまま1時間位俺の部屋でパソコン開けてネットしてた。いつもの通りアメブロのランクとか見ながら一喜一憂して過ごした。当然昨日更新しなかったからDownだったけどな。あとは新聞読まずにネットの新年のニュースをあれこれ話しながら時間が過ぎていった。

ガタゴト音がした。東部屋で寝てるおかんが眼を覚ましたようだ。二人喋るのを止めてしばらくひっそりしてた。おかんだ。ドアを開けてトイレに入ってそのまま下に下りていった。

「もうしばらく待ってよう」

「どうして?」

「今日出かけるからおかんも化粧するよ。そんなときに顔合わせたら向こうもムッとするだろうし。それにまだ裕美と一緒にいたいよ」

「そうね。それと、女性のヒトって自分がお化粧してるとこ見られたくないものだよね。こういうときはそっとしてあげた方がいいか」

「だろ。でもそろそろネットも厭きてきたし。何か訊きたいことある?ここでしか訊けないこともあるかもしれないし」

「そうね・・・、鮫君って元々尼崎に住んでたの?」

「言ってなかったな。違うよ。ウチって元々尼崎のまだ北にある朝来ってとこなんだ。って知らないか?」
(続く)

「その・・・ね、・・・指切りして」どこか躊躇いがちな裕美が手を出してきた。

「いいよ。また今回はどんな約束?はい、指きりげんまん・・・」そのまま右手同士の指きり始めた。

「嘘ついたら、針千本呑~ます」裕美にとっての薬のような指きり。何となく安心した表情を浮かべた。何の指きりかは教えてくれなかったけど。

「寒いからもう帰ろ。ここには神社もないし。歩きながら話そうか」

「うん」もしかして裕美は今日のこと反対するのかなと思いつつ、行きと同じように手をつないで家に向かって歩き始めた。周りは静かで歩いてる人もいない。

「・・・もしかして言うの止めて欲しいとか?」

「ううん、そうじゃなくてね」

「何でも言ってよ」

「私・・・今とっても幸せなんだ」

「俺だって。あ、缶コーヒー飲む?」自動販売機が見えたので買おうと思った。

「うん、飲みたい」裕美はブラックでよかったよね?」頷く裕美を見て、財布取り出してボタンを押した。俺はカフェオレ、裕美にブラックコーヒー渡して「で、何だっけ?」

「アリガト」とぼとぼ歩く二人。何か別れ話でもしてるような雰囲気だな。「・・・私ね」

「うん」

「このままでいいのかなって思ってるの」

「何が?」

「私の父のことはまだ何も進んでないよ。でも、それ以外はもう障害がないよね」

「そうだね。お父さんとは近いうちに会えたらいいと思ってるし。障害っていったらそれ位かな」

「それが怖いの」急に立ち止まって俺の顔覗き込む裕美に俺もずっと裕美を見つめてしまった。

「どうして?今の俺たちに怖いもんってあるわけない」そのまま顔をそらし歩き出した。

「ひょっとしてさっきの指きりってこのこと?」

「うん・・・、でも」

「でも?」歩きながら裕美の顔見てみるととても真面目な顔してた。

「いつかは今がなくなりそうな気がして」

「考えすぎだよ。今は俺たちが生きてる限り永遠に続くよ、絶対」

「絶対?」

「絶対だよ」

「ホントに?」

「うん、本当に」

「分かった・・・」

「・・・ホントかなぁ?」
(続く)

「誰も起きてなかった?」


「と思うけど」


「そう・・・」吐く息も白いのが見えてきた。大丈夫だと思いながら足早に公園向かい着いた。誰もいなかった。急いで来たので少し疲れた。が、身体も温まり日の出見るには申し分のない快晴だ。


公園までずっと裕美と手をつないで行った。今年も一番から裕美と一緒って感覚が身体を包み込んでて嬉しかった。時間は7時になろうとしていた。日の出もそろそろじゃないか?


