「隊長、おかしなものが」

 敵の様子を双眼