「選挙なき独裁者」との批判から暗雲が吹き上がる・・・?
トランプ旋風が本格的に吹き荒れ始めた。2月に入りトランプ政権はウクライナ戦争の和平交渉をサウジアラビアで開いた。
この会議には戦争の一方の当事者であるウクライナとそれを支援するEUは参加せず、アメリカとロシアの政府高官のみで協議した。これに反発したウクライナのゼレンスキー大統領に対して、トランプ大統領は「彼は選挙なき独裁者だ!」と批判した。
返す刀でウクライナの停戦後の平和維持にはEUが責任を持つべきだと主張した。これにロシアのプーチン大統領も「ドナルド」と呼んで親しみを込めてトランプを持ち上げた。大方の予想を超えるトランプとプーチンの思わせぶりな接近に、ウクライナ国民はもとより世界中の人々を唖然呆然とさせたのである。
その舌の根も乾かぬ2月27日の記者会見で、トランプ大統領は記者からの「独裁者呼ばわりした意図」について質問を受けると、「そんな発言したなんて信じられない。」と、平然と前言を覆す。
翌日のゼレンスキー大統領との首脳会談でウクライナの鉱物資源レアアースの権益を確保する合意成立が予定されていることを念頭に置いた発言のようだが、結果は報道されているごとく、記者会見場で双方が罵り合う論争の果てに交渉決裂に終わったが、この結末はロシアの期待感を大満足させたに違いない。
今回のホワイトハウスでの二人の大統領の振る舞いは、和平交渉のテーブルにロシアを引き込むための茶番劇かと疑いたくもなる。かたやカナダ・メキシコにはあらためて25%の関税を課すことや、中国に対して先に発動した10%の追加関税に、更に10%の再追加関税を課すことを公言したりと、どこまでがお芝居なのか常人には全く判断がつかない。トランプ流の数々の発言(虚言・ディール)が現在も今後も絶え間なく続いていくのだろう。
古くから「信なくば立たず」という儒教思想に染まっている日本人には理解しがたい言動の数々である。国際政治とは深謀術策の闇の世界とは聞き及んではいたが、メディアを前してこれほど大胆な振る舞いをする政治家は希有であろう。と同時に、人心を弄んでおいて、本当にうまく事が運ぶのか?という疑問も湧いてくる。
しかしこれまでのトランプ発言の一つひとつを冷静に分析しつなぎ合わせてみると、何かしら大きな戦略的構図が浮かび上がってくる。ウクライナを突き放しロシアに秋波を送るのも、ウクライナには完全領土回復まで戦い続けるという大義に縛られるなと警告し、EU諸国にはヨーロッパの平和は自分達で守れと突き放し、事実そのような動きを生起させつつあるのも、いわばショック療法のようにも思える。ロシアには甘い誘いで警戒感を薄めて停戦のテーブルに着かせる機会を提供しているようにも見える。
ウクライナ和平が成功すればアメリカはロシアを引き寄せられるし、中国とロシアの関係に楔を打つこともできる。そして、イスラエルにはガザを米国が管理しておくから、その間にハマス・ヒズボラ・シリアを失ったイランに対して攻勢をかけ、あわよくばイスラエルの手でイランの核開発拠点を壊滅させようとする戦略も垣間見えるのだ。仮にこれらの戦略の効果が得られれば、アメリカは最大の敵とする中国に対して軍事的リソースを集中することができる。それまでの間は、関税で中国経済を追い込む。
トランプ政権はディール政治を隠れ蓑にして虎視眈々と世界戦略を押し進めているように思える。103万円の壁で三党合意して喜ぶ日本の政治リーダーは幸せである。なぜならば、日本はアメリカの対中戦略の礎石となる地政学上の重要な位置にあるため、さしものトランプ旋風も今のところそよ風で済んでいるがらだ。
「アメリカ・ファースト」と「楽しい日本を目指す」に思うこと・・・
1月20日、世界中の関心を集めたアメリカ合衆国の第47代大統領にドナルド・ジョン・トランプ氏が正式に就任した。4年の春秋を経て2期目の就任式の当日。就任と同時に数十本の大統領令に次々と署名した。その中には国連気候変動枠組条約の協定離脱や世界保健機関(WHO)からの脱退。更にはOECDの国際課税ルールを米国内では適用しないとする大統領令など米国優先主義を明確に打ち出している。その他にも、メキシコ・カナダに25%関税を課すことやメキシコ国境に軍部隊を増派したり、過激な性別イデオロギーに対抗するためとして、性別は「男」と「女」だけだと断言してトランスジェンダーの権利保護やDEI(多様性・公平性・包括性)を見直す方針を鮮明にしている。
