(夏の旅行記の続き) 旅行4日目。この日は観劇が夕方からなので、少し遠出をするチャンスです。どこに行こうか?いろいろ検討しましたが、マーラー/交響曲第3番が大好きなこと、今年はクリムトの絵を観る機会が多くあったことから、アッター湖に行くことにしました。
アッター湖はザルツブルク近郊、ザルツカンマーグートの湖水地帯で最も大きな湖です。南北に20kmと長~く展開するので、スケールの大きさを実感します。
アッター湖には一度、2008年に行ったことがあります。その時はウィーンから行って、まずクリムトが絵に描いたカンマー城もあるシェルフリンクを訪れました。そしてバスでアッターゼーまで行き、船でシュタインバッハに移動して、マーラーが交響曲3番を書いた作曲小屋を、第1楽章を聴きながらじっくり見学しました。もう10年以上経ちますが、昨日のことのようによく覚えています。
(なお、同じ2008年にムジークフェラインザールにてセミヨン・ビシュコフ/ウィーン・フィルでマーラー3番を聴き、マーラーの作曲小屋と合わせて堪能したのが、私のマーラー3番の至高の体験となっています。ちなみにメゾ・ソプラノはエリーナ・ガランチャさん!最高でした!)
今回はザルツブルクからアッター湖に向かいます。調べたら、鉄道でフェックラマルクトで乗り換え、アッターゼーを目指すのが簡単なようなので、この経路で行きました。
(写真)フェックラマルクト駅とアッターゼー駅を走るローカル線の細長い車両
フェックラマルクト駅からアッターゼー駅までのローカル線。途中の駅は小さな山小屋のような可愛らしい駅です。そして何と!降りることを意思表示するか、途中駅に乗客がいない限りは、列車なのに駅に止まりません!(笑)バスではよくありますが、列車でこのパターンは初めてでびっくり!列車の車両はウィーンとバーデン間のトラムに似て細長かったです。
途中、車窓から見える風景は、クリムトの一本だけが巨大なポプラの木の絵のような不思議な光景。この地には何かがある。そんな印象を持ちました。
(写真)Gustav Klimt/The Large Poplar II(Gathering Storm)
※ウィーンのレオポルト美術館で購入した絵葉書より
列車は20数分でアッターゼー駅に到着。船の時間まで少しあるので、周辺を散歩しました。
(写真)アッターゼーの福音教会と聖マリア教会。聖マリア教会は高台にあり、素晴らしいアッター湖とまちの見晴らしが楽しめました!
(写真)アッターゼーの船着場。ヨットも多く係留しています。グスタフ・クリムトを紹介するパネルもあり、クリムトがエミーレ・フレーゲとボートに乗っている写真もありました。
いよいよ船に乗って周遊します。今回はアッターゼーから出発して、アッター湖の南側、湖全体の2/3を周り、再びアッターゼーに戻ってくるコースを選択しました。時間は2時間半もかかります!(笑) さすがはスケールの大きなアッター湖!
(写真)私の乗った船。とても快適でした。2階の甲板に出ることもできます。船のパンフも民族衣装のお嬢さんが綺麗でとてもいい感じ。
(写真)今回の船のルートは赤のラインです。Atterseeから南下し、南をぐるっと周って、途中、Steinbach(マーラーが交響曲第3番を書いた作曲小屋のあるところ)を通って、またAtterseeに戻ります。
アッター湖はとても広い!1つ目の船着場のNußdorfの周りにはヨットが沢山あって、ずっとこんな感じなのかな?と思ったら、その後はヨットや家は何もなくずっと森が続く場所もあったり、非常にスケールの大きな湖です。
(写真)Attersee → Nußdorf → Parschallen → Stockwinkel (Hotel Stadler)の風景と船着場
Stockwinkelを過ぎると、いよいよアッター湖の南の雄大な山が近くに見えてきます。湖のすぐそばに切り立った高い山があるので、非常に迫力があります。さらに山には雲がかかって幽玄な雰囲気。
(写真)Stockwinkel (Hotel Stadler) → Unterach → Weißenbach (Hotel Post)の風景と船着場
そして写真でもお分かりのように、アッター湖は見事なまでのエメラルドブルーの湖水、非常に美しい湖です。
(写真)アッター湖のエメラルドブルーの綺麗な湖水。そして、グスタフ・クリムトがアッター湖を描いた絵。クリムトがアッター湖の特徴をよく捉えているのが分かります。
この辺りの湖と山の風景には圧倒されます!雄大なアッター湖、そしてエメラルドブルーの美しい湖水、切り立った厳しい岩肌を見せる山と森の緑。それらのコントラストが半端なく美しい!
