トランプ氏とはどういう人物か−10のポイント
米新大統領に就任したドナルド・トランプ氏の言動にはサプライズが当たり前で、同氏に対し固定観念を抱くことはできない。トランプ氏は米国史上最も異端な大統領となるだろう。他のメディアと同様、われわれも同氏を理解しようとしている。取材を通して浮かび上がった同氏の人物像について、重要な10のポイントを以下に挙げる。
1.信じられないほど細部にこだわる
これはかなり意外だ。トランプ氏はあまり他人に仕事を委任しない。就任演説はほぼ一字一句まで自ら推敲(すいこう)を重ね、法律についても事細かに精査している。下院共和党の法人税改革案に盛り込まれた「国境調整」の条項は信じられないほど複雑で、筋金入りの「通」にしか分からないものだが、トランプ氏はこの条項を理解している。
2.共和党指導部と距離
トランプ氏がポール・ライアン下院議長(共和、ウィスコンシン州)と友好関係を築くことはないだろう。また、共和党の意表を突く言動に出ることもいとわない。同氏は15日付の米紙ワシントン・ポストのインタビューで、医療保険制度改革法(通称オバマケア)に代わる「全ての国民のための保険」制度の導入を目指すと語ったが、上院共和党議員らはこの発言にもあぜんとした。共和党指導部への事前の相談はなかったのだ。指導部はトランプ氏のこうしたやり方に慣れた方が良い。
3.ドル高を容認せず
金融市場は17日、ドルは強すぎるというトランプ氏の発言に仰天した。米大統領や財務長官が直接的な表現で為替政策に口先介入したことはこれまで一度もない。トランプ氏が本当にドル安志向なら、一大事だ。
4.関税導入にはとことん本気
数十年前からトランプ氏は、米国は貿易相手国によって搾取されていると主張してきた。この問題については一歩も譲らないだろう。中国などが米国から金品を巻き上げてきたとして聞く耳を持たない。相手から譲歩を引きだそうと強気な発言に出るだろうが、関税引き上げや貿易協定脱退を実行する覚悟は十分だ。
5.ペンス氏とプリーバス氏の意見は聞く
希望的観測かもしれないが、われわれが取材した共和党議員らは、トランプ氏が極端な政策に走ろうとしても、マイク・ペンス副大統領やラインス・プリーバス大統領首席補佐官が懐柔に動くと確信している。ペンス氏もプリーバス氏も基本的には現実主義者だ。「トランプ氏は挑発的な発言を好むが、結局のところ、政策を運営するのはペンス氏やプリーバス氏となるだろう」とある内部関係者は言う。
6.衝動で判断する
これはトランプ氏の側近の間でも大きな心配の種だ。同氏の発言は往々にして自分の支持層に向けられたもので、北大西洋条約機構(NATO)や気候変動、財政出動による債務拡大などの問題について閣僚候補らと意見が食い違っても意に介さない。また、仕返しを信条とする攻撃性も備えており、挑発に乗りやすいとも言える。北朝鮮やイランがこのことに気づいているのは間違いない。
7.ツイートはやめない
これには慣れるしかない。われわれが取材した人たちは皆、トランプ氏からツイッターを取り上げることはできないと確信している。国のトップとして一般大衆に直接メッセージを発信できるツイッターはトランプ氏の大のお気に入りだ。われわれが朝起きてまずやらなければならないことは、トランプ氏の前夜のツイートをチェックすることだ。同氏のツイートを材料に株式などの市場が動く可能性があるからだ。
8.口では脅しても実際には何もしない
トランプ氏はある日メディアを攻撃したかと思うと、翌日にはニューヨーク・タイムズ紙をほめていたりする。世間の注目を集めることにかけては天才で、2015年にはメディアを巧みに操った。まず理不尽な交渉を持ちかけ(これは彼がDNAとして持って生まれたものだ)、次に何らかの取引を求めるというのがトランプ流だ。ヒラリー・クリントン氏を私用メール問題で収監する可能性を示唆したことなど、選挙戦中の攻撃的発言について同氏は選挙の後、大半は単なるパフォーマンスだったとほのめかした。
9.ビジョンがある
第40代大統領のロナルド・レーガン氏は三つの主要目標を掲げていた。ソ連の影響力を弱めること、政府の役割を縮小すること、そして減税だ。レーガン政権の政策はまさにこれに尽きる。トランプ政権も同じだ。トランプ氏は、米国をもっと安全な国にすること、減税と規制緩和、そして鉄鋼業など産業が廃れたラストベルト(さびついた工業地帯)の復興を目指す考えだ。トランプ氏は一つのビジョンを持っているが、対抗するクリントン氏にはそれがなかった。
10.幾つもの弱み
われわれが取材した人たちが口を揃えて指摘するトランプ氏の弱みは以下の通りだ。財政赤字を気にしない。債務を増やすことに全く何の抵抗もない。人種差別など多くの社会問題について正しい判断ができない。気に入らない企業を威嚇するなど、民間部門への介入を辞さない。
<結論>
われわれが特に注目したいのは、トランプ氏が市場や経済にとって良い大統領かどうかだ。答えはイエスというわれわれの意見は変わらないが、トランプ氏は全くの新しい世界に飛び込んだ新米で、しかもミスはほとんど許されない。歴史を振り返ると、素晴らしい大統領、そして時には普通の大統領さえも在任中に成長できた。だからトランプ氏もそうあってほしい。