トランプ大統領に奇跡は起こせるか | マーケットの今を掴め!FX・CFD東岳ライブ情報

トランプ大統領に奇跡は起こせるか

ドナルド・トランプ氏が米大統領選に勝利して以来、株式市場は活発な動きを見せている。株式トレーダーをこれほど興奮させたのは、経済成長が加速するという見通しだとされている。本当にそうだろうか。

 トランプ氏は実質国内総生産(GDP)成長率を大幅に、恐らくは3.5%や4%、もしくはそれ以上へ引き上げると公約している。ヒラリー・クリントン氏とラスベガスで行った討論会ではこう述べた。「実際には4%以上にできると考えている。5%や6%へ到達できるだろう」。幸運を祈りたい。

 面白い史実がある。ハリー・トルーマン政権以降、経済成長率は大統領が民主党から共和党に代わるたびに低下し、共和党から民主党に代わるたびに上昇している。バラク・オバマ前大統領の2期目はGDPの平均成長率が2.2%程度となる。これを上回っただけでも歴史からは大きく逸脱することになる。

 トランプ政権は、例えば4%の成長をどのように達成できるだろうか。主に財政刺激策を用いてだと市場は考えているようだ。まず需要サイドから考えてみたい。

 読者は、2009年に共和党が財政刺激策では成長など全く上向かないと主張していたことを思い出すかもしれない。だが昔は昔、今は今だ。今回は同じ共和党の多くの議員が、財政刺激策は特に所得税減税であれば非常に強力だと訴えるのだろう。

 経済にスラック(余剰)が多い場合、そして歳出や減税が需要創出に的を絞り込んでいる場合、財政政策の効き目が強いことは分かっている。09年は両方の条件が少なくともある程度はそろっていた。だが、経済がほぼ完全雇用の状態にあり、トランプ氏の減税案が富裕層へ大きく偏っている17年は、いずれの条件もそろいそうにない。

 その上、FRBは決して経済が過熱しないようにするだろう。FRBの当局者らは信じられない気持ちで首を振っているに違いない。彼らは実質的には何年もの間、需要を刺激することで経済を低迷から救い出すよう議会に要請した。だが議会は正反対のことをした。いまでは刺激策の必要がないのに、議会は実施を目指している。結果として金利が上昇することは想像に難くない。

 では、トランプ流の成長の奇跡を供給サイドから起こすことはできないだろうか。うまくいかないことはとっくに分かっている。エコノミストのウィリアム・ゲール氏(民主党支持)とアンドリュー・サムウィック(共和党支持)は昨年、減税の供給サイドへの影響に関する膨大な学術研究を包括的に評価した。その結論は「米国では税制の大幅な変更に成長率の目に見える変化がほぼ伴わないことを過去のデータが示している」というものだった。しかし、富裕層の税率を引き下げれば、持たざる者から持てる者への所得再配分が行われる。株式トレーダーの笑いが止まらないのはこのためと思われる。

 いずれ誰かが、トランプ氏の供給サイドの政策には減税以上の意味があると指摘するだろう。その通りだ。インフラ建設の拡大は名案だが、目先の刺激効果は小さい。その上、アラン・クルーガー氏(プリンストン大学教授)との先月の寄稿で指摘したように、民間資本を活用するというトランプ氏の計画では、われわれが必要とする類のインフラ計画の資金をまかなえないだろう。幸いなことに、ウィルバー・ロス新商務長官は指名承認公聴会で、トランプ氏のインフラ計画は民間資本以外も取り込むと言明した。

規制撤廃についてもほぼ同じことが言える。一部はそうすべきだが、魔法でも信じない限り経済成長に大きく影響することはなさそうだ。さらに重要なことに、撤廃の効果はどの規制をなくすかで変わってくる。顕著な例を挙げると、トランプ氏は10年に成立した金融規制改革法(ドッド・フランク法)の撤廃を公約している。確かに同法は気が狂いそうなほど複雑で、成長率をやや押し下げる可能性さえある。だが、08年に世界を襲ったような災難からはしっかり身を守れる。一部の環境規制はGDPの伸びをやや抑えるかもしれないが、飲料水や大気の汚染で病気になるリスクは低下する。

 トランプ氏が何より望んでいる供給サイドの奇跡は、全くの運次第だ。なぜなら、長期の経済成長は主に技術の進展によって促されるためだ。だが技術の進展、もっと厳密に言えばそのGDPへの影響は、ジョージ・W・ブッシュ政権の間に急減速し、オバマ政権下でも復活しなかった。具体的に言うと、いわゆる「多要素生産性の伸び率」(伸びれば同じ投入量でも産出量が大きくなる)は、95年〜05年の年平均が1.6%と高かったが、05年〜15年は0.4%へ急低下した。エコノミストらはこの原因を推測しているが、本当のところは誰にも分からない。

 生産性が伸びなくなった理由が誰にも分からないため、いつ息を吹き返すかも誰にも分からない。大統領になってからのトランプ氏が大統領候補のときと同じくらい幸運であれば、多要素生産性の伸び率は不思議と持ち直し、48年〜05年の平均に当たる1.3%あたりへ達するかもしれない。そうなれば、トランプ政権が指一本動かさずとも、そしてロシアのプーチン大統領の助けがなくとも、2.2%の成長率は3.1%へ加速するだろう。

 分別のある人ならこんな結末は予測しないだろう。だが考えて見れば、分別のある人はトランプ大統領の誕生など予想だにしなかった。