第9話『交換条件』
メアリー「Help me, Bob, I'm bully in the alley, ♪」紅葉した木々の間からメアリーの陽気な舟歌が聞こえる。椿とシャルロットは自分の眠気を覚ます為に時々コーラスを入れているが、内心は今すぐ眠ってしまいたかった。メアリー「おいおい、声にハリが無いぞ野郎ども!!」シャル「あんたなんでそんなに元気なのよ・・・」椿「でもお陰で眠らずにすんでるよ・・・メアリー、続けて」椿の言葉にすっかり気を良くしたメアリーはさらに気合を入れて歌い始めた。巡回していたリフテン衛兵の視線が痛かった・・・。ドーンガード砦―。第2紀にヴァンパイアハンターの教団が建設したとされている歴史ある建物だ。砦に近づくにつれ彼女たちの眠気は飛び、代わりに妙な緊張が漂ってくる。自分たちのようなよそ者を相手にしてくれるのかさえ分からない。ここまで来て追い返されでもすれば心が折れてしまうだろう。砦に入ると二人の男が何やら深刻な雰囲気で言い争いをしていた。妙に話しかけにくい空気が漂う。シャルロットと椿は顔を見合わせ肩をすくめた。メアリーは歌い疲れたのか、既に黙り込んでいる。 この男がドーンガードの首領、イスランらしい。イスラン「さあて話は終わりだトランよ。どうやらお客さんのようだからな。」椿達に気が付いたイスランはトランという男との口論を切り上げ手招きした。椿は少しぼんやりしていたせいで自分達が呼ばれている事に気が付かなかった。イスラン「君達は何者だ?何の用でここに来た?」トラン「見た所傭兵か何かのようだが・・・志願者か?」椿「はじめまして、ホワイトラン従士の椿です。本日は吸血鬼問題に対するお力添えを頂きたくて参りました。」イスランは少し困惑したような顔をしたが、すぐに平静を装った。ホワイトランの従士と言う事は・・・この女性が巷で噂になっているドラゴンボーンだろう。その名誉ある彼女が何故こうもくたびれているんだ?イスラン「吸血鬼問題と言ったな・・・詳しく聞かせてもらえるかな?」椿は今抱えている問題を全て話した。イスランの顔が音を立てて険しくなっていく。イスラン「聞いただろうトラン!私の言った通りお前達番人がちゃんと対策を取っていれば!今頃ぬくぬくと暖炉の前に座ってお前の帰りを待っている阿呆共のケツを蹴っ飛ばしてやりたい位だ!!」トラン「もう皆死んだよ・・・イスラン。番人の間は・・・壊滅した。」イスランは更にまくし立てようとしていたようだがトランの言葉に押し黙ってしまった。イスラン「・・・すまない、そんなつもりでは無かったのだが・・君たちに再度警告しようとしたのだ、吸血鬼の脅威について・・・。」椿は状況が理解出来なかった。しかしどうやら吸血鬼問題はホワイトランだけの話ではないらしい。イスラン「椿・・・と言ったな。君達の要望通り、すぐに隊員を何人か送ろう・・・。」「・・・だが我々も手一杯の状況でな・・・。代わりに頼まれて欲しいことがある。」椿「??」イスラン「トラン、さっきの話をしてやってくれ。その・・・ディムホロウ・・・だったかな?」トラン「ああ、我々番人の斥候が北のディムホロウ墓地で怪しい動きがあると連絡してきてな」「すぐに増援を送ったんだが・・・誰も帰って来なかった。」椿「なるほど、つまり私達は・・・その墓地で吸血鬼が何をしているか確かめれば良いんですね?」トラン「その通りだ!」イスラン「ふむ、実に単刀直入だ。気に入ったぞ。」イスランは妙に嬉しそうな顔をして椿に言った。この娘、吸血鬼が相手だと言うのに全く躊躇していないな。さすがはドラゴンボーンと言った所か、思いもよらぬ大物が来たものだ。椿「では・・・すぐに向かう準備をしますね」イスラン「いや、その前に君達は休息を取るべきだ。気を急いてくれるのは有難いが、その状態ではまともに戦えまい」トラン「そうだ、吸血鬼と戦う前に倒れられては困る」椿達の顔がホッと一息ついたのを二人は見逃さなかった。よほど気を張っていたのが伺える。イスラン「奥に仮眠室がある。空いているベッドはどれでも使ってくれ」椿「あ・・・・ありがとうございます!!」 武器・・・?親父の斧だよ数時間後―。イスラン「良く眠れたかな?」椿「はい、おかげさまで!」イスランによると、番人トランは先に出発して様子を伺っているとの事だった。確かに、吸血鬼達を逃してしまったら本末転倒である。彼女たちはのんきに眠ってしまったことを少し後悔し、手早く出発の準備を終わらした。イスラン「新米の吸血鬼ハンターに助言だ。常に警戒し、注意を怠るな」見送りがてら、イスランは吸血鬼に関する様々な注意を促す。椿達は礼を言い気を引き締めなおした。メアリー「嫌な雲行きだな」シャル「一雨来そうね・・・。」不吉の予兆か、まるでドーンガード砦を後にする彼女たちの不安を煽るかのように暗雲が立ち込め始めた。・・・と思ったら晴れた。つづくスカイリムランキングへ