イーサン・コーエン監督、マーガレット・クアリー、ジェラルディン・ヴィスワナサン、ビーニー・フェルドスタイン、ジョーイ・スロトニック、C・J・ウィルソン、コールマン・ドミンゴ、ビル・キャンプ、アニー・ゴンザレス、マイリー・サイラス、ペドロ・パスカル、マット・デイモンほか出演の『ドライブアウェイ・ドールズ』。PG12。

 

日々の生活に行き詰まりを感じたジェイミー(マーガレット・クアリー)とマリアン(ジェラルディン・ヴィスワナサン)は、車の配送(=ドライブアウェイ)をしながらアメリカ縦断のドライブに出かける。しかし、配送会社が手配した車のトランクに謎のスーツケースがあるのを見つけ、その中に思わぬブツが入っていたことから、スーツケースを取り戻そうとするギャングたち(コールマン・ドミンゴ、C・J・ウィルソン、ジョーイ・スロトニック)から追われるはめに。さらにジェイミーの元カノの警察官(ビーニー・フェルドスタイン)や上院議員までも巻き込み、事態は思わぬ方向へと発展していく。(映画.comより転載)

 

ネタバレがありますので、これからご覧になる予定のかたは鑑賞後にお読みください。

 

コーエン兄弟の弟の方、イーサン・コーエンの初単独監督作品。

 

劇場で初めて予告を観た時、二人連れの女性の主人公たちのうちの一人がクエンティン・タランティーノ監督の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』で腋毛を生やしたマンソン・ガールを、またヨルゴス・ランティモス監督の『哀れなるものたち』ではエマ・ストーンになれなかった娘を演じていたマーガレット・クアリーだと一目でわかったのと、レズビアンたちがギャングたちと追っかけっこする映画っぽかったので、これは観たい、と思ったのでした。

 

ここんとこ、しんどめの映画が続いてたから(見応えある作品ばかりでしたが)頭の悪そうな映画を無性に観たくなって、アレクサンダー・ペイン監督の『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』とハシゴしました。あ、『ホールドオーバーズ』の方は全然頭の悪そうな映画じゃないですが。オスカーも獲ってますし。

 

コーエン兄弟だってアカデミー賞受賞監督ですからね。…しかし、同じユニヴァーサル映画でもこの違い(;^_^A

 

ノリとしては『バーン・アフター・リーディング』(2008年作品。日本公開2009年)あたりと似たタイプの映画かなぁ、などと思ってたら、どちらかといえばタランティーノ映画っぽかったり(マイリー・サイラス演じる女性が出てくる、なんかやたらとサイケデリックなCM映像みたいなのが流れたり)、全篇下ネタばっかで。

 

予告を観たらどうしたってバカ映画版『テルマ&ルイーズ』みたいなのを期待してしまうし、わりとその通りだったりもするんだけど、「下ネタ」の方に振り切り過ぎたために『テルマ&ルイーズ』にはあった“感動”は一切ない。

 

一応、時代は1999年から2000年にかけて、ということだけど、その設定にどんな意味があったのかよくわからない。それぐらい中身がない。

 

しかも、出てきたと思ったら即退場してそのあと生首になってしまうペドロ・パスカルや、『ビール・ストリートの恋人たち』ではよき父親を、『カラーパープル』では最悪の夫を演じていたコールマン・ドミンゴが癖の強そうなギャングのボス役で出てきたので、どんな愉快な芝居を見せてくれるのだろう、と思っていたら、いきなり撃たれておしまい、とか…そしてこれもほぼ出オチに近いマット・デイモンのくだらないにもほどがある使い方など、面白くなりそうな部分をわざわざ削ってダメな方にもってこうとしてる感が。

 

二人組のギャングたちなんて、あそこで一人が片割れとボスを一気に射殺して「ママー」と言いながら逃亡、そのまま最後まで出てこない、って…通常の映画じゃありえないでしょ。

 

 

 

 

 

こちらは二人の同性愛者の女子たちがギャングたちと車を爆走させたり銃をぶっ放したりする痛快アクションを観たいのに、そのどちらもありませんからね。二人の女子はあっちゃり捕まっちゃうし、しかも彼女たちは反撃することもなく、敵は勝手に自滅する。

 

ガイ・リッチー作品のような集団モノの物語的な面白さもない。ひたすら下半身のことばっか考えてて、何かといえばヤッてばかりいるマーガレット・クアリー演じるジェイミーと、堅苦しい言葉遣いで一見すると正反対の性格なジェラルディン・ヴィスワナサン演じるマリオンが最終的に身も心もくっつくまでを描いてるだけだから。

 

 

 

 

