弁護士江木大輔のブログ

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弁護士江木大輔(第二東京弁護士会所属)のブログです。日々感じたことや裁判や法律のことなどを書き綴っていきたいと思います。なお、具体的な法律相談をしたい場合は、最寄りの弁護士会などの法律相談できちんと相談してください.

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判例時報2372号等で紹介された事例です(最高裁平成29年12月21日決定)。

 

 

国をまたぐ子の連れ去りという問題について定めたハーグ条約について,2014年(平成26年)1月に我が国が同条約に加盟し,同年4月1日から条約を実施するための国内法である「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律」(実施法)が施行され,その後,裁判での事例の蓄積も進んできているところです。

 

 

本件の経緯としては,アメリカ国内で,アメリカ人の父親,日本人の母親と4人の子供が暮らしていたところ,母親が1か月後には戻るという約束で子らを連れて日本に帰国し(当時上の双子二人は11歳7か月,下の双子は6歳5か月),実家に住みながら暮らし,父親の承諾も得て日本国内に留まりインターナショナルスクールに通わせるなどしていましたが,その後,子らのアメリカへの帰国をめぐって意見が対立し,日本入国から約1年後に,父親が,実施法に基づいて子らの返還の申立てをしました。

 

 

実施法では,1号から4号の要件に該当する限り,原則として,子どもが入国前にもともと暮らしていた国(常居所地国)に返還しなければなりません(実施法27条)。

 

 

国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律
(子の返還事由)
第27条 裁判所は、子の返還の申立てが次の各号に掲げる事由のいずれにも該当すると認めるときは、子の返還を命じなければならない。
一 子が十六歳に達していないこと。
二 子が日本国内に所在していること。
三 常居所地国の法令によれば、当該連れ去り又は留置が申立人の有する子についての監護の権利を侵害するものであること。
四 当該連れ去りの時又は当該留置の開始の時に、常居所地国が条約締約国であったこと。

 

 

但し,いくつかの返還拒否事由が定められています(実施法28条)。

本件では,家庭裁判所の調査官の調査に対して,上の子二人はアメリカへの返還を強く拒み,下の子二人も拒否的な意見を述べ,4名の子がすべて他の兄弟姉妹と離れたくないと述べたほか,父親が子らを監護する経済的な基盤がなく,親族からの継続的な支援を受けることも見込まれないという状況にあったとのことですが,大阪高裁では上の子二人については5号の拒否事由に該当するものの,それでもアメリカに返還することが子の利益に反するとして,同条但書を適用し,下の子二人については返還拒否事由がないとして,子ら4名のアメリカへの返還を命じる決定をし,これが確定しました。

 

 

(子の返還拒否事由等)
第28条 裁判所は、前条の規定にかかわらず、次の各号に掲げる事由のいずれかがあると認めるときは、子の返還を命じてはならない。ただし、第一号から第三号まで又は第五号に掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して常居所地国に子を返還することが子の利益に資すると認めるときは、子の返還を命ずることができる。
一 子の返還の申立てが当該連れ去りの時又は当該留置の開始の時から一年を経過した後にされたものであり、かつ、子が新たな環境に適応していること。
二 申立人が当該連れ去りの時又は当該留置の開始の時に子に対して現実に監護の権利を行使していなかったこと(当該連れ去り又は留置がなければ申立人が子に対して現実に監護の権利を行使していたと認められる場合を除く。)。
三 申立人が当該連れ去りの前若しくは当該留置の開始の前にこれに同意し、又は当該連れ去りの後若しくは当該留置の開始の後にこれを承諾したこと。
四 常居所地国に子を返還することによって、子の心身に害悪を及ぼすことその他子を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険があること。
五 子の年齢及び発達の程度に照らして子の意見を考慮することが適当である場合において、子が常居所地国に返還されることを拒んでいること。
六 常居所地国に子を返還することが日本国における人権及び基本的自由の保護に関する基本原則により認められないものであること。

 

その後,子らの返還のため執行の手続が取られましたが,執行官が子らを父親に面会させようとしたが子らは拒否し,後日合わせたものの上の子二人の態度に変化はなく,これ以上執行を続けると心身に悪影響を及ぼすと判断され,執行は不能で終了したということです。

また,前記決定後,父親は,家族で暮らしていた自宅が競売となり知人の元に身を寄せることとなるなどの環境の変化があったとされています。

 

 

いったん返還命令がされて確定したとしても,子どもが国内にいる限りは,その後の事情の変化により,決定の変更をすることができるとされています(実施法117条1項)。

 

 

(終局決定の変更)
第117条1項 子の返還を命ずる終局決定をした裁判所(その決定に対して即時抗告があった場合において、抗告裁判所が当該即時抗告を棄却する終局決定(第百七条第二項の規定による決定を除く。以下この項において同じ。)をしたときは、当該抗告裁判所)は、子の返還を命ずる終局決定が確定した後に、事情の変更によりその決定を維持することを不当と認めるに至ったときは、当事者の申立てにより、その決定(当該抗告裁判所が当該即時抗告を棄却する終局決定をした場合にあっては、当該終局決定)を変更することができる。ただし、子が常居所地国に返還された後は、この限りでない。

 

 

これに基づいて変更を求めたというのが本件ですが,父親が居住していた自宅を失うなどして安定した住居を確保できなくなった結果,子らの監護養育態勢が看過し得ない程度に悪化したとして,5号の返還拒否事由があるけれども但書により返還を認めることはもはやこの利益に資さないとし,また,下の子二人については4号の拒否事由があると認められるとして,返還を命じた決定を変更したというものです。

 

 

さらっと書けば「まあそんなものか」という感想ですが,本件では双方ともに代理人弁護士が付いていますが,実際に代理人として活動するにあたっては本当に大変だろうなと思います。