金融法務事情2140号で紹介された事例です(東京地裁令和元年11月11日判決)。

 

 

本件は売主に成りすました者が提示した運転経歴証明書が偽造であったという地面師詐欺の事案です。売主が登記済み証(いわゆる権利証)を紛失したということで,これがなくても迅速に登記手続きができるための要件である司法書士による本人確認情報の作成が依頼され,その過程で偽造の運転経歴証明書が使用されたという経緯です。

 

 

判決では,運転経歴証明書は運転免許証を返納した者に交付される証明書であり「自動車の運転はできません」という記載がされているものであるのに対し,本件で使用された偽造の運転経歴証明書では顔写真のすぐ左横の空白であるはずの部分(運転免許証であれば「運転免許証」と記載されている部分)に「運転免許証」とよく目立つ文字で記載がされており,運転経歴所の目的と反する非常に非自然なものであったこと,警視庁などのサイトを見れば真正な運転経歴証明書がどのような外観であるかはわかったはずであること,本件司法書士はかつて運転経歴証明書での本人確認をした経験があったと述べていること,運転経歴証明書に記載された住所を訪ねて本人と面会するなどしていればたやすく本件の売主と称する人物との異同が分かったはずであることなどを挙げて,司法書士の過失を認めて損害賠償(損害額の一部請求である2500万円)の支払を命じています。

 

 

司法書士側では,本件で他に持参された実印とこれに対応する印鑑証明書や司法書士からの質問に対する応答なども不自然ではなく一連の態度に不自然なところはなかったと反論しましたが,本件での本人確認の中心となるのは顔写真付きの運転経歴証明書であったとして反論を退けています。

 

 

高齢化社会の中で,運転免許証の返納による運転経歴証明書の利用が拡大していくことが見込まれる中で,これが利用された事案ということで一つの特色があるものと言うことができます。

 

 

ちなみに,私の知る範囲でではありますが,この手の事案で使用される偽造の書類のうち免許証については,たいていの場合,最低でも1か所は本物とは異なるところがあって(顔写真の顔が笑っている・サングラスをかけている/顔写真が若いのに誕生日が昭和一けたになっている又はどう見ても昭和生まれなのに平成後半の生まれになっている/住所が都内ではないのに東京都公安委員会となっている又は公安委員会の記載がない/意味を持っているはずの免許証番号が無意味なものとなっているなど),偽造グループ(ちゃんと作ろうと思えば作れると思うのですが。作れるというのも表現としておかしいですが。)としては捕まった時に「冗談だった」「偽造とはいえない」と弁解できるようにしているのだろうかと思ったりもしています。弁解にならないと思いますが。

 

 

【不動産売買にあたり誤った本人確認情報を提供した弁護士の責任の有無】

https://ameblo.jp/egidaisuke/entry-12438354752.html

 

 

【不動産売買において司法書士に売主の本人確認を怠った注意義務違反はないと判断された事例】

https://ameblo.jp/egidaisuke/entry-12405120374.html

 

 

【司法書士による本人確認義務に債務不履行が認められるとともに依頼人にも過失相殺が認められた事例】

https://ameblo.jp/egidaisuke/entry-12008879583.html

 

 

【偽造登記済証と全部事項証明書の日付の齟齬を看過した司法書士の責任】

https://ameblo.jp/egidaisuke/entry-11994447299.html

 

【不動産取引の際の本人確認に当たり過失があったとして司法書士の責任を認めた事例】

https://ameblo.jp/egidaisuke/entry-11995920999.html

 

 

【詐欺により不動産売買代金としてお金を騙取された件で登記申請を行った司法書士の過失が否定された事例】

https://ameblo.jp/egidaisuke/entry-11888114871.html