トランプTPP離脱の大統領令に署名
トランプ氏は大統領選で公約に掲げた米国のTPP脱退を実行に移した格好だ。協定は米国や日本、カナダ、メキシコ、オーストラリア、ベトナムなど環太平洋諸国の間で関税やその他の貿易障壁の大半を撤廃することを目的としており、中国は除外されていた。
米議会幹部やオバマ政権は昨年11月、TPPの承認ヘ向けた表決は当面行わないと示唆していたため、今回の決定を盛り込んだ覚書は象徴的な意味合いが強い。
就任1週目からオバマ前大統領の合意を覆す決断をしたことは、トランプ大統領が本気で貿易政策の転換に取り組む姿勢を表している。数十年にわたりほぼ着実に進めてきた貿易自由化を放棄し、中国など貿易相手国に譲歩の用意がなければ大幅な関税引き上げもいとわず、一段と強硬姿勢を取る構えだ。
投資家、トランプ大統領の就任を警戒
S&P500種平均株価指数は、昨年11月8日の選挙投票日以降、なお6.2%高だし、現在まで69営業日の間、同指数が1%以上下落した日は皆無だ。しかし投資家たちは同時に、より防衛的なポジションも取っている。現金を積み増すか、ボラティリティ(激しい変動)の再燃の可能性に備えてヘッジしているのだ。
例えば17日に発表されたバンク・オブ・アメリカ・メリルリンチの調査によれば、グローバルなファンドマネジャーたちは今月、キャッシュ保有比率をポートフォリオ全体の5.1%とし、昨年12月の4.8%から増やした。これは過去10年間平均の4.5%を大幅に上回る比率だ。調査では、最大の不安要因として、米国の貿易戦争と中国の通貨下落の2つが挙げられたという。
もっと用心深い投資家もいる。彼らはトランプ氏の大統領就任に先立つ1週間に株式に対する売りポジションを積み増した。金融分析会社S3パートナーズによれば、ベンチマーク(S&P500種指数)を追跡している最大の上場投資信託(ETF)の「SPDR S&P 500 ETF」に対するショートポジション(売り持ち高)は今月19日に329億ドルに達し、1週間前の308億ドルを上回った。選挙投票日後に2カ月間続いていたトレンドの反転だ。
金融株は、昨年11月のトランプ氏勝利後に急騰していたが、先週は市場の後退を主導した。これは選挙後の一部取引に対する確信を投資家たちが失いつつあることの証拠だ。KBWナスダック銀行株価指数は今月20日までの5日間で2.8%下落した。ファンド資金の流れを調査しているEPFRグローバルのデータによると、投資家たちは18日までの1週間でグローバル金融部門から7億4900万ドルの資金を引き揚げた。これは過去17週で初めての資金流出だった。
投資家やアナリストたちは、この株価の調整は、米国の経済見通しに対する当初の楽観論から投資家が本格的に後退したことを意味しないと述べている。投資家たちはむしろ、楽観論への自らの確信を緩めている形だ。彼らは、トランプ氏の大統領就任を機に何が打ち出されるのか、そしてもっと広く、ビジネス面にどう影響するのかを見極めようと待機姿勢をとり始めたのだという。また今年、政治が米国と世界全体でどう展開していくかに対する全般的な不安感を織り込もうとしているという。
大統領就任式の行われた週末20日、ダウ工業株30種平均は朝方の取引で上昇した。あと、トランプ氏の就任演説の最中に値を一部消したものの、その後は反発して前日終値比100ドル近く上伸して終了した。今年になってこれまでの上昇率は0.3%となっている。
資産運用会社T・.ロウ・プライス・グループの資産配分責任者セバスチアン・ページ氏は「トランプ氏は職業政治家でなかったし、同氏の政策とその見解には予測不可能な要素が多い」と述べ、「例えば彼の発信するツイートだ」とし、「これが政治的リスクを増している」と語った。
トランプ氏の大統領選勝利は、欧州連合(EU)離脱に賛成した昨年の英国民投票を受けた市場ショックや、今後の欧州各国の選挙と併せ、政治的リスクが他のリスクに取って代わる時期に金融市場が移行しつつあることを示している、と投資家たちは言う。彼らによれば、それは2008年の金融危機以降の中央銀行の行動が市場の方向を支配していた過去数年間からのシフトになるという。
例えば、大手資産運用会社ブラックロックで「マルチアセット・インカム・ファンド」のポートフォリオマネジャーを務めているマイケル・フレデリクス氏は「市場に対する連邦準備制度理事会(FRB)の影響は、恐らく過去数年間よりも目立たなくなる」と述べた。そして「トランプ氏はオバマ大統領の時代とは極めて異質の政策を実施すると予想できる。その政策は恐らく、株式市場におけるボラティリティと不透明感の大きな推進役になるだろう」と語った。
