(夏の旅行記の続き)リッカルド・ムーティ/ウィーン・フィルの最高のブルックナー8番を聴いて、ゴルデナー・ヒルシュでのランチをたっぷり楽しんで、それだけでお腹いっぱいですが、この日は夜にまた一つ楽しみな公演がありました。
それは、ポーランドの作曲家ミェチスワフ・ヴァインベルクのオペラ/白痴。前日の賭博者に続いて、ドストエフスキー原作のオペラ。とても楽しみです!
SALZBURGER FESTSPIELE
Mieczysław Weinberg
The Idiot
(Felsenreitschule)
Conductor: Mirga Gražinytė-Tyla
Director: Krzysztof Warlikowski
Sets and Costumes: Małgorzata Szczęśniak
Lighting: Felice Ross
Video: Kamil Polak
Choreography: Claude Bardouil
Dramaturgy: Christian Longchamp
Prince Lev Nikolayevich Myshkin: Bogdan Volkov
Nastasya Filippovna Barashkova: Ausrine Stundyte
Parfyon Semyonovich Rogozhin: Vladislav Sulimsky
Lukyan Timofeyevich Lebedev: Iurii Samoilov
Ivan Fyodorovich Yepanchin, general: Clive Bayley
Yelizaveta Prokofyevna Yepanchina, his wife: Margarita Nekrasova
Aglaya Ivanovna Yepanchina: Xenia Puskarz Thomas
Alexandra Ivanovna Yepanchina: Jessica Niles
Gavrila (Ganya) Ardalionovich Ivolgin: Pavol Breslik
Varvara (Varya) Ardalionovna Ivolgina: Daria Strulia
Afanassy Ivanovich Totsky: Jerzy Butryn
Knife grinder: Alexander Kravets
Herren der Konzertvereinigung Wiener Staatsopernchor
Vienna Philharmonic
(写真)本公演のポスター。ムイシュキン公爵(上)とナスターシャ。そしてロゴージンの主役3人に、ニュートンとアインシュタインの公式が重なって、とても意味深長。
(写真)開演前のフェルゼンライトシューレ
ヴァインベルクの白痴!!!2つの意味でめちゃめちゃ楽しみにしていたオペラです!
一つ目はドストエフスキーの作品の中で白痴が最も好きな作品だから。2021年にドストエフスキー生誕200周年の記事を書きましたが、カラマーゾフの兄弟を始め、ドストエフスキーの5大長編作品の中でも、私は特に白痴が好きなんです!何と、そのオペラが観れる!
(参考)2021.12.19 ドストエフスキー生誕200周年(白痴・カラマーゾフの兄弟・罪と罰・悪霊)
https://ameblo.jp/franz2013/entry-12716305502.html
そして、もう一つはヴァインベルクのオペラを初めて観れること!ヴァインベルクは2019年のN響定期で交響曲第12番を聴いて、ショスタコーヴィチに影響を受けたその独特な音楽に魅了されましたが、オペラを観るのは全く初めて。めっちゃ楽しみです!
(参考)2019.4.24 下野竜也/ワディム・グルズマン/N響のショスタコーヴィチ&ヴァインベルク
https://ameblo.jp/franz2013/entry-12456878620.html
いよいよ開演。まず字幕に、ナスターシャ25歳、彼から去って彼に殺された、との文字が。そしてラストシーンと思われるムイシュキン公爵・ナスターシャ・ロゴージンの3人が並ぶ切ない映像が出てきて、惹き込まれました。ナスターシャは娼婦?のような演出も付いていました。
冒頭は、寒い駅の待合室でのムイシュキン公爵とロゴージンのやりとり。この後、2人で一人の女性(ナスターシャ)を争う展開になりますが、ここは心温まるシーン。その後、ナスターシャの近景のビデオが流されますが、小説とオペラのナスターシャの立ち位置の違いを感じさせます。
エパンチン将軍の家ではアグラーヤが素晴らしい歌を披露します!ムイシュキン公爵がナスターシャの肖像に惹かれるシーンでは、その前にムイシュキン公爵の書いたニュートンとアインシュタインの定理の公式に、ナスターシャの顔がフィットしていて意味深長でした。
ロゴージンが商人としての財力を誇示するシーンでは、舞台にニューヨーク証券取引所のように各国の通貨のレートが流れます。JPY161.47という表示も見つけました!お財布に厳しい海外旅行…泣。
3姉妹にスイスの自然の話をして感動を誘うムイシュキン公爵。ここでも天真爛漫に振る舞い、愛らしさを見せるアグラーヤが素晴らしかったです!
