この他の姉妹版アカウントでもこの話を書きましたが、こちらの方が読者が多いので、あまり毒説は避けて、イチゴの休眠と食味の話(特に「かなこまち」の場合)を書きます。
イチゴにも休眠があり、品種によっては強い休眠性があります。露地栽培に用いられる「宝交早生」は比較的休眠しやすいです。
イチゴの休眠は短日や低温が誘引条件となり、休眠当初の見た目には植物体には大きい変化はないままですが、生育が停止します。
良く観察すると、休眠が始まると朝のうち葉の葉縁に溢液という水分の球が出にくくなり、新しく出る葉がなかなか伸びてこない、あるいは小さいうちに葉が開いてしまうという現象が出ます。
そのうち、葉が開いてロゼット状になり、生育が停止します。

タンポポが葉を広げてロゼット状になっているのも休眠している状態ですね。
イチゴが完全に休眠に入ると新しい心の葉の色が外葉とあまり変わらなく濃い色になり、小さい葉になります。
いったん深く休眠すると、新たに高温条件にしたり、長日にしたり、ジベレリンなどを散布しても休眠から目覚めないで生育が止まったままという特徴があります。
通常、イチゴの休眠は短日(日が短くなること)と、温度の低下が原因です。
実は、この休眠現象は秋遅くから春まで収穫するイチゴの促成栽培では大きい問題になります。
なぜなら、イチゴは花芽が茎の頂点にできると、葉の付け根から、新しい葉が2〜4枚展開して、またその葉(茎)の頂点に花芽ができ、それを繰り返すという仕組みなので、休眠してしまうと次に葉が展開しなくなるから、なかなか次に実のなる花が咲かない、つまり実が穫れないということになります。
むかしはイチゴの品種が少なくて、休眠性が強い「宝交早生」を促成栽培に使っていたので、夜間に電灯を灯して、長日状態にして休眠しないように栽培しました。
これが、『電照栽培』という栽培方法です。

これが電照栽培の様子で、電灯の明るさは新聞が読める程(約8lux)で大丈夫。写真はお借りしました。
「女峰」の登場以降は、休眠が浅いかほとんどない品種に変わってきたので、電照栽培の必要性はなくなりましたが、品種作り(品種改良)の現場では、未だに休眠性が強くないかどうかをチェックしていると思います。
それで、なんでイチゴの休眠を話題にしたかと言うと、イチゴの促成栽培では葉がたくさん繁茂せず、しかし少しづつ成長は続けている半休眠状態ですが、実は休眠に近い状態の方が、果実糖度が高くなりやすく、したがって甘くなります。
それは、休眠中も光合成はしているので、光合成産物(糖)ができて、果実に転流するからです。また、休眠に近くなる栽培はだいたいは低温管理なので、果実が赤らむのも遅くなり糖度が高まります。
イチゴ農家は、時に技術的興味や食味の評判を上げたいことから甘くて美味しい果実を採りたくなり、限界ギリギリまで休眠状態に近付けて栽培したりするんですね。
ただ、もちろんそのことは収穫量を減らしてしまうことと同義なので、普通はそういう栽培はしません。イチゴ農家のほとんどはたくさん採れてナンボだからです。
今まで品種育成者は収量性が大切だと認知しているので、休眠しやすさ(≒収量の減)をしてまで、糖度を重視することはなかったんですが、その常識を破ったのが、「あまりん」ですね。

「あまりん」です。写真はお借りしました。
実は、「あまりん」は埼玉県と品種交換して、栽培しているのを間近に見てました。
ボクの部下の人が栽培してましたが、確かに糖度が高い品種でしたが、ちょっと1週間ばかり昼の温度が低いときが続いて、休眠の様相が見えたので、ふだんは口出ししないのですが、昼の温度を上げるように指示しました。
この時、「あまりん」は休眠する様子が伺えて、成長がほとんど止まりましたので、休眠しやすい品種だということは一見して分かりました。
最も低温の影響を受けたのが「あまりん」、次いで「とちおとめ」。以下、「紅ほっぺ」>「かなこまち」で、「かなこまち」はほぼ休眠の影響から免れました。
ちなみに、完全に休眠してしまったら、2月中頃まで眠ったままで、3月になってから一斉収穫になるので、露地栽培と大して変わらないことになります(-_-;)
休眠しかけた初期の段階なら、昼30℃近く、夜温も上げて、休眠打破をしますが、1週間も低温管理するとかなりマズいことになります。
ちなみに、群馬の「やよいひめ」を現地視察した時に、現地の農家さんが言っていたのが「この品種はめっぽう寒さに強いよ」と言うことで、最初は耐冷性と勘違いしたけど、たぶん休眠しにくいということだと思います。
最近の品種だと、「みおしずく」という滋賀県の品種が休眠しにくく、なんと現地では暖房機を入れないで栽培しているそうです。
関東でも、ハウス内トンネルして栽培可能ですが、やや休眠に近くなるから、食味は甘くて美味しいけど、収量はかなり減ってしまいます。
休眠しやすい品種は、一般的には収量性が劣るので、促成栽培用品種の品種改良に携わっている人なら選抜せず淘汰(捨ててしまうこと)してしまうけど、「あまりん」は甘くて食味が良いので(とりあえず)品種登録しておこうか!という判断がなされたのだと思います。
ただ、「あまりん」の片親に休眠や寒さに強い「やよいひめ」が使われているから、休眠しにくいことや果実の硬さに期待した可能性はあると思います。
しかし、埼玉の試験成績で他品種と栽培したデータでは、「あまりん」は「とちおとめ」の2/3程度の収量しかないというものでしたから、ボクはよく品種登録したなと思いました

