判例時報2234号で紹介された事例です(東京地裁平成26年4月14日)



土地所有者Aに成りすました偽Aが,不動産業者Xに1億5000万円で当該不動産を売却する契約を締結し,Xは司法書士Yに登記を依頼したところ,司法書士Yは,偽Aが持ってきた登記済証と当該土地の全部事項証明書の日付が相違していることを看過し,そのまま手続を進めてしまいました。



登記を得たXはBに2億5000万円で転売したものの,その後,土地の真正な所有者である本物のAからXとBに対して移転登記抹消請求が提起され,認容確定しました。



そこで,Xが司法書士Yの確認ミスがあったとして損害賠償を求めたのが本件です。




本件で,裁判所は,前記の日付の相違を見過ごした司法書士Yには司法書士としての注意義務に違反した過失があるとしました。




しかし,Xからの損害賠償請求自体は棄却しました。




なぜかというと,そもそも,本件で,Xは不動産業者でありながら自らも前記のような見過ごしをしていたのであるし,偽Aが高額の売買代金の現金払いにこだわったり,偽Aにとって不利益な取引条件をたやすく承諾するなど偽Aの言動に不審をもつべき機会は十分あったのに,その後のBへの転売で経費を差し引いても3500万円もの利益を一時に得ようとしたのであるから,入念かつ慎重に調査すべきであったのにこれを怠ったのであるから,本件の実質的な被害者は2億5000万円を支払って土地を入手できなかったBであるというべきである,つまり,XとYは,本来,共同してBに対して損害賠償をしなければならない立場にあるということです。




そして,Xは転売取引で得た3500万円のうち1000万円はBに返却したもののその後の返済の見込みはないということであるが,2500万円の利益は得たままなのであるから,そもそもXには損害はないということになります。



また,本件で仮にXに損害が発生していたとしても,本件で司法書士YのXに対する損害賠償を認めた場合,本来それはBへの賠償に充てられるべきところ,XがBへの賠償に充てるという保障はないのであるから,Xがさらに不当な利益を得ることとなってしまい妥当ではないから,本件で仮にXに損害が発生していたとしてもその賠償をYに求めるのは権利の濫用または信義則に反するというべきである,との判断となりました。




BがXとYを共同被告として損害賠償請求していれば認められたのでしょうが,YからすればXに請求される筋合いはないということになります。



本件は確定しているということです。




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