更にはアメリカのエネルギー政策を大幅に見直し、「掘って掘って掘りまくれ」の勇ましいキャッチフレーズのもと、国内のエネルギー資源の開発促進やEV車普及の義務化を見直すなど多数の衝撃的な大統領令に署名したのである。更に加えて、「トランプ2.0」では、グリーンランドは米国が購入すべきだとか、メキシコ湾はアメリカ湾に名称を変更すべきだとか、カナダはアメリカの51番目の州になった方がカナダ国民は喜ぶだとか、パナマ運河の管理権を取り戻すとか、アメリカの貿易赤字こそが国民の貧困と国富喪失の根源であるとする主張のもと、関税で国内経済を守りつつ繁栄を取り戻すとして、関税を主管する政府機関「対外歳入庁」を新設することを表明するなど、世界中を驚愕させるに十分な刺激的な発言・発表を繰り返している。今後、超大国アメリカの大統領に返り咲いたトランプ氏の一挙手一投足に目が離せなくなるのは確かなようである。
しかし、2期目のトランプ政権はなぜ就任初日から、かくも大胆な行動に打って出たのだろうか? その訳として広く憶測されているのが、4年の任期の次がないということ。しかも4年の任期中ですら後半3年目からは徐々にレームダック期間に突入する。このことを考慮すると、大統領として権勢をふるえるのはせいぜい就任後2年間であろう。従って、彼が想い描く政策を前に進める時間はかなり限定的である。そう考えると急ぐ理由は分らなくもない。
もう一つの訳は大統領就任の年齢が78歳と高齢であることである。
『知らず。生まれ死ぬる人。いず方より来たりて、いず方へか去る。』とは、鴨長明の方丈記の一文であるが、『人は必ず死ぬ。人生は一回しかない。人はいつ死ぬか分らない。』という生きとし生けるものの宿命から彼自身逃れられるすべはない。この時間的制約がトランプの行動を急き立てているのかも知れない。いずれにしても我々は、かかる劇場型のトランプ政治が世界にどんな影響を及ぼすのか、息を潜めて見守ることになるだろう。
一方、日本のリーダー石破茂総理大臣は、1月の通常国会の施政方針演説で、「楽し日本を目指す」と表明した。その真意は国民一人ひとりが自己実現できる「楽しい日本」を目指し、地方創生を核とする日本列島改造に取り組むということらしい。
田中角栄を師と仰ぐ石破首相らしい発想だが、その政策の中身は殆ど国民には見えてこない。物価高騰に賃上げが追いつかない現状を見るにつけ、国民は自己実現よりも生活防衛が先ではないのか? と嘆息しているのではなかろうか?
トランプ大統領と比較するとそのインパクトの無さと、103万円の壁に汲々としている内向な政治姿勢に思わず溜息が漏れてしまう。戦後80年の日本の政治リーダーの姿を見るにつけ、トランプを軸に激しく動き出した世界情勢に日本はうまく対応できるのだろうか? 一抹の不安を感じざるを得ない。
2025年 新春に思うこと
令和7年巳年が明けました。新春恒例の箱根駅伝は、常勝・青山学院大学が新記録を樹立して総合2連覇を達成しました。いつもの様にスタートしたかに思える年の初めだが、今年はいろいろな意味で正念場の年になりそうだ。
まず世界に目を転じてみると、今月20日にアメリカ大統領の就任式が待ち受ける。世界が注目する「トランプ2.0」の時代が始まる。米国第一主義を声高に唱える2期目のトランプ政権。Tariff Man(関税男)と称して憚らないトランプ氏は国内産業を保護するためにかねてより一律10%の関税を導入するとしてきた。
特に中国に対しては60%の高率関税を課すと豪語してきたが、果たして米国の通商政策はどうなるのか注目される。図らずも今年1月3日。バイデン現大統領は日本製鉄によるUSスチール買収に禁止命令を発令した。新年早々、米国の自国第一主義を世界に強く印象づけることになった。
このままでは戦後の自由貿易ルールが瓦解しかねない。第二次世界大戦を引き起こした原因の一つとされている高関税障壁による保護貿易主義と同盟を基軸とする経済ブロック化。その反省に立って戦後まもなく構築された世界の貿易ルールGATT(関税と貿易の一般協定・1948年)とそれをさらにパワーアップして貿易の無差別自由化を原則としたWTO(世界貿易機関・本部スイス、ジュネーブ・1995年)が発足したが、大きな戦争の惨禍を避けるため、自由な貿易を通じて世界平和を持続させようとした理念は、今や米国の自国優先主義の前に風前の灯火になりつつある。
おりしも欧州ではウクライナとロシアの戦争が4年目に突入しようとしている。イスラエルとハマスやヒズボラ、その後ろ盾となっているイランとの間にも今だ戦闘終結の兆しは見えない。昨年末シリアのアサド政権が瞬時にして崩壊した。中東には大きな力の空白が生じており、新たな戦禍の火種となる恐れがある。