だから、埼玉県の内部では「あまりん」だけでは現地から批判もあるだろうから、「かおりん」も作りました!みたいな内部事情があるのかもしれないと想像してます。
消費者にしてみれば、たくさん穫れるかどうかはあんまり関係ないから、現実に「あまりん」が品種登録されて、農家が栽培すると、消費者には「甘い❗❗」と大変にウケました。
「あまおう」を超えたスゴい品種が出たと称賛する人もいるけど、1パック6個で3,000円とかで売ってるのを見ると、ボクはなんだかなぁ(^_^;)…って思ってしまいます。
いま、米が高いと言うけど、5kgで4000円とか5000円でしょ?それが1粒500円のイチゴをありがたがって食べてる人もいる訳だから、世の中お金に困っている人ばかりじゃないのかな🙄
格差が広がったのか、あるいは特別な日に豪勢にしているのか?または、SNSで映えを狙っているのか、なんかそんな感じなのかな?🙄
ても、一般家庭で楽しめる価格帯ではないよね。
「あまおう」を遥かに上回った最高峰のスゴい品種だとかSNSなどで言ってるのを見ると、そりゃ〜「あまおう」の育成者に失礼だと思いました🥺

あまおう。実は「あまおう」も、着果と着果の間が開きやすく、農家泣かせの品種だという話もあるけど……
ボクは品種改良に携わったけど、休眠に近い状態になって食味が出るタイプは収量が出ないから目指さなかった。…というか、真っ先に捨てました。
ボクは一般家庭でたくさん食べてほしいし、そうなると価格は高くても1パック(12個〜14個)750円とかくらいが適正だと思う。そうなると、10aで6㌧近くは穫れないと採算が合わない。
食味にも、ただ甘いだけじゃない工夫が必要だと思いました😀
つまり、糖度は先端半分だけが特に甘くて、酸味も持たせて食味にエッジを作り、鼻から抜ける香気が美味しく感じられるもの……という収量をあまり犠牲にしない食味の個体を選抜して、大果でまとまり、収量性は紅ほっぺ並みを目指しました。
だから、休眠に近い状態で甘くなるような「あまりん」とは全く違います。
イチゴが好きな人なら、「かなこまち」と「あまりん」は全く違うと分かってくれると思いますね。
けっこう細かいところまで拘ったところもあり、先端が甘いのは、縦に長い形状だからです。イチゴの実は先端から熟していくので、先端は全体に熟すまでに長い時間熟度が進むから特に甘くなります。
このことは、たぶん章姫を作った萩原章弘さんやむかしの育種家は分かっていたはずだけど、今はそんなに意識されていないと思う。だから、最近は丸い品種が増えたのかな?と思う。
あと、酸味もベースにあって全体に味の濃さを演出したり、食感は粘質だけど、シャキっとした食感も意識しました。ジューシーだと言われるのは、食感へのこだわりからだと思うけどね。
休眠に近い栽培をしなくても、食味が落ちない要素を盛り込んだのと、あとは休眠明けになる 3月に味が薄くなる現象がないように、草勢が変わらないのを選びました。

かなこまちの草姿は、紅ほっぺに近いがあまり暴れない。
イチゴの草勢と食味はけっこう関係があって、紅ほっぺは、半休眠が抜けかけて栄養成長が強くなる3月あたりに味が薄くなるとか、さちのかも3月中頃に若干の苦味が出たりします。
こういう変化は一般の人ではなかなか認知できないけど、毎日イチゴと接している農家は分かると思います。
「かなこまち」は葉色が淡いので、肥料食いの品種と考える人が多いけど、じつはあまり肥料食いではないです。
逆に栄養成長が強く、いつまでもランナーが発生し、休眠が浅い方なので、あまり肥料を多くすると葉やランナーの成長にエネルギーが取られて、その分果実への糖の転流が減って、食味が淡白になりやすいです。
たまに、味のしない「かなこまち」を見かけるんだけど、おそらくは生育を肥料で追って、葉を茂らせて作るみたいな感じだと思います。これは、むかしの篤農家に教わったけど、『逆さ木』って言って、見た目より根が張ってなかったりします。
「かなこまち」は定植から根を張らせて株を作り込んで、11月は休眠圧があるから、若干葉作りも必要ですが、いったん分厚い葉とクラウンができたら、あまり手の込んだことをしなくても温度管理とかん水管理くらいで開花結実するから、栽培がカンタンな品種だと思うけどね🥹
日照と株の力で特性が発揮されて、日当たりを好む品種だから、日照が少ないハウスには向かないかもしれないけど。
「かなこまち」はもちろん欠点はあります。最大の欠点は極早生ではないから11月出荷するなら、夜冷育苗しないと無理です。
頂果房の花になぜかミツバチが訪花しづらいというか、慣れるのに時間がかかるんだけど、原因は分かりません。
なぜか、高設栽培で作ると果実がより長くなる。これも原因はよく分かりません。土耕の方が向いてるかも。
ミツバチの訪花が最初弱いのが、1番ボクには辛い欠点だけど、受粉用のハエとかでも十分不受精果にならないみたいだから、1時期だけ導入するのもアリだと思う。

ボクが作るとこんな果形が多く、もし形状が乱れるなら、肥料のやり過ぎとか考えた方が良いかも。

これは海老名の名人が作ったかなこまち。
かなこまちの味を好んでくれる人は必ずいると思って作りましたが、残念ながら神奈川県海老名以外だと共販的な組織での栽培がなくて、イマイチ市場には出回ってないです。
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