(好きな作曲家100選 その16 ヤン・ピーテルスゾーン・スウェーリンク) | 音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

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クラシック音楽の鑑賞日記や雑記です。
“たまにしか書かないけど日記”というタイトルでしたが、最近毎日のように書いているので変更しました。
敬愛する音楽評論家ロベルト・シューマン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、吉田秀和の著作や翻訳に因んで名付けています。

今回は演奏会の感想ではなく、別の話題を。

「好きな作曲家100選」シリーズの第16回である。

 

 

前回の第15回では、16~17世紀のルネサンス~バロック移行期のイタリアの作曲家、ヤコポ・ペーリのことを書いた。

その頃、かつて文化・経済ともに発展し音楽の著しく栄えたフランドル地方(フランス東部~ベルギー)では、宗教改革の影響で宗主国スペイン・ハプスブルク家との対立が激化した。

10万を超える多数のプロテスタントが難民として北方へ逃げ、経済の中心はフランドル(南ネーデルラント)からホラント(オランダ、北ネーデルラント)に移ることとなる。

ネーデルラント諸州は連邦共和国を結成し、世界貿易で巨万の富を築いて、17世紀はオランダの黄金時代となった。

 

 

経済のみならず文化においても同様で、美術ではブリューゲルやルーベンスのフランドルから、レンブラントやフェルメールのオランダへとその中心が移っていった。

音楽においても、フランドル楽派はオルランド・ディ・ラッソを最後にその隆盛期を終え(その記事はこちら)、代わりにオランダから北ドイツにかけてオルガン音楽が盛んになった。

その始祖であり、かつオランダ黄金時代最大の作曲家が、ヤン・ピーテルスゾーン・スウェーリンク(1562-1621)である。

 

 

オランダのデーフェンテルに生まれたスウェーリンクは、若くして才能を発揮し、1580年(18歳頃)までにはアムステルダムの旧教会のオルガニストに就任して、亡くなるまで40年以上その地位にあった。

彼は声楽にも精通し、彼が作曲・出版したシャンソンや詩篇唱など数多くの声楽曲にも良いものがあるが、彼が最も本領を発揮したジャンルは鍵盤楽器曲、特にオルガン曲であろう。

彼はオルガンの足鍵盤を完全な一声部へと発展させ、また対主題、ストレッタ、オルゲルプンクトといった重要な対位法的書法を編み出した。

 

 

スウェーリンクの名声は生前から外国にまで届いており、彼自身はJ.S.バッハ同様ほとんど移動しなかった代わりに、各地から多くの人が彼に学びに来たり、海を隔てたイギリスの「フィッツウィリアム・ヴァージナル・ブック」(その記事はこちら)に彼の曲が掲載されたりした。

また、彼は「アムステルダムのオルフェウス」と異名がつくほどのオルガン即興演奏の名手で、アムステルダム市当局はしばしば重要な客人を連れてきて彼の演奏を聴かせたという。

 

 

 

 

ファンタジア 第4番 ニ短調(動画の22:54~36:27あたり)。

偶然かもしれないが、「BACH」の音(♭シ→ラ→ド→シ)が主題に含まれるために、「エオリア調のファンタジア “B-A-C-H”」と呼ばれることもあるようだ。

スウェーリンクのオルガン曲の中でも特に規模の大きいものの一つであるこの曲は、重苦しい半音階的主題を持ち、イタリアはもちろんイギリスのバードあたりと比べても相当に晦渋だが、それがむしろかけがえのない北ヨーロッパの味となっている。

対位法の成熟といい、技巧的な華麗さといい、オルガン史上に名を残す堂々たる一曲といえるだろう。

 

 

スウェーリンクの音楽は、教会オルガンがこぞって設置された当時の北ドイツのプロテスタント諸都市に大きな影響を与えた。

彼ほどの人は現れなかったにせよ、ヤコプ・プレトリウス(1586-1651)、ハインリヒ・シャイデマン(1595頃-1663)、マティアス・ヴェックマン(1616頃-1674)、ディートリヒ・ブクステフーデ(1637頃-1707)、ヨハン・アダム・ラインケン(1643-1722)、ゲオルク・ベーム(1661-1733)など、多くの作曲家が活躍した。

彼らは北ドイツ・オルガン楽派と呼ばれ、その伝統はJ.S.バッハへとつながっていく。

 

 

なお、好きな作曲家100選シリーズのこれまでの記事はこちら。

 

前書き

1~10のまとめ 1500年以前

11. ジョヴァンニ・ダ・パレストリーナ

12. オルランド・ディ・ラッソ

13. ウィリアム・バード

14. トマス・ルイス・デ・ビクトリア

15. ヤコポ・ペーリ

 

 


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