イタリアのボルツァーノで開催されている、ブゾーニ国際ピアノコンクール(公式サイトはこちら)。
8月31日は、ソロファイナルの第1日。
ネット配信を聴いた(こちらのサイト)。
ちなみに、2019年ブゾーニコンクールについてのこれまでの記事はこちら。
(2018/2019年ブゾーニ国際ピアノコンクール 予選開催中)
(2018/2019年ブゾーニ国際ピアノコンクール 予選通過者発表)
1.
Marek KOZAK (08/06/1993 Czech Republic)
BACH/BUSONI Chaconne BWV 1004
W. A. MOZART Sonata KV 576
R. CAMPO Hommage a Georges Cziffra
S. RACHMANINOV Sonata n. 2 op. 36 (version 1931)
ピアノはスタインウェイ。
バッハ/ブゾーニのシャコンヌ、彼ほどの技巧の持ち主にしてはテンポが遅く、表現も硬めで、やや慎重すぎる印象(ブゾーニらしさよりもバッハらしさを出そうとしたのかもしれないが)。
モーツァルトのソナタ第17番、こちらは一転して軽やかでよどみない演奏。
ラフマニノフのソナタ第2番、ラフマニノフにしてはタッチがやや軽め。
とはいえ、かなりよく弾けており、力任せにならずすっきりと音楽的。
終楽章の最後に向けてじりじりと盛り上がっていくのも良い。
テクニック的にも申し分ない。
2.
Shiori KUWAHARA (11/10/1995 Japan)
BACH/BUSONI Chaconne BWV 1004
L. V. BEETHOVEN Sonata n. 32 op. 111
R. CAMPO Hommage a Georges Cziffra
M. RAVEL La Valse
ピアノはスタインウェイ。
バッハ/ブゾーニのシャコンヌ、余裕のあるタッチ、力強く充実した音による堂々たる音楽づくりで、風格さえ感じられる。
再現部の盛り上げ方もドラマティックで感動的。
ベートーヴェンのソナタ第32番、テクニック的には全く不足がないのだが、音楽的にはあっさりしていて物足りない(この曲は技巧面で彼女にはいささか易しすぎる?)。
ラヴェルのラ・ヴァルス、こちらは曲の技巧的華やかさが彼女に合っており、グリッサンドも華麗でパワフル。
ただ、どっしりした直截的な力感を主体とした解釈であり、これはこれで良いのだが、この曲の「20世紀からみた19世紀のワルツ」らしさ、すなわち「神経質な優美さ」のようなものが感じられるとなお良かった。
3.
Shuan Hern LEE (19/07/2002 Australia)
F. J. HAYDN Sonata n. 52 op. 92
BACH/BUSONI Chaconne BWV 1004
A. READ Two Thoughts about the piano
S. PROKOFIEV Sonata n. 7
ピアノはスタインウェイ。
ハイドンのソナタ第52番、焦らず落ち着いた演奏で、力強さと軽快さのバランスも良く、ハイドンの最後を飾るこのソナタにふさわしい。
バッハ/ブゾーニのシャコンヌ、こちらも自然な力強さがあり悪くないが、先ほどの桑原志織のドラマティックな同曲演奏と比べてしまうとやや分が悪い。
プロコフィエフのソナタ第7番、これも余裕を持った無理のない演奏だが、その分セミファイナルでのイスラメイ同様、やや安全運転気味に感じられる面もある。
キレや表現力など、何かもう少しスパイスが欲しいところ。
とはいえ、終楽章など最後までテンポを崩すことなく余力を持って通せており、見事ではある。
4.
