今月劇場で観た新作映画は5本。旧作が5本でした。

 

 

非常宣言

 

バビロン

 

別れる決心

 

 

 

  エンパイア・オブ・ライト

 

 

サム・メンデス監督、オリヴィア・コールマン、マイケル・ウォード、コリン・ファース、トビー・ジョーンズ、ターニャ・ムーディ、トム・ブルック、クリスタル・クラークほか出演。2022年作品。PG12。

 

厳しい不況と社会不安に揺れる1980年代初頭のイギリス。海辺の町マーゲイトで地元の人々に愛されている映画館・エンパイア劇場で働くヒラリーは、つらい過去のせいで心に闇を抱えていた。そんな彼女の前に、夢を諦めて映画館で働くことを決めた青年スティーヴンが現れる。過酷な現実に道を阻まれてきた彼らは、職場の仲間たちの優しさに守られながら、少しずつ心を通わせていく。前向きに生きるスティーヴンとの交流を通して、生きる希望を見いだしていくヒラリーだったが──。(映画.comより転載)

 

女王陛下のお気に入り』や『ファーザー』のオリヴィア・コールマンが心に傷を負った女性を演じる本作品は舞台となる映画館「エンパイア劇場」がもう一人の主人公とも言えて、この作品のためにみつけてきた劇場を80年代風に改装して撮影に使ったのだそうだけど、ほんとにレトロで素敵な建物だし、緞帳のあるスクリーンや豪華な客席、それから劇中では普段は使われていないスクリーンや大きな窓に囲まれたレストランなど、ほとんど廃墟と化していて鳩が棲んでいる最上階までもが画になって、そこから外に出て見る風景は本当に美しく、一度でいいからあんなところで映画を観てみたいと思わせてくれる。

 

 

 

あそこで彼らのように、砂浜から打ち上げられて夜空を照らす花火を見たいなぁ。

 

あの劇場の建物が見られただけでも、僕はこの映画を観てよかったと思いました。

 

一方で物語の方は、トビー・ジョーンズ演じるヴェテラン映写技師が35ミリフィルムの映写機を操作したり、ちょっと前に観た『エンドロールのつづき』でも映写技師が語っていた、「映画」とは24コマのコマとコマの間の暗闇を見ているのだという台詞があったり(彼の映写室の壁にはおびただしい数の映画スターや監督など、映画関連のチラシや切り抜きが貼ってあるし)、「映画についての映画」のように思わせながらも、オリヴィア・コールマン演じる主人公のヒラリーはそのエンパイア劇場で従業員として働いているにもかかわらず、彼女自身はそこでこれまでにまともに映画を観たこともなく、また特別映画が好きというわけでもなさそうで、やがては彼女は病いを抱えていることが明らかになる。

 

 

 

 

なんとなく、僕が想像してたような内容とは別の展開を見せていくんですね。

 

「映画についての映画」というよりも、まるで「映画館」が見た人間模様、のような。

 

しかも、ヒラリーが劇中で2人の男性とそれぞれ性的な関係を結ぶ場面が何度もあって、そのうちの一人、スティーヴン(マイケル・ウォード)とは互いに惹かれ合いもするのだけれど、なんていうかここで描かれるセックス描写はロマンティックな雰囲気というよりも何か痛々しさを感じさせるもので、ずっと微妙な気持ちで観ていた。

 

母親に長年虐待のような扱いを受けてきたことで癒やしがたい心の傷を負ったヒラリーと、「彼女は最高の女性だ」と看護師でシングルマザーである自分の母親を尊敬して心から愛するスティーヴンは対比されているし、しかし不況の中、白人たちから嫌がらせや暴力を受ける彼の傷とヒラリーのそれが並べられてもいる。

 

誰もが傷を負っている中で、スクリーンに“光”を映し出しながらエンパイア劇場はそこにある。現実のいくつもの人生を劇場が見つめている、というふうに描かれている。

 

ちょっと期待していたような物語とは違っていましたが、これは普段は僕たちが気づいていない、「映画」の中の“暗闇”の部分をほんの少し切り取ってみせたお話だったのかな、と思いました。

 

「映画」は映画に詳しい一部のファンだけではなくて、いつもはそんなに映画を観ない人が観て涙を流す、そういうものなんだと言っているようでもあった。

 

ピーター・セラーズ主演の『チャンス』(監督:ハル・アシュビー)が観たくなりました。

 

 

関連記事

『007 スカイフォール』

『1917 命をかけた伝令』

『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』

『ジュラシック・ワールド/炎の王国』

 

 

 

 

  ベネデッタ

 

 

ポール・ヴァーホーヴェン監督、ヴィルジニー・エフィラ、ダフネ・パタキア、ルイーズ・シュヴィヨット、ランベール・ウィルソン、シャーロット・ランプリングほか出演。2021年作品。R18+。

 

17世紀、ペシアの町。聖母マリアと対話し奇蹟を起こすとされる少女ベネデッタは、6歳で出家してテアティノ修道院に入る。純粋無垢なまま成人した彼女は、修道院に逃げ込んできた若い女性バルトロメアを助け、秘密の関係を深めていく。そんな中、ベネデッタは聖痕を受けてイエスの花嫁になったとみなされ、新たな修道院長に就任。民衆から聖女と崇められ強大な権力を手にするが──。(映画.comより転載)