公園に入って一番見晴らしのいい所に二人手を握ったまま佇んでいた。じっとしてると寒くなってきたけど、日差しが見えてきた。今年一番のお日様。いつもと比べてとても眩しかった。


「あ、出てきた!」


「ホント!綺麗」


「一緒にお祈りしよ!」


「うん!」

裕美から手を離してそのまま合わせて眼を瞑り太陽に向かって祈願した。いつまでも裕美と一緒にいられますように、今年も裕美と何事もなく過ごせますように、裕美のお父さんと会えますように、裕美といつかは結婚出来ますように・・・。いけない、お願いすることは一つだけだったよな、と思いつつ目を開けて裕美を見るとまだお祈りしてた。


飛行機の中の裕美の寝顔思い出した・・・。こんな女の子が俺の彼女なんだとしみじみと思ってると、明るい日差しが裕美の顔を照らした。フッと眼を開けて俺を見つめた裕美。いつもと違って、とても落ち着いていた。またいつもの?神々しさが裕美を包んでいた。その表情に俺は何も言えなかった。


「・・・」黙ったままの俺に


「お祈りしてたの」


「・・・どんな?」


「鮫君は?」


「・・・これからもずっと裕美といられますようにって」


「一緒だね」


「うん」


「同じことお祈りしたんだね」


「今年の始まりだし」


「・・・ねぇ?」


「ん?」


「今日本当にご両親に言うの?」


「そのつもり。今年やっと成人迎える俺たちのけじめみたいなもんだし、人生の節目だもん」
(続く)

元旦。眼が覚めたのは6時を過ぎたあたり。昨日何時に寝たんだろ?まだ暗いし寒い。

トイレ行って、そーっと部屋から出てリビングに下りてみるとまだみんな寝てる。静かに洗面所で洗面と歯磨きをして、そーっと玄関開けて新聞取り、そのまま抜き足差し足で部屋に戻り電気をつけて新聞読み始めた。隣で物音が聞こえた。

あ、裕美起こしたか?しばらくじっとしてた。やっぱりガサゴソする。間違いなく起こしてしまった。そのまま部屋を出て隣の裕美の部屋をノックした。コンコン。

 


「はい?」小声で声が漏れた。


「ゴメン、起こしちゃって。入っていい?」俺も小声で伝えた。


「・・・まだダメ」こそっと返ってきた。しばし俺も直立状態でいると、こっそりドアが開き「起きるの早いね?いつもこうなの?」とドアの隙間から小声で話しかけてきた。


「言ってなかったっけ?冬も夏も大体6時には眼が覚めるんだ。まだみんな寝てるけど、初日の出見に行かない?一緒に見てみたい」


「近いの?」


「ん、昨日行った大井戸公園。すぐだよ」


「分かった。着替えるからちょっと待ってて」と言ってドアが閉じられ、俺も少し待っていた。しばらくしてドアが開き、


「明けましておめでとう。今年もよろしくね」と裕美が深くお辞儀したが、ずっと俯いてる。


「明けましておめでとう。俺の方こそよろしく」と返したが俯いたまま。「どうしたの?」と訊いてみると、


「トイレに行きたいのと、鮫君、起きたばっかりの私の顔なんて見せられないでしょ!」小声で少しむっとしてた。


「あぁ、ゴメン気がつかなくて。じゃ俺外で待ってるよ。でも、裕美って化粧してなかったよね?」


「ホント鈍いヒト。私も薄化粧してるよ。ま、いいから外出てて。ちょっと時間かかるけど、お父さんたちが起きないように気をつけてするから」


「分かった、じゃ」部屋に戻りジャンパー着て玄関のキー取って外に出た。寒い!そのうち慣れてくるとは思うけど・・・裕美誘ってマズかったかと思いつつ待ってると、こっそり玄関の扉が開き裕美が出てきた。急いで来たから裕美も今回は化粧してないようだった。素顔でも十分綺麗なのは今の薄明かりでもよく分かるんだけどな。


「朝早くからゴメン。昨日途中で寝ちゃったから覚えてない。ホントは裕美とゆっくり大晦日過ごしたかったのに」


「鮫君上がったから私もそのまま上がったよ。ちょっと残念だったけどね」


「もうそろそろお日様上がってくる。上がる前に公園行こ!」手を差し出して、裕美も合わせてくれたので、二人で薄明るくなった光景に少し焦りながら公園へと向かった。玄関は何かあるとヤバイので施錠した。
(続く)

大井戸公園の木

「父ちゃんお風呂入っていい?」


「ええよ。俺は最後でいい」


「じゃ、入ってくる。もうすることもないし、紅白も始まるからそれまで志奈子とでも喋ってたら?」


「うん、私も裕美さんとお話したかったしね、二人で」


「何か意味ありげな言い方やなぁ。ま、いいけど」そのまま洗面所行って服脱いでお風呂に入った。

「わぁ~」思わず言葉が出てしまった。裕美の残り香が微かに残ってた。何か甘くて切なくなるような裕美の匂い。

いかんいかん。風呂場の窓開けて身体洗って湯船に浸かった。冷気が入ってきたが、あぁ気持ちいい!

