(好きな作曲家100選 その12 オルランド・ディ・ラッソ) | 音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

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クラシック音楽の鑑賞日記や雑記です。
“たまにしか書かないけど日記”というタイトルでしたが、最近毎日のように書いているので変更しました。
敬愛する音楽評論家ロベルト・シューマン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、吉田秀和の著作や翻訳に因んで名付けています。

今回は演奏会の感想ではなく、別の話題を。

「好きな作曲家100選」シリーズの第12回である。

 

 

前回の第11回では、16世紀の後期ルネサンス最大の作曲家、ジョヴァンニ・ピエルルイージ・ダ・パレストリーナのことを書いた。

パレストリーナが活躍する頃には、盛期ルネサンスにあれほど隆盛を誇ったフランドル楽派も、ついにその勢いを失ってしまう。

その最後の輝きとなったのが、オルランド・ディ・ラッソ(1530/32-1594)である。

彼は、後期ルネサンスにおいてパレストリーナと並び称される偉大な音楽家であった。

 

 

1532年頃に現ベルギー、エノー州のモンスに生まれたオルランド・ディ・ラッソ(オルランドゥス・ラッススとも呼ばれる)は、若い頃から音楽の才能を発揮し、20歳そこそこで早くもナポリやローマで要職に就いた後、それらを離れて1556年(24歳頃)にミュンヘンに赴く。

それからは生涯のほとんどをミュンヘンで過ごし、バイエルン公アルブレヒト5世とその息子ヴィルヘルム5世に仕えた。

ラッソと同世代のフランドルの画家ピーテル・ブリューゲル(父)が主に農民の生活を描き宗教的な題材から離れたのに対し、ラッソはあくまでフランドル楽派の栄光の伝統を持つ宗教曲(ミサ曲やモテット)を創作の中心とした。

 

 

20~30歳代の頃はムジカ・レゼルヴァータと呼ばれる、同時代のマニエリスム美術にも比せられるような、緻密で大胆な半音階的技法を用いた意欲作を書いた。

モテット集「シビラの預言」(Prophetiae Sibyllarum、1550-60年頃)や「恐れとおののき」(Timor et tremor、1564年頃)などがそれにあたる。

しかし後年、イタリアからの影響もあってか彼はこの風変わりな様式を手放し、より高い普遍性を持つ美しい曲を書くようになる。

「ぶどう酒ミサ」(Missa ad imitationem Vinum bonum、1577年頃)、ミサ曲「かの人の口で私に口づけせしめよ」(Missa Osculetur me、1582年頃)、ミサ曲「美しきアンフィトリット」(Missa Bell' Amfitrit' altera、1583年頃)、「ダヴィデの改悛詩篇集」(Psalmi Davidis poenitentiales、1584年頃)などが代表作である。

 

 

 

 

ミサ曲「かの人の口で私に口づけせしめよ」(Missa Osculetur me)より第1楽章 キリエ(Kyrie)の冒頭部分(なお全曲聴くにはこちら)。

ラッソ晩年のこの曲は、フランドル楽派のポリフォニー様式の伝統を受け継ぎつつ、当時ヴェネツィアを中心に発展した複合唱様式をも取り入れ(4×2=8つもの声部を持つ)、きわめて複雑かつ緻密な書法によってかかれた、フランドル楽派の栄光の歴史を締めくくるにふさわしい傑作となっている。

 

 

それに加えて、フランドル楽派全盛期のジョスカン・デ・プレのミサ曲(その記事はこちら)の古典的明朗さとは違った、暮れ行くフランス・ベルギー音楽の姿を見守る者の物悲しさをこの曲に感じるのは、ロマン主義的に過ぎる聴き方だろうか。

神経質なまでに複雑で、かつどこか感傷的な音楽。

ジョスカンとラッソの違いを考えるとき、私はドビュッシーとラヴェルの違いに近いものを感じるのである。

 

 

奇しくもラッソとパレストリーナの2人の没年となった1594年をもって後期ルネサンス音楽は終わりを告げ、ここから時代はバロックへ向かって足を速めることとなる。

またフランドル楽派の時代、さらには中世以来ずっと続いてきたフランス・ベルギー音楽の栄光の時代までもが、彼の死をもってついにその幕を閉じた。

ユグノー戦争による混乱等の要因もあってかフランス・ベルギー音楽の復活には時間を要したため、私はこの作曲家選においてフランス・ベルギーの作曲家からしばらく遠ざかることになるだろう。

その代わりに、これまで専ら取り上げてきたフランスとイタリア以外の国で成熟しだした音楽について、次回以降見ていきたい。

 

 

なお、好きな作曲家100選シリーズのこれまでの記事はこちら。

 

前書き

1~10のまとめ 1500年以前

11. ジョヴァンニ・ダ・パレストリーナ

 

 


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