70年代の金字塔~その5:『ロッキー』合衆国再起動応援歌 | 徒然逍遥 ~電子版~

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聖林映画勢揃い【70年代の金字塔】映画シリーズ続行中。

あのテーマ曲と共に、生卵六個、朝のランニング、シャドウボクシング・・・男児・男子はフザケ半分であれこれ真似たことだろう。既視感バリバリだ。そう、『燃えよドラゴン』(73)以来の男子のハート鷲掴み作品である。

『ロッキー』 Rocky (’76) 119分
梗概
30歳にもなって高利貸の集金で糊口をしのぐロッキー・バルボア(シルヴェスター・スタローン)はしがない三流プロボクサー。ペットショップ店員のエイドリアン(タリア・シャイア)と言葉を交わすだけだったが、それを心の杖として生活していた。しかし自堕落な生活を送る彼はトレーナーのミッキー(バージェス・メレディス)にも愛想を尽かされてしまう。そんな折、合衆国建国200周年記念の一大イベントとして、ヘヴィー級チャンピオンのアポロ・クリード(カール・ウエザース)からタイトルマッチの相手に指名される。尻込みするロッキーだったが、エイドリアンとその兄ポーリー(バート・ヤング)やミッキー、そして地元フィラデルフィアの市井の人々からの応援を得て、15ラウンド最後まで戦い抜く決意を固め試合に臨む。

う~ん、70年代の映画っていいわ~。と、かなりバイアスのかかった記憶が心地良い。本作などまさにそれ。能書きはいいから兎に角観てみろ。と言いたくなる。

どうでもいい話だが、我が街では何故か『ピンクパンサー3』(76)が同時上映だった。
 
左矢印やっぱ『ロッキー』と言ったらこれか?
 

公開当時、聞くところによると『デスレース2000年』(75)などに出演していたものの無名俳優の一人だったスタローンが、三日程度で書き上げた脚本だったとか。
そんなことも手伝ってか、製作に乗り出したユナイトも製作費を大分低く設定したようである。そのあたりは比較的地味めなキャスティングを見れば、さもありなんと得心。


監督も低予算映画の手腕が買われ、ジョン・G・アヴィルドセンなる知名度の低い人物が起用されている。それでも、劇中のロッキーさながらに、スタローンもアヴィルドセンもこれを起点に大化けした。


しかし、彼はジャック・レモンがオスカー受賞した『Save the Tiger』(73未公開)を手掛け評価されてもいる。が、やはり地味な作風で未公開なのも頷ける。DVDはリリースされているものの。


『ロッキー』大ヒット後、その流れに乗り我邦において過去のアヴィルドセン監督作品が公開されたのをご存じか。『泣く女』(71)という成人映画である。いわゆる洋ピン。残念ながら未見だが、彼もこんなものにも関わっていたのか、と驚いたものである。
ま、国内で言うなら、現在活躍中の名手たちの大勢がピンク映画やにっかつ映画で修業したのと似ているか。

 *原題名は『CRY UNCLE!』*

 

では、この映画のどこが受けたのか。
米国内に目を向けてみよう。
ベトナム戦争で疲弊した世界の超大国は、昔日の面影もすっかり影を潜めていた。それは、ロッキーが集金するエリアやロードワークする街中などのすさんだ雰囲気や古ぼけたスラム街的光景からも窺い知れる。


1975年当時は
アメリカ合衆国建国200周年記念年だった。

しかも、独立宣言のステージとなったフィラデルフィアが本作の舞台。ロッキーが駆け上がる階段の先には、独立の象徴リバティ・ベルがあるのではなかったか。


だが、犯罪率の増加、帰還兵のPTSD、失業、ドルの凋落・・・負の遺産に喘ぐ米国社会と下層市民たち。この建国記念年をターニングポイントとして気分だけでも一気に盛り返したい。そんな空気感もあったことだろう。


そんな情勢の中、明るく輝く彗星の如くに希望の光を照らしたのが『ロッキー』だった。
奇跡的なグッドタイミング
劇中の主人公不撓不屈のファイトを通して、そこに己の姿を重ね合わせ、失われつつあった“アメリカンドリーム”再興を体感したのだ。


俺たち私たちは負け犬なんかじゃない。たとえ百歩譲ってそう見られたとしても絶対に再起可能なのだ。星条旗よ永遠に!そのように励まされた国民も多かったろう。
本作は、満身創痍の合衆国でも決してダウンすることなく、自らの足で立ち続ける。再度天高く羽ばたけ。不死鳥ならぬ白頭鷲のように。そんなメッセージを発信しているように思えたことだろう。


“アメリカンドリーム”は有効なのだ。と自己投影したに違いない。


 

保守派からは文字通り国威発揚のお手本と見做されたのではなかろうか。
反戦運動、女性解放運動、公民権運動などの民主勢力・革新勢力のパワーで劣勢に回っていたコンサバ派は巻き返しを図る力を得たことだろう。


ついでだが、ロッキーはイタリア系でラティーノ。対するチャンプはアフリカ系の黒人。両者ともにWASPではないところが時代を反映しているが、黒人に負けない移民の子孫・準白人、みたいな構図を読み取るのはディープリーディングの誹りを受けるだろうか。


結句、国民国家の自信回復カンフル剤みたいなドラマが大いに受けたに違いない。

 