裕美がすぐそばにいそうな感覚になる。何かそのまま眠ってしまいそう・・・。少し浸かって急いで出て髪と身体洗って髭剃ってまた浸かって出た。暖まったし気持ちよかった。着替えてそのままリビング入った。


「早っ!もう出た。・・・いつものことか。ひょっとして紅白楽しみにしてんの?」志奈子。


「いや、お腹も空いてきたなって思って、急いで出ただけ」裕美はリビングのソファに座ってテレビ見てた。おとんとおかんは食卓に座っておとんはお酒飲み始めてた。料理はウチでの恒例のすき焼きだ。


「もう出来てるから食べよ」おかん。


「うん、あっち座ろ」と裕美を促して食卓に向かった。いつもは壁にくっつけてる食卓だが、5人なので食卓を中に寄せて壁際に丸椅子置いた。俺は丸椅子に座り、俺の右手に裕美・おかん、左手に志奈子・おとんで座った。


「さ、おあがりなさい」おかん。


「いただきま~す」と言って前のような取り箸使って食べ始めた。


「鮫行、やるか?」おとんが缶ビール出してくれた。


「アリガト」プルトップ開けて一口飲む。旨い!裕美も飲みたいんじゃないかと思って、


「飲む?」と訊いてみたが、


「お酒はもう当分いいです」と断った。だよな、わずか1週間前のことだったもんな。あの事件?も。


「だよね。訊いてみただけだし」とそのまますき焼きつついた。


「あ、始まるよ」志奈子。テレビ見てみると紅白が始まった。さぁいよいよ今年も最後だ。


5人が5人ともボーっとテレビ見てた。いつものウチの風景だな、これって。いつもと大きく違うのは姉ちゃんが裕美に変わったこと。


今晩は俺もお酒が飲みたい気分だったので、思いっきり飲んだ。酒好きのおとんだからビールも焼酎もたくさんある。そのまま酔ってきておとんと何話したのか、裕美がどうしてたのか分からなくなって、転寝してしまった。


おかんに起こされて部屋に上がって寝てしまった。時間も分からなかった。裕美も一緒に上がってきて姉ちゃんの部屋に入ったのは覚えてたけど、そのままDown

大晦日はこうして終わってしまった。
19歳最後の大晦日裕美とゆっくりしたかったんだけどな・・・。
(続く)

「そうよ。志奈子ちゃんって可愛いもの。私だったらほっとかないし今は部活で忙しいから出来なくてもそのうちきっといい彼氏見つかるよ」裕美。

「そうかなぁ。私別に彼氏いないのは寂しくもないけど、男友達って欲しい。女の子じゃ相談できないこともあるし」志奈子。

「大丈夫だって。志奈子は俺と違ってタフだし、一番の違いは楽天的ってこと。その気持ちがあればいつか必ず出来る、彼氏もな」俺。

「でもお兄ちゃんたちもお姉ちゃんみたいにならないでね。出来ちゃった婚はやっぱり恥ずかしい」志奈子。

「お前も想像し過ぎっての。第一俺たちはまだそんな関係じゃないし」俺。

「へぇ、まだなんだ。お兄ちゃんは正直だから私も好きなんだ。嘘が全然つけない子供みたいなとこが安心出来るんだよね」志奈子。

「まぁ、それはお前の想像に任せるよ。俺たちは疚しいことはしてないのは事実だし。もっともあれが疚しいって言う俺自身が疚しいのかもしれないし」俺。

「恋人同士ならあれも当たり前でしょ。いつかは私もしてみたいけど、ねぇ、裕美さん」志奈子。さっきから黙ったままの裕美を見ると、裕美はぼんやり遠くを眺めてて、その実何も見てないような空想の世界に入ったような自分の世界にいるような感じで、微かに軽いため息をついていた。俺たちは彼女の視界に入ってない。