 

※鑑賞後のTwitterでの呟きを並べておきます。

 

ポール・ヴァーホーヴェンの新作映画を劇場で観るのは2000年の『インビジブル』以来なんですが(評判がよかった『ブラックブック』はあいにく未鑑賞)、下半身にまつわるお話、ということではあれからまったく変わっていない御大であった。いやぁ、なかなかぶっとんでましたね。さすがのR18+といった感じで。

 

同じ日に、この映画の前に「午前十時の映画祭12」で『フィッシャー・キング』を観たんですが、あちらでは全裸のロビン・ウィリアムズが踊ってて(股間のアレが見えそで見えない)、続くこちらでは修道女たちがあられもない姿で…ということで半日裸祭りみたいな状態だった。

 

 

 

ヴァーホーヴェンのキリスト教観、神や教会に対するスタンスがよくわかる。まさにヴァーホーヴェン版『お嬢さん』といった感じで、権力者には容赦しないヴァーホーヴェン節は健在。

 

とりあえずメロヴィンジアン(ランベール・ウィルソン)が大変なことになっていた(シャーロット・ランプリング様も)。

 

 

 

 

ペスト流行の描写が新型コロナウイルス感染症のパンデミックを思わせるように、この奇蹟と狂信の物語に今現在の社会を重ね合わせると、人間は果たしてあれからどれだけ進歩したのだろう、と溜め息が出る。

 

真面目に描いてるのに、いろいろ酷過ぎて(映画が、ではなくて劇中で起こることが)だんだん笑えてきてしまう。中世ヨーロッパというのは、狂人たちが自覚のないまま自分たちの論理でやりたい放題やっていたことがよくわかる。…それって、現在のどっかの島国のことじゃございませんか。

 

リュック・ベッソン監督、ミラ・ジョヴォヴィッチ主演の『ジャンヌ・ダルク』を思わせるところもあったけど、あちらでは“サタン”によってジャンヌ・ダルクが自分の信仰心を疑わされたり、奇蹟の正体についてもツッコミを入れられて心が揺らぐ場面があったのに対して、『ベネデッタ』ではベネデッタ本人は一切揺らぐことはなくて、まわりから客観的に見ると疑わしい点が多い、というふうに描かれている。

 

いずれにせよ、ジャンヌ・ダルクやベネデッタみたいな存在を生んだのは、当時の社会だった。奇蹟を求める民衆と、そういう多くの人々の願いを利用した権力者たちの思惑が合わさって、その結果彼女たちは社会を動かし、またその社会に翻弄されもした。

 

ジャンヌ・ダルクがそうだったように、ベネデッタのような女性を「キリストの花嫁」として崇め奉ったり「魔女」として火炙りにしているだけでは、これからも彼女のような女性たちは現われ続けるだろう。彼女のような存在を生み出したこの社会の構造そのものを問わなければ。

 

ベネデッタの“嘘”を告発したために悲惨な目に遭うシスター・クリスティナ役のルイーズ・シュヴィヨットって、『あのこと』にも出てたんだな。出演作品がいちいち衝撃的過ぎ。あの映画も女性の大切なところに凶悪な器具が挿し込まれる映画だったけど、あちらは中絶だったのが、こちらは拷問。

 

マリア像をアレに改造とか、冒涜的行為が法悦を呼ぶ、というのはとてもわかりやすいし、この映画自体が聖俗両方を含んでいたり、キリストのアソコがああなってたりと、「今」を感じさせるものになっている。だから嫌悪を感じながら、どこか崇高な気持ちにもさせられるということ。

 

これ観てたら、SMのあの鞭はキリスト教からきてるんだな、ってあらためて思った。完全にマゾヒズムだよね。『薔薇の名前』思い出した。今度「12ヶ月のシネマリレー」でやるから楽しみです。 

 

人間は存在しないものを見るし、なかった痛みを感じもする。信じてもいないものをおのれの出世のために信じる振りも。それが生きていることの証しでもある。それはしばしば醜く、ときに暴走もするが人を救うこともある。ベネデッタがたどった人生にはそのどちらもがあった。そして我々にも。

 

 

関連記事

『ロボコップ』

『トータル・リコール』

 

 

 

 

 

旧作

ラストエンペラー 劇場公開版 4K(12ヶ月のシネマリレー)

 

レナードの朝(午前十時の映画祭12)

 

雨月物語 4Kデジタル復元版(大映4K映画祭)

 

無法松の一生<4Kデジタル修復版>(大映4K映画祭)

 

フィッシャー・キング(午前十時の映画祭12)

 

 

今月も面白い映画や濃ゆい映画などさまざまでしたが、どんな内容だろうとどこが舞台でどんな時代が描かれていようと、ほんのりと現実の「今現在」と接点のある作品に惹かれます。

 

3月になっても、スピルバーグの新作をはじめ『フラッシュ・ゴードン』など、すでに観たい映画がいっぱい。

 

暖かくなりつつありますが、花粉症に負けずにまた映画館に向かいます(^o^)

 

 

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