投資家、トランプ大統領の就任を警戒
投資家はドナルド・トランプ氏の米大統領就任とともに、以前より用心深くなっている。トランプ氏が昨年秋の大統領選に勝利した後、経済成長を加速させる政策を同氏がとるとの期待感で株価が急騰した時期の強気姿勢から次第にシフトしている形だ。
S&P500種平均株価指数は、昨年11月8日の選挙投票日以降、なお6.2%高だし、現在まで69営業日の間、同指数が1%以上下落した日は皆無だ。しかし投資家たちは同時に、より防衛的なポジションも取っている。現金を積み増すか、ボラティリティ(激しい変動)の再燃の可能性に備えてヘッジしているのだ。
例えば17日に発表されたバンク・オブ・アメリカ・メリルリンチの調査によれば、グローバルなファンドマネジャーたちは今月、キャッシュ保有比率をポートフォリオ全体の5.1%とし、昨年12月の4.8%から増やした。これは過去10年間平均の4.5%を大幅に上回る比率だ。調査では、最大の不安要因として、米国の貿易戦争と中国の通貨下落の2つが挙げられたという。
もっと用心深い投資家もいる。彼らはトランプ氏の大統領就任に先立つ1週間に株式に対する売りポジションを積み増した。金融分析会社S3パートナーズによれば、ベンチマーク(S&P500種指数)を追跡している最大の上場投資信託(ETF)の「SPDR S&P 500 ETF」に対するショートポジション(売り持ち高)は今月19日に329億ドルに達し、1週間前の308億ドルを上回った。選挙投票日後に2カ月間続いていたトレンドの反転だ。
金融株は、昨年11月のトランプ氏勝利後に急騰していたが、先週は市場の後退を主導した。これは選挙後の一部取引に対する確信を投資家たちが失いつつあることの証拠だ。KBWナスダック銀行株価指数は今月20日までの5日間で2.8%下落した。ファンド資金の流れを調査しているEPFRグローバルのデータによると、投資家たちは18日までの1週間でグローバル金融部門から7億4900万ドルの資金を引き揚げた。これは過去17週で初めての資金流出だった。
投資家やアナリストたちは、この株価の調整は、米国の経済見通しに対する当初の楽観論から投資家が本格的に後退したことを意味しないと述べている。投資家たちはむしろ、楽観論への自らの確信を緩めている形だ。彼らは、トランプ氏の大統領就任を機に何が打ち出されるのか、そしてもっと広く、ビジネス面にどう影響するのかを見極めようと待機姿勢をとり始めたのだという。また今年、政治が米国と世界全体でどう展開していくかに対する全般的な不安感を織り込もうとしているという。
大統領就任式の行われた週末20日、ダウ工業株30種平均は朝方の取引で上昇した。あと、トランプ氏の就任演説の最中に値を一部消したものの、その後は反発して前日終値比100ドル近く上伸して終了した。今年になってこれまでの上昇率は0.3%となっている。
資産運用会社T・.ロウ・プライス・グループの資産配分責任者セバスチアン・ページ氏は「トランプ氏は職業政治家でなかったし、同氏の政策とその見解には予測不可能な要素が多い」と述べ、「例えば彼の発信するツイートだ」とし、「これが政治的リスクを増している」と語った。
トランプ氏の大統領選勝利は、欧州連合(EU)離脱に賛成した昨年の英国民投票を受けた市場ショックや、今後の欧州各国の選挙と併せ、政治的リスクが他のリスクに取って代わる時期に金融市場が移行しつつあることを示している、と投資家たちは言う。彼らによれば、それは2008年の金融危機以降の中央銀行の行動が市場の方向を支配していた過去数年間からのシフトになるという。
例えば、大手資産運用会社ブラックロックで「マルチアセット・インカム・ファンド」のポートフォリオマネジャーを務めているマイケル・フレデリクス氏は「市場に対する連邦準備制度理事会(FRB)の影響は、恐らく過去数年間よりも目立たなくなる」と述べた。そして「トランプ氏はオバマ大統領の時代とは極めて異質の政策を実施すると予想できる。その政策は恐らく、株式市場におけるボラティリティと不透明感の大きな推進役になるだろう」と語った。
