(好きな作曲家100選 その14 トマス・ルイス・デ・ビクトリア) | 音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

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クラシック音楽の鑑賞日記や雑記です。
“たまにしか書かないけど日記”というタイトルでしたが、最近毎日のように書いているので変更しました。
敬愛する音楽評論家ロベルト・シューマン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、吉田秀和の著作や翻訳に因んで名付けています。

今回は演奏会の感想ではなく、別の話題を。

「好きな作曲家100選」シリーズの第14回である。

 

 

前回の第13回では、16~17世紀の後期ルネサンスのイギリスを代表する作曲家、ウィリアム・バードのことを書いた。

同じ頃、イギリスやイタリアのほかにも、後期ルネサンスの音楽文化が大きく栄えた国があった。

スペインである。

 

 

スペイン全史を通じての最盛期はというと、イスラムの音楽家ジルヤーブらの活躍した9~10世紀の後ウマイヤ朝時代であろうが(その記事はこちら)、それに次ぐ繁栄を遂げたのが、スペイン・ハプスブルク朝が成立し大航海時代が幕を開けた、16~17世紀のいわゆる“スペイン黄金世紀”である。

この時代のスペインには、文学ではミゲル・デ・セルバンテス、美術ではエル・グレコやディエゴ・ベラスケスといった巨匠たちが出現した。

 

 

音楽においても、リュートの仲間「ビウエラ」という楽器の曲を書いたルイス・デ・ミラン(1500頃-1561以降)、前回の記事にも少し書いた鍵盤楽器音楽の始祖の一人アントニオ・デ・カベソン(1510-1566)、宗教音楽を書いたクリストバル・デ・モラレス(1500頃-1553)やフランシスコ・ゲレーロ(1528-1599)といったスペインの作曲家が活躍した。

そして、スペイン黄金世紀最大の作曲家、あるいはしばしばスペイン最大の作曲家とも呼ばれるのが、トマス・ルイス・デ・ビクトリア(1548頃-1611)である。

 

 

ビクトリアは17歳頃にスペイン王フェリペ2世の奨学金でローマに留学し音楽教育を受けた後(パレストリーナに学んだ可能性もあるという)、20~30歳代にはローマのいくつかの修道院で楽長を務めた。

このローマ時代から彼はすでに名声を獲得しモテットやミサ曲をいくつも出版しており、特にローマ時代終盤の時期に書いた「聖週間聖務曲集」は名高い。

その後スペインに帰国し、40歳代以降はフェリペ2世の妹で神聖ローマ帝国皇太后のマリアに仕えてマドリードで過ごす。

このマドリード時代にもモテットやミサ曲を書き続けたが、1603年(55歳頃)に皇太后マリアの葬礼のため「死者のためのミサ曲(レクイエム)」を書いた後には、彼が作曲することはなかった。

 

 

 

 

「死者のためのミサ曲(レクイエム)」より入祭唱(Introitus)(なお全曲聴くにはこちら、YouTubeページに飛ばない場合はhttps://www.youtube.com/watch?v=UXJDLuAHLcw&list=OLAK5uy_mewyq1Dn3FUOijF6904zF0KOPCheAlvh4&index=1のURLへ)。

彼が数多く残したミサ曲もモテットも、パレストリーナからの影響が強く感じられる甘くなだらかな美しい曲が揃っている。

しかし、その中でも彼の絶筆であるこの名曲を取りこぼすわけにはいくまい。

 

 

パレストリーナの影響はやはりあるが、人の感情を超越したような天国的な音楽を書いたパレストリーナに比べ(その記事はこちら)、ビクトリアの音楽からはより人間的な情愛が感じられる。

この曲を聴くと、彼が20年近く仕えた皇太后マリアの死をもってこれを書き、その後音楽の筆を置いたことが、しみじみと実感される。

ルネサンス期のレクイエムの最高傑作。

さらには、この曲に比べると後年の有名なモーツァルト、ヴェルディ、フォーレらのレクイエムがいかにも劇的であることから、静かに死者を悼むこの曲を古今のレクイエムの頂点とする人もいるだろう。

 

 

後期ルネサンスの時期に大いに隆盛したスペイン音楽は、スペイン黄金世紀の終焉と運命を共にした。

スペイン音楽の再登場は、現代の私たちにもなじみ深い、スペインのあの「異国情緒」をもってヨーロッパ中で脚光を浴びる19世紀ロマン派の時代を待たねばならない。

 

 

なお、好きな作曲家100選シリーズのこれまでの記事はこちら。

 

前書き

1~10のまとめ 1500年以前

11. ジョヴァンニ・ダ・パレストリーナ

12. オルランド・ディ・ラッソ

13. ウィリアム・バード

 

 


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