「一応」が持つ2つのニュアンス | てにを舎の考具 考える日本語®

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日本語を学びなおしてみると、今まで気づかなかったルールや魅力が見えてきます。
少しだけことばに意識を向け、日本語について考えてみませんか。

ビジネスシーンの中でもよく聞く「一応」。


会議の場面で、自分の意見に対し上司が
「○○君の意見は、一応筋が通っているな


調査を命じられた部下が上司にその結果をするときに、
「指示された例の件ですが、一応調べてみました


2つの「一応」、少しニュアンスが違うと感じませんか。

国語辞典で調べてみると、「完全ではないが、最低の要件は満たしているさま」(『明鏡国語辞典』)「十分とはいえないが、ひととおり」(『精選版 日本国語大辞典』)とあります。


最初の例は、まさにこれが当てはまります。「意見は完全ではない、十分に満足した状態とは言えないが、完全に満足するまで待たなくても、これでいだろう」というもの。他の例では、「工事は一応完成しました」「作文は一応水準に達しています」「「一応話は聞いておきます」などです。
この「一応」を別のことばで置き換えると、「ひとまず」です。


いずれも“十分ではない”と認めつつも、それを否定せずに、それなりに認めようという気持ちが働いています。


一方、「一応調べてみました」は発話者自身が、「不十分だけれども、言われたことをしました」というニュアンスです。他の例では、「一応会ってみましょう」「一応買っておきました」「一応これに決めました」など。“まあ、必要かどうか(役立つかどうか)はさておき、行います”という気持ちが含まれているようです。他のことばで言い換えれば、「とりあえずに近いでしょう。


とくに、ビジネスシーンでではこの「一応」が多用されています。
「一応、やってみましょう」と言われたとき、


①相手は「できるかできないかは分かりませんが、着手しましょう」という肯定的な努力をするという意味で使っているのか


②「結果には満足しないと思います(できないかもしれません)」という否定的な気持ちで使っているのか


を判断しておかないと、後で「一応やるって言ったじゃないか」というようにトラブルになることがありますので、注意しましょう。

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