政治的リスクのなかには、トランプ大統領の下での保護主義的な貿易政策がある。投資家たちはまた、財政拡張策や減税を予想しているが、それは実施には時間がかかるだろう。さらに英国のEU離脱決定に続いて、フランス、ドイツで実施される選挙をめぐる不透明感がある。そこではポピュリスト(大衆迎合)主義的な勢力が欧州をどれほど席巻するのかが注目される。
ブラックロックやT・ロウ・プライスなどの資産運用会社は「カバードコール」などのオプション戦略を駆使している。それは証券や指数(原資産)を買う(ないし買いを維持する)一方で、コールオプション(あらかじめ定めた価格で買う権利)を売るものだ。一部の投資家は、それは横ばいか若干強気な市場で追加収益を生み出せる戦略だと述べている。
株式市場での本格的変動をめぐる不安感も忍び寄っている。バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチのデータによれば、シカゴ・オプション取引所(CBOE)のボラティリティ指数(VIX=恐怖指数)は依然として過去数年間の安値近辺のままだが、恐怖指数の荒い変動に対する見通しを追跡する指数(CBOEのVVIX指数)は、2006年以降の高値近辺に上昇した。
歴史を振り返ると、新大統領が就任するときは警戒が必要だ。投資調査会社ビスポーク・インベストメント・グループが作成した1928年までさかのぼるデータによれば、歴代大統領の宣誓後1カ月間で、S&P500種の変化率(中央値)は0.7%の下落だった。民主党大統領から共和党の新大統領に交代する時、下落率はもっと大幅で、2.6%の下落だった。
こうした幾つかの不透明要因から、資産運用会社ボストン・プライベート・ウェルスのチーフ市場ストラテジスト、ロバート・パブリク氏は2016年末にかけて、株式のエクスポージャー(保有額)を減らして、キャッシュを増やした。
パブリク氏は、同社の大型株成長戦略ファンドを運用している。同氏は、「株価は市場の先を行っている(ファンダメンタルズからみて上げ過ぎだ)」と述べた。そして、トランプ政権が主要なアジェンダ(政策目標)項目を遂行でき、株価が急騰するならば、「私のような人間は株を買い増さなければならないだろう。しかしキャッシュを現時点で少し追加するリスクは、比較的低いと思う」と語った。
トランプ大統領に奇跡は起こせるか
トランプ氏は実質国内総生産(GDP)成長率を大幅に、恐らくは3.5%や4%、もしくはそれ以上へ引き上げると公約している。ヒラリー・クリントン氏とラスベガスで行った討論会ではこう述べた。「実際には4%以上にできると考えている。5%や6%へ到達できるだろう」。幸運を祈りたい。
面白い史実がある。ハリー・トルーマン政権以降、経済成長率は大統領が民主党から共和党に代わるたびに低下し、共和党から民主党に代わるたびに上昇している。バラク・オバマ前大統領の2期目はGDPの平均成長率が2.2%程度となる。これを上回っただけでも歴史からは大きく逸脱することになる。
トランプ政権は、例えば4%の成長をどのように達成できるだろうか。主に財政刺激策を用いてだと市場は考えているようだ。まず需要サイドから考えてみたい。
読者は、2009年に共和党が財政刺激策では成長など全く上向かないと主張していたことを思い出すかもしれない。だが昔は昔、今は今だ。今回は同じ共和党の多くの議員が、財政刺激策は特に所得税減税であれば非常に強力だと訴えるのだろう。
経済にスラック(余剰)が多い場合、そして歳出や減税が需要創出に的を絞り込んでいる場合、財政政策の効き目が強いことは分かっている。09年は両方の条件が少なくともある程度はそろっていた。だが、経済がほぼ完全雇用の状態にあり、トランプ氏の減税案が富裕層へ大きく偏っている17年は、いずれの条件もそろいそうにない。
その上、FRBは決して経済が過熱しないようにするだろう。FRBの当局者らは信じられない気持ちで首を振っているに違いない。彼らは実質的には何年もの間、需要を刺激することで経済を低迷から救い出すよう議会に要請した。だが議会は正反対のことをした。いまでは刺激策の必要がないのに、議会は実施を目指している。結果として金利が上昇することは想像に難くない。