台湾海峡、南シナ海でも中国の海洋権益確保の動きに拍車がかかりそうである。自国経済優先主義と同盟国・友好国を軸とする経済ブロック化。民主主義と権威主義の対立がこれに加われば、まさに第二次世界大戦前の世界情勢に近似する様相となる。ネット上には最近「日本の今を新たな戦前にしないために」というフレーズを目にする。もともとはタレントのタモリ氏が放送番組中に発した言葉と聞く。しかし、世界各地で戦争が起こり、自国第一主義とポピュリズムが台頭し、自由貿易が形骸化しつつある現状を顧みればハッとさせられる言葉である。
さて、今年は昭和100年の年である。明治157年でもある。そして戦後80年でもある。戦後先進国入りした昭和の日本人も団塊の世代が全員後期高齢者となる年で、超高齢社会から文字どうり現役世代1.5人で高齢者1人を支える重高齢社会が到来する。中小企業も事業承継が待ったなしの時を迎えた。老老介護・老老相続はもはや当たり前の時代になった。少子化もさらに進行して、今年の新生児の出生数は70万人台と予測されている。日本がダウンサイジングしている象徴的な年になるのかも知れない。
そんな中でも未来を夢見るイベント、大阪万博が開催される。世界陸上も開催される。生成AIもあらゆる業種で利用される年になるだろう。
渋澤健氏(渋沢栄一の5代目)の年頭のメセージに、日本の時代を切り開いてきたキーワードとして、昭和のMade In Japan、平成のMade By Japn、令和のMade with Japanを挙げられていた。昭和の時代は日本製品を世界に輸出して成功し、平成の時代は生産拠点を海外に移転して進出先の製品として市場を確保してきた。令和の時代は世界と共に創る「共創」こそが成長のツボだという。なるほど得心!
1年を振返り、何かが起るかも?・・・と感じる2024年!
アッという間に今年も幕を下ろそうとしている。月並みだが、今年1年を振り返ってみる。
本年1月元旦、M7.6の能登半島地震が発生。500人超の死者がでる大惨事となった。その翌日、羽田空港では被災地に向う海上保安庁の救援機と日本航空の旅客機が滑走路上で衝突炎上して海保の乗員全員が死亡する悲惨な事故が発生した。とても新年を寿ぐ気分になれそうもない年明けであった。能登の被災地では9月にも集中豪雨に見舞われ、復旧・復興が大幅に遅延し、多くの被災者がいまだに避難生活を余儀なくされている。
この年はSNSが世情を騒がせた年だった。国内各地で闇バイトによる強盗殺傷事件が相次いで起った。兵庫県の出直し知事選でも、失職した斉藤元彦知事が再選されたが、SNSで拡散された情報が選挙戦の結果を左右する程、斉藤候補側に有利に働いたのではないかと報道されている。
10月の衆議院員選挙でもSNSが威力を発揮した。もとより裏金問題で守勢に回っていた与党であったが、過半数割れに追い込まれたのは、決して裏金問題だけではなく、民意がSNSを通じて拡大していったことが背景にあると呟かれる。その結果、国政は安定多数の岸田政権から少数与党の石破政権へと様変わりし、11月開催の臨時国会では、勢いづく国民民主党が主張する「103万円の壁」の見直しに応じざるを得なくなった。
お隣の韓国でも少数与党を基盤とする尹錫悦大統領が非常戒厳の宣布に躓いたあげく、大統領弾劾決議が成立し職務停止状態に追い込まれている。ここでもSNSを見た大勢の若者が国会周辺に終結して軍の部隊を身を挺して阻止したと報道されていた。
SNSの本場アメリカでも11月に行なわれた大統領選挙で、一時「もしトラ」と揶揄されていたトランプ候補が大方の予想を覆してトリプルレッドの大勝を果たした。勝因の背景には、そもそも「隠れトランプ」が多く存在し、見えないところでSNSによって「内心の支持」が拡散されたことが選挙結果に影響したとの分析もあるようだ。
フェイク情報が入り乱れた米国大統領選挙は、まさにSNS社会がもたらす民意の分断の様相を世界に見せつけたようである。民主主義の基底は自由な民意である。その自由な民意がある一定の密度に結集・固形化された状態が多数決である。民主主義はこの多数決で機能する。政治・経済・社会生活のルールを決めるのも、結局は多数決というルールに他ならない。
SNSは、この民意の密度形成に影響をもたらす。もしフェイク情報に影響を受けて「民意の密度」が生成されたら!と思うと恐ろしくなる。社会の分断はSNSが直接の原因ではないだろうが、民意の分断に直接作用し、分断を加速化させる効果は無視できない。これからは生成AIという名の21世紀の「知的モンスター」が登場しつつある現在、少なからずSNSやAIを利用する時代の到来に、危惧を感じる人が多いと思う。
