2025/11/29土、京都府舞鶴市の多世代交流施設まなびあむで行われた「まいづる模型展示会/座談会2025」の、午後からの座談会の前半での、特別講演「プラモデルはどうやって作られているか/プラスチックの化学~分子を意識して性質を見分ける~」についてのブログ記事です。
プラモデルを作っているときは、なんとか自分の思い描くように上手く作ってやろうと無心になれ、そのために様々な工作技法を駆使して楽しいのですが、そもそもプラモデルはミニチュアの精密な立体造形であり、またプラスチックが切ったり/削ったり/接着したり/塗装したりできる(一部素材ではできなかったりしにくかったり)するのはどうしてなのかを基礎知識として知っておくことは他にも応用が利くので大変有意義です。
そこで、舞鶴電脳工作室店長の町田が、静岡ホビーショーのタミヤ社のブースでも実演されている射出成型の話を紹介し、次に舞鶴高専の小島先生に「プラスチックの化学~分子を意識して性質を見分ける~」と言うテーマで、すごく分かりやすくご説明いただきました。例えば、ポリエチレンのエチレン鎖はツヤツヤで塗料を弾き、ポリスチレンのベンゼン環のため「ひっかかりやすく」塗装できるというのは、大変わかりやすかったです。
講演後のQ&A(質疑応答)も大変盛り上がり有意義で(例えば、丹後ちりめん関係で当地には素材の化学的性質には経験/理解がある)、小島先生にはそれを盛り込んだスライド(パーワーポイント)を作成していただき、公開させていただきますので、ぜひプラモデル作りの参考にしてください! 簡単にまとめると、
・PS(ポリスチレン)、プラモデルの主材質、硬くてもろい、加工性/塗装性に優れ非常に扱いやすい。
・PE(ポリエチレン)、低密度(LD-PE)はポリキャップなどにつかわれ、柔らかくて保持力がある。また高密度(HD-PE)は固く、ポリバケツやドリフトラジコンのタイヤに使われている。塗装できない。着色は素材段階で混ぜ込まれる。
・ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)、複数の分子の良いところ取りで、特に耐衝撃性に優れる。ポリキャップに刺さる部品に使われますが、パチンとはめるときに微細なヒビが生じていて、塗装すると溶剤が浸透し割れてしまう。
・KPS(強化ポリスチレン)、バンダイ社が開発したABSに代わるプラスチック、Reinforcedつまり繊維強化などらしい。PSなので塗装も可能
・ソフトビニール(ソフビ)、ポリ塩化ビニル(PVC)に可塑剤を加えて柔らかくした、柔軟性があり軽量な素材です。特に玩具の中空成形品を指します
この特別講演の様子は、Youtubeでライブ配信され、「実際にプラモデルという普段さわっているものの、特性が分かりやすく解説していただいたので、これなら化学を勉強したいと思うようになりました」、「高専の授業資料の一部ということもあり懐かしくも非常にわかりやすい説明でした!、特に濡れ性の話はとても大事なことだと思います、 またこのような機会がありましたらぜひ視聴させ頂きたいです!」 と言う、嬉しい感想がありました。
さて、店長は舞鶴高専への進学について、いろいろと相談を受けていて嬉しいのですが、先生(教員)が小島先生のようにほとんどが博士で、豊富な知識でなんでも答えてくれると言うところに高等専門学校の強みがあります。また、5年間で即戦力エンジニアを輩出できるということは、塾通いや大学受験がなく、実用的な必須知識を得られる意味のある授業が受けられるのです。ということで、また舞鶴高専の受験の実際のブログ記事を書く予定ですが、たとえば京都府/近畿北部(丹波/丹後/但馬/若狭)では大学が少なく、高校を卒業したら都会に行ってしまう(行かざるを得ない)ということでなく、地元で勉強でき、地元の会社からの求人も凄く多いです。
舞鶴高専で借りてきた本、左の化学図録は化学の授業の副読本として使われていて、非常に眺めて楽しいし興味を引かされます。右の銀河鉄道の夜は天体観測前に読むと最高です
座談会の後半は、舞鶴出身のデザイナー永野護氏について語り合い、大いに盛り上がりました。
---
小島先生のパワーポイントスライド、Q&Aに対応してリニューアルされています
講演後の質疑応答(Q&A)は大変有意義でした。まとめてみます。
42分:16秒
Q1 ソフビ人形の素材で、ポリ酢酸ビニルが使われいているということですが、これは何ですか?
A1 実は驚くのですが木工ボンドのことであり、樹脂の懸濁液で乾くと分子間力が働き硬化します。最初から乾燥したものではないでしょうか?でもボンドなので、強度がないんですね。
●インターネットでコニシボンドの木工ボンドについて調べるとエマルジョン(乳化液)とのことですが、これは「本来混ざり合わない液体が均一に分散している」ということで、取り扱いは
たとえばマヨネーズなどのように難しい(温度や容器など)のでしょうか?
→酢酸ビニルは水には溶けないため,水に分散しているエマルジョンとなります。高校化学でいうところのコロイドですね。分散させるためにPVAなどの分散剤が添加されています。実際には工業用途も含めて幅広く使用されており,取り扱いは容易と言えます。
Q2 ソフトビニールは、染料が染みてしまうのはどういうことですか?