「どうしたの?ぼんやりして」俺。その言葉にやっと気付いたようで、正気の表情に戻り、

「あ、ゴメンなさい。ちょっと想像してたの」裕美。

「何を?」俺。

「私の花嫁姿とか・・・」裕美。

「うわぁー、また大胆だな、裕美さんって。逞しい想像力ね」志奈子。

「あ、ゴメンなさい。私のクセなの。忘れてね」裕美。

後ろからおかんの声が聞こえた。
「あなたたち、そろそろお風呂入ったから裕美さん、先に入って」おかん。

「あぁ、結構時間経ったんだ。裕美から入ったらいいよ」俺。

「え、私から。でも、私何もお手伝いすら出来てないし」裕美。

「いいのいいの、裕美さんはお客さんなんだから。急いで入ってね。あとが支えちゃうから」志奈子。

「でも、そんな図々しいこと出来ないよ」裕美。

「いいからいいから」俺。とにかくグズグズしてる裕美の肩を引っ張ってお風呂に入ってもらった。

裕美がいなくなってから自然志奈子との会話も途絶え、俺はそのままつまんない正月番組見てた。

結婚か・・・。裕美のウェディングドレス姿とか綺麗だろうなと俺も想像しつつニンマリしてた。

そのうち裕美が出てきた。しばらくドライヤーで髪乾かしてたようだが、リビング入ってきて、
「一番のお風呂有難うございました。とっても気持ちよかったです」と言ってきた。

次は俺入れさせてもらおう。
姉ちゃんたちも帰った。ちょっとの間だったけど家族がいなくなるのは寂しかった。

でも、こんなもんだ。第一姉ちゃんはもう嫁いで別の家庭の人になってる訳だし。でも、茜ちゃんと別れたのはやっぱり寂しかった。でもまたいつか会えるからいっか。

俺はリビングのソファに裕美と座って話し始めた。
「あんな感じの姉ちゃんだったけど、やっぱり別れると寂しい」俺。

「素敵なお姉さんよね。鮫君のお姉さんだからしっかりしてたし」裕美。聞いてた志奈子も割り込んで座ってきた。

「お姉ちゃんは私以上にしっかりしてるけど、気が強いよ。言いたいことはどんどん言ってくるし」志奈子。

「ま、ウチの兄弟の年長者だからそんなもんだろな。結婚してますますきつくなってきたみたいだし」俺。

「お姉さんと寛さんってどんな風にして知り合ったの」裕美。

「興味ある?」俺。

「え?そりゃそうよ。鮫君のご家族の方なんだから・・・いつかは私のお義姉さんになるかもしれない方だし」裕美。

「うわぁー、何か凄いこと聞いちゃった。裕美さん、私のお姉さんになってくれるんだ」志奈子。

「あ、ごめんなさい。ちょっと話飛ばし過ぎちゃった。志奈子ちゃん、今のは忘れてね」裕美。

「えー、私忘れられないよ、裕美さん」志奈子。

「言葉のアヤだって、志奈子。彼女を困らせたらダメだって」俺。

「そう言いながらホントは結婚したいんでしょ、裕美さんと?」志奈子。

「ま、いつかお前にもきちんと話す。それは置いといて」俺。

「またいつもの逃げ口上か。いいけど。あ、お姉ちゃんのことね」志奈子。

「うん」俺。裕美の方に向かって、「姉ちゃんも学生の頃から寛さんと付き合っててね。姉ちゃんも寛さんもお互いアツアツでさ」

「私もお手上げだったな」志奈子。

「どんな風に?」裕美。

「ほとんどお互いの家に入り浸りだった。ウチに来る方が多かったか。しょっちゅう寛さんウチ
に来てず~っと姉ちゃんの部屋に二人で閉じこもってさ。何してたんだろな?」俺。

