(冬の旅行記の続き) 旅行3日目。最高気温2℃、最低気温0℃。素晴らしかったハンブルク滞在を終えて、この日からウィーン編となります。日本オーストリア友好150周年である2019年の総仕上げ。私が年末の旅行先をウィーンにするのに、いささかの迷いもありませんでした。

 

 

 

ハンブルクからウィーンにフライトで飛び、ホテルにチェックイン、まずはレオポルト美術館に行きました。リヒャルト・ゲルストルの企画展があったからですが、その理由はハンブルク→ウィーンのオーストリア航空で見た機内誌でした。

 

「いまウィーンで美術展を一つ選ぶならゲルストル展。クリムトとココシュカとシーレの影。」と紹介があったからです。これは観に行かねば!

 

私の海外旅行は基本のスケジュールは持ちつつも、現地の情報や流れ、ノリにより、躊躇なく行程を変えていきます。これも旅の醍醐味、楽しみ方の一つです。

 

また、3つくらいの企画展を同時に展開するレオポルト美術館ということで、珠玉の企画展であるVienna 1900展を三度観ることができるのも楽しみです!

 

 

 

(1)リヒャルト・ゲルストル展

 

 

 

(写真)Richard GerstlTraunsee with Mountain “Sleeping Greek Woman”, 1907

 

素晴らしい景観の絵。筆致が重厚で、美しいトラウン湖の湖や森、岩肌が迫力で迫ってきます。

 

 

 

(写真)Richard GerstlPortrait of the Father Emil Gerstl, 1906

 

重厚な筆致でとても立派な絵です。ゴッホの絵に似た印象を持ちました。

 

 

 

(写真)Richard GerstlPortrait of Alexander von Zemlinsky, 1907

 

白地に白い服のアレクサンダー・フォン・ツェムリンスキー。とても立派な絵です。

 

 

 

ゲルストル自身の自画像も沢山展示されていました。まるで日替わりのように自画像を描くゲルストル。1枚2枚なら分かりますが、沢山あると、大変申し訳ないのですが、そんなに価値があるとは思えない絵、という印象を持ってしまいます。芸術家の自我の強さなのでしょうか?そこにどんな想いが込められているのでしょうか?

 

 

 

(写真)Richard GerstlCouple in the Countryside, 1908

 

マチルデ・シェーンベルクの絵。お隣はアーノルト・シェーンベルク?何だかゲルストルのようにも思いますが?

 

 

ゲルストルは作曲家アーノルト・シェーンベルクの奥さん、マチルデ・シェーンベルクと不倫の関係になったことでも知られます。

 

ゲルストルがマチルデ・シェーンベルクを描いた絵のコーナーには、ムンクの「別離」「キス」「ヴァンパイア」の絵があったのが、とても印象的でした。まるでその時のゲルストルの心理状況を代弁しているかのよう。行き場のない心の慰めだったのでしょうか?

 

そしてゲルストルはマチルデと駆け落ちを企てますが、シェーンベルクの友人の作曲家アントン・ウェーベルンの説得により、マチルデはシェーンベルクのもとに戻ります。悲観したゲルストルは自殺してしまいます。

 

 

このゲルストル展の最後には、その事件を資料で克明に伝えるコーナーもありました!さすがはウィーン!

 

◯シェーンベルク/弦楽四重奏曲第2番op.10のスコア

 

1908年の夏、シェーンベルク夫妻はトラウン湖でゲルストルと一緒に夏を過ごしましたが、そこで不倫が発覚しました。その時にシェーンベルクが作曲していた弦楽四重奏曲第2番のスコアが展示されていました!

 

シェーンベルクが無調の音楽に入って行った先駆けの曲です。シェーンベルクらしい几帳面なスコアですが、大きな全消去の跡がありました!

 

 

◯ゲルストルの自殺を伝える新聞(06.11.1908 Die Neue Zeitung

 

 

Alexander von ZemlinskyAls Ihr Geliebter Schied op.13

 

ゲルストルの悲劇を振り返って、ツェムリンスキーが作曲した曲です。

 

 

時間が限られたので、十分に詳しく見ることができませんでしたが、シェーンベルクの音楽を愛好する者として、ゲルストルの悲劇の展示を垣間見ることができたのは、非常に感慨深いものがありました。

 

不倫、そして駆け落ちに失敗してしまったこともゲルストルを追い込みましたが、今回のゲルストル展がとても意欲的な展示だと思ったのは、自画像、風景画など、各分野のゲルストルの絵に加えて、その分野で傑出していた、他の画家の絵も並べていたことです。

 

これはゲルストルの前には先駆者がいて、ゲルストルが芸術家として、それぞれの分野で際立った個性を発揮できていなかったことを強調していた展示のように感じました。オーストリア航空の機内誌で見た「クリムト、シーレ、ココシュカの影」という言葉とシンクロします。

 

恋愛のみならず、芸術において行き場がなかった芸術家(ゲルストル)の悲劇。そして、その芸術家により、絶望に落とされたものの、新たな芸術(無調の音楽)に踏み込んでいく芸術家(シェーンベルク)。芸術家の人生について、いろいろ考えさせられた、非常に秀逸な企画展でした!

 

 

 

さて、残り時間は限られますが、同じくレオポルト美術館で開催されているVienna 1900展を観て周りましょう。海外の企画展にして、何と国内でも経験のない3回目です!(笑) 以下、特に印象に残った作品です。

 

(参考)2019.4.27 ウィーン観光(Vienna 1900展@レオポルト美術館)

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12459962809.html

 

(参考)2019.8.9 ウィーン観光(Vienna 1900展@レオポルト美術館(2回目))

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12510002613.html

 

 

(2)VIENNA 1900 Birth of Modernism

 

 

 

(写真)Gustav KlimtOn Lake Attersee, 1900

 

まずはクリムトがアッター湖を描いた絵。この絵は昨年夏の旅行で、アッター湖を船で周遊する前に観ましたが、今回は実際にアッター湖を観た後にこの絵画を観ることとなります。

 

改めてクリムトがアッター湖のエメラルドブルーの湖水を、見事に絵に表していることがよく分かりました。

 

(参考)2019.8.12 アッター湖観光(アッター湖周遊&マーラー交響曲第3番&クリムト)

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12524238791.html

 

 

 

 

(写真)Egon SchieleDead City III City on the Blue River III, 1911

 

シーレの風景画も沢山展示されていましたが、どの絵にも魅了されます。日本だとシーレの絵はエキゾチックなヌードの絵が紹介されることが多いですが、私は独特な構図と輪郭、色遣いの風景画は本当に素晴らしいと思います。

 

 

 

最後にシェーンベルクの絵も多く展示されていました。シェーンベルクは比較的親しみやすい絵から幻想的な絵まで、幅広く描いていますが、今回、絵の描かれた時期を注意しながら観てみると、シェーンベルクがデモーニッシュで幻想的な絵を描いたのは1910年前後。つまりリヒャルト・ゲルストルの悲劇の後の時期なんです!

 

ゲルストルの事件が音楽だけでなく、絵画にも影響を与えていることが伺い知れます。ゲルストル展とVienna 1900展を同時に開催したレオポルト美術館の意図には大いに唸りました!

 

 

 

(写真)レオポルト美術館

 

 

 

さて、この日も夜に観劇があるので、観光はレオポルト美術館だけで切り上げて、ホテルに帰ってしっかり休憩を取りました。この日の演目は、2019年が記念年である作曲家の代表作であるオペラ。日本で観ることはおそらく一生ないだろう非常にレアなオペラです。そのオペラとは果たして?次の記事で!