「算数・数学への苦手意識」の原因はどこにあるのか(1)
この記事は「ぶんぶんどりむ 2013年11月号」に寄稿したものの蔵出しです。
私は「公務員・就職試験対策」の算数・数学を教えるために,しばしば大学の教壇に立つことがあります。算数・数学が苦手なまま20歳まで過ごしてしまった彼らにとって,もう一度基本から学び直すことは大変なことです。大学3年の夏休みを「再勉強」に費やさざるを得ない彼らは,小中学生の時にどんなところで躓いてしまったのでしょうか。
●文章題を実体験と結び付けられない大学生
彼らが最も嫌がるテーマ,それは文章題です。指導しながら様子を見ていると,彼らに共通して見える特徴があります。それは「自分が知っている公式・パターンにあてはめようとして,少しでもそこからはずれると手が止まる」ことです。さらに,その公式やパターンが成り立つ理由を理解していないため,何もかも「丸暗記」で乗り切ろうとすることです。
わかりやすい例を紹介します。彼らが使うテキストの「速さ」の単元を見ると,その説明には「は・じ・きの公式を覚えてあてはめましょう」と書いてあるのです。ところが,いくらそれを覚えたところで,まったく問題が解けるようになりません。
は・じ・きの公式
き(距離)
ーーーーーーーーーー
は(速さ)|じ(時間)
その理由は簡単でした。私の「君たちは,普段自分が歩く速さを知っているか?」という問いに,予想通り全員が答えられなかったからです。
私は彼らに宿題を指示しました。
「大学から駅まで,または駅から自宅まで,スマホやパソコンで地図を開いて距離を測り歩いてみること。所要時間も測っておき,自分の歩く速さを確かめておきなさい」
自分の歩く速さがわかって初めて「分速80m」の意味がわかるのです。「忘れ物をして分速120mで走って家に戻る太郎君」を,自分の日常の速さと比べることで初めて,どれだけ焦っていて真剣に走っているのか想像できるようになります。そこでようやく「行きに比べてこの人は何分早く戻ってきたのかな」と疑問がわくことでしょう。公式やパターンの出番はここからです。何を求めたいかを自身が明確に持たない限り,暗記しただけの道具を本当の意味で使いこなすことはできないのです。
彼らに欠けているのはこうした実体験(リアリティ)です。文章題で扱われる内容はすべて自分とは関係のない別世界のことだと,残念ながら思い込んでいるようです。
だから私は「濃度12%の食塩水200gに水を加えて・・・」といった濃度の問題であれば,「食塩を焼酎に変えてみようか,飲めない人はカルピスでもいいよ」という話から始めます。そうすることで,「水で薄めるとどうなるか」を,公式を離れて自分の経験で考えるようになります。「原価に3割の利益を見込んで定価を決めたが,売れないので2割引で売った・・・」という問題では「学園祭で出店する焼きそば屋を想定しなさい」という具合に,設定を具体的に,ドラマやコント仕立てにしてあげる必要があるのです。(つづく)
- 日本数学検定協会公認 数検DS ~大人が解けない!?子供の算数~/ロケットカンパニー
- ¥2,940
- Amazon.co.jp
- 大人の算数パズル/PHP研究所
- ¥680
- Amazon.co.jp
- オトナのための算数・数学やりなおしドリル/宝島社
- ¥1,260
- Amazon.co.jp
ゴールから逆算して考えるって,こういうことか
「ゴールから逆算して考える」ことは,受験勉強をすすめていく際にはもちろんのこと,拙著『仕事の9割は数学思考でうまくいく』にも著したように,日々の仕事を消化していく際にも,
成功へ至る一本道
を見出したいとき(これが正解とは限らないが)には欠かせない発想法だ。
中学生や高校生に数学を指導する際に我々が出すヒントも,ほとんどが「正解からの逆算が自力でできるように」なるためのものだ。つまり,
「いずれは私との会話でなく,自問自答で前に進んでいくんだよ」
というメッセージを込めていることを,・・・,特に生徒に知ってもらう必要はないな。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
今日嫁さんと一緒にニュースを見ていたら,楽天田中投手のヤンキース入りの報道にかなりの時間が割かれていた。
契約金額とか活躍予想とかが報道の中心だったが,それを見ながら嫁さんがボソッとつぶやいた。
ヤンキースだったら,きっとやってるに違いない
と。 おいおい,おだやかじゃないなぁ と思いつつも話を聞いてみると・・・
もしも私がヤンキースの人間だったら,必ず奥さんに接触する。2年くらいの時間をかけて「ニューヨーク大好き」って言わせるように持っていくな。奥さんと自然な形で知り合いになれる女性を送りこんで,仲良くなって,少しずつ少しずつ「ニューヨークっていいところだよ」と情報を刷り込むな。あの手この手を使ってね(ニヤリ)
だって。
これが「田中をヤンキースに入団させる」というゴールから逆算してベストの選択だったとしたら・・・。自分には全くその発想がなくて,もしも自分がGMだったとしたら「生活環境のサポート」くらいしか考えられない。むしろ「世界一のヤンキースで勝負してみないか」とプライドをくすぐる作戦に出てると思う。
自分の考えは確かに正攻法だけど,それで来てくれるのか? 確かに,奥さんの影響力ってあなどれない。すでに野球界では常識になってる「攻略法」なのかもしれないけれど,この嫁さんの考え方には脱帽した。
このやりとりの後,仕事先でぼんやりと考えてみた。
勉強は「自分との勝負(入試では競争になるけれど,相手を出し抜くことはない)」。
仕事は「クライアント,あるいはライバルとの勝負」
なんだよね。だから「勉強ができたからといって,必ずしも仕事ができるとは限らない」ことになる。自分の中では最善策であっても,相手にそれが通じるかどうかはわからない。
これが正しい
ではなく
本当にこれが正しいのか?