「恋人の関係だったから分かるでしょ」志奈子。

「そのまま結婚されたの?」裕美。

「そう。大学出てそのまま結婚式挙げたもんな。おまけに出来ちゃった婚だったし」俺。

「あの頃は私も参ってました。あれからもう3年になるのかな。私まだ中学生だったし刺激的過ぎたよ」志奈子。

「俺だって。姉ちゃんたち見てたら自然腹立ってきた」俺。

「二人ともヤキモチ妬いてたんだ。でも、いいね、そういう関係って」裕美。

「今の裕美さんたちもそうでしょ。いいな、私だけ除けもんだもん」志奈子。

「お前は俺と違って部活やってるからな。でも、いつか出来るって、彼氏も。俺でも出来たんだから」俺。
(続く)

「いえ、今は私の方が小田島君に頼ってますよ。今の私は彼に引っ張ってもらってますから」裕美。

「いいなぁ、私も彼氏とか欲しいな。でも部活があるから無理だもんね」志奈子。

「あんたはこれから受験でしょ。来年から3年なんだし。男なんて作る暇ないわよ」姉ちゃん。

「でもな。私も裕美さんみたいに幸せいっぱいに笑ってみたいな。私もパッと見可愛いでしょ?」志奈子。

「部活焼けが消えたら誰か見てくれるかもな。今のお前って男顔負けに肌黒い、今みたいな冬でも」俺。

「あー、またこいつ喧嘩振ってきた。でもお兄ちゃんが強くなったのは裕美さんのおかげよね」志奈子。

「小田島君の元々の性格ですよ。A型って暗い暗いって言うけど、本当は違うの。人よりちょっと空想好きなだけ。菜摘さん、志奈子ちゃんの血液型は?」裕美。

「B」二人。

「え!そうなんですか!?B型の人って私にはとっつき難いんですけど、お二人とも違いますね。優しいし」裕美。

「そう言ってもらって有難いけど、ねぇ?」姉ちゃん。

「私達って相当冷たいよ。平気でズケズケ何でも言っちゃうし。私のこと嫌ってる人もいるし」志奈子。

「B型らしい。いっつもGoing My Wayの気分屋でどんだけ悔しい思いさせられたことか」俺。

「あんたってトロいのよ、見てて。イライラするの。今は変わったけどね」姉ちゃん。

そうこうするうちに茜ちゃんが起きたようで、姉ちゃんのそばにやってきた。

「・・・・・」黙ってる。どうしたんだろ?子供の寝起きは気分悪いもんな。

「起きた?お茶でも飲む?」姉ちゃん。

「・・・おしっこ」

「分かった。おいで」と姉ちゃんが茜ちゃんを連れてトイレに。時刻は17時前になろうとしていた。冬の日が沈むのは早い。あたりももう薄暗くなっていた。

「お母さん、私そろそろ帰るね」茜ちゃんを連れて戻ってきた姉ちゃんはそう言いながら玄関に向かった。

「気をつけてね、もう暗くなってるから。あんた2日には来るんでしょ?」既に靴を履きかけてる姉ちゃんに向かっておかんが言った。

「そうね、寛さんの実家行った後に来るわ」

「そう。今年もあとわずかだけど良いお年を」

「ええ、お父さんもお母さんも。鮫行に志奈子、それと裕美さんもいい年迎えてね。じゃ」と言って出て行った。
(続く)

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「お姉ちゃんも思うでしょ。裕美さんみたいな人がよりによってお兄なんかと付き合ってるって、前代未聞だよね」志奈子。

「言える範囲でいいから教えてよ」姉ちゃん。

「・・・一目ぼれみたいなもんだよ、な」俺。

「・・・そうですね」裕美。

「それじゃちっとも分かんない。どうやって知り合ったの?」姉ちゃん。

「ナンパで」俺。

「嘘おっしゃい!あんたがそんなこと出来るわけない」姉ちゃん。

「あー、言うよ言うよ。俺たち同じ速記部なんだけど、6月のもう半年前か、合宿があって、そんときの宴会で彼女飲めないお酒飲んで気分悪くなってたのを介抱したんよ。それがきっかけ」俺。

「あのときの私ってバカでした。飲めないのにみんなが楽しんでるの見てたら飲んでみようって思っちゃって」裕美。

「元々お酒弱いんだ」姉ちゃん。

「はい、苦いだけです、私には」裕美。

「そういう彼女なんでお酒は駄目なの」俺。

「で、そのきっかけがずっと続いてるの?もう半年になるけど」姉ちゃん。

「まぁ一応」俺。

「そうですね」裕美。

「あんたもエライ変わったね。高校のときは誰が見ても根暗にしか見えなかったのに。でも、裕美さん、アリガトね。こんな頼りにならないの相手にしてもらって。少しは心配してたんだぞ、鮫行」姉ちゃん。