政治的リスクのなかには、トランプ大統領の下での保護主義的な貿易政策がある。投資家たちはまた、財政拡張策や減税を予想しているが、それは実施には時間がかかるだろう。さらに英国のEU離脱決定に続いて、フランス、ドイツで実施される選挙をめぐる不透明感がある。そこではポピュリスト(大衆迎合)主義的な勢力が欧州をどれほど席巻するのかが注目される。
ブラックロックやT・ロウ・プライスなどの資産運用会社は「カバードコール」などのオプション戦略を駆使している。それは証券や指数(原資産)を買う(ないし買いを維持する)一方で、コールオプション(あらかじめ定めた価格で買う権利)を売るものだ。一部の投資家は、それは横ばいか若干強気な市場で追加収益を生み出せる戦略だと述べている。
株式市場での本格的変動をめぐる不安感も忍び寄っている。バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチのデータによれば、シカゴ・オプション取引所(CBOE)のボラティリティ指数(VIX=恐怖指数)は依然として過去数年間の安値近辺のままだが、恐怖指数の荒い変動に対する見通しを追跡する指数(CBOEのVVIX指数)は、2006年以降の高値近辺に上昇した。
歴史を振り返ると、新大統領が就任するときは警戒が必要だ。投資調査会社ビスポーク・インベストメント・グループが作成した1928年までさかのぼるデータによれば、歴代大統領の宣誓後1カ月間で、S&P500種の変化率(中央値)は0.7%の下落だった。民主党大統領から共和党の新大統領に交代する時、下落率はもっと大幅で、2.6%の下落だった。
こうした幾つかの不透明要因から、資産運用会社ボストン・プライベート・ウェルスのチーフ市場ストラテジスト、ロバート・パブリク氏は2016年末にかけて、株式のエクスポージャー(保有額)を減らして、キャッシュを増やした。
パブリク氏は、同社の大型株成長戦略ファンドを運用している。同氏は、「株価は市場の先を行っている(ファンダメンタルズからみて上げ過ぎだ)」と述べた。そして、トランプ政権が主要なアジェンダ(政策目標)項目を遂行でき、株価が急騰するならば、「私のような人間は株を買い増さなければならないだろう。しかしキャッシュを現時点で少し追加するリスクは、比較的低いと思う」と語った。
S&P500種平均株価指数は、昨年11月8日の選挙投票日以降、なお6.2%高だし、現在まで69営業日の間、同指数が1%以上下落した日は皆無だ。しかし投資家たちは同時に、より防衛的なポジションも取っている。現金を積み増すか、ボラティリティ(激しい変動)の再燃の可能性に備えてヘッジしているのだ。
例えば17日に発表されたバンク・オブ・アメリカ・メリルリンチの調査によれば、グローバルなファンドマネジャーたちは今月、キャッシュ保有比率をポートフォリオ全体の5.1%とし、昨年12月の4.8%から増やした。これは過去10年間平均の4.5%を大幅に上回る比率だ。調査では、最大の不安要因として、米国の貿易戦争と中国の通貨下落の2つが挙げられたという。
もっと用心深い投資家もいる。彼らはトランプ氏の大統領就任に先立つ1週間に株式に対する売りポジションを積み増した。金融分析会社S3パートナーズによれば、ベンチマーク(S&P500種指数)を追跡している最大の上場投資信託(ETF)の「SPDR S&P 500 ETF」に対するショートポジション(売り持ち高)は今月19日に329億ドルに達し、1週間前の308億ドルを上回った。選挙投票日後に2カ月間続いていたトレンドの反転だ。
金融株は、昨年11月のトランプ氏勝利後に急騰していたが、先週は市場の後退を主導した。これは選挙後の一部取引に対する確信を投資家たちが失いつつあることの証拠だ。KBWナスダック銀行株価指数は今月20日までの5日間で2.8%下落した。ファンド資金の流れを調査しているEPFRグローバルのデータによると、投資家たちは18日までの1週間でグローバル金融部門から7億4900万ドルの資金を引き揚げた。これは過去17週で初めての資金流出だった。
