スティーヴン・ケープル・Jr.監督、マイケル・B・ジョーダン、シルヴェスター・スタローン、テッサ・トンプソン、フローリアン・ムンテアヌ、ドルフ・ラングレン、ウッド・ハリス、フィリシア・ラシャドほか出演の『クリード 炎の宿敵』。2018年作品。

 

WBC王者のアドニス・クリード(マイケル・B・ジョーダン)は歌手で恋人のビアンカ(テッサ・トンプソン)にプロポーズして、ふたりで家庭を築いていくことに。そんなアドニスにウクライナに住むボクサー、ヴィクター・ドラゴ(フローリアン・ムンテアヌ)が試合を申し込む。ヴィクターの父イワン・ドラゴ(ドルフ・ラングレン)は、かつてリングの上でアドニスの父アポロ(カール・ウェザース)の命を奪った張本人だった。しかし、亡きアポロの親友にしてその遺児アドニスの恩師ロッキー・バルボア(シルヴェスター・スタローン)は、“守るべきもの”を持ったアドニスのヴィクターとの因縁の対決に反対する。

 

2015年公開の『クリード チャンプを継ぐ男』の続篇。「ロッキー」シリーズの第8作目。

 

『チャンプを継ぐ男』は「ロッキー」シリーズのスピンオフ作品という位置づけだったけど、一方では第4作目『ロッキー4/炎の友情』(1985)の直接的な続篇でもあって、次は当然主人公アドニスにとっての父の仇ドラゴが登場、と多くのファンが期待していた。

 

 

 

 

 

そして、その期待通り、かつてロッキーと壮絶な打ち合いを繰り広げた猛者イワン・ドラゴが男手一つで育て上げた息子のヴィクターとともに帰ってくる──。

 

 

 

 

『ロッキー4』は僕が初めて観た「ロッキー映画」で、やはりドルフ・ラングレン演じる最強の敵ドラゴのインパクトが強烈だったのと、有名なあの「トレーニング・モンタージュ」が僕も好きで、今でも時々あの場面を観たりしています。

 

まんまドラゴな「北斗の拳」のファルコ

 

 

 

『ロッキー4』は「ミュージック・ヴィデオみたいな映画」と揶揄されもするように「映画」として必ずしもその完成度を高く評価はされていないのだけれど、その一方で「シリーズ中で一番好き」という人も少なくない。僕は劇場公開時に映画館では観ていませんが、TV放映で観てかなり好きでした。

 

ランボー/怒りの脱出』『オーバー・ザ・トップ』などとともに、80年代当時にシルヴェスター・スタローンの存在を子どもたちや若者たちの目に焼き付けた作品でもある。

 

『ロッキー4』は、2作目の『怒りの脱出』から「アメリカ万歳」的な色合いをもろに打ち出してきた「ランボー」シリーズと同様に「アメリカ vs ソ連」の代理戦争的な構図が露骨にあって、だからそこを批判されてもいるし、悪い意味で80年代のハリウッド映画を象徴するような1本でもある。

 

ただ、劇中でロッキー本人は「アメリカ」を背負うわけでもアポロの復讐に燃えてドラゴと戦うわけでもなく、その精神は今回の『炎の宿敵』のアドニスに重要なアドヴァイスとしてロッキーの口から伝えられる。「なんのために戦うのか」と。

 

復讐心や怖れに囚われずに、ただひたすら無心になってひとりのボクサーとしてリングの上で戦う。前作『チャンプを継ぐ男』でも語られていたように、それは「自分との戦い」。

 

『炎の宿敵』でも『ロッキー4』の時と同じく最後の決戦はモスクワで行なわれるが、かつての国家の威信を懸けた「アメリカ vs ロシア」という対立構造は鳴りを潜めて、2つの親子の間の個人的な因縁に決着をつける物語になっている。

 

『クリード 炎の宿敵』は『ロッキー4/炎の友情』の“語り直し”になっているんですね。

 

そこが面白いな、と思うんです。

 

それでは、これ以降は『炎の宿敵』のストーリーの中身について書いていきますので、これから映画をご覧になるかたはご注意ください。

 

なお、「ロッキー」シリーズをこれまでにまったく観たことがないかたは、事前に『ロッキー4/炎の友情』と前作『クリード チャンプを継ぐ男』を観ておくことをお勧めします。登場人物の相関が理解しやすくなるし、感動も深まるでしょうから。

 

 

今回、イワン・ドラゴの元妻ルドミラ役のブリジット・ニールセンも出演。

 

 

時を経てピーター(池畑慎之介)っぽくなった現在のブリジット・ニールセン

 

ルドミラは『ロッキー4』で夫のイワンに連れ添い彼をサポートしていたが、ロッキーとの試合でイワンに勝ち目がないとわかると「見損なったわ」と言い放つ。

 

その後、彼女は夫と息子のヴィクターを捨てて政治家と再婚したことが『炎の宿敵』で語られる。

 