「姉ちゃんには悪いけど、俺今も根暗だよ。一人のときは誰とも喋らないから根暗。たまに一人酒してネットしてるし」俺。

「そんなのは普通でしょ。根暗って言うのは家族といても黙ってた高校時代のあんたのこと。今はホント普通になったね」姉ちゃん。

「普通以上に生意気になってる。私のこと小ばかにするし」志奈子。

「はいはい、ごめんなさい。昔はいっつもネガティブにしか考えなかったけど、大学も第一志望入ってこうして彼女みたいな女の子と付き合ってる俺の人生、毎日がバラ色だよ」俺。

「しょってるな。あんたホント変わった。顔つきも前みたいなウジウジした顔じゃなくなったし」姉ちゃん。

「ご馳走様。彼女と付き合い始めて俺も変わることが出来た。もし裕美がいなかったら・・・高校の延長の毎日送ってたろうな」俺。

「でしょうね。ま、あんたが明るくなってくれて良かった。ホントアリガトね。裕美さん」姉ちゃん。
(続く)

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「うーん、俺って元々明るかったよね?」俺。

「どこが!?」姉ちゃんと志奈子。

「熱くてとっても美味しいです。出来立てのお餅食べたのもしかして初めてかな?」裕美。

「だろ、ウチの餅は美味しいんだって!良かった。彼女もウチの一員になったな」俺。

「あんた、裕美さん大事にしなきゃ、ね。でもウチのカラーに染めていくのはまだ早い。裕美さんってまだ子供子供してるし」姉ちゃん。

「裕美さんは裕美さん。お兄ちゃんがどんなにしたって変わるわけない」志奈子。

「志奈子ちゃん、私ずいぶん変わったよ、小田島君と付き合い始めて」裕美。

「え!?どう変わったの?教えて教えて!」志奈子。

「それはね・・・」裕美。

と話してるときに、おかんから
「もう炊けたわよ、鮫行、重いけどしっかりね」

「あ、出来たんだ。よし!」炊けたお餅をお櫃から取り出して食卓の小麦粉撒いたところに置いた。「うん、出来た。次お餅千切るよ」俺。

「ええ、お父さんにそれ渡してから手伝って」とおかん。

「よっしゃー」と両手に小麦粉つけてまだまだホカホカの餅を千切り始めた。千切った餅をおかん・姉ちゃん・志奈子・裕美が綺麗に丸めていく。

それぞれの役割分担をきっちり済ませたおかげで滞りなく終了。途中茜ちゃんが眠ってしまい姉ちゃんが抜けてしまったけどね。

残りもマイペースで終わった。ウチの餅つきも疲れたけど無事終わってホッとした。餅は既に大きなプレートに並べられている。こんな時期だからあんこ入りの餅も腐ることはない。疲れた。

後はしばらくぼんやりしてるだけか。もうどこにも行きたくないし。でも・・・。家族は食卓座ってのんびりしてる中、俺は裕美とリビングのソファに座った。

「ご苦労さん。お餅つきも無事終わったね。これからしばらくしてお風呂沸かして入ってもらって・・・、菜摘、今晩どうするの?寛さん来るの?」おかん。

「悪いけど、私帰るね。寛さん多分もう帰ってると思うし、茜も落ち着いて眠れないだろうし。また改めて来ますね」姉ちゃん。

「そう、寛さんもどうしたのかねぇ。茜ちゃんまだ寝てるけど、起きてから帰る?」おかん。

「そうね。今起こしたら泣いちゃうし、ちょっとそのままにしとこうか。その間に・・・」姉ちゃんは俺たちのいるソファに来て「鮫行と裕美さんにちょっと訊かせてもらっていい?」

「え?何、また急に」俺。

「あんたみたいなのがどうしてこんな人と付き合ってるのか知りたくなっただけよ」姉ちゃん。

志奈子のときと同じだなと思って頬を緩めてしまった。それ聞いて志奈子もこっちに来たけど。

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(続く)