Valentin MALININ (25/08/2001 Russian Federation)
T. ADÈS Mazurkas for piano op. 27
F. J. HAYDN Sonata Hob XVI:40
BACH/BUSONI Choralvorspiel "Wachet auf, Ruft uns die Stimme", "Herr Gott, nun schleus den Himmel auf", "Ich ruf’ zu dir, Herr"
A. SKRJABIN Valse op. 38
S. PROKOVIEV Sonata n. 6 op. 82
ピアノはスタインウェイ。
ハイドンのソナタ第40番、軽快で歯切れのよい演奏。
バッハ/ブゾーニのコラール前奏曲、メロディの歌わせ方にロマン的な味わいがある。
コラール主題をあまり際立たせないのも、意外性があって逆に良い(際立たせなくても歌になっている)。
スクリャービンのワルツ、スクリャービンらしい幻想的な雰囲気、ワルツらしい洒脱さがよく出ている。
プロコフィエフのソナタ第6番、第1楽章冒頭からして一般的な解釈よりもずっと速いテンポによる軽快な演奏であり、個性的で面白い。
第2楽章も軽快で歯切れよく、第3楽章はロマン的で味わい深い。
終楽章も相当速く、にもかかわらずスムーズに弾きこなしていて見事。
どっしりと重厚というよりは軽快でシニカルな、洗練された演奏。
5.
Seung-Hyuk NA (27/08/1997 Korea, Republic of)
BACH/BUSONI Choralvorspiel n. 5 "Ich ruf zu dir, Herr Jesu Christ" BWV 639
S. RACHMANINOV 6 Moments Musicaux op. 16 (I-II-III-IV)
F. FILIDEI Berceuse
L. V. BEETHOVEN Sonata n. 32 op. 111
ピアノはスタインウェイ。
バッハ/ブゾーニのコラール前奏曲、先ほどのValentin MALININの同曲演奏に比べるとロマン的な味は薄めで、より素朴な感じ。
ラフマニノフの「楽興の時」、こちらはより情熱的で、かつ彼らしい丁寧な歌もあり、堂に入っている(第4曲はもう少し攻めてほしいが)。
彼はセミファイナルから渋い選曲が多かったが、やっと彼の本領が発揮できる曲が聴けた、という印象。
ベートーヴェンのソナタ第32番、先ほどの桑原志織の同曲演奏に比べ多少の工夫がみられるが、それでも満足のいく出来ではない。
この曲は、全体の大きな流れを大切に、かつ一音たりともおろそかにせず丁寧に、激しい葛藤や深い情感を十全に表現してほしい。
例えば松本和将くらい感動的に演奏できるのでない限り(その記事はこちら)、この曲を選ぶのは不利のような気がする。
6.
Georgijs OSOKINS (25/04/1995 Latvia)
BACH/BUSONI Adagio from BWV 564
L. V. BEETHOVEN Sonata op. 110
P. SCHOELLER Prelude 1 - Omaggio a Cy Twombly & Prelude 3 - Ritualis Vincent van Gogh
F. CHOPIN Sonata in si minore op. 58
ピアノはスタインウェイ。
バッハ/ブゾーニのアダージョ、彼らしい個性豊かな情感表現が聴かれ、音色も美しい。
ベートーヴェンのソナタ第31番も、ややロマン的に過ぎるきらいはあるが、やはり独特の歌い口と美音が聴かれ、これはこれで面白い。
現代曲も、彼が弾くと何だか妖しい色気が出る。
ショパンのソナタ第3番、ルバート(テンポの揺らし)のかけ方といい、内声の際立たせ方といい、やはり個性的。
ところどころクセの強さが気になるものの、常にロマン的情感に満ちていることは確か。
同じく個性的なことで知られるグレン・グールドの同曲演奏(逆にルバートを全くかけずテンポが一定)と比べると、よほどショパンらしい演奏になっている。
そんなわけで、第1日の演奏者のうち、私が室内楽ファイナルに進んでほしいと思うのは
Marek KOZAK (08/06/1993 Czech Republic)
Shiori KUWAHARA (11/10/1995 Japan)
Valentin MALININ (25/08/2001 Russian Federation)
あたりである。
次点で、
Shuan Hern LEE (19/07/2002 Australia)
Seung-Hyuk NA (27/08/1997 Korea, Republic of)
Georgijs OSOKINS (25/04/1995 Latvia)
あたりか。
と、一応分けたものの、あまり差はなさそう。
誰が選ばれてもおかしくない印象である。
前回のセミファイナルに比べ今回のソロファイナルでは、少なくとも第1日については、曲によって出来不出来のムラのある人が多かった気がする。
次回、第2日(9月1日)はソロファイナルの最終日。
桑原志織のパワフルな演奏、次のラウンドでもぜひ聴きたいものだが、どうなるだろうか。
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