こんにちは。行政書士もできる往年の映画ファンgonzalezです。
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今日も今日とて【70年代の金字塔】映画シリーズやってます。
1974年の洋画はこれと“ドラゴン”でツートップだったと言っても過言ではありますまい。
しかし、自分としては“オカルト映画”とスプラッター物は基本的に省いているものの、これだけは映画史的にも外せない、と意を決して取り上げてみたよ。
見事なまでにシンプルなヴィジュアルが秀逸!
『エクソシスト』 The Exorcist (’73) 122分
梗概
イラクで遺跡発掘調査に携わるメリン神父(マックス・フォン・シドー)が悪霊パズズ像を発見。彼は、近い将来これと相まみえることを感じとる。一方、米国ワシントン近郊ジョージタウンでは女優のクリス(エレン・バースティン)が娘のリーガン(リンダ・ブレア)と一軒家を借りていた。すると次第にリーガンの声色も形相も激変し粗暴な言動が目に余るようになり、病院の検査でも異状なく手の施しようがなくなった。彼女にあのパズズが憑依したのだ。
そこでクリスは、カラス神父(ジェイソン・ミラー)に悪魔祓いを依頼。彼は大司教に許可を求め、経験者メリンが派遣された。二人は悪魔祓いを行うが、途中でメリンは心臓疾患で絶命。カラスは悪霊を自分に憑依させるや窓から身を投じて自ら生命を絶ち、壮絶なる自己犠牲の精神を発揮し激闘に幕を下ろした。
ある朝、登校するとコーフン気味の学友たちが「エクシシスト知ってるか?」と尋ねてきた。こちらは当然知りもせず、それは何かと尋ねる暇もなく勝手にぺらぺらと教えてくれるのだった。複数人の話を聞きとって判明したのは、洋画でかなり衝撃的な“オカルト映画”だということであった。
今思えば、前夜どこかのTV番組で紹介されたのではなかったか。それを見聞きした学友たちは、各自おののいたり震えたりしてその夜は一人で便所に行けなかったのかもしれない。が、そんな事実はおくびにも出さず得々として情報を開陳するのであった。
もちろん、子供の言うことで何が凄いのか伝わってこなかったような気もする。ただただひたすら恐ろしげな話しっぷりだけは記憶に残った。噂が噂を呼び皆の期待感が高まっていた。
実際、1974年の国内興行収入ではトップに立ったという。しかも、あの『燃えよドラゴン』を10億円以上引き離してのぶっちぎりだ。
本国では1973年クリスマスシーズンに公開され、やはりトップの興行収入を上げたそうだ。
さらには、第46回アカデミー賞では10部門にノミネートされるなど、その話題性のみならず作品のクォリティも映画人に認められる結果となった。
が、好事魔多し。悪魔の声を演じたオスカー女優マーセデス・マッケンブリッジはクレジットさえされず、その扱いを巡って訴訟沙汰に発展。オスカーも脚色賞と音響賞という地味な部門二つ受賞で終わった。
そのあたりの逸話は川本三郎著「アカデミー賞 オスカーをめぐる26のエピソード」という中公新書に詳しい。
まあ、この手の映画が受けるのは当時始まったことではない。恐怖心を煽る“オカルト映画”は観客に受ける実績がある。今も昔も変わらない。だが、本作の衝撃度は空前のレベルだった。
先ず、あどけない少女に悪魔が憑依するや生じる怪現象。
ベッドが激震する。顔つきが凄まじいことになる。顔の皮膚が爛れたようになる。首がぐるりと回転。緑色の反吐を吐く。死んだ人物の声色でしゃべる。祓いの儀式中横たわったまま体が空中浮揚。
これらがチープな特撮では無しに入念なメイクや仕掛けで真に迫るリアルさを体感させる。ここだけでも受けまくるのは必至と言えよう。
さらに、少女が打って変わってとんでもない下衆な言動に及ぶショック。
大人に四文字言葉を浴びせかけるなんてのは序の口。最大の衝撃はキリスト教圏においてはあからさまに涜神的な行為。少女が十字架を局部に突き立て流血の惨事となるのである。目を背けずにはいられまい。
では、何が画期的だったのか。
ひとつは、ビッグ・バジェット・ホラー路線を確立したことだろう。
