70年代の金字塔~その1:『ダーティハリー』の44マグナム弾(リバイバル) | 徒然逍遥 ~電子版~

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こんにちは。行政書士もできる往年の映画ファンgonzalezです。
訪問ありがとうございます。

 

心ひそかに懸案事項だった【70年代の金字塔】シリーズ始めました。

映画をリアルタイムで劇場鑑賞し始めたのは70年代ど真ん中。斜陽産業化が叫ばれ邦画界は沈滞。いきおい大作・話題作を送り出し必至の興行を打つことに。

そんな中、脇目もふらず洋画オンリーでどっぷり浸かっていたあの頃。

そこで、この21世紀にまで影響が伺えるような70年代の画期的作品をレポートしてみるよ。

第一弾は世界の独裁者たちをも魅了してやまないレジェンドとも言えるこれ。

ダーティハリーDVD
『ダーティハリー』 Dirty Harry (’71) 102分

梗概

サンフランシスコ市のハリー・キャラハン刑事(クリント・イーストウッド)が直面した連続射殺事件の犯人サソリ(アンデイ・ロビンソン)は3人目を殺ったあとで彼に痛めつけられる。が、違法捜査が原因で不起訴処分となり大手を振って闊歩している。
しかしハリーの予想通りサソリが新たな犯行に及んだ。スクールバスを乗っ取って市に対し身代金を要求。ハリーは独断で敢然と奴に立ち向かう。

いやあ、誰でも知ってる作品なんでコメントしづらいですね。
でも基本を。ハリー・キャラハンは苗字から分かる通りアイリッシュ系です。
その昔貧困にあえいでいたアイルランドから大勢の移民が新大陸へと押し寄せました。彼らの中には警察や消防署に勤務する者が多数いました。そしてその子孫たちも同じ職業を選択するケースが多いようです。


映画の中の刑事では『ダイ・ハード』マクレーンMcClane『ブラニガン』ブラニガンBranniganなど名前から一発でアイリッシュ系と判別できるはず。

 


そして狙撃犯のサソリはベトナム帰還兵という設定。
ベトナム戦争敗戦の色濃い時代。大義なき戦争に世論は超批判的状況。帰還兵たちの多くは精神を病み社会復帰もままならない状態。
そんな社会状況の中に出現したサソリは何やら暗に戦争批判の象徴っぽい気もしますがモデルがいるんですね。今でも未解決ですが“ゾディアック”を名乗る者に5人が殺されました。これが下敷きになっているようです。


 

さて、本作はその後の犯罪映画に多大なる影響を及ぼしたことでも有名です。あのクールな立ち振る舞い。気の利いたセリフ。現代の都会的保安官。みたいなところが援用されてゆきます。
ちょっと付け加えるとバッジを投げ捨てる本作のラストシーンは『真昼の決闘』(52)の最後の場面とのダブリが確認できます。ここからもハリーは現代の保安官役と言うことが分かります。


そこで立ち振る舞いは似ても似つかぬものですが『ダイ・ハード』マクレーン刑事は異形の末裔と言へるでせう。

マクレーン刑事
劇中の会話から推察するに彼ほど西部劇大好き刑事は大都会NYに見当たらないのでは。拳銃一丁でマシンガン武装した連中に立ち向かう姿は孤高の保安官みたいです。

何しろ『ダイ・ハード』には「保守主義者」の意味もあるそうですから前時代的センスにもうなずけます。
なので彼もハリー同様現代の都会のシェリフ役なのですね。


そう言へば『3』では公衆電話を次々とたどっていくエピソードがありましたがこれはモロに『ダーティハリー』の援用でした。

ことほど左様にジョン・マクレーンですらハリー・キャラハンに連なる系譜に分類可能なのです。いかにこの映画がメルクマール的フィルムであるかが垣間見られます。

 

ちなみにサダム・フセインや北の将軍様も本作の大ファンだったと聞き及んでいます。米国の敵対国のボスから好まれるというのも本作の魅力の普遍性を物語っていると言へるのでせうか。きっとそうなんでしょうね。

 