ビーニー・フェルドスタイン演じるジェイミーの元カノのスーキーも、お話にほとんど絡んでこないし。

 

 

 

まるで、忙しい俳優たちの時間をそれぞれちょっとだけつまんで繋げたような、作劇としてはかなり投げやりな代物。

 

女性の同性愛者が日が暮れたら出ていかないと殺されるかもしれない、という、『グリーンブック』を思わせる「日暮れの町」についての言及があるものの、それ以上お話にかかわってはこないし。

 

ジェイミーはお堅いマリオンに対して、現実を見なければ、というようなことを言うし、フェミニズムの活動家を揶揄するようなことも言う。

 

最終的に、マリオンは「あの上院議員はクズだけど、彼のイチモツから型を取ったディルドーが忘れられない」と言う。

 

…なんか、フェミニズムを茶化してるよーな。

 

絶対に真面目になんて描かねぇぞ、というポリシーすら感じる。

 

他方では、アイリーン・ウォーノスが起こした連続殺人事件(シャーリーズ・セロン主演の映画『モンスター』のもととなった)が元ネタである『テルマ&ルイーズ』からオミットされた同性愛という要素をしっかり受け継いでいて、それだけは最後までブレることがない。

 

結局は男のアレが必要なのかよ、とも思うけど、でもここで描かれているのは「男はただの性具扱い」ということなんだよね。人格のない、単なる張形。

 

もはや人間としてすら扱われていない(『ボーはおそれている』のペニスのモンスターを思い出しますが)。

 

だから受け取り方によっては、この映画はレズビアン(dyke/ダイクという単語も出てくる)への讃歌と捉えられなくもない。当事者のかたがたはどう感じていらっしゃるのだろう。

 

面白かったかどうか、ということでは、バカ笑いできるようなギャグはそんなにないし(チンコ関連のネタは笑いましたが。男性器ってどうしてあんなに滑稽なんだろう)、ストーリーテリングでぐいぐい引っ張っていくのでもないから、観終わって軽い虚しさを覚えたし、絶対に観なければいけない映画だとも思いませんでしたが、ただまぁ、下ネタ満載だろうことは観る前から予測していたし、85分という短さもあって、特に何も引っかからずにさらっと終わってしまう、こんな映画があってもいいと思った。

 

なぜかわりとご年配のかたたち、しかも女性が結構な人数観にきていた(僕の後ろの席にも二人連れの奥様がたが座っていたし)。若い人よりも多くて不思議な光景だった。

 

主演のマーガレット・クアリーさんは、これまでにも主演映画が何本かあるようだけど、僕は彼女が脇役として出てた先述の2本しか観ていないので、今回の主演映画も含めてその作品のチョイスの仕方が面白かったですが。

 

お母さんのアンディ・マクダウェルさんは、わりと清楚な女優さん、というか、そんなセクシュアルな役を演じていたイメージがないんだけど、娘さんはこのブッ飛びぶり(笑)

 

いや、きっと通常の人間ドラマにも出ているのだろうし、真面目な役も演じられる人であろうことはわかりましたが。

 

彼女の、ちょっと顔をしかめるような不敵な笑顔がまたイイんだ。

 

ランティモス監督の最新作『憐れみの3章』にも出てるんですよね。今度はどんな役なんだろ。あの監督のことだから、またいろいろイッちゃってるんだろうな。

 

マリオン役のジェラルディン・ヴィスワナサンさんは、真面目そうに見えて、でも…というところがなかなかよかった。素敵なエロさでした。今度、マーヴェル映画にも出るそうですね。インド系の俳優さんたち、最近活躍が目立ってますね。

 

下ネタ満載、とはいえ、喘ぎこそすれ別に女性たちの映っちゃマズい部分が映るわけではないし(途中で子ども時代のマリオンが覗き見していた中年女性の裸体は出てきますが。ポスターの逆さになったブーツは彼女が履いていたもの)、実はいろいろと気を遣ってはいるんですよね。いかにも男性を喜ばせるための作品にはなっていない。男は作り物のチンコとしてしか見做されてないから。

 

だから、下品で不真面目なふりをしながらも、お行儀のいい映画だな、と思いました。ほんとは真面目な作品も撮れる人たちが、わざと下ネタワードを連発していい加減な作風ででっち上げたようなふうに仕上げてある。本当にヤバいものを観ている感じはしなかった。

 

そういう意味では、これは別に下ネタはないけれど、『ガンパウダー・ミルクシェイク』を観た時のような物足りなさと、何もないからこその清々しさと、その両方がありました。

 

出演陣はよかったし。めっちゃもったいない使われ方だったけど。

 

さぁ、これからはまた真面目な映画を観よっとw

 

 

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