(前回の記事に書いた) 2019年が記念年である作曲家の代表的なオペラ。しかし日本で観ることは一生ないだろう非常にレアなオペラとは、ポーランドの国民的オペラ作曲家、スタニスワフ・モニューシュコの代表作、ハルカです!アン・デア・ウィーン劇場に観に行きました。
THEATER AN DER WIEN
Stanislaw Moniuszko
Halka
Musikalische Leitung: Łukasz Borowicz
Inszenierung: Mariusz Treliński
Bühne: Boris Kudlička
Kostüm: Dorota Roqueplo
Haar- und Make up-Desgin: Łukasz Pycior
Licht: Marc Heinz
Videodesign: Bartek Macias
Choreografie: Tomasz Wygoda
Dramaturgie: Piotr Gruszczyński
Jontek: Piotr Beczała
Halka, ein Bauernmädchen: Corinne Winters
Stolnik: Alexey Tikhomirov
Zofia, seine Tochter: Natalia Kawałek
Janusz, ihr Verlobter: Tomasz Konieczny
Dziemba, Haushofmeister: Lukas Jakobski
Orchester: ORF Radio-Symphonieorchester Wien
Chor: Arnold Schoenberg Chor (Ltg. Erwin Ortner))
(写真)ウィーンの地下鉄に貼られていた、アン・デア・ウィーン劇場のハルカの公演ポスター
(写真)アン・デア・ウィーン劇場
(参考)モニューシュコ/ハルカから序曲。ポーランドの民族的な音楽が素晴らしい!
https://www.youtube.com/watch?v=kIjiT0IS_PI (9分)
※Opera i Filharmonia Podlaskaの公式動画より
昨年最後に書いた一年のまとめ記事「2019年の思い出」では、クララ・シューマン、オッフェンバック、ハノン、スッペ、ベルリオーズ、レオポルト・モーツァルトなど、昨年が生誕や没後の記念年になる作曲家を楽しんだ記事を書きました。
その中で、もう一人記念年の作曲家がいることを伏せ字で予告しましたが、それがスタニスワフ・モニューシュコなのです。1819年生まれなので、2019年が生誕200周年。ポーランドの国民的オペラ作曲家と称される、民族的なオペラを書いた作曲家です。
ハルカのあらすじをごく簡単に。領主ヤヌシュと名門家の令嬢ゾフィアが婚約を祝う場面に、ヤヌシュに遊ばれ男女の関係まで持った村娘ハルカがやってきます。純情なハルカはヤヌシュの言葉を信じますが、体よく追い払われ…。
ハルカを想う村の青年ヨンテックの騙されているんだ、という言葉も耳に入りません。怒りを表わすも抵抗できない村人たち。最後はハルカは身を引いて、川に身投げをしてしまう、というとても悲しい物語です。
第1幕。アンジェイ・ワイダ監督の映画に出て来そうな白黒のホテルの舞台。つまり読み替えの演出です!現場検証のような演技が付きますが、ハルカが最後に水死するので、そのいきさつを調べているかのよう。
そして序曲が始まりましたが、ここでも寸劇が付きました。苦しむヤヌシュはホテルのオーナー。ホテルの従業員からは突き上げられ、腹心からはしっかりしろと叱咤され、アルコール(ポーランドウォッカ)に頼ります。
ホテルの屋上でコケットに煙草をふかす従業員のハルカ、それに惹かれて救いを求めるヤヌシュ、早速ラブシーンになります。序曲の最後にはハルカの水死体も出て来ますが、ヤヌシュがベッドから転げ落ち、悪夢と分かります。何だか冒頭から凄い展開!
冒頭は晴れやかな結婚式のパーティ。ゾフィアはモデルばりの素敵な女性。その裏で悲しみにくれるハルカ…。舞台裏からハルカの悲しい歌声が聴こえ、パーティに水を差します。ヤヌシュの苦しみと葛藤の心情のアリア。「気持ちを強く持て!」と自らを鼓舞して歌うものの、結局はウォッカに頼る弱さを見せます。トマス・コニエチュニーさんのヤヌシュは威厳と弱さを見事に演じて抜群でした!
第2幕。ハルカのヤヌシュへの想いを歌うアリアが素晴らしい!ハルカのコリンヌ・ウィンターズさんは歌といい、ルックスといい、こんな素晴らしいソプラノの方がいたんだ!と大いに驚きました!その後のハルカとヨンテックの迫力の二重唱も素晴らしい!
再びパーティで盛り上がるの場面は、金髪の人びと(ヤヌシュやゾフィア、友人たち)と黒髪の人びと(ハルカやヨンテック、ホテルの従業員たち)とをあざやかに対比。人種による不公平感、あるいは資本側と労働側の格差を思わせる演出でした。
マズルカで盛り上がるシーンは回り舞台が展開して見応え十分。結婚式なのに心ではハルカを求めるヤヌシュ。そしてヤヌシュを翻弄するハルカの演技まで付きました!このオペラでのハルカの描かれ方は、必ずしも純情だけではなく、ハルカの別の一面をよく出していました。続くハルカのアリアはホテルから白樺の林の中で展開。ハルカの素晴らしい歌に心打たれます!
