「眼がまぶしくてサングラスが必須です…」
10年前からの羞明の整体治療の解説です。
患者Aさん=41才-女性-主婦の症例
① Aさんの病歴・・・
患者Aさんは。別件(嗅覚障害)の治療で来院されていましたが、30代の頃から両眼がまぶしくなり(羞明)、昼間の外出時などにはサングラスをしないと歩きにくく、特に自動車の運転時にはサングラスが必須なので、本件も併せて治療する事になりました。
② Aさんの診察
【羞明に関する診察所見】
・視力は左右とも1.0くらいだそうです。視野の異常も無く、クリアに見えるそうです。眼圧はよく覚えていないそうですが、正常範囲だったそうです。
・眼の違和感や眼痛は無いそうです。目ヤニ(眼脂)やドライアイも無く、花粉症も無いそうです。
・眼球の運動に異常は無く、瞳孔は円形で正中にあり、大きさに左右差はありませんでした(☚当院での視診時は、それほど散瞳しているようには見えませんでした)。
・眼瞼結膜は薄めのピンク色で、強膜(白眼の部分)も白色でした。しかし、両眼瞼ともやや下垂傾向で、眼裂が少し狭い印象がありました。
・対光反射は左右とも1秒以内に生じました。また輻輳反射も正常に内よせでき、その際の縮瞳もほぼ同時に生じました。
・上下肢の腱反射はやや亢進気味でした。
・胸頸部の聴診上、血管雑音や呼吸音の異常は特にありませんでした。
・顔色全体がやや「くすみ」気味で、昔から「顔色が悪いね」と言われていたそうです。また左右の上下眼瞼は「くま」があり、かなり濃く見えました。「くま」は20代頃から気になっていたそうですが、最近さらに悪化傾向なので、この「くま」の件で美容クリニックを受診するかどうかを、検討中だったそうです。
【嗅覚障害(Aさんの主訴)の診察所見】
・血液検査で異常は指摘されていないそうです。
・嗅覚の具体的な状況は、家族などの周囲の人がある匂いに気づいても、Aさんはほとんど匂わず、その匂いの発生源に鼻を数㎝まで近づけて、初めて匂いを感じるそうです。この様な事は、5年前に風邪をひいて嗅覚障害になるまで、一度も無く、むしろ嗅覚はいい方だったそうです。
・5年前の風邪の罹患後、あるいは2年前の新型コロナ罹患後、眉間の奥の方で疼痛or違和感が数週間ほど続いていたそうです。現在はかなりマシになっていますが、軽度の違和感は持続しているそうです。
・鼻水は出ないそうですが、鼻づまり感はあり、常時左右どちらかの鼻がつまっている感じがするそうです(完全閉塞ではない)。後鼻漏は無いそうです。
・味覚の異常は感じていないそうです。
・中耳炎、鼻炎/副鼻腔炎などの既往は無いそうです。ただ若い頃によく扁桃腺が腫れていたので、その除去手術を勧められていたそうですが、結局手術はしていないそうです。
・虫歯や歯周病は無いそうですが、口内炎は度々生じるそうです(下唇の裏に好発)。
・気道は正中にあり、甲状腺の腫脹/萎縮はありませんでした。
・20代から両手両足の冷え症が酷いそうです。
・月経周期は23~25日で、生理痛はほぼ無いそうです。但し、出産前までは生理痛は酷かったそうです。
・十年以上も自宅でスマホを使用して仕事をしているので、ほぼ一日中スマホを操作しているそうです。Aさん自身、「私はスマホ首だと思います」と仰っていました。
・頬部や頸部の筋肉群が著明に緊張していました。
・嗅覚テスト(片方の鼻口を指で押さえて臭い物質を嗅いでもらう)では、右側を「10」とした場合、左側は「6」程度しか臭わないそうです。またその際、臭い物質を曝露してから匂いを感じるまで、左右とも十秒以上かかりました
➂ 治療目標と整体治療…自律神経失調を回復する整体治療
⑴ 頸部交感神経の失調を回復し、瞳孔の調節機能を回復する
・頸部交感神経幹解放テクニック
・翼口蓋神経節解放テクニック
④ 経過と結果・・・
・1診目治療直後、
(Aさんの主訴である嗅覚障害とは別に)「瞼が開きやすい感じがします。」と仰っていました。
・3診目来院時、
「自動車の運転も、まぶしさ(羞明)を大分気にせずできました。」と仰っていました。
・7診目来院時、
「ここのところほとんど、まぶしさ(羞明)を感じなく運転できます。」と仰っていました。
・Aさんの主訴である嗅覚障害の治療が終了する12診目まで、羞明もほぼ安定して生じていなかったので、本件も治療を終了する事にしました。
⑤ 今回の症例の概説、、、
◆ Aさんの羞明(まぶしさ)の原因は"スマホ首" ?!