今より少し前、欧米諸国や日本では、中国において街路地のあらゆる所に監視カメラが設置され、スマホのアプリ機能も制限されて自由な利用ができないことを痛烈に批判していた。しかし今、我が国では闇バイトの犯人を追跡するにも、無謀運転やあおり運転の犯罪行為を捕捉するのにも搭載カメラが不可欠となっている。今や世界中に防犯カメラやAI搭載機器が拡散している。
真偽不明な情報もSNSで拡散され、もはや制御不能な状態だ。
ウクライナ戦争、イスラエルとハマス・ヒズボラの戦闘拡大、シリアのアサド政権の崩壊。
ロ朝相互支援条約締結(軍事同盟)と北朝鮮兵のウクライナ派兵。核の脅しを止めない大国。
SNSにアップロードされた情報がもたらすものは、果たして福か災いか?
米国大統領選挙!トリプルレッドで「またトラ」確定!
今月5日に行なわれたアメリカの大統領選挙。接戦を予想した大方の予想を覆し、前大統領のトランプ候補が現副大統領のハリス候補を圧倒し、大勝して終わった。加えて同日投票の上院と下院の議会選挙でも共和党が過半数の議席を獲得し、これで共和党は大統領・上院・下院を制する「トリプルレッド」を実現した。来年1月20日に正式に47代大統領に就任するトランプ政権は政策がやりやすくなったことは間違いない。選挙前には「もしトラ」と揶揄され、銃撃で負傷した選挙戦中には「またトラ」と呟かれ、ふたを開ければ「確トラ」となって見事返り咲いたトランプ氏。
今後の新政権の動向に世界は固唾を呑んで注目する事になった。「私が大統領になれば一日で戦争を終わらせる」と豪語したウクライナ戦争に関する氏の発言。イスラエルとハマス・ヒズボラ・イラン枢軸との戦争状態の行方。第一次トランプ政権下で築いたプーチン大統領やネタニヤフ首相との良好な関係から、今後のトランプ氏の和平への影響力に期待と不安が高まっている。
トランプ第二次政権への関心はむろんそれだけではない。氏がどのような政策を実行に移すのかが世界にとっても、日本にとっても重要である。
そこで、新政権を6つの政策面から予測してみるのも「確トラ」対策となるだろう。
①まず通商政策である。氏は自らをTariff Man(関税男)と称するだけに、輸入品に一律10%の関税を課すだろう。特に中国に対しては60%の高関税を課す可能性がある。貿易通商面で大きな摩擦が起きる恐れがある。
②財政政策では、法人税や富裕層の減税を推し進めそうである。国内への製造業回帰やアメリカンドリームを再現し、グレート・アゲイン・アメリカの実現を目指すと思われる。
③環境政策では化石燃料推進に政策転換を図ると思われる。エンルギー長官に石油会社関連のCEOを指名したのはその布石と思わせる。
④移民政策ではメキシコ国境の閉鎖や合法移民の厳格化や強制送還等の施策を進める可能性が高い。
⑤金融政策では、FRBに対して金利引き下げ圧力をかけて景気底上げを図ろうとすることが予想される。その結果、インフレ進行とそれを抑制するため、再び米国は金利高・ドル高になり、日本は円安が加速するかもしれない。
⑥外交政策では、なんといってもウクライナ戦争の和平実現。次にイスラエルとハマスを含むイスラム枢軸国の停戦であろう。新政権の国防長官に指名されたのがFOXニュースの司会者ピート・ヘグセス氏だ。この人事には世界が驚いている。彼は国防に関する専門知識も経験もないズブの素人であるからだ。深読みすれば、国防のキャリアを登用するとトランプ氏の意見が阻止されることを回避するため、コントロール可能な人物を国防長官に登用して自分の思惑で国防政策、特に和平を進める狙いがあるとの穿った見方もある。また、米国の外交の要である国務長官人事では、対中強行派のアルコ・レビオ上院議員を指名した。この人事は新政権の外交政策の最大の課題が対中国政策であることを人事面で露骨な形で表明したものと受け止められている。
トランプ氏が返り咲く来年1月20日以降、世界の政治・経済・安全保障はどのように動きだすのだろう? まだこの時点で先のことを明確に見通すことはできないが、それでも水面下では確トラ時代に向けて激しく動き出しているものと推測される。日本の新総理も、外交力には不安があると懸念されている。もしかしたら、政局化して「もし岸」の風が吹くかも知れない。でも短命内閣が続くのはもう願い下げにしたい。
2024年のオクトーバー・サプライズ 世界で日本で何が起った?