以上、2014年1月6日の記事の修正・再掲となります。以下、大幅加筆パートです。

では、どこがそんなに画期的だったのか。どこがそんなに受けたのでしょうか。


先ず犯人像。

早くもベトナム帰還兵による連続殺人事件を真正面から取り上げていること。これ以降『突破口!』(73)『マシンガン・パニック』(73)『タクシードライバー』(76)『ローリングサンダー』(77)『ブラックサンデー』(77)『合衆国最後の日』(77)『エクスタミネーター』(80)などの作品群で、陰に日向にベトナム帰還兵が犯罪に絡んでくるようになります。

 *最後まで卑劣な下衆野郎*
 

次いで、極悪人でも人権が守られるべし、という主張が前面に押し出されること。

特に本作ではミランダ警告が捜査の足を引っ張るなど、リアルな描写がもどかしさを増幅。公民権運動の影響からか犯罪者≒被疑者の権利が重視され、相対的に被害者側の権利が顧みられない風潮に納得できない市民層が増大。そんな時代背景があったと思われます。
よって、犯罪被害者たちはハリーの行動に胸のすく思いがしたに違いありません。


余談ですが、それを裏付けるかのように同年公開作『わらの犬』を始めとして、『狼よさらば』(74)『リップスティック』(76)『ローリングサンダー』(77)『エクスタミネーター』(80)など、被害者側が自らの手で加害者側を退治する作品群が毎年のようにリリースされます。
注目すべきは被害者女性が自ら銃を取ったり、ベトナム帰還兵がスキルを活かしたりして自力救済に立ち上がるドラマが登場したことでしょう。

 *サソリよ、君は何の十字架を背負っているのか*
 

そして最大の魅力は主人公ハリー・キャラハンのガンファイト

大型拳銃S&W M29レボルバー44マグナム弾を遠慮なくがんがん打ち込みます。ベレッタではありません。巻頭一番その威力が発揮されるのを目の当たりにするでしょう。
シロートゆへ誇張かどうか分りませんが、ハリー曰く世界一破壊力ある拳銃とのこと。

付け加えれば、当時としては過激描写が多かった、というシンプルな理由で観客に受けたこともあるでしょう。

 *殴り屋さんの強烈無比なパンチ力*

 

以降、ハリー・キャラハンと同年公開作『フレンチ・コネクション』のポパイらを源流とする、型破りな過激派デカを主人公に据える刑事アクション映画が量産されていく傾向が顕著。

『ダーティハリー』こそがアクション映画に関しては70年代の金字塔なのでした。

 *体を張ったアクションも今は昔*
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最後に、自分的にはハリーの服装に言及しないわけにはいきますまい。

冒頭、

・ライトグレイのヘリンボーン柄ウールジャケット

・(白と思われる)レギュラーカラーシャツ

・紺とエンヂのストライプ幅が広いネクタイ

・エンヂのウールヴェスト

・ミディアムグレイで細身のウールトラウザース

・黒いオックスフォード・シューズ

といった出で立ちで登場。

 

ジャケットは三つ釦段返りなしの幅広なラペルエルボーパッチ付き袖のボタンは二個。限りなくアイヴィースタイルに近いのが面白いですね。ボタンダウンシャツでないところがポイント。紐靴は細身のシェイプで英国風のようにも見受けられます。

 

ヘリンボーンジャケットとエンヂのヴェストが自分好みでした。

実は手持ちのワードローブでソックリの服装ができるので、自撮りをアップしようと試みましたが、上手く写せず断念。

クライマックスのサソリとの決戦では、

・茶のスリーピース・スーツ

・(白と思われる)レギュラーカラーシャツ

・茶系の小紋プリントタイ

・茶のオックスフォード・シューズ

という塩梅で、全体を茶系で統一して手堅くまとめています。

 

ちょっと見、スーツは三つ釦段返りで幅広な襟、ウールではなく化繊生地のように見えます。これまたアイヴィースタイルっぽいんですが、ボタンダウンシャツではありません。

アイヴィーリーグ出身ではないので、これで正しい着こなしなんでしょうね。

 

服装談義は以上ですw

本日も最後までお読み下さりありがとうございました。

*憎々しいサソリがはまり役のA・ロビンソン怪演!*
 

監督:ドン・シーゲル
『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』『突破口!』『アルカトラズからの脱出』
撮影:ブルース・サーティース
『レニー・ブルース』『ビッグ・ウェンズデー』『ビバリーヒルズ・コップ』
音楽:ラロ・シフリン
『ブリット』『燃えよドラゴン』『ラッシュアワー』シリーズ

 

【70年代の金字塔】映画シリーズ

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