金融・商事判例1627号で紹介された裁判例です(大阪高裁令和3年5月28日決定)。

 

 

会社法は、取締役会の議事録につき株主が閲覧謄写を請求できるものとしていますが、監査役設置会社、監査等委員会設置会社については裁判所の許可を得てこれを請求できるとしています(会社法371条1項~3項)。

監査役会議事録、監査等委員会議事録についても同様です(会社法394条、399条の11)。

 

会社法

(議事録等)

第371条 取締役会設置会社は、取締役会の日(前条の規定により取締役会の決議があったものとみなされた日を含む。)から十年間、第三百六十九条第三項の議事録又は前条の意思表示を記載し、若しくは記録した書面若しくは電磁的記録(以下この条において「議事録等」という。)をその本店に備え置かなければならない。

2 株主は、その権利を行使するため必要があるときは、株式会社の営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。

一 前項の議事録等が書面をもって作成されているときは、当該書面の閲覧又は謄写の請求

二 前項の議事録等が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求

3 監査役設置会社、監査等委員会設置会社又は指名委員会等設置会社における前項の規定の適用については、同項中「株式会社の営業時間内は、いつでも」とあるのは、「裁判所の許可を得て」とする。

4項以下 略

 

本件は、東証一部上場企業が50年社史を作成、発刊したところ、そのうちの記述に誤りがあるとして、株主が、社史の発行についてその手続きを定款に規定するように株主提案を行う用意があり、そのためには、本件社史の発刊の過程についてどのような協議・監督がされたのかを知る必要があるとして、取締役会議事録、監査役会議事録(本件会社はその後監査等委員会設置会社に移行)、監査等委員会議事録の閲覧謄写を請求したという事案です。

原審(地裁)は株主の請求を認めましたが、会社側が抗告したというのが本件です。

なお、閲覧謄写はされない間に、株主総会において、株主は社史発行の手続きについて定款に盛り込むように株主提案を行なっています。

 

 

高裁では、株主の請求は認められないとして結論づけています。理由は次のようなものです。

・株主提案をするにあたり各議事録の閲覧謄写までを行わなければならないという具体的必要性が明らかではない。

・本件株主は閲覧謄写のないままに株主提案を行なっており、各議事録の閲覧謄写がなければ提案ができないとは認め難い。

・そもそも、本件会社が一部上場企業であり、重要な業務執行権限が代表取締役に委任されているとことからすると、社史の発刊という議題について社外取締役が過半数を占めている取締役会の場で協議監督までされていたとは言い難い。本件社史の発刊が決定される前に監査役会は監査等委員会に移行しており、同様に社外役が過半数を占めていた監査等委員会が社史の発刊について協議監督していたということは、取締役会の場合以上に想定し難い。会社が裁判所限りでという条件で議事録の開示を申し出ていた事情などに照らすと、そもそも本件各議事録には社史の発刊について協議監督していたことが記載されていたものとは認められない。