オクトーバー・サプライズと称されるのが今年の10月である。語源の意味は、4年に一度実施される米国の大統領選挙の本選挙の投票月の前の月にあたる10月に、大統領選挙に大きな影響を及ぼす出来事(サプライズ)が起きるという意味である。
今年は選挙の年と云われる中で様々な出来事が世界で起きているが、果たして10月に入ってみると初日の1日に起きたサプライズが、イスラエルによるレバノン南部への地上作戦開始であろう。
昨年の10月7日に勃発したハマスによるイスラエル奇襲攻撃から1年を迎えたこの時期、戦禍はハマスの拠点・ガザ地区からヒズボラの拠点・レバノン南部へと拡大したことになる。既にガザ地区の犠牲者はこの時点で4万人超と報道されているが、戦火の拡大は今なお治まる気配がない。これが米国の大統領選挙にどのように影響するのか?ハリスよりもトランプの方がイスラエルをコントロールできると見るアラブ系米国人の間では、今回の選挙はトランプ支持に回るとの報道もあるのに注目したい。
もう一つのサプライズが北朝鮮によるロシアへの派兵である。すでに米国もNATOも北朝鮮の兵士がロシア領西部クルスク州(一部ウクライナが占領)に入ったとか、一部はウクライナ領土に入ったとの情報がSNS上にアップされている。これが一部でも事実とすれば、ヨーロッパ東部の戦局が極東にまで飛び火しかねない危険な動きである。かかる情勢がどう大統領選挙に影響するのか?戦争を抑制できる大統領はハリスなのかトランプなのか?多民族国家米国の選挙民がどのような投票行動をとるのか、今の時点では誰にも分らない。まさに人知の及ぶところではないのである。
一方これまでの経緯から、米中の対立は大統領選挙後も激しさを増すであろうが、EUと中国との経済関係においても対立の構図が表面化している。EUは今月、中国から輸入する電気自動車(EV)に最大35.3%の関税を上乗する措置を講じたのである。当然中国も遅かれ早かれ対抗措置を講ずるだろうから、米中対立に加えて、今後はEU対中国の対立構図がこれに重ね合わされることになる。日本もそうなるといつまでも日和見を決め込む訳にはいかなくなるのは必定である。世界情勢はますます先が見通せない混沌とした情勢になりつつあるようだ。天気晴朗なれど波高し!・・・である。
さて、米国の大統領選挙を前にして、我が国では一足先にオクトーバー・サプライズがやってきた感がある。経済も安全保障も厳しさをます中、我が国では今月27日、衆議院総選挙が実施された。結果は自民・公明の与党が過半数割れとなり、政治は一気に不安定期に突入したようだ。
今回の選挙を検証してみると、裏金問題もさることながら投票日直前のマスコミ報道が国民の投票行動に大きく影響したように思う。報道によると、裏金議員が党の支部長を務める自民党支部へ選挙期間中に2千万円の党勢拡大名目の活動資金が党本部から振り込まれたというのである。この報道に一般国民の怒りは頂点に達しように思う。その結果かなりの票が野党に流れたように思える。「国民主権」。つまり主人公は「国民」であって、国会議員ではないという基本的な政治倫理を棚上げして、議員のための選挙戦術に走った結果、国民の怒りを買ってしまったようである。今回の総選挙。米国大統領選挙は投票日一ヶ月前のサプライズだが、日本では投票日一週間前のサプライズであったようだ。
2024年は世界的な選挙イヤーといわれるが、その結果世界はどうなるのか?