では、トランプ流の成長の奇跡を供給サイドから起こすことはできないだろうか。うまくいかないことはとっくに分かっている。エコノミストのウィリアム・ゲール氏(民主党支持)とアンドリュー・サムウィック(共和党支持)は昨年、減税の供給サイドへの影響に関する膨大な学術研究を包括的に評価した。その結論は「米国では税制の大幅な変更に成長率の目に見える変化がほぼ伴わないことを過去のデータが示している」というものだった。しかし、富裕層の税率を引き下げれば、持たざる者から持てる者への所得再配分が行われる。株式トレーダーの笑いが止まらないのはこのためと思われる。
いずれ誰かが、トランプ氏の供給サイドの政策には減税以上の意味があると指摘するだろう。その通りだ。インフラ建設の拡大は名案だが、目先の刺激効果は小さい。その上、アラン・クルーガー氏(プリンストン大学教授)との先月の寄稿で指摘したように、民間資本を活用するというトランプ氏の計画では、われわれが必要とする類のインフラ計画の資金をまかなえないだろう。幸いなことに、ウィルバー・ロス新商務長官は指名承認公聴会で、トランプ氏のインフラ計画は民間資本以外も取り込むと言明した。
規制撤廃についてもほぼ同じことが言える。一部はそうすべきだが、魔法でも信じない限り経済成長に大きく影響することはなさそうだ。さらに重要なことに、撤廃の効果はどの規制をなくすかで変わってくる。顕著な例を挙げると、トランプ氏は10年に成立した金融規制改革法(ドッド・フランク法)の撤廃を公約している。確かに同法は気が狂いそうなほど複雑で、成長率をやや押し下げる可能性さえある。だが、08年に世界を襲ったような災難からはしっかり身を守れる。一部の環境規制はGDPの伸びをやや抑えるかもしれないが、飲料水や大気の汚染で病気になるリスクは低下する。
トランプ氏が何より望んでいる供給サイドの奇跡は、全くの運次第だ。なぜなら、長期の経済成長は主に技術の進展によって促されるためだ。だが技術の進展、もっと厳密に言えばそのGDPへの影響は、ジョージ・W・ブッシュ政権の間に急減速し、オバマ政権下でも復活しなかった。具体的に言うと、いわゆる「多要素生産性の伸び率」(伸びれば同じ投入量でも産出量が大きくなる)は、95年〜05年の年平均が1.6%と高かったが、05年〜15年は0.4%へ急低下した。エコノミストらはこの原因を推測しているが、本当のところは誰にも分からない。
生産性が伸びなくなった理由が誰にも分からないため、いつ息を吹き返すかも誰にも分からない。大統領になってからのトランプ氏が大統領候補のときと同じくらい幸運であれば、多要素生産性の伸び率は不思議と持ち直し、48年〜05年の平均に当たる1.3%あたりへ達するかもしれない。そうなれば、トランプ政権が指一本動かさずとも、そしてロシアのプーチン大統領の助けがなくとも、2.2%の成長率は3.1%へ加速するだろう。
分別のある人ならこんな結末は予測しないだろう。だが考えて見れば、分別のある人はトランプ大統領の誕生など予想だにしなかった。
ドル円下落も下値は堅く トランプ大統領の政策に対する期待感はまだ根強い
ドル円は下落。
先週の米国トランプ大統領就任式において、
具体的な経済政策が示されなかったことや、保護主義的な姿勢が
あらためて示されたことで、市場には不安感が漂っている。
現在は113.628円付近での推移となっている。(18時18分現在)
ただ、トランプ大統領の経済政策への期待がなくなったわけではなく、
下落は小幅にとどまるとの見方が強い。
本当に相場の変動が起こるのは、
具体的な政策が発表された時だろう。
トランプ大統領が目指す“強い米国”が
世界各国にどのような影響をもたらすのか、
市場には不安と期待感が入り混じっている。
【本日の主な経済指標】
00:00 ユーロ圏1月消費者信頼感・速報値
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トランプ氏とはどういう人物か−10のポイント
米新大統領に就任したドナルド・トランプ氏の言動にはサプライズが当たり前で、同氏に対し固定観念を抱くことはできない。トランプ氏は米国史上最も異端な大統領となるだろう。他のメディアと同様、われわれも同氏を理解しようとしている。取材を通して浮かび上がった同氏の人物像について、重要な10のポイントを以下に挙げる。
1.信じられないほど細部にこだわる
これはかなり意外だ。トランプ氏はあまり他人に仕事を委任しない。就任演説はほぼ一字一句まで自ら推敲(すいこう)を重ね、法律についても事細かに精査している。下院共和党の法人税改革案に盛り込まれた「国境調整」の条項は信じられないほど複雑で、筋金入りの「通」にしか分からないものだが、トランプ氏はこの条項を理解している。