投資家やアナリストたちは、この株価の調整は、米国の経済見通しに対する当初の楽観論から投資家が本格的に後退したことを意味しないと述べている。投資家たちはむしろ、楽観論への自らの確信を緩めている形だ。彼らは、トランプ氏の大統領就任を機に何が打ち出されるのか、そしてもっと広く、ビジネス面にどう影響するのかを見極めようと待機姿勢をとり始めたのだという。また今年、政治が米国と世界全体でどう展開していくかに対する全般的な不安感を織り込もうとしているという。
大統領就任式の行われた週末20日、ダウ工業株30種平均は朝方の取引で上昇した。あと、トランプ氏の就任演説の最中に値を一部消したものの、その後は反発して前日終値比100ドル近く上伸して終了した。今年になってこれまでの上昇率は0.3%となっている。
資産運用会社T・.ロウ・プライス・グループの資産配分責任者セバスチアン・ページ氏は「トランプ氏は職業政治家でなかったし、同氏の政策とその見解には予測不可能な要素が多い」と述べ、「例えば彼の発信するツイートだ」とし、「これが政治的リスクを増している」と語った。
トランプ氏の大統領選勝利は、欧州連合(EU)離脱に賛成した昨年の英国民投票を受けた市場ショックや、今後の欧州各国の選挙と併せ、政治的リスクが他のリスクに取って代わる時期に金融市場が移行しつつあることを示している、と投資家たちは言う。彼らによれば、それは2008年の金融危機以降の中央銀行の行動が市場の方向を支配していた過去数年間からのシフトになるという。
例えば、大手資産運用会社ブラックロックで「マルチアセット・インカム・ファンド」のポートフォリオマネジャーを務めているマイケル・フレデリクス氏は「市場に対する連邦準備制度理事会(FRB)の影響は、恐らく過去数年間よりも目立たなくなる」と述べた。そして「トランプ氏はオバマ大統領の時代とは極めて異質の政策を実施すると予想できる。その政策は恐らく、株式市場におけるボラティリティと不透明感の大きな推進役になるだろう」と語った。
政治的リスクのなかには、トランプ大統領の下での保護主義的な貿易政策がある。投資家たちはまた、財政拡張策や減税を予想しているが、それは実施には時間がかかるだろう。さらに英国のEU離脱決定に続いて、フランス、ドイツで実施される選挙をめぐる不透明感がある。そこではポピュリスト(大衆迎合)主義的な勢力が欧州をどれほど席巻するのかが注目される。
ブラックロックやT・ロウ・プライスなどの資産運用会社は「カバードコール」などのオプション戦略を駆使している。それは証券や指数(原資産)を買う(ないし買いを維持する)一方で、コールオプション(あらかじめ定めた価格で買う権利)を売るものだ。一部の投資家は、それは横ばいか若干強気な市場で追加収益を生み出せる戦略だと述べている。
株式市場での本格的変動をめぐる不安感も忍び寄っている。バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチのデータによれば、シカゴ・オプション取引所(CBOE)のボラティリティ指数(VIX=恐怖指数)は依然として過去数年間の安値近辺のままだが、恐怖指数の荒い変動に対する見通しを追跡する指数(CBOEのVVIX指数)は、2006年以降の高値近辺に上昇した。
歴史を振り返ると、新大統領が就任するときは警戒が必要だ。投資調査会社ビスポーク・インベストメント・グループが作成した1928年までさかのぼるデータによれば、歴代大統領の宣誓後1カ月間で、S&P500種の変化率(中央値)は0.7%の下落だった。民主党大統領から共和党の新大統領に交代する時、下落率はもっと大幅で、2.6%の下落だった。
こうした幾つかの不透明要因から、資産運用会社ボストン・プライベート・ウェルスのチーフ市場ストラテジスト、ロバート・パブリク氏は2016年末にかけて、株式のエクスポージャー(保有額)を減らして、キャッシュを増やした。
パブリク氏は、同社の大型株成長戦略ファンドを運用している。同氏は、「株価は市場の先を行っている(ファンダメンタルズからみて上げ過ぎだ)」と述べた。そして、トランプ政権が主要なアジェンダ(政策目標)項目を遂行でき、株価が急騰するならば、「私のような人間は株を買い増さなければならないだろう。しかしキャッシュを現時点で少し追加するリスクは、比較的低いと思う」と語った。