『猿の惑星』(68)が従来のお子様向けSF映画にはないクォリティを付与する大作に仕上げたように、本作も低予算映画の代表格みたいな“オカルト映画”を立派な作品に仕立て上げたことだ。
なにしろキャストが地味ながら凄い。
エレン・バースティンは翌年『アリスの恋』でオスカーを得ることに。本作でも堂々たる主演女優賞にノミネート。
キンダーマン警部に扮するリー・J・コッブも芝居巧者な脇役俳優だ。
カラス神父役ジェイソン・ミラーは無名ながら大抜擢され、助演男優賞ノミニー。
先述通り、悪魔の声を演じたのも『オール・ザ・キングスメン』(49)でオスカー歴のある実力派脇役女優マーセデス・マッケンブリッジ。
これら一流の俳優陣を擁してこけおどし的ムーヴィーではなしに重厚なドラマを前面に押し出した。そこには日常のリアリティを描出し、じっくりとレンガを積み上げるようにしてクライマックスへと持っていく整合性のある脚本が大いに寄与している。
そして、スタッフとその技量も一流で、安っぽいフィルムとは一線を画す出来栄えに尽力。
個人的には、ただ廊下を映し出すシーンだけで不安感を増幅させるカメラワークの妙に感心した覚えがある。
その後、ホラー映画も名ある監督たちによって大作として手掛けられることになるだろう。
もう一点は、タブー解禁の潮流をさらに加速させたことか。
十代の少女が涜神的・冒涜的行為に及ぶなど、過去に類を見ないシークエンスを堂々と挟み込んだ。さすがにこれは教会関係者も絶句したに違いない。しかも、クリスマスシーズンのロードショウである。フリードキン監督も挑発が過ぎるだろう。
なお、元ネタと思われるようなポーランド映画も存在する。東側とは言え、やはり既存宗教への挑発的描写に吃驚だ。一度見比べてみるのも面白い。原作小説アリ。
このように、その後の“オカルト映画”あらため“ホラー映画”の高品質化を促す画期性を備えた予算をかけたフィルムだった。そして、よりショック度をアップさせていくことにもなる。
その流れの中で『キャリー』(76)は逆に低予算の小品ながらも確かな骨格を備えたホラー映画製作の可能性を発揮したことで評価されることになる。
しかし、現今のDVD全盛期にあって、観るに堪えないお手軽低予算ホラーが大量生産されている。本作が開拓したホラー映画の地位向上も今は昔。一流どころとスクラップが玉石混合、いや二極分化の時代であろう。
ところで、フリードキン監督はテーマ曲にマイク・オールドフィールドの「チューブラー・ベルズ」を起用し大成功を収めた。世間的にもエクソシストのテーマ=「チューブラー・ベルズ」と人口に膾炙するほどの強烈なイメージを刻みつけた。
以降、この手のミニマル・ミュージックとホラー映画の親和性が高いことが明かされていく。その代表格は伊太利映画『サスペリア』(77)に使用されたゴブリンのテーマ曲だ。
ちなみに、シリーズとして『エクソシスト2』(77)と元ネタ小説の作者ウィリアム・ピーター・ブラッティ自身が手掛けた『エクソシスト3』(90)、そして『エクソシスト ビギニング』(04)がある。また、ディレクターズカット版が2000年に公開された。
今なお人心を惹きつけてやまない“ホラー映画”、いや“オカルト映画”の金字塔なのである。
本日も最後までお読み下さりありがとうございました。
監督:ウィリアム・フリードキン
『フレンチ・コネクション』『恐怖の報酬』『L.A.大捜査線/狼たちの街』
脚本:ウィリアム・ピーター・ブラッティ
『暗闇でドッキリ』『暁の出撃』『エクソシスト3』
撮影:オーウェン・ロイズマン
『フレンチ・コネクション』『ネットワーク』『トッツィー』
【70年代の金字塔】映画シリーズ
●70年代の金字塔~その1:『ダーティハリー』の44マグナム弾(リバイバル)
●70年代の金字塔~その3:『エクソシスト』ビッグ・バジェット・ホラーの開拓者
●70年代の金字塔~その4:『ジョーズ』サメ映画のビッグバン
●70年代の金字塔~その6:『スターウォーズ』で勇気りんりん
●70年代の金字塔~その7:『エイリアン』の生存者及び女性像を見よ!(リバイバル)