70年代の金字塔~その2:『燃えよドラゴン』の衝撃波 | 徒然逍遥 ~電子版~

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【70年代の金字塔】映画シリーズやってます。

全国的規模で小学生からいい大人までが熱狂したブルース・リー師匠。夭折したことから本邦にてこれがロードショウ公開されたときには既にこの世にいない人だった。


『燃えよドラゴン』 Enter the Dragon (’73) 98分

梗概
武術の達人リー(ブルース・リー)は諜報機関から、かつての同門で破門されたハンが3年に一度主催する武術大会に潜入し内偵するよう依頼される。ハンは個人所有の孤島で何やら大規模な犯罪に手を染めている様子。香港に向かう一行には借金返済目的のローパー(ジョン・サクソン)や警官に反撃して逃亡中のウィリアムズ(ジム・ケリー)もいた。実は武術大会は表向きで、ハンは使えそうな部下をリクルートするための見本市。島は麻薬工場だった。ハンは反抗するウィリアムスを殺害。ローパーに死体を見せ部下になるよう強要。リーは暗躍するも捕らえられる。
武術大会でリーの公開処刑を目論むハン。だが、ローパーも加わり襲い来るハンの部下をなぎ倒してゆく。

自分は公開当時小学生だったが、級友3人が空手道場に通いだしたことを思い出す。あの頃は我邦において詠春拳はもとより、長拳八極拳八卦掌など中国武術人口などほんのわずかだったことだろう。仕方ないので空手を選択したと思われる。
そんな本格派のかぶれ方をせずとも男子はみんな掃除の時間に雑巾や箒などを駆使して怪鳥音を発しつつ、存分に暴れまわったのではなかろうか。さぞや女子は迷惑したに違いない。


また、近所に住まう一学年下の男児の親戚のお兄さんがホンモノのヌンチャクを所持しており、ちょいちょい練習しているのを見かけた。そのヌンチャクを実際に手に取ってしげしげと見入ったものだ。後でこっそりと練習用のプラ製ヌンチャクを購入した。


大当たりに気を良くした配給会社は次々とB・リー主演作の公開に及ぶ。『ドラゴン危機一発』(71)『ドラゴン怒りの鉄拳』(72)『ドラゴンへの道』(72)や、吹替を使って完成させた『死亡遊戯』(78)なんてのもあった。そしてどれもがヒット。

挙句ドラゴンの名を騙る別人主演の香港映画も大量流入。あたかもカンフー・バブルとでも言ったような状態に沸いた。

ジム・ケリーだぞっ
 

さて、では本作の何が受けたのか。何が画期的だったのか。
一つには、西洋流アクションとは一線を異にする所謂カンフーアクションの目新しさ無敵のリーのカッコ良さへの憧れが凄かった。


しかもただの殴り合いやボクシングではないのである。双方が武術を駆使しての全身を使った肉弾戦なのだ。繰り出す数々の神技。東洋の神秘。その玄妙なる所作動作に心酔した。が、結局はその過激性に熱狂したというのが本当のところではなかろうか。

 *仇敵オハラにミル・マスカラスばりの空中殺法!*
例えば、妹の仇・オハラとの対戦で、倒れ伏したヤツに飛び乗り踏みにじり息の根を止めつつ、泣き顔みたいに顔をゆがめて奇声を発するシーンをスローで魅せる。観客は物凄い迫力に声も出ず。

 *あ~ぁ~ぁ~!!!!*
その後『ドランクモンキー 酔拳』(78)以降、全くタイプは異なれどジャッキー・チェンへとカンフーアクションの系譜は引き継がれていく。


 

では、本作の画期性とは何だったのか。
まず、非アングロサクソン系黒人以外の有色人種がヒーローであること。
当時はブラックスプロイテーション映画真っ盛り。クールな黒人ヒーロー、ヒロインが受けていた。そこに切り込んだのがチャイニーズ系のリーである。イエローモンキーである。

 *白と黒も忘れちゃいけない*
平均的米国人にしてみれば中国人も韓国人も日本人もみな同じ。果てはベトナム人もフィリピン人も混在している認識。90年代半ばヒューストンのジモティが、あなたに会わせたい、と言ってベトナム人を紹介してきたことがあったw