続いてイヴォルギン将軍の家でのシーンに。今回の舞台は場面転換がとてもスムーズ。フェルゼンライトシューレの横に広い舞台を上手く使っていました。
観る前に、どんな風に出てくるんだろう?と注目していたワルワーラがもうツンツンで笑。ワルワーラ、いい味出していました。ナスターシャに袖にされるガーニャは真面目な雰囲気。そもそもナスターシャのような女性に恋をしては駄目ですね…。でも、分っていても、そうなってしまう男の悲しさ…。
いよいよムイシュキン公爵はナスターシャと出会いますが、ナスターシャがムイシュキン公爵を召使いのように扱う出会いのシーンがとても印象的。
そのやりとりを経て、すぐに無垢な魂のムイシュキン公爵に惹かれるナスターシャ。一方、ロゴージンは2,000とか4,000とか威勢の良いお金の数字を出してアピールします。前日の賭博者とのつながりを感じるシーン。
お金ではロゴージンに太刀打ちできないムイシュキン公爵は、思わず財産を相続した、と告白しますが、ナスターシャがあなたの魅力や価値はそこではない、という表情をしていたのがとても印象的。
ムイシュキン公爵から告白されて、一時はプリンセスになれるかしら?と喜ぶも、ムイシュキン公爵はアグラーヤと結婚すべきと言って、ロゴージンを選ぶナスターシャなのでした。
さて、いよいよこの物語で最も華々しい10万ルーブルの暖炉のシーン。小説を読んだ時も驚きの展開に惹き込まれましたが、実際にそのシーンを観ることができて大いに感動!
暖炉に放り込まれて燃える自分の10万ルーブルを見て、ロゴージンが豪快に笑うのが、ロゴージンの気骨を表わして本当にいい!逆にナスターシャから試されて気の毒なガーニャは失神してしまい…。ラストはショスタコーヴィチ4番の第3楽章ラストのチェレスタのような音楽が本当に味わい深い。
5ヶ月後にその後の顛末を話すムイシュキン公爵とロゴージン。そしてお互いの十字架を交換します。その後にムイシュキン公爵は発作を起こしますが、フォルテでサイレンのようにピーポーピーポーとショックを伝えるヴァインベルクの音楽(ウィーン・フィル!)、そしてムイシュキン公爵を演じるBogdan Volkovさんの迫真の演技がめちゃめちゃ素晴らしい!ここで前半が終わりました。
後半は「死せるキリスト」の大きな絵画の前に横たわるムイシュキン公爵という、非常に象徴的なシーンから。私はハンス・ホルバインの「死せるキリスト」の絵画がバーゼルの市立美術館にあることを親友から聞いて、2008年にバーゼルで観て感動しましたが、今回の象徴的なシーンにも大いに惹き込まれました!
アグラーヤの可哀想な騎士の歌が素晴らしく、その後の母親が3人の娘の婚期を心配するシーンでは、3姉妹が黒板に指摘された言葉を書いていく、小粋な演出がいい感じ。
勢いの良い音楽に合わせて、アグラーヤとムイシュキン公爵がやりとりするシーンもいいですね~。ムイシュキン公爵と突っ込んだやりとりをするも、ナスターシャのことが晴れないアグラーヤ。
その後のナスターシャがムイシュキン公爵に贖罪を求めるシーンは、まるで2人はキリストとマグダラのマリアのように感じました。
いよいよアグラーヤがナスターシャのところに乗り込むシーンに。手紙でアグラーヤにムイシュキン公爵との結婚を何度も勧めていたナスターシャですが、アグラーヤと直接会ってみると素直になれません。
そしてそれに翻弄されるムイシュキン公爵。ナスターシャが倒れてムイシュキン公爵が介抱するシーンは、その様子を上から写して、公演ポスターと同じ光景が出現しました!
ムイシュキン公爵と一緒なので出て行って!、とナスターシャから言い放たれるロゴージン。遂にナイフを取り出します。ロゴージンはナスターシャを静かにナイフで刺してしまうのでした…。
ロゴージンにその現場に案内されるムイシュキン公爵。最後はナスターシャの亡骸を中心にして、3人でベッドに並ぶとても詩的なシーン。ここは小説でも悲しくも不思議な感動を誘うシーンですが、音楽はチェレスタが明るいトーンで終わるのが、どこか希望を感じさせて幕を閉じました。
うわ~!!!またもの凄い舞台を観た!!!
ヴァインベルクのオペラ/白痴。素晴らしい歌手や演出、そしてウィーン・フィルによる音楽が相まって、もう最高でした!!!
いや~!めちゃめちゃ凄かったです!会場も大いに盛り上がりました!
今年のザルツブルク音楽祭のベスト公演と絶賛して、興奮して周りに熱く語っていた観客の方がいましたが、「全くその通りです!」と思わず声を掛けそうになりました!笑
(写真)大好きな終演後のホーエンザルツブルク城塞の夜景。いやはや、今日もザルツブルク音楽祭は素晴らしかった!
(写真)帰り道で見かけた、ザルツブルク州立劇場のポスター。ここはザルツブルク音楽祭の演劇の公演会場ですが、トーマス・マンの「魔の山」をやっていました!
スイスの療養所を舞台としたトーマス・マンの代表作ですが、ムイシュキン公爵のスイス療養のいきさつにシンクロして、もしかして、オペラと演劇の連動企画?と感じました。いつか観てみたいものです。
(写真)終演後のクールダウンはザルツブルクに敬意を表してザルツブルクのビール、シュティーグル。最高のウィーン・フィルのブルックナー8番。最高のヴァインベルク/白痴。今日もザルツブルク音楽祭はめちゃめちゃ凄かったです!