判例時報2219号で紹介された事例です(横浜地裁平成25年12月25日判決)。



本件の原告は不動産の売買や仲介を行っている不動産業者ですが,以前から取引のあった別の業者から「早期に決済したい案件がある」と言われ,実勢価格約5500万円から約6300万円の土地を代金2500万円で購入しないかと打診され,「お買い得」ということで契約しました。



その後,本件の被告となった司法書士臨席のもとで,銀行で決済が行われ,権利証や売主(本件土地の所有者)を名乗る人物の印鑑証明書などの確認を行い,被告の司法書士が名義移転の登記申請を行い,登記がなされました。




ところが,その後,土地の売主(本件土地の所有者)を名乗っていた人物が真の所有者ではなかったことが発覚し,真の所有者から訴訟提起され,土地の買主だった不動産業者は敗訴してしまいました。





そこで,司法書士が本人確認などを怠ったとして,債務不履行に基づき,代金相当額の損害賠償を行ったというのが本件です。




原告側は,司法書士に対して,売買契約締結以前に売主と面談して真の所有者であるかどうか確認してもらいたいということも委任したと主張しましたが,裁判所は,本件で司法書士が受け取った報酬はたかだか3万円程度に過ぎず,被告である司法書士は,売買契約締結後の履行行為としての登記申請行為を委任されたに過ぎないと判断しました。





なお,司法書士は,原告から登記の依頼があった際に,「売主の意思確認をしてほしい」ということは原告から依頼されており,これを請けて司法書士は,この案件を原告に持ち込んだ業者に対して「売主の連絡先を教えてほしい」と言いましたが,「売主に確認してみる」というやり取りが繰り返されるだけで,結局,契約時に(本件では決済と同時でした),売主本人が出席するのでその場で確認してほしいということを言われていました。



こういった経緯からすると怪しいのですが,この点も含めて,契約当事者の本人確認や意思確認については,契約当事者である当事者が本来的に行うべきものであるとされました。




司法書士としては,決済時に,当事者の本人確認や意思確認をする義務はもちろんありますが,本件では,偽造であると見抜けないほど精巧な印鑑証明書が提示され,また,権利証も,その後の登記申請で登記官も見抜けずに手続してしまうほどのものであったことから,司法書士がその場で見抜けなかったとしても過失がないとされました。





司法書士に対する請求は棄却され,本件は確定しているということです。






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