前日にアレクサンドル・クニャーゼフさんとニコライ・ルガンスキーさんの素晴らしいショスタコーヴィチを聴きましたが、連日でショスタコーヴィチを堪能できるコンサートを聴きに行きました。曲目はショスタコーヴィチとヴァインベルクです!
NHK交響楽団第1911回定期演奏会Bpro.
(サントリーホール)
指揮:下野竜也
ヴァイオリン:ワディム・グルズマン
ショスタコーヴィチ/ヴァイオリン協奏曲第1番イ短調
ヴァインベルク/交響曲第12番「ショスタコーヴィチの思い出に」
このコンサートはショスタコーヴィチと、そのショスタコーヴィチに大いなる尊敬の念を抱くヴァインベルクのコンサートです。ヴァインベルクの交響曲には「ショスタコーヴィチの思い出に」という副題が!何と素敵なプログラム!ヴァインベルクを聴くのは一昨年の読響でギドン・クレーメルさんによるヴァイオリン協奏曲に続いて2回目、とても楽しみです。
(参考)2017.9.6 カスプシク/クレーメル/読響のヴァインベルク&ショスタコーヴィチ
https://ameblo.jp/franz2013/entry-12308408435.html
前半はショスタコーヴィチ。第1楽章。ワディム・グルズマンさんのストレートに豊かに歌われるヴァイオリンに惹かれました。最後のチェレスタは本当にいいですね。第2楽章。切れの良いヴァイオリンですが、そこまでのエキゾチックさはなくとても音楽的。クレズマー音楽、このところよく耳にしますね。
(参考)2019.3.18 東京春祭NIGHT クレズマー・ナイト~コハーン&シャールクジ・バンド
https://ameblo.jp/franz2013/entry-12448190120.html
第3楽章。ここは敢えてのように感じましたが、一本調子でフォルテに向かっていくヴァイオリンが印象的。曲の美しさをよく伝えます。カデンツァも見事。第4楽章。熱狂というよりは、本当によくできた傑作の曲を聴いている、という印象。ワディム・グルズマンさんの美音のヴァイオリンによるショスタコーヴィチ、ほとんどメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲を聴いたかのような、スッと入る聴き心地でした!
後半はいよいよヴァインベルク。第1楽章。冒頭の印象的な音楽はショスタコーヴィチの映画音楽にありそうな響き。叙情的な音楽が続きますが、リズムは交響曲9番第5楽章を思わせるユーモラスなもの。その後に金管がけたたましく鳴り響いたり、静かになったりするシーンは交響曲第4番第1楽章の息吹を感じます。最後の方の一撃には、分っていても驚かされます。果たして長調なのか短調なのか、判然としない終わり方も魅力的。
第2楽章。ここは素っ頓狂な音の連続で、ショスタコーヴィチのスケルツォへのオマージュ、という雰囲気の音楽。N響の木管のみなさまの見事な妙技!終わり方も人を喰っていて最高です。第3楽章。ここもショスタコーヴィチを思わせる弦楽により切々と奏でられるアダージョ。和声的にはショスタコーヴィチよりも手応えがあって聴きやすいですが、捉えどころのない儚さや無力感はまた別で、ヴァインベルクならではの魅力なのかも。
第4楽章。冒頭のマリンバの印象的な旋律。リズミカルな響きから、私はショスタコーヴィチの交響曲の集大成とも言うべき第15番の冒頭を感じましたがどうでしょうか?ラス前にハープとチェレスタが印象的に響くシーンは交響曲4番ラストを回想するかのよう。最後のダン!と弦が大きく弾ける場面は、交響曲第11番のあの鐘を乱打するラストの導入を思わせ「来たか!」と身構えますが、その後は静かに消えて行きます。何か偉大な魂が地上から旅立ったかのように聴こえました。
いや~、ヴァインベルクの交響曲、非常に聴き応えのある曲でした!昨年のルトスワフスキやステンハンマル、今年のマニャールやハンス・ロットなど、珍しい交響曲にも直ちに反応して感動する私にも、ヴァインベルクは手強く、まだまだその良さを十分には分らないところもありますが、実演を聴くことができて、かなりの収穫がありました。
と同時に、この曲を楽しむには、ヴァインベルクだけでなく、ショスタコーヴィチの曲がどれだけ入っているのか、それが試されるような気がします。15の交響曲や協奏曲、オペラ「ムツェンスク郡のマクベス夫人」や「鼻」、バレエ「ボルト」だけでなく、ショスタコーヴィチの他の曲もいろいろ開拓してみたいな、と思いました。
いずれにしてもヴァインベルクの旅はまだ始まったばかり。生誕100周年の今年、初めて交響曲の実演を聴くことができ、とても貴重な機会となりました!
下野竜也さんとワディム・グルズマンさんとN響のショスタコーヴィチとヴァインベルクのコンサート、ヴァインベルクの素晴らしさ、そして改めてショスタコーヴィチの偉大さを堪能することのできた、極めて価値のあるコンサートでした!難しい曲にチャレンジする下野さん、本当にお見事。それに的確に応えるN響もいつもながらに素晴らしい。こういうコンサートを聴いて楽しむことができるのは、本当に幸せなことだ。