山本貴志 京都公演 ショパン全曲チクルス 第7回 曇り空の下広がる落葉の絨毯 | 音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

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クラシック音楽の鑑賞日記や雑記です。
“たまにしか書かないけど日記”というタイトルでしたが、最近毎日のように書いているので変更しました。
敬愛する音楽評論家ロベルト・シューマン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、吉田秀和の著作や翻訳に因んで名付けています。

山本貴志 ショパン全曲チクルス

~ショパンと巡るポーランド~

第7回「曇り空の下広がる落葉の絨毯」

 

【日時】

2019年9月1日(日) 開演 14:30 (開場 14:00)

 

【会場】

青山音楽記念館 バロックザール (京都)

 

【演奏】

ピアノ:山本貴志

 

【プログラム】

ショパン:

 前奏曲 嬰ハ短調 op.45

 3つのワルツ op. 70 (第11番 変ト長調、第12番 ヘ短調、第13番 変ニ長調)

 マズルカ イ短調 「ノートル・タン」 (遺作)

 マズルカ イ短調 「エミール・ガイヤールへ」 (遺作)

 ピアノ・ソナタ 第1番 ハ短調 op.4

 3つのポロネーズ op.71 (第8番 ニ短調、第9番 変ロ長調、第10番 ヘ短調)

 4つのマズルカ op.33 (第22番 嬰ト短調、第23番 ニ長調、第24番 ハ長調、第25番 ロ短調)

 ワルツ イ短調 (遺作)

 バラード 第4番 ヘ短調 op.52

 

※アンコール

ショパン:前奏曲 第15番 変ニ長調 「雨だれ」

 

 

 

 

 

山本貴志のピアノ・リサイタルを聴きに行った。

ショパン全曲チクルスの第7回である。

私は今のところ、このチクルスの全ての演奏会を聴いてきた。

そのときの記事は、下記である

 

第1回(プログラムのみ)

第2回

第3回

第4回

第5回

第6回

スペシャルコンサート

 

 

チクルスもだいぶ進んできたということもあり、あまり有名でない遺作のマズルカやポロネーズが多くなってきた。

こういった曲を生で聴くことができるのも、このチクルスの醍醐味の一つである。

それも、日本きってのショパン弾き、山本貴志の演奏で聴ける贅沢さ。

 

 

前奏曲op.45は、私の好きな小林愛実の演奏動画(こちら)のような憂愁はなく、もっと明るくて、それでいて幻想的な味もあり、これはこれで良かった。

 

 

3つのワルツop.70は、遺作とはいえ有名な曲。

特に第11番 変ト長調の飛び跳ねるような元気のよさと、中間部の控えめな優雅さとを対比させた演奏が印象的だった。

 

 

ピアノ・ソナタ第1番は、同時期に書かれたピアノ三重奏曲にも似た、ポーランド風味の色濃い曲。

山本貴志の演奏は、特に終楽章をかなり激しく情熱的に奏するのが特徴で、この曲に「熱情」あるいは「悲愴」とでも副題を付けたくなるほど。

 

 

4つのマズルカop.33では、第2曲 ニ長調が、ワルツのように優雅な演奏ではなく、もっと活発に逞しく奏されていたのが印象に残った。

これが本当のマズルカなのかもしれない。

 

 

遺作ワルツ(イ短調)では、短調部分で強く、長調部分で弱く、といった音の強弱の対比をあまりつけず、全体を繊細な弱音で通していたのが特徴的。

その割には、短調部分から長調部分に移るとき、真面目な顔つきからにこやかな顔つきへぱっと変化するのが面白かった。

 

 

そして、最後に奏されたバラード第4番。

これは圧巻だった。

この曲で私が好きな演奏は、中川真耶加のもの(こちら)である。

まるでソナタのように引き締まった解釈をみせる中川真耶加に比べ、山本貴志の演奏はより自由な、幻想曲風のものだった。

序奏からして、随分異なる。

中川真耶加の場合は前奏らしくさらりとセンス良くまとめるのに対し、山本貴志の場合はもっと意味を持たせ、窓辺から注ぐ優しい日の光のような、詩的なニュアンスを含ませる。

再現部からコーダにかけての高まりも、中川真耶加は曲のデモーニッシュな要素をソナタ風の形式の中にうまく取り込み、曲全体としての統一感を出しているけれど、山本貴志が弾くとあまりにも激しく情熱的で、形式美を軽く飛び越えてしまう。

彼の弾くこのコーダの激しさといったらまるで阿修羅のようで、聴き手は冒頭の日の光の優しさからすっかりほど遠いところに来てしまったことを思い知らされる。

それでいて、いくら激しくてもタッチが崩れることはなく、難しい三度和音の半音階的進行もごまかしは全くない。

このすさまじい演奏を聴いて、観客もみな口々に感嘆の意を表していたし、涙している人もいた。

私としても、中川真耶加と山本貴志、どちらのやり方も素晴らしいと思う。

ちょうど、ポリーニの引き締まったショパンと、アルゲリッチの情熱的なショパンとが、甲乙つけがたいのと同じように。

 

 

 

(画像はこちらのページからお借りしました)

 

 

 

 


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