イギリスのリーズで開催されている、2018年リーズ国際ピアノコンクール(公式サイトはこちら)。
9月8日は、2次予選の第3日(最終日)。
ネット配信を聴いた(こちらのサイト)。
ちなみに、2018年リーズコンクールについてのこれまでの記事はこちら。
(2018年リーズ国際ピアノコンクール 1次予選 まもなく開始)
(2018年リーズ国際ピアノコンクール 1次予選通過者発表)
(2018年リーズ国際ピアノコンクール 2次予選の曲目発表)
Eric Lu (age: 20 USA)
Schubert – Four Impromptus Op. 90, D.899
Chopin – Ballade No.4 in F minor Op.52
彼の演奏は、リリシズムにこだわるあまり、音楽の自然な流れが犠牲になっている気がして、私は実は少しばかり苦手意識がある。
甘口カレーでも食べているような感じというか、もう少しぴりっと引き締まってほしいと思ってしまうことがある。
しかし、こうして聴いてみると、音一つ一つの粒のそろい方といい、しっかりと安定した打鍵といい、やはりかなりの実力者である。
メロディの歌い口も堂に入っているし、ショパンのコーダでの右手の三度の半音階的上行音型や両手のユニゾンも鮮やか。
セミファイナルに進んでしかるべき人だろう。
Jean-Selim Abdelmoula (age: 27 Switzerland)
Janáček – In the Mists
Schubert – Moments Musicaux D.780 Books I & II
ヤナーチェクは、第1日に同曲を弾いたYilei Haoに比べると、澄んだ空気のようなこの曲の世界観がよく出ていると思う。
シューベルトのほうも、清潔感がある。
しかし、例えば彼の師匠だというアンドラーシュ・シフのような洗練された語り口は聴かれず、どちらかという素朴な印象。
また、テクニック面でのアピールのあまりできない選曲である。
Florian Caroubi (age: 28 France)
Liszt – Sposalizio, from the 2nd “Année de Pèlerinage (Italie)”
Schumann – Carnaval Op.9
フランスらしい、やや硬めの質感の美しい音。
ただ、テクニック的な不足のためか、シューマンではやや躍動感に欠け、もさっとしている箇所がある(「前口上」「パウゼ」など)。
また、テンポがややつんのめるように揺れることが多く、あまりうまくいっていると思えない(調子の悪いときのフランソワのような感じ)。
Tamila Salimdjanova (age: 26 Uzbekistan)
Schubert – Impromptu No.1 Op.90
Liszt – Sonata in B minor S.178
作為的でない、自然な感じの良さはある。
しかし、特にリストでは、第1日に同曲を弾いたAlexia Mouza等に比べ、テクニック的にいっぱいいっぱいな感じが出てしまっている(ところどころ、弾きにくそうなところでテンポが落ちる)。
ちゃんと弾けてはいるし、イマイチというほどではないのだが。
Fuko Ishii (age: 27 Japan)
Beethoven – Piano Sonata No.22 in F minor Op.54
Schumann – Davidsbündlertänze, Op.6
会心の演奏だと思う。
ベートーヴェンもシューマンも、彼女の持ち味がよく出ている。
非常に音楽的で、自然な歌に溢れており、感動的。
シューマンの「ダヴィッド同盟舞曲集」の第1部は、彼女の演奏で聴くのは今回が初めてだが、期待通りの名演である(ネット配信の不具合により冒頭部分は聴けなかったが)。
第2部のほうは今までに実演でも動画でも聴いているが、今回も変わらず素晴らしく、シューマンならではのほの暗いファンタジーがよく表現されている。
とりわけ技巧的な曲というわけではないからというのもあるかもしれないけれど、完成度も高い。
審査員の方々、どうにか2次予選通過させてくれないものだろうか。
Salih Can Gevrek (age: 26 Turkey)
Bach – Partita No.6 in E minor BWV 830
Rachmaninov – Preludes Op.32 IV, V, XIII
存在感のある、深々とした音。
ラフマニノフがよく似あう。
また、技巧的にもなかなかのもの。
ただ、全体的に「洗練の極み」という感じではなく、どちらかというと少し荒削りなところがある。
そのあたりをもう少し詰めると、かなりのピアニストになりそう。
