山本貴志 ショパン全曲チクルス ~ショパンと巡るポーランド~
第2回 石畳の路に響くかすかな足音
【日時】
2016年10月30日(日) 14:30開演 (14:00開場)
【会場】
青山音楽記念館 バロックザール(京都市)
【演奏】
ピアノ:山本貴志
【曲目】
ショパン:ロンド第1番 ハ短調 op.1
ショパン:ノクターン ハ短調(遺作)
ショパン:2つのポロネーズ op.26
ショパン:2つのワルツ op.69(遺作)
ショパン:ポロネーズ第5番 嬰へ短調 op.44
ショパン:2つのノクターン op.55
ショパン:4つのマズルカ op,41
ショパン:幻想曲 ヘ短調 op.49
※アンコール
ショパン:前奏曲 op.28-15 変ニ長調「雨だれ」
山本貴志のショパンピアノ曲全曲演奏会シリーズの第2回である。
このシリーズには、できるだけ行こうと考えている。
山本貴志は、現代最高のショパン弾きの一人だと思うからだ。
それも、日本の、ではなく、世界の、である。
彼のショパンは、世に数多いるピアニストたちの味気ないショパンとは異なり、深いロマンを湛えている。
しかし、そのロマン性にもかかわらず、またピアノを弾いているときの彼の個性的な姿勢(つんのめりそうに見える)にもかかわらず、彼の演奏は意外とスタンダードで、自然なのである。
ノクターンのようなロマンティックな曲もさることながら、例えばスケルツォ第3番のような激しく力強い曲であっても、ベートーヴェンほど猪突猛進にはならず、ラフマニノフほど巨大趣味にもならず、あくまでショパンでありながら力強いのである。
ショパンは、きわめて斬新で魅力的な和声や、華麗なパッセージを作りだしたけれども、それらのさなかにもバッハやモーツァルトの影響を受けたであろうゼクエンツ(反復進行)など、古典性をふんだんに備えていると思う。
古典とロマンの統合――私の考えるショパンの様式に、ぴったりと当てはまる演奏をしてくれる数少ないピアニストの一人が、山本貴志なのだ。
彼の演奏からは、例えばつい先日聴いた小林愛実のような、耽美的・蠱惑的な音色は、聴かれない。
しかし、すっきりとしながらも、決して味気なくはない、爽やかな詩情を湛えた音色を聴くことができるのである。
彼の演奏でショパンのピアノ曲全曲を聴くことができるというのは、この上ない贅沢である。
今回の曲目にも、それほど頻繁には弾かれない曲がいくつかあり、とても興味深かった。
今回の演奏の中で最も印象に残ったのは、ポロネーズ第5番。
同じようなパッセージが続き、また中間部にマズルカを挟むという比較的長大な曲で、やや冗長な感が否めないような気がこれまでしていた。
しかし、彼の演奏で聴くと爆発しそうに激しいショパンの情念が随所に聴かれ、緊張感が持続して聴いていて全く飽きない。
そして彼の場合、情念を表出させるその表現が、やりすぎとなる一歩手前の絶妙なところでとどまり、古典性も保っているのが、とても良い。
その他、ショパン・コンクールのときからの彼の得意曲の一つである、ノクターン op.55-2も、相変わらず良かった。
今後のチクルスも今から楽しみである。