と自問自答できる人が仕事では評価されるのではないだろうか。少なくとも相手の考えや心情を考えず「これが正解だ!」と自分たちの論理を振り回したところで,相手の心には丸がつくことはない。
勉強を通して中学・高校生が身につけるべきことは,知識とか公式とか高い偏差値だけじゃないよ。
物事に対してどれだけ広い視野を意識するか,様々な情報の中から最適なものをチョイスするか
という思考習慣も大切だ。これからの人生,この繰り返しで君たちは前に進んでいく。
- 仕事の9割は数学思考でうまくいく/あさ出版
- ¥1,470
- Amazon.co.jp
こちらは電子書籍
仕事の9割は数学思考でうまくいく (あさ出版電子書籍)/株式会社あさ出版
- ¥価格不明
- Amazon.co.jp
幼少期の育児方針が将来にどんな影響を及ぼすの?
プレイフルラーニング~幼児の「遊びと学び」プロジェクトは、2013年12月13日~15日の期間、20..........≪続きを読む≫
このニュースが気になった人は,下のリンクから入れる調査レポートにも目を通してみてください。
http://asobi-manabi.jp/reports/02.html
難関突破経験者って・・・。こんなあいまいな区分け,ありなのか。
それはそれとして,このレポートで気になるのは「子どもを思い切り遊ばせた」の部分。子どもの自主性を大切にするのはいいとして,何をして遊ばせたのだろう? そのあたりを突き詰めると「外遊びがよい,室内はNG」みたいなことになってくることが多い。
積木はダメなの?ゲームはどうなの?
キリがないんだよね。
これで話を終わらせては面白くないので,自分の経験則から1つだけ。
中学生の数学の学力 と 幼少期のポケモンやりこみ度
には,なんとなく相関があるということ。冗談半分本気半分だけど。
私は授業中にポケモンネタを放り込むことがたまにある。
解説をじっと待って思考停止状態の生徒に「トランセルじゃないんだから,固まるのはよせ」
因数分解や平方根の練習中には「今やってることは,自分自身の経験値を上げてる作業だから」
この仕事をする前は何をやっていたんですか?と聞かれると「君たちがアチコチで散らかしっぱなしにしたモンスターボールを拾い集めて,透明テープで修繕してタマムシデパートに卸す仕事をしてた」
などなど。そんなときの反応は,おおむね「数学が好き・得意」という生徒の方がよくて,彼らの思い出話に耳を傾けると,現在の学習状況につながっている部分が多い。
問題に取り組む姿勢,点数へのこだわり,・・・,
それらを今でもゲーム感覚で楽しんでいるのかな,と思う。
彼らに共通しているのは,あの複雑な「ポケモンの相性」をひたすら暗記しようとしなかったこと。
何度も何度も攻略本に目を通して,使いながら自然に覚えた
と,口をそろえて言うから不思議。
だからといって,ポケモンをやらせておけば数学ができるようになる わけではないので念のため。
2014年度センター試験数学ⅠA大問3の補足
先日の記事(リンクはこちら )で紹介した,2014年度センター試験数学ⅠAの平面図形(大問3)には,
角の二等分線の長さ
を求めさせる問題がありました。
高1生はもちろんのこと,中学生でもしっかりと確認しておかなければならないレベルの重要事項ですから,怪しい人向けに講義をしていくことにします。
まず,下の図が基本形になります。この図のADの長さが問われているのです。
この図は高校入試においても頻出ですが,まずはこの図を見て思い出せることをひたすら列記してみましょう。
角の二等分線定理から AB:AC=BD:DC
方べきの定理から AD×DE=BD×DC
このあたりは基本中の基本ですね。
また,フリーハンドで図を描く際には「Eは必ず弧BCの中点になるように」とうるさく言われた人も多い事でしょう。
やや発展的な確認事項として,△ABD∽△AECより AB:AE=AD:AC が成り立つことより,
AB×AC=AD×AE
も,必ずいえるようにしておかなければなりません。これを用いる問題は,上位~難関私立高校では頻出レベルですから,その成り立ちを証明できて当たり前となります。
さて,ここまでの前提が理解できていれば,ADの長さを求める公式は自分で導くことができます。
わかりやすくするために,AB=a,AC=b,BD=c,DC=d,AD=x,DE=yとしましょう。
このとき,AB×AC=AD×AEが成り立つので,
ab=x(x+y) したがって ab=x^2+xy となります。