ルドミラはドラゴ父子にとって彼らの運命を決定づけた非常に重要な存在であるにもかかわらず登場場面は限られているので、彼女側の事情やその個人的な想いなどについてはわからない。一方的に憎まれて、今回も試合で息子が負けそうになると観客席から立ち去る。敗者に対して冷淡な人物という印象で、とても損な役回りではある。

 

ブリジット・ニールセンは実際に当時スタローンと結婚、そして離婚しているので、スタローン本人の個人的な気持ちがシナリオに反映されているのかもしれないけど、まず別れた元妻を自分の映画に再び呼ぶというのがスゴいな、と思うし、しかもドラゴ父子が彼女に抱き続けている恨みがスタローンのそれと重なるような印象をわざわざ与える演出をしているのも、よくやるなぁ、と^_^;

 

でも、できればドラゴ側のドラマもきちんと描ききってほしかった気はする。

 

たとえば、あの時、立ち去ったと思われたルドミラが試合後に会場をあとにするドラゴ父子を車から静かに見つめている、といった描写を入れるとかさ。あるいは元夫や実の息子の前に姿を見せて無言のまま目と目で通じ合う、みたいな。彼らには彼らの、また別の物語があるはず。

 

それはさらなるスピンオフ映画『ドラゴ』のために取ってあるのだろうか(笑)。

 

次回作では今度は『ロッキー3』の対戦相手クラバー・ラング(ミスター・T)の息子が出てきたりして。なんかもう「キン肉マン二世」みたいになってるけどw

 

前作の感想で僕は「スピンオフはこれ1本きりでよくて、さらに続篇を作る必要はない」というようなことを書いたんだけど、でもこの続篇『炎の宿敵』によってあらためて『ロッキー4』の物語は見事に幕を下ろしたと思います。

 

ドルフ・ラングレンはすでに「エクスペンダブルズ」シリーズでスタローンと共演しているから「あの二人が再び共演!」という驚きはなかったけど、エクスペでラングレンが演じていた“ガンナー”は単細胞のコメディリリーフ的なキャラだったので、今回彼がロシア語訛りで喋り(ちなみにドルフ・ラングレン本人はスウェーデン出身だし、ブリジット・ニールセンはデンマーク出身。あの頃、僕たちがハリウッド映画でいつも見ていた「イメージの中の“ロシア人”」を演じていたのはほとんどが本物のロシア人ではなかった)、終始シリアスに演じるのはまさしく33年後の“イワン・ドラゴ”で、それが実現しただけでも感動でしたね。

 

『ロッキー4』ではまるで彫刻のように美しい肉体で冷たい表情の文字通り「戦う機械」のようだったイワン・ドラゴが、年をとって顔に皺を刻み、憎しみの表情を浮かべてロッキーと対峙し、最後には息子の前で笑顔を見せる。ドルフ・ラングレンの外見の変化と生身の人間らしい演技が、イワン・ドラゴを生きている存在に変化させた。

 

もしもロッキーが病気が完治してまたボクシングで闘うようなことがあったらかなり興醒めだったんだけど、そうではなくて彼自身が直接イワンと殴り合うようなことはないし(そういうのはエクスペでもう散々やってるからいいでしょうw)、あくまでも主人公はアドニス・クリードであり、その対戦相手はイワンの息子ヴィクター。作り手が登場人物や物語をとても大事にしているのが伝わってきました。

 

 

 

 

これは否応なく親から引き継がれた因縁を息子たちがその闘いの末に晴らす物語で、ロッキーがアドニスに語ったように最後は意思と気力の強さで勝敗が決まる。

 

「偉大な父」のプレッシャー。アドニスが何よりも怖れていたのはそれだった。

 

ヴィクターとの最初の試合に反対して「一緒に行けない」とセコンドを断わるロッキーに、アドニスは「俺を見捨てるのか?自分だって俺に面倒を見てもらってる老人じゃないか」と怒りをぶつける。

 

アドニスのロッキーに対する「甘え」は、彼が実の父親にぶつけられなかったものだ。アドニスから「おじ」と呼ばれるロッキーは、いまや彼の父親代わりとなっている。

 

 

 

試合の会見の場で小競り合いになったアドニスはヴィクターに「このファザコン野郎!」と罵声を浴びせるが、「父の呪縛」に囚われているのはアドニスも同じで、彼ら二人は陰と陽の関係でもある。

 

イワンに「親父(アポロ)より小さい」と言われてブチギレるアドニス。ここでの「小さい」というのは身長のことだが、彼は「人間として」父アポロよりも小さい、と言われたように感じたんだろう。

 

ロッキーの反対を押し切って彼無しで臨んだ試合でヴィクターに滅多打ちにされてなすすべもなかったアドニスは、その挫折を経て自分の弱さと向き合う。

 

アドニスの妻になったビアンカが「私たちはチーム」と言うように、一人きりでは戦えない。

 

 

 

 

守るべきものを持ち、彼らとともに一丸となって、自分自身の中にある弱さや怖れ、未熟さと打ち合う。

 

 