そんなマイノリティが奇声を発しつつ狂人のように暴れまわる姿に恐怖と憧れ相反する感情を抱いたことであろう。白人は決して彼に勝てないのだ。

 *ありゃーっ!!!!*
 

次いで、新しいジャンルを切り拓いたこと。
米国人からすればカラテも武術もごっちゃであるものの、所謂「カンフー映画」なるカテゴリーが成立したのだ。これって凄いことである。その後パチモンみたいなカンフー映画が世間に出回るようになるが、主人公はほぼ東洋人。いかにも特殊性の強いジャンルだが、変奏曲を奏でつつ現在に至る。そう、今でも立派に機能しているのである。

 *ブラピのカンフー『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』*
 

我邦においてはどうだったか。
低年齢層に絞って考えてみると、子供たちにとって従来のヒーローとは、ウルトラマンや仮面ライダーのような変身ヒーローが王道の時代。もはや怪傑ハリマオ月光仮面は過去の人。すなはち正義の味方は生身の人間ではなくなった時代。


そこに突如として登場した半裸姿でテラテラ光る発狂魔人に意表を突かれた思いがした。
思いっきり生身の人間でありながら絶対的に強い。しかも同じ東洋人。かく言う自分も図画の時間に自分を描くというお題で作業したところ、顔色の悪いB・リーが出来上がって我ながら驚いたものだ。


そういった日常レベルの外見のヒーローなど皆無。あえて言えば大人向けのアクション映画などでいるにはいたが子供向きではなかった。それに大抵は肉弾戦よりも諜報活動やガンファイトで魅せていたように思う。
そんな時代に子供向けではないにもかかわらず小学生男児の、さらには中高生男子のハートを鷲掴みにしてしまったのである。

 *あちゃっ‼*
ちなみに我妻の思い出話によると、リーは手の付けられない狂人で、止めに入った無辜の人々を容赦なく打擲し、果ては死に至らしむるほどの狼藉をはたらく者に見えたという。

結果、香港という外国はまことに恐ろしいところだとの誤った印象を強くしたそうだ。

 

ところで、音楽担当はご存じ名手ラロ・シフリン。オープニングタイトル曲が完璧。オリエンタルムード満載でありつつもジャズ畑出身だけあってジャズ的音作りが見え隠れする。

『燃えよドラゴン』メインテーマ 必聴!

高校時代、軽音楽部の学友が、あれってジャズじゃね?と問い掛けてきたことを鮮烈に記憶している。サントラシングル盤を所有していたにもかかわらず、当時はまったく無理解であったが、中年以降再見したところそのジャジーなテーマに驚愕した。そう、フュージョンみたいな感じか。改めて彼の嗅覚に感心する。

そう言や彼から『イルカの日』(73)のサントラLP盤を拝借したまま40年経過してしまった。


 

かくしてブルース・リー“ドラゴン”なる呼称は21世紀の現在においても語り継がれ、新たなファン層を獲得し続けているのだ。


本日も最後までお読み下さりありがとうございました。

 *鉄の爪!悪の首領ハン:シー・キエン*

 *盟友ローパー:ジョン・サクソン*

 *黒帯ウィリアムス:ジム・ケリー*

 *若き日のサモ・ハン・キンポー*

 

監督:ロバート・クローズ
『SF最後の巨人』『死亡遊戯』『バトルクリーク・ブロー』
音楽:ラロ・シフリン
『ブリット』『ダーティハリー』『さすらいの航海』『悪魔の棲む家』

 

【70年代の金字塔】映画シリーズ

70年代の金字塔~その1:『ダーティハリー』の44マグナム弾(リバイバル)

70年代の金字塔~その2:『燃えよドラゴン』の衝撃波

70年代の金字塔~その3:『エクソシスト』ビッグ・バジェット・ホラーの開拓者

70年代の金字塔~その4:『ジョーズ』サメ映画のビッグバン

70年代の金字塔~その5:『ロッキー』合衆国再起動応援歌

70年代の金字塔~その6:『スターウォーズ』で勇気りんりん

70年代の金字塔~その7:『エイリアン』の生存者及び女性像を見よ!(リバイバル)