2.共和党指導部と距離
トランプ氏がポール・ライアン下院議長(共和、ウィスコンシン州)と友好関係を築くことはないだろう。また、共和党の意表を突く言動に出ることもいとわない。同氏は15日付の米紙ワシントン・ポストのインタビューで、医療保険制度改革法(通称オバマケア)に代わる「全ての国民のための保険」制度の導入を目指すと語ったが、上院共和党議員らはこの発言にもあぜんとした。共和党指導部への事前の相談はなかったのだ。指導部はトランプ氏のこうしたやり方に慣れた方が良い。
3.ドル高を容認せず
金融市場は17日、ドルは強すぎるというトランプ氏の発言に仰天した。米大統領や財務長官が直接的な表現で為替政策に口先介入したことはこれまで一度もない。トランプ氏が本当にドル安志向なら、一大事だ。
4.関税導入にはとことん本気
数十年前からトランプ氏は、米国は貿易相手国によって搾取されていると主張してきた。この問題については一歩も譲らないだろう。中国などが米国から金品を巻き上げてきたとして聞く耳を持たない。相手から譲歩を引きだそうと強気な発言に出るだろうが、関税引き上げや貿易協定脱退を実行する覚悟は十分だ。
5.ペンス氏とプリーバス氏の意見は聞く
希望的観測かもしれないが、われわれが取材した共和党議員らは、トランプ氏が極端な政策に走ろうとしても、マイク・ペンス副大統領やラインス・プリーバス大統領首席補佐官が懐柔に動くと確信している。ペンス氏もプリーバス氏も基本的には現実主義者だ。「トランプ氏は挑発的な発言を好むが、結局のところ、政策を運営するのはペンス氏やプリーバス氏となるだろう」とある内部関係者は言う。
6.衝動で判断する
これはトランプ氏の側近の間でも大きな心配の種だ。同氏の発言は往々にして自分の支持層に向けられたもので、北大西洋条約機構(NATO)や気候変動、財政出動による債務拡大などの問題について閣僚候補らと意見が食い違っても意に介さない。また、仕返しを信条とする攻撃性も備えており、挑発に乗りやすいとも言える。北朝鮮やイランがこのことに気づいているのは間違いない。
7.ツイートはやめない
これには慣れるしかない。われわれが取材した人たちは皆、トランプ氏からツイッターを取り上げることはできないと確信している。国のトップとして一般大衆に直接メッセージを発信できるツイッターはトランプ氏の大のお気に入りだ。われわれが朝起きてまずやらなければならないことは、トランプ氏の前夜のツイートをチェックすることだ。同氏のツイートを材料に株式などの市場が動く可能性があるからだ。
8.口では脅しても実際には何もしない
トランプ氏はある日メディアを攻撃したかと思うと、翌日にはニューヨーク・タイムズ紙をほめていたりする。世間の注目を集めることにかけては天才で、2015年にはメディアを巧みに操った。まず理不尽な交渉を持ちかけ(これは彼がDNAとして持って生まれたものだ)、次に何らかの取引を求めるというのがトランプ流だ。ヒラリー・クリントン氏を私用メール問題で収監する可能性を示唆したことなど、選挙戦中の攻撃的発言について同氏は選挙の後、大半は単なるパフォーマンスだったとほのめかした。
9.ビジョンがある
第40代大統領のロナルド・レーガン氏は三つの主要目標を掲げていた。ソ連の影響力を弱めること、政府の役割を縮小すること、そして減税だ。レーガン政権の政策はまさにこれに尽きる。トランプ政権も同じだ。トランプ氏は、米国をもっと安全な国にすること、減税と規制緩和、そして鉄鋼業など産業が廃れたラストベルト(さびついた工業地帯)の復興を目指す考えだ。トランプ氏は一つのビジョンを持っているが、対抗するクリントン氏にはそれがなかった。
10.幾つもの弱み
われわれが取材した人たちが口を揃えて指摘するトランプ氏の弱みは以下の通りだ。財政赤字を気にしない。債務を増やすことに全く何の抵抗もない。人種差別など多くの社会問題について正しい判断ができない。気に入らない企業を威嚇するなど、民間部門への介入を辞さない。
<結論>
われわれが特に注目したいのは、トランプ氏が市場や経済にとって良い大統領かどうかだ。答えはイエスというわれわれの意見は変わらないが、トランプ氏は全くの新しい世界に飛び込んだ新米で、しかもミスはほとんど許されない。歴史を振り返ると、素晴らしい大統領、そして時には普通の大統領さえも在任中に成長できた。だからトランプ氏もそうあってほしい。