・羞明はドライアイや結膜炎、あるいは緑内障・網膜剥離・虹彩炎・ぶどう膜炎・視神経炎・アディ症候群などで生じる事がありますが、中でも有名なものは白内障があります。しかしこれらの疾患は、Aさんについては眼科医院では確認されず、当院での診察でもそれを匂わす様な兆候は特にありませんでした。
・ですから上記疾患以外の羞明の原因を探す必要がありました。するとそのヒントとなりそうなものが、Aさんの主訴である嗅覚障害の中の所見にありました。それはAさん自身が「私はスマホ首だと思います」と仰っていた事と、その結果の一つであるかもしれない「頬部や頸部の筋肉群が著明に緊張」所見です。
「スマホ首(☚下記注1=整体コラム参照)」と「頬部や頸部の筋肉群が著明に緊張」とAさんの羞明の関係は、以下のとおりです。
頸部筋肉群の緊張-硬化は頸部交感神経幹を失調させる
◆ スマホ首に起因する頸部交感神経幹の失調が羞明原因か ?!
・スマホ首などのライフスタイルにより「頬部や頸部の筋肉群が著明に緊張」が生じる事で、頸部交感神経幹(下記注2参照)に神経の伝導/伝達障害が生じ、その結果頸部交感神経幹の自律神経機能が失調する、つまり同神経幹の支配する「瞳孔散大筋」が失調し(散瞳が亢進したままとなり)、自動車運転時などの明るい場所においても上手く散瞳状態から縮瞳状態に移行できず、眼球内に光が大量に入る結果羞明を生じるのではないか、といった仮説です。
頸部交感神経幹
◆ Aさんの眼瞼下垂も頸部交感神経幹の失調に起因 ?!
・またこの仮説=頸部交感神経幹の失調=は、次の所見でも裏付けられると思います。それはAさんの両上眼瞼が軽度下垂状態(眼裂の軽度狭小化)だったことです。上眼瞼の挙上は、その主同筋として動眼神経支配の「上眼瞼挙筋」によって支配されていますが、さらにもう一つの筋肉=頸部交感神経幹(上頸神経節)支配の「上眼瞼板筋(ミュラー筋)」によっても、補足的に支配されています。
上眼瞼を挙上する上眼瞼板筋(ミュラー筋)
・従って頸部交感神経幹の失調により上眼瞼板筋の筋力が低下すると、当該眼瞼は軽度下垂し、眼裂が少し狭小化する事が知られています(☚ホルネル症候群/下記注3参照)。そしてAさんにも両眼瞼の軽度下垂があり、それは結果的に頸部交感神経幹への整体治療で改善している事からも、Aさんの頸部交感神経幹の失調は存在していたのでは、と考えてよいと思います。特に自動車運転時は交感神経が緊張しやすいので、余計に「交感神経幹緊張亢進➡瞳孔散大筋緊張(瞳孔散大)➡羞明」となりやすかったのかもしれません。
◆ 頸部交感神経幹の失調の原因、、、スマホ首の影響か ?!
・その頸部交感神経幹の失調の原因ですが、それは下記注2)の様に多岐にわたり、中には生命予後にも重大な影響を及ぼす病態もあり、注意を要します。ただAさんについては、上記「② Aさんの診察結果」に掲げる様に、「スマホ首」と「頬部や頸部の筋肉群が著明に緊張」以外に、とくにありませんでしたので、その緊張を解消する整体治療を施術したわけです。
◆ Aさんの主訴=嗅覚障害にも頸部交感神経幹の失調が関係 ?!
・余談ですが、Aさんの主訴である嗅覚障害の原因の一つとして、この頸部交感神経幹の失調も絡んでいたかもしれません。それは、同神経幹は頭顔面の血管径(血流)も調節するからです。つまり同神経幹の失調によってAさんの嗅覚異常に原因する血管径が狭小化し、血流低下を招き、その結果嗅神経・他の局所免疫機能や細胞再生力などが減弱し、嗅覚障害になっていたのかもしれないからです。
・結果的に羞明だけでなく、眼瞼下垂も改善している事から、上記仮説で概ね妥当であったのでは、と思います。
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注1) スマホ首について
拙著 整体コラム 「ストレートネック/スマホ首…ならぬ義務教育首とその関連愁訴」を参照ください。
注2) 頸部交感神経幹
交感神経幹は頸椎上端から尾骨にかけての脊椎側前方に長く連なる一対の神経幹で、心筋や全身の平滑筋および腺などの自律機能を調整するが、なかでも頸椎側面に位置するものを頸部交感神経幹という。同幹には上・中・下神経節があり、特に上頸神経節から伸びる神経は、頭顔面の臓器の自律機能調節や血管径(血流)を調節する。
頸部交感神経幹
注3) ホルネル症候群
視床下部や脳幹などの中枢神経的な異常、あるいは頸部交感神経幹の末梢神経的な異常によって、
1.縮瞳
2.眼瞼下垂
3.眼裂狭小or眼球陥没
が生じる現象をいう。
その原因は中枢性では脳卒中や脳腫瘍などの脳疾患、末梢性ではパンコース腫瘍(肺尖部癌)、胸部大動脈瘤、頸部リンパ節腫脹,頸部および頭蓋損傷など、多岐にわたる。
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