年初来、今年は世界的な選挙の年と云われている。1月には台湾総統選挙があり頼清徳新総統が選出された。3月にはロシア大統領選挙が行なわれ、戦時下の追い風に乗って予定どうりプーチン大統領が再選された。7月の英国では総選挙が行なわれ、スナク首相率いる保守党が野に下り、代わって労働党のスターマー氏が新首相に就いた。今や人口世界一となった民主主義大国インドでも4月に総選挙があり、モディ首相の与党が勝利した。東南アジアの大国インドネシアでも大統領選挙が行なわれ、ショコ大統領の後継と目されていたプラボウオ国防相が新大統領に選出された。
少々心配なのが9月に実施されたスリランカの大統領選挙であろう。中国の債務の罠に嵌って国家破綻の危機からの立ち直りを目指して、IMFの助言を受けて発足したウィクラマシン大統領だが、国内経済の建て直しは思うように進まず、国民の不満がたまる中、左派強行派のディサーナーヤカ氏が新大統領に選出された。インドや西側諸国との関係が協調から対立に変化する可能性が捨てきれない。インド洋の要の位置にある同国が、再び中国やロシアに接近するようならば、インドは喉元に刃を突きつけらたも同じである。日本にとっても石油資源の輸送ルート面でのリスクが高まる恐れもあり、他人事ではないのである。その他にもイラン大統領選挙では改革派のペゼシュキヤーン氏が新大統領となり、メキシコの大統領選挙では与党のシェインバウム氏が勝利宣言を果たしている。
文字どうり選挙イヤーの2024年は地球規模で選挙が展開されているのだが、なんと云っても世界中の人々が注目するのは
11月に迫ったアメリカ合衆国の大統領選挙だろう。トランプ前大統領とハリス副大統領の一騎打ちの選挙戦の結果はどうなるのか?誰しも強い関心を持たざるを得ない。勝者が誰になるかは現時点では分らないが、ウクライナ戦争やイスラエルとハマス・ヒズボラを含むイスラム諸国との戦禍拡大が懸念されるなか、米国の次の大統領が誰になるのかは世界の政治・経済・軍事動向に大きな影響を及ぼすことになろう。
そんな情勢を尻目に、我が国では政党の党首が次々と代わった。立憲民主党は、泉健氏から元総理野田佳彦氏に代表が代わり、政権与党の公明党も山口那津男党首から石井啓一氏に代わった。そして裏金問題と政治資金・派閥問題に揺れた自民党も岸田文雄政権の退陣に伴い党首選挙で石破 茂氏が5度目の挑戦で総理・総裁の座に就くことになった。
10月1日には国会で首班指名され、新政権が正式に発足することになる。もっとも我が国の政党の党首交代は世界情勢に大きな影響を及ぼすようなものではないのであるが、海外では多くの国々で新らたなリーダーが続々と誕生しているので、日本としてもそう呑気に構えている訳にはいかないであろう。
11月にはトランプかハリスかが決る。我が国のみならず世界の政治のリーダー達は選挙結果を待つまでもなく、既に様々な対応策を密かに講じ始めているはずである。日本の新政権も早めに国内手続きを粛々と進めつつ、他国に外交面で後塵を拝することのないよう迅速な政権運営をしてもらいたいものである。
人が動くのを見てから動く! 同調圧力に弱い! いつも後手に回るを美徳とする!
みんながやれば自分もやる! これが日本人の国民性である。
世界は先手必勝! 失われた30年という「遅速の経験」をムダにしないことだ!
経営と事業には、Philosophy(理念)とMission(使命)がなければない!
