同質に使える声としての1オクターブ
最低1オクターブの声を同質でもっていることが必要だと思います。
そう言うと、3~4オクターブの間違いではないか、自分でも2オクターブは出せる、という人がたくさんいます。ここでは、一声でプロとしてわかる1オクターブ、聞いて違いのわかる、価値のある音色での1オクターブということです。
声域は、歌のなかでは1条件にすぎません。
広ければよいのですが、広くても使いものにならなくては何にもならないのです。
同質の声として1オクターブというのは、たとえばピアノの真ん中のドから1オクターブ上のド(女性はラからラ)まで、どの音も、長いフレーズでもシャウトでもできる、ことばで言い切れるということです。
頭の方へひびかせたり、のどを締めて出すのではありません。
カラオケで歌う人なら、どんな人でも1オクターブくらい使っています。
しかし、ここでは、同じ発声でということにこだわりたいのです。1
オクターブのなかで、どの音も統一したものをもつことです。
声区のチェンジで声の出し方を変えているような人もいます。
それが聞いている人に明らかにわかるようではなりません。
高音においては、細く弱く音色を変えている、脱力して浮かせるか、力でぶつけてガナってキンキン鳴らしているかのどちらかが大半なのです。いろいろなくせがついているわけです。
くせが出ているというのは、うまくできていないからです。バランスが崩れてきて、この先の発展が望めないという点で絶望的なのです。
そのままでは、くせをカバーするために、さらにくせをつけて声域を広げることになるからです。
そういう指針がヴォイトレでは少なくないのです。私からみると、本来のトレーニングと逆方向です。
スポーツ選手でしたら、そこで成績が落ち、その結果、トレーナーも厳しく注意します。歌の場合は、高音にさえ届けばよいと曖昧にやり続けてしまうからよくないのです。
くせがない、しぜんな声であるからこそ、いろいろな応用がきくのです。どんなことにも可能性をもってチャレンジし、それを克服できるキャパシティを広げていくこと、それが基本です。
1から始めて10に行き、また1に戻る。これを10回ほど繰り返して、やっと一つ身につく。こういう地道な努力を経て、本当の地力として得られたものが基本の力です。
まず、1オクターブをしぜんな声で使えるようにすることが基本ではないでしょうか。