Yuchong Wu (age: 22 China)
Bach – French Overture in B minor
Poulenc – Three Pieces for Piano
Bartók – Out of Doors Suite
力強い打鍵とともに、冷静で無機質な音楽づくりがこれらの曲に合っている印象。
完成度も高い。
ただ、そのぶん少し安全運転的に聴こえてしまうきらいはある。
バルトークなど、畳みかけるような迫力、上へ上へと昇り詰めるような熱狂が欲しいところ(そういうものは演奏者自身が望んでいないのかもしれないが)。
とはいえ、全体的になかなかの演奏だとは思う。
Evelyne Berezovsky (age: 27 United Kingdom)
Chopin – Ballade No.4 in F minor Op.52
Messiaen – Vingt regards sur l’enfant Jesus, Le Baiser de l’enfant Jesus
Rachmaninov – Sonata No.2 in B flat minor Op.36
クセやアラはあるけれど、情熱的で勢いのある音楽をする個性的なピアニスト。
技巧的な華やかさにも欠けない。
ルバートはやりすぎと思うこともあるけれど、音に艶があり、音楽の流れにはパッションがあって、独特の魅力を放っている。
先日、名ピアニストの子は苦労するというブログ記事を書いたけれど、彼女は父ベレゾフスキーの才能をしっかりと受け継いでいる感じ。
そんなわけで、第3日の演奏者のうち、私がセミファイナルに進んでほしいと思うのは
Eric Lu (age: 20 USA)
Fuko Ishii (age: 27 Japan)
Evelyne Berezovsky (age: 27 United Kingdom)
あたりである。
次点で、
Salih Can Gevrek (age: 26 Turkey)
Yuchong Wu (age: 22 China)
あたりか。
第1~3日を併せて、セミファイナルに進める人数である10人を選ぶとすると
第1日
Jinhyung Park (age: 22 South Korea)
Alexia Mouza (age: 28 Greece / Venezuela)
Yoonji Kim (age: 29 South Korea)
Yuanfan Yang (age: 21 United Kingdom)
第2日
Mario Häring (age: 28 Germany)
Anna Geniushene (age: 27 Russia)
Siqian Li (age: 25 China)
第3日
Eric Lu (age: 20 USA)
Fuko Ishii (age: 27 Japan)
Evelyne Berezovsky (age: 27 United Kingdom)
あたりになる(一人多かったので、テクニック的な面からAljoša Jurinićを泣く泣く外した)。
さて、2次予選の実際の結果は下記のようになった。
【セミファイナル進出者】
第1日
Xinyuan Wang (age: 23 China)
第2日
Pavel Zemen (age: 25 Czech Republic)
Aljoša Jurinić (age: 29 Croatia)
Mario Häring (age: 28 Germany) ○
Anna Geniushene (age: 27 Russia) ○
Siqian Li (age: 25 China) ○
第3日
Eric Lu (age: 20 USA) ○
Tamila Salimdjanova (age: 26 Uzbekistan)
Yuchong Wu (age: 22 China)
Evelyne Berezovsky (age: 27 United Kingdom) ○
なお、○をつけたのは私がセミファイナルに残ってほしかった10人の中の人である。
10人中5人。
うーん、こうなるとは。
石井楓子が落ちてしまったのは本当に残念。
そればかりか、優勝候補と思っていたJinhyung Park、Yuanfan Yangも落ちるとは。
Alexia MouzaやYoonji Kimあたりも、通りそうな気がしたのだが。
皆レベルが高いので拮抗しており、仕方ないか。
それにしても意外な結果だった。
いずれにしても、私の中でリーズコンクールへの興味は半減してしまった。
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