遠くで、汽笛が聞こえる。

 佐山は、心惹かれる思いに捉われ、汽笛の聞こえる方角を見た。

 が、船は見えない。

 見えるはずはないのだ。海からは、だいぶ遠ざかっている。

 つい今しがたまで、自分が乗っていた船。

 幼い頃から海に憧れて、ずっと船に乗っていた。

 佐山の人生は、いつも船と共にあった。

 そして今日、定年を迎えた。

 会社からは、後輩の指導ために残ってくれないかと打診されたが、船に乗れないのに会社に残っても、船への未練が増すだけで、よけい辛い思いをすることがわかっているので、丁重に断った。

 陸に上がった河童か。

 佐山が自嘲の笑みを浮かべて、汽笛のする方角から、無理に顔を背ける。

 佐山は、これまで結婚をしていない。

 船乗りは、海を生活の場として生きていく。そして、海はいつも自分達を歓迎してくれるとは限らないし、一度航海に出れば、何ケ月も家を空けることになる。

 日本を離れて家に帰るまで、家族に不安や心配をさせる勇気を、佐山は持ち合わせてなかった。

 自分には、なにもない。

 そう思った時、佐山は汽笛のする方へと駆け出していた。

 

 

 

 

 

 

真実の恋?(現在連載中)

夜の世界に慣れていない、ひたむきで純粋ながら熱い心を持つ真(まこと)と、バツ一で夜の世界のプロの実桜(みお)が出会い、お互い惹かれあっていきながらも、立場の違いから心の葛藤を繰り返し、衝突しながら本当の恋に目覚めてゆく、リアルにありそうでいて、現実ではそうそうあり得ない、ファンタジーな物語。

 

真実の恋?を面白く読んでいただくために

 

 

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