あるスタートアップ企業の新事業展開セミナーにパネラーとして参加した。セミナーのテーマは事業承継・経営承継を考えるというものであった。そこで感心したのは、買手側優位のM&Aという事業承継ではなく、企業理念を承継することの重要性と親族外承継の有用性が強調されていたことであった。
GOINNG CONCERN(継続企業)には、業績を上げ利益を出す必要があるが、その前提として雇用を維持し、社会に貢献し続けられる持続可能性が求められる。しかしながら経営者は生身の人間である。やがて年齢的な壁に突き当たり身を引かざるを得ない。この時、これまで大切に育んできた「のれん」という信用を引き継ぐ最良の方法は、企業文化を一番良く理解している企業内の人材にバトンタッチすることである。セミナーではかかる考え方を基本に企業内の身内による事業承継を10年間という長期に亘って側面支援する新展開の事業承継を目指すという内容であった。今後の動向に熱い想いで注視していこうと思う。
話は変わるが、セミナー開催企業のPhilosophy(企業理念)は「三方良し」、Mission(使命)は「人×テクノロジーの力で『ずっと安心』の世界をつくる」だそうである。シンプルかつ明解であり、共有するにちょうど良い。
翻って、我が社の企業理念を今一度思い起こしてみよう!
(仏教の教え)
諸悪莫作(しょあくまくさ) ・・・・一切の悪を為さず
衆善奉行(しゅうぜんぶぎょう)・・・善を成し遂げよ
自浄其意(じじょうごい)・・・・・・自分の心を清らかにする
是諸仏教(ぜしょぶっきょう)・・・・これが諸仏の教えである
(我が社の理念)
悪いことは絶対し無い (一切の悪を為さず)
善いことだけを確りやる (善を成し遂げよ)
心はいつも日本晴れ (自分の心を清らかにする)
これが吾が社の基本也 (この諸仏の教えが、吾が社の基本なり)
平成4年5月 牧内会計(牧内 操書)
世の中の経営に関する金言
①日本商工会議所:前会頭 三村明夫会長
健全経営の三要素は、①損益の健全性、②資産の健全性、③信用の健全性である。
その中でも一番大切な要素は「信用の健全性」である。信用の健全性を高めるには、正 直な正しい経営を心がけねばならない。悪い事はしない!一度信用を失えば立ち直るのは大変。まかり間違えば会社を潰してしまう。
「築城3年、落城一日!」
一旦、人の心 に入ったものは簡単には消えない。信用、誠実、親切、安全、約束を守ることだけは、変えてはいけない基本姿勢である。
②「徳不孤」・・・徳は孤にあらず(論語:徳不孤必有隣=徳は孤ならず必ず隣有り)
徳を行う人や徳をもった人の前には、多くの賛同者が現れる。徳は孤にあらず。転じて、事業は「徳業」でなければ長く持続するものではない。自分の儲けだけしか考えない事業は「損得業」に過ぎず、決して持続可能なものにはならない。
共に心に刻みたい!
新NISA。半年で7.5兆円の投資資金流入!
2024年1月1日からスタートした新NISA。半年経過した6月末時点で、個人による購入額が、主要証券会社の専用口座を経由で7.5兆円に及んだことが報道された。
NISAとは、少額投資非課税制度のことで、イギリスのISA=Individual Savings Accountの日本版である。NISAが始まったのは2014年(平成26年)1月から。その後2016年にはジュニアNISA(未成年者少額非課税投資制度)、2018年には積立NISAがスタートし、そして今年新NISAに制度改正がなされた結果人気を博し、多くの個人投資家が新NISAを利用した長期投資を始めたことが明らかになった。新NISA制度では、国内外の個別株を投資対象とする「成長投資枠」と投資信託への「積立投資枠」の2つのタイプを任意に選択することができ、投資枠上限は年間360万円(内、積立投資枠120万円)となっている。また非課税口座の開設期限も恒久化され、生涯に亘って株式投資に係る非課税の優遇措置が受けるため、折からの株高の追い風を受けて人気に火がついたようである。
それにしてもNISAが初めて非課税の優遇税制措置として誕生してから10年経過して、やっと本格的な利用が始めたかと思うと複雑な心境である。折角の非課税メリットが制度そのものの制約で打ち消されて、旧NISAはあまり人気を集めることができなかった。折角、国民に対して、株式投資による資産運用のメリットと公的年金だけでは不足するであろう老後の生活資金の確保のチャンスを提供しようとする制度の趣旨が十分に活かされず、中途半端な制度で10年間も放置された印象が強いのだ。新NISAはその意味で、改正案が公表されたときはかなりの手応えを感じた覚えがある。あにはからず、半年間で7.5兆円の個人投資家の資金が非課税専用口座に集まったことは注目に値する動きである。
