後悔先に立たず。
今の高橋がそうだった。
なんで俺は、あその時、あんなことを言っちまったんだろう。
あれだけ愛してたのに、些細なことで口論になり、つい暴言を吐いてしまった。
いつもは、優しく接していた。券かも、これまでしたことがない。
なぜ、あの時は喧嘩になったのか?
今から思っても、不思議だ。
別れて二十年も経つが、未だに加奈のことを忘れられない高橋は、あれ以来恋もせず、独身を貫いている。恋をするのが怖いというのもあった。
未練だなとは思っている。
風の噂に、加奈が結婚したと聞いた。それも、高橋と別れて、一年と経たぬ間にだ。
高橋は、きっと俺のことを忘れたくって、見合いでもしたのだろうと思った。
そんな加奈の心情を思うと、加奈を恨む気持ちにはなれず、却って、加奈への慕情と罪悪感が募った。
加奈が幸せになってくれていればよいな。高橋は、いつもそればかりを思っている。
当の加奈は、玉の輿に乗って、幸せに暮らしていた。
高橋と喧嘩別れしたのは、加奈の策略だった。知り合いの紹介で、大会社の御曹司と出会い、あっさりと高橋を切捨てたのだ。うまいこと喧嘩に持ち込んで、高橋に暴言を吐かせた。高橋ののような純情な男を手玉に取るのは、加奈に取って簡単だった。
そんな加奈だから、今では高橋のことなんか、すっかり忘れている。
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