A2 それは、分子間のスキマが大きくて、入り込んで取れなくなるということですね。
また、塗装できるかどうかと言うことですが、これは「濡れ性」、化学的には表面エネルギーと言います。 塗装できないのはポリエチレン(PE:ポリキャップ)ですが、これはエチレン素
がもっとも単純で安定していて、つまりツルツルなので塗料を弾くので塗れないんですね。
塗装しやすいのはポリスチレン(PS:ボディ)ですが、ベンゼン環があるので、ひっかかりが良くて、濡れ性が良くて、うまく塗れるんですね。
46:13
Q3 織物屋なのですが、化学繊維を染めるとき、ナイロンは酸性染料で染まるが、ポリエステルは染まらなくて、原着(げんちゃく)と言って原料の段階で顔料を混ぜ込んで、絞りだして染まった糸を作らないといけないのですが、これはどういうことですか?
A3 ナイロンはアミド結合をしていて水素結合しやすい、つまり分子間力が強いので別のものがひっつきやすいので、後からでも染めやすいのですが、ポリエステルはエステル結合をしていいてそうではないので、分子になる前に混ぜるということですね。
47:50
A4 ガンプラなどの関節にはABSというのが使われていますが、現在ではKPSというのが使われてきていますが、これはどういうものですか?
Q4 AIで調べてみると、KPSは強化ポリスチレンですね。強化のKのようです。バンダイの商品名なんですね。ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンの強重合体)とは全然違って、KPS
は恐らく繊維強化などをしたポリスチレンだと思われます。
49:35
Q5 ABSは割れやすくて(エナメル塗料で塗装すると割れてしますう)、塗装ができない(スチレンのところだけで全体的にはできない)ので、バンダイが開発して、塗装できるようにしたのだと思います。
A5 そうですね。PSポリスチレンなので塗れるんですね。ポリエチレンのように安定しすぎて溶剤に溶けないのと、ポリスチレンのようにある程度溶剤に溶けてくれると塗りやすく、でも過度に溶けると割れてしまうとか、トレードオフがあるんですね。
50:10
Q6 ガンプラを箱に入れてしまっておくと、長期間経つと色あせてしまうことがありますが、なにが起こっているのでしょうか?
A6 耐候性ですね。一番には(強いエネルギーの紫外線)光が当たって化学接合が切れてしまうことがあり、熱で分子が動き破壊されることがあり、あとは空気に触れることによる酸化反応。主にその3つでしょう。
Q7 漂白剤によって治るようなものでしょうか?
A7 いや漂白剤は、色素に対する酸化還元によるもので、構造が変わってしまったものを治すことはできないです。
Q8 紫外線で変質したものを塗装で治すことはできないということでしょうか?
A8 そうですね。塗装は表面上に塗装幕を作っているだけで、内部の構造自体は変えていませんので、だから劣化させないことしか方法がないわけです。UVをカットするトップコートを吹いて劣化を防ぐわけです。
Q9 ポリカーボネットの波板にUVカットもそういうことですか?
A9 2種類あって、確かにUVを反射するのと、酸化防止剤(例えばペットボトル内のビタミンCのように)犠牲になって反応してくれると言うこと。
●プラモデルの主素材がPSであるのは、
・塗装しやすい:ベンゼン環があるので、濡れ性が良い、つまり表面エネルギーが高いからで、
・接着できる:接着剤で表面が「ほぐれて」接着できる(接着剤には樹脂が含まれいている場合があるのですが、
これはPSで、乾くと隙間を埋めてくれる)のですね。また、発泡スチレンが模型用接着剤で溶けてしまって接着できないのは、ほとんどが空気なので、ほぐれすぎるということでしょうか?
それで、スチレンボードの接着には木工ボンド系のエマルジョン接着が適しているということで良いでしょうか?
→その認識で合っています。ほぐれる以前に,接着剤の溶剤が触れた瞬間に発泡構造が溶けて,崩壊してしまいます。
→木工ボンド系であれば,スチレンボードの上部にポリマー層を構築するため,スチレンボードの崩壊は避けられます。ただしほぐして溶着させているわけではないので,接着力は限定的です。いわゆる「スチのり」のような専用の接着剤であれば溶解性が調整されているため,発泡構造を崩壊させることなく溶着させられるようです。
・加工性が良い:削ることができる:硬いからで、だからシャープにもできるんですね。









































































































































































































































































































































































