今、足下の経済の基礎的環境を見ると、円安・株高・資源高・物価高・人件費上昇・マインス金利からプラス金利に転換するなど、大きな構造変化を迎えつつある。その一方、経済成長を下支えする人口動態は少産多死社会に突入しおり、日本社会はダウンサイジングの道を辿り始めている。円安に伴う輸入物価上昇や最低賃金の引き上げや人手不足による人件費上昇の圧力を受ける中、海外市場を持たない多くの中小企業は国内市場において、業容拡大という裏付けのないままコストアップだけを受け入れざるを得ないというジレンマに陥っている。これが中小企業経営の実情であろう。
そんななかで、国外に目を転じてみると、世界人口は増加し続けいる。世界市場の経済成長も日本を上回っている。世界は人口も経済も成長しているのに、国内経済は人口減少の長期的影響を受けて経済は低成長の罠に嵌ったままである。庶民としては、この矛盾に満ちた経済の下で生活防衛するには、成長している国外の富を、安全かつ手軽に自らの富として取り込むことができれば最も効果的な資産形成が実現できる。それを可能にしてくれるのが新NISAかも知れない。新NISAで国内外の株式や全世界株式型(オールカントリー)投資信託を選択すれば、世界中の株式に長期投資が可能になる。10年後20年後にはその間に膨らんだ世界の富を手中にすることができるのだから、資産運用とインフレ対策にこれほど有効は投資手段はないと思われる。その他にもゴールド(金)投資が注目されているが、こちらは希少価値と実物資産、無国籍通貨としてその有効性が注目されいるのだが、財(富)の価値保全とインフレ回避に有効な点では、新NISAといくつかの共通点がある。
今や、現金を保有するにはリスクが大き過ぎる時代となっている。現金は必要最低限を手元に置いておくキャッシュレスの時代だ。個人の資産運用も大きく変わる時代である。
もうすぐ7月3日。 新1万円札の顔となった渋沢栄一の精神に学ぶ。
(筆者拙稿:商工会議所職員研修レジメ一部抜粋)
1.商工会議所の創設の歴史
□1878年(明治11年)
渋沢栄一(1840~1931年)により設立された「東京商法会議所」を起源とする。
□商工会議所のルーツ
中世~近世。欧州諸都市で結成された「ギルド」とされる。
□世界初の商工会議所
1599年に設立されたフランス・マルセイユ商工会議所といわれる。
□東京商法会議所の設立の歴史的背景
当時の明治政府は不平等条約解消のための交渉過程で、欧米列強が「日本には民意がない。それを代表する団体も
ない。」と強く反駁する姿勢に対抗するため、民意を集約する民主的な団体が必要となった。
大隈重信・伊藤博文らは、民間の実力者・渋沢栄一に相談。
結果、イギリスの商工会議所を模範として「東京商法会議所」を設立。初代会頭に渋沢が就任した。
2.令和の時代まで受け継がれる渋沢栄一の精神と時代背景
□「道徳経済合一説」
公益の追求を尊重する「道徳」と、生産利殖という私益を追求する「経済」は、
元来ともに進むべきものであり、その合一を重視すべきであるとする説。
□渋沢栄一が尊敬し影響を受けた二人の人物の名言!
〇二宮尊徳(1787~1856年)
道徳を忘れたは經濟は罪悪だ 經濟を忘れた道徳は寝言である
※經濟とは「経世済民」のこと。世を經め民を濟うの意。経済の語源。
〇昭憲皇太后(1849~1914年) │
持つ人の 心によりて 宝とも 仇ともなるは 黄金なりけり
│
※もとより黄金(お金)に善悪を判断する能力はない。
持つ人の心次第でお金は世の中の役に立つ宝ともなるし、
世を乱すお金にもなり得るという意。
□論語と算盤
論語(道徳・公益=国の繁栄) + 算盤(生産利殖・私益=民の繁栄 )
※論語と算盤は「民の繁栄が、国の繁栄につながる」という道徳経済合一説と同義。
□アダム・スミス(1723~1790年)の国富論
〇経済理論一(独占の禁止)
「神の見えざる手=経済活動はすべて市場には任せ、国は加担しない。」
〇経済理論二(最低賃金の責任)
「経営者は労働者の賃金に最低限(夫婦子供2人)の責任を負う。」
※国富論の本質=国民全体が豊にならなければ、国(社会)も豊にならない。
栄一の「論語と算盤」や彼より少し年上の二宮尊徳や昭憲皇太后の名言に通底する精神は、「民の繁栄こそ国の繁栄」
という点に尽きる。この3人の更に先を生きた英国のアダム・スミスの国富論にしても同じである。
もしかすると彼らが生きた時代は、今より「民」すなわち「国民」を大事に思う時代だったのかも知れない。