マーラーが100分はかかろうかという前代未聞の巨大な交響曲(交響曲第3番)を作曲したのは、もしかすると、このアッター湖の圧倒的なスケール感が影響しているのかも知れません。
(写真)Weißenbach (Hotel Post) → Steinbachの風景と船着場
そしていよいよマーラーの作曲小屋のあるシュタインバッハに向かいます!ここは往年の名指揮者で、マーラーの弟子だったブルーノ・ワルターがシュタインバッハを訪れた時にマーラーが話した、あの有名な言葉をご紹介しましょう。
1895年の夏にシュタインバッハで一夏をすごすように招待されたワルターが、アッター湖を水蒸気船でわたって船着場に着いた時、あたりの風景、切りたったヘレンゲベルクの岩山の美しさに驚くと、迎えにきていたマーラーは年若い弟子にこう語った。
「私はすべてそれらを作曲してしまっているから見る必要はない。」
私はマーラーの交響曲第3番の中で、特に第3楽章を聴くと、このヘレンゲベルクの岩山の光景を浮かべます。また第6楽章には雄大なアッター湖のスケール感と底知れぬ慈愛を感じます。
ブラームスの交響曲第2番(オーストリア南部ヴェルター湖畔のペルチャッハで作曲)とともに、曲と作曲された場所とが、切っても切れない関係にあるのがマーラーの交響曲第3番だと思います。
(参考)マーラー/交響曲第3番ニ短調から第6楽章。エサ=ペッカ・サロネン/フィルハーモニア管弦楽団の美しい演奏。世の中にはこんなにも感動的な音楽があるのです。まだ聴いたことのない方は、ぜひ最初の5分だけでも、あるいは18:00からの最後の5分だけでも聴かれてみてください。
https://www.youtube.com/watch?v=M622tyRUYKg (23分)
※Philharmonia Orchestraの公式動画より
ちなみに、せっかくなので、船からマーラーの作曲小屋を眺めようとも思いましたが、それらしき小屋が沢山あるので、肉眼ではどれがどれだかサッパリ分かりませんでした(笑)。ということで、2008年に行った時の写真はこちら。
(写真)アッター湖の湖畔にあるマーラーの作曲小屋
さて、この日は雨まじりの曇りの天気で気温も涼しく、2階の甲板は風を受けるので、身体が冷えました。お腹も空いてきたので、少し早いランチにしましょう!
(写真)グラーシュとゼンメルとオーストリアのビールEggenberg。パプリカの利いたグラーシュの温かさにほっこりします。にも関わらず、冷たいビールを飲むのが、フランツお約束のパターン(笑)。
(写真)クリムトトルテ。クリムトならではの金箔が降りかかっていました!美味しい!
(写真)Weyreggを経て、Atterseeに戻ってきました。船からだと、朝に訪れた2つの教会がよく見えます。船着場は長蛇の行列ができていました。
アッター湖の再訪、素晴らしい体験となりました!お天気が微妙だったので、行く前はどうしようか?とも思いましたが、むしろ雲に覆われた幽玄な山々を見ることができ、逆に貴重でした。
次にコンサートでマーラー3番を聴く機会がいつになるか分かりませんが(今のところ予定なし)、この日、目に焼き付けたアッター湖やヘレンゲベルクの岩山を思い浮かべながらたっぷり浸りたいと思います!
(写真)帰りのアッターゼー駅にて、アッター湖の説明のパネルにネプチューンの絵を発見!何と、私のこの日の旅のスケジューリングのコンセプトとぴったりでした!さて、それは一体何でしょう?次の旅行記で!