次に,AD×DE=BD×DC ですから,xy=cd も見つかりました。
この2つの条件を組み合わせると,ab=x^2+cd ∴x^2=ab-cd
これが,AD^2=AB×AC-BD×DCの成り立つ理由です。中学生においては,三平方の定理を用いて気合と根性で計算することを前提に出題されるケースが多いのですが,近年は公立高校においても「円と相似がからむ証明」の出題が増えているため,入試直前期の点検として扱っておくべき1問となっています。
何度も申し上げていますが,来年度から大学受験でも数学・理科はいよいよ新課程となります。新課程においては,数学Aに「図形の性質」が追加され三角比と合わせて出題が増加することが見込まれます。さらに,この「図形の性質」で扱う内容が中学生で学ぶものの延長線上にあるため,これまでにもまして「中学と高校の垣根があいまい」になっており,
高校入試なのに大学入試レベルと同等の出題
の可能性が高まっていることを覚えておきましょう。受験生は,最初からこのレベルを想定して準備をしておくべきであって,易しい(公式にあてはめれば一発)問題を何百題と解いたところで実戦力にはつながらないことを肝に銘じておきましょう。
同様のことが「場合の数・確率」「整数」でも起こり得ます。
つまり新課程の「数学A」は,その大半が「中学4年生」として学ぶものと考えても大げさではないのです。だからこそ,中学生のうちにミッチリと「正しい図形の見方」に触れて,図形に対する苦手意識を取り除いておかなければならないのです。
中高一貫校に通う中学生,難関国私立高校受験を考える中学生にはこのシリーズを勧めます。必ずしも「机の前で解き進める」必要はありません。紙と鉛筆を持たずとも,電車の中はもちろん,布団の中で図を眺めながら考えるだけでも効果があります。
- ¥816
- Amazon.co.jp
- 目で解く幾何―高校への数学 (円・三平方編)/東京出版
- ¥816
- Amazon.co.jp
最後は「人間力」の勝負だよ,何事も
日本プロ野球機構のHPを見ていたら
「セカンドキャリアに関する意識調査」
の結果が公表されていた。対象は現役の若手選手で平均年齢は23.4歳。
詳細はこちらでPDFファイルを見ることができます。
http://www.npb.or.jp/npb/careersupport2013enq.pdf
「現役引退後の生活に不安があるか」・・・73.9%が「はい」と回答
「不安に感じる理由」・・・「収入面」と「進路面」を合わせて90.5%
これは仕方ない。このリスクも飲み込んだうえで飛び込むのがプロの世界。不安ならば練習して一人前になるしかない。誰も助けてくれない世界だから。
気になるのは, 「プロ野球選手を引退した後、どのような仕事をしてみたいと思うか」 との問いに対して「指導者」を選ぶ傾向が強くなっていること。プロの監督・コーチになれるほどの実績を残さないとなれないと思いがちだけど,最近だと「資格回復の上高校野球指導」とか「民間・球団所有の野球教室」とか様々な選択肢が増えてきてる。
これって,若手選手が
それしか思いつかない それしかできない
ってことではないのか,と。 野球から離れたときに「何もできない自分」でいいのか,と自問自答したことがあるのかな・・・,と。 自分が親だったら必ず考えさせている。
こうしたセカンドキャリアを考える機会って,本当は「プロに入る前」なんだろうと思う。大学・社会人経由の選手はともかく,高校から直接プロ入りする選手には「高校時代に真剣に考えさせること」が必要だなぁ,と。
野球しかしてませんでした
授業中はずっと寝ていました
で通用したのは昔のこと。一般的な勉強はもちろんのこと,ノムさんの言う「人間教育」の重要性をヒシヒシと感じる。人間力って大事だよ。
・・・・・・・・・
何でこんなことを思ったかと言えば,受験生を抱えたわが家の1年間がこんな感じだから。
(受験生なんだから)勉強だけしていればいい
は,ちょっと違うんだよね。中学受験だろうが高校受験だろうが,もちろん大学受験でも「点数をとるための受験勉強」だけでは伸びないと自分は思っている。
自分のリソースのすべてを勉強に向ける
なんて生活は長く続かない。「人間的な余力」を残した状態で,直接的には志望校合格につながらないだろうと思えるような「ムダ知識,ムダ経験」だって,年齢に応じて吸収していかないと。
受験も最後は,人間力の勝負 なんだよね。
素直さ・気合と根性・視野の広さ・時間管理・・・