 

アドニスのプロポーズやビアンカの妊娠・出産について丁寧に描写しているのは、これが「家族」についての物語でもあるから。

 

これまで「伝説のチャンプ」の愛人の息子、という日陰の存在として生きてきたアドニスが、ついに手にすることができた自分の家庭。愛する妻と我が子。

 

その幸せの絶頂にある姿にはかつてのロッキーが重なる。アドニスの娘アマーラの名前のことで天然ボケをカマすロッキーがカワイイ。

 

主演のマイケル・B・ジョーダンは未熟さを残した若きチャンプをとても繊細な表情の変化で表現していて、展開は予想できてたのにヴィクターとの最初の試合での自分の不甲斐なさに悔し涙を流すシーンではアドニスに感情移入しまくってしまった。

 

怪我を治しての2度目の試合で、ビアンカが歌手として唄いながら夫とともに入場する場面でも涙。

 

あぁ、夫婦愛だなぁ、と。ともに生きる、というのはこういうことなのだな。

 

そういえば、マイケル・B・ジョーダンとテッサ・トンプソンは、二人ともそれぞれマーヴェルヒーロー映画(『ブラックパンサー』『マイティ・ソー バトルロイヤル』)に出てますね

 

そしてそんなアドニスと、やはり日陰の存在としてひたすら復讐のためにここまで堪えてきたヴィクターが対比されている。

 

感情を表に出さず、いかにも悪役然とした面構えでエリートであること以外は謎だった若き日の父イワンと違い、父親と変わらない長身でパワーファイターのヴィクターは、その生い立ちや境遇が想像できるように描かれている。彼はもはや主人公に倒されるための“悪役”ではない。

 

憎んでいたはずの“母”を、おそらくヴィクターは本当は誰よりも求めていた。母への恨みを拳の力に換えて彼はリングで戦い続けてきたのだ。

 

 

 

そして自分たちに屈辱の人生を味わわせた“ロッキー”の愛弟子を倒すことで、彼は自分を捨てた母を見返し、父の汚名を晴らせると考えたに違いない。

 

そういう部分で、ルサンチマン(弱者の怨恨)を抱えたヴィクターは裏“ロッキー”といえるかもしれない。ロッキーもまた、かつては王者アポロ・クリードを盛り立てるための噛ませ犬だった。

 

この巡りめぐる因縁は、一観客としては非常に面白い。人によってはヴィクターに肩入れしたくもなるだろう。

 

だが、これまで経験したことのない長期戦で消耗してアドニスに敗れかけた時に母が客席から立ち去る姿を見て、ヴィクターの心は折れる。

 

僕がググッとくるのは、この対戦相手のキャラクター造形の変化なんですよね。おそらく1980年代だったら、この『炎の宿敵』の物語はもっと単純化されてわかりやすい勧善懲悪の話として描かれていただろうと思う。『ロッキー4』がそうだったように。ヴィクターはより憎々しげに描かれ、そして最後にアドニスはヴィクターをノックアウトして勝利を収めるような。

 

でも2018年に作られたこの映画で、勝敗はイワンが息子に投げたタオルで決まる。

 

かつて対ドラゴ戦で瀕死のアポロにタオルを投げようとして、その表情を見てためらったために親友の死を食い止められなかったロッキーの深い後悔を観客は知っているからこそ、あのクライマックスでのタオルの投げ入れに何かが浄化されたのを感じるのだ。

 

ヴィクター役のフローリアン・ムンテアヌは現役のヘヴィー級プロボクサーなのだそうだけど、男前だし演技もなかなかよくて、ロシアでのお祝いの席に母親のルドミラが現われた時の激高する様子や試合中についに心が折れる場面の表情など巧かったですね。

 

最後に晴れやかな顔で父のイワンとともに走っている姿に、いつかまたヴィクターが帰ってくる気もしました。

 

ロッキーはアドニスに、生まれてきた娘が母親からの遺伝で聴覚に障害を持っていても我が子を愛せるか、と問う。まるで観客に向かって問いかけているようでもある。

 

その「無償の愛」はヴィクターがこれまで得られなかったものだ。

 

これからのドラゴ親子はこれまでとは違った親子関係を築いていけるかもしれない。

 

また、ロッキーには長らく疎遠になっている実の息子ロバート(マイロ・ヴィンティミリア)がいた。

 

電話をしてもどうしても息子が出る前に切ってしまうほど父親としての自信を失くしていたロッキーは、アドニスの勝利に後押しされるようにロバートの家を訪ね、孫とも初めて会う。

 

もはや父と子の間にはわだかまりも怒鳴り合いもない。優しく抱きしめ合うだけ。

 

この穏やかなラストで、これが「修復の物語」であったことがわかる。

 

いくつもの親子や夫婦の姿を通して「愛」や「絆の回復」について語られている。

 

とてもウェルメイドな「家族映画」だったと思います。

 

 

※アポロ役のカール・ウェザースさんのご冥福をお祈りいたします。24.2.1

 

 

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