そしてハルカを想うヨンテックの渾身のアリア!さすがはピョートル・ベチャワさん!ブラボーがこだまし、劇場内が大盛り上がりでした!しかし力強い歌とは裏腹に、ハルカを追い払ってくれとヤヌシュからお金を受け取ってしまうヨンテックの悲哀…。
ラストは憔悴し切ったオーナーが舞台前に立ち、背景にホテルの文字が象徴的に光って終わりました。相応しくない地位に就いてしまった男の悲哀を大いに感じさせます。
第3幕。再び冒頭の現場検証の場面。黒髪のホテルマンたちによる乗り気のない歌。レストランで従業員たちがじゃがいも剥きをしながら合唱する中、ハルカとヨンテックのやりとりも見事。
ハルカは意を決してパーティの場に出て行きますが、逆にオーナーの友人たちから虐げられます…。この後に踊りの音楽となりますが、非常にショッキングなシーンも出てきて、本当に攻めた演出、唸りました!
第4幕。ヨンテックのハルカを想う悲痛なアリア。重唱で盛り上がる場面に感動!ヤヌシュの悪事がバレて、怒りを爆発させるゾフィア。ヤヌシュの浮気相手なのに、同じ女同士ということで、ゾフィアがハルカを労わるシーンは感動的、涙を誘います…。
その後はハルカが堕ろしてしまった子供を前に悲しみの歌。白樺の林に子供の遺体を埋めるシーンが続きます。背景にヤヌシュたちの婚礼の行列が通る中、ハルカの歌は涙を誘います…。
最後、ヤヌシュが寝室で打ちひしがれて倒れている中、ハルカの自己犠牲の悲しいお別れの歌、もう涙涙でボロボロ…。そしてハルカが闇に消えて、ヨンテックの「ハルカ~!」の叫び声が聞こえて終わりました。
また素晴らしいオペラを観た!!!モニューシュコの圧倒的な音楽が最高!!!
歌手ではコリンヌ・ウィンターズさん、トマス・コニエチュニーさん、ピョートル・ベチャワさんの3人がとにかく素晴らし過ぎる!中でもポーランド人である男性2人をポーランドのオペラで観ることができ、これは非常に貴重な機会でした。
演出がまた見事!ハルカは中世の領主と村娘の、現代では考えられない物語ですが、今回の演出では、現代でも起こりそうなホテルのオーナーと従業員に読み替えて、さらにそのホテルのオーナー自体が仕事で追い詰められる中、救いを求めたのがハルカ、という設定が斬新でした。もしホテルのオーナーという立場でなかったら、ハルカと幸せになれたのかも知れません。白と黒を基調として舞台や衣裳も見事でした。
素晴らしい公演!ということで、熱心に拍手をしていたら、娘さんと一緒に聴きに来られていた、隣の席の素敵な雰囲気のマダムから声を掛けられました。
マダム:オペラは楽しめましたか?
私:ええ、とても!モニューシュコの音楽が最高で、コニエチュニーさんとベチャワさんの歌も素晴らしかったです!
マダム:それは良かった!私たちもとっても楽しめたわ。
私:本当に良かったですよね。さらに予習のCDがイタリア語版だったので、ポーランド語でオペラを観ることができ、とても感激しました。(注:予習CDはファビオ・ビオンディ&エウロパ・ガランデのイタリア語版)
マダム:そおなの!私たちもよ。なぜなら私たちはポーランド人だから。
何と奇遇にもポーランドの方!これは感激しました!わざわざポーランドから観に来るような特別な公演だったようです。
休憩中だったら沢山話ができたのですが、終演後なので軽くやりとりしてお別れしましたが、自分が日本人で、日本人はポーランドが大好きなこと。ワルシャワやクラクフに行ったことがあり素晴らしかったこと。そしてショパンが好きでピアノで弾くことを伝えたら、とても喜んでいただきました。
最高の観劇に感動的な交流、ということで、終演後はウィーンのポーランド料理のレストランに行く気満々でしたが、残念ながらオペラの遅い終演時間の後に入れるお店はなく…。しかし、近くにセルビア料理のレストランを見つけたので、東欧つながりで食べて来ました。
(写真)セルビアのビーンスープとSanata(セルビアの白ワイン)。かなり食べ応えのあったスープ。外はめっちゃ寒いのでほっこりしました。
(写真)グリル盛り合わせ「ベオグラード」とCanon(セルビアの赤ワイン)。お肉と赤ワインがよく合いました。海外で観劇の後の食事とお酒は雰囲気があって最高!