本邦においては『燃えよドラゴン』が受けたのと同様シンプルな理由だったと思う。

生卵6個ドリンク、古びたスエットスーツ、サンドバッグならぬミートバッグ、片腕立て伏せ、シャドウボクシングなど、どれもが物珍く感じられたものだ。

15Rに至るまでの臨場感ハンパない壮絶な激闘に我知らず拳を握り締め、身を乗り出すようにしてスクリーンに見入っていた。次第に二人の顔面が崩壊するリアルな様におののいた。

ロッキーの「エイドリア~ン」にも心震えた。

問答無用の身体的アクションの吸引力にやられてしまったのだ。

スポ根モノが大好物という国民的気質も輪をかけたに相違ない。

 

して、何が画期的だったのか。
これもまたベトナム戦争あってのことだが、第二次大戦以降これほどまでに国民を鼓舞する映画は空前にして絶後の存在と言えよう。


もちろん、たかだか一本の低予算映画で国力が増進するわけではなかろう。それでも国民の気分が高揚すれば、社会情勢における好機のモメンタムを引き寄せることに寄与することになる。なんであれ自信回復こそが喫緊の課題だったのだ。
そういった観点で観れば、本作が受けた理由と画期性は不可分の関係で、既に記述済みということになる。


 

ところで、このドラマの面白いところは、主人公のボクサーが勝利するという安直路線を回避。勝てないが敗けもしない、という際どい落としどころを狙ったことだ。
同年に、これに先んじて公開された『がんばれ!ベアーズ』も、弱小チームが優勝してハッピーエンド。ではなく、結局2位に甘んじる。という現実路線も却って清々しい。


両作とも、勝利せずとも頂上決戦に至るまでのプロセス-あきらめずに努力すること-が観る者を惹きつけてやまない。すなはち、努力は必ず報われるわけではないが、決して無駄ではないことを提示してくれる。もちろん次点に甘んじることを推奨しているわけではない。


いずれにせよ、奇しくも合衆国建国200周年のタイミングでスポーツを通じて観る者を奮い立たせてくれるフィルムが登場したことは天の采配と言いたくもなろう。

 *200周年記念ロゴマーク*
 

さて、本作もそのサウンドトラックがあまりにもマッチし過ぎるほどに素晴らしい。4コ年長の兄貴分がLP盤を購入し、ステレオ装置で聴かせてくれた。自分はシングル盤を購った。
高揚感をもたらす分かりやすいサウンドは今やギャグ的に使われる定番となっている。これぞエバーグリーンの名曲。聴けば全身の血行が良くなること請け合いだ。

『ロッキー』のテーマ曲 必聴!


作曲のビル・コンティもこれで一気にブレーク。『ロッキー』シリーズ全6作の『ロッキー・ザ・ファイナル』(06)までその殆どを手掛けた(4作目を除く)ほか、アヴィルドセン監督とのコンビで『ベスト・キッド』シリーズや、『007ユア・アイズ・オンリー』(81)のスコアを担当。83年の『ライトスタッフ』で遂にオスカーをゲットした。

オスカーがらみで言えば、なんと作品賞、監督賞、編集賞を見事射止める快挙。

助演男優賞にはバージェス・メレディスバート・ヤングがダブルノミニーされてもいた。

低予算ながら丁寧で真面目な作りがクォリティの高いフィルムに結実したカタチだ。

ちなみに、B・ヤングは翌年『合衆国最後の日』に出演し、大統領を人質にとって立てこもる。祖国合衆国に対するシニカルな視線の作品で、両極とは言わないまでも対照的な映画にキャスティングというのも面白い。

大統領が「エクスペンダブルズ」に仲間入り?『合衆国最後の日』

 *原題名は“黄昏時の最後の輝き”*
やはり翌年登場の『スターウォーズ』は『ロッキー』路線を継承しているように思えてこれまた興味深い。

 *う~ん、復古調www*
聖林映画はこの後しばらくの間、ベトナム後遺症と保主的色彩傾向の映画が並走していくことになるだろう。

 

本日も最後までお読み下さりありがとうございました。

*芝居を超えた叫び「エイドリア~ン」を聴け!*

 

製作:アーウィン・ウィンクラー、ロバート・チャートフ

『ロッキー』シリーズ『ニッケル・オデオン』『レイジング・ブル』『ライトスタッフ』

監督:ジョン・G・アヴィルドセン
『二人でスロー・ダンスを』『ベスト・キッド(1~3)』『ロッキー5/最後のドラマ』

音楽:ビル・コンティ
『ハリーとトント』『結婚しない女』『グロリア』『勝利への脱出』

 

【70年代の金字塔】映画シリーズ

70年代の金字塔~その1:『ダーティハリー』の44マグナム弾(リバイバル)

70年代の金字塔~その2:『燃えよドラゴン』の衝撃波

70年代の金字塔~その3:『エクソシスト』ビッグ・バジェット・ホラーの開拓者

70年代の金字塔~その4:『ジョーズ』サメ映画のビッグバン

70年代の金字塔~その5:『ロッキー』合衆国再起動応援歌

70年代の金字塔~その6:『スターウォーズ』で勇気りんりん

70年代の金字塔~その7:『エイリアン』の生存者及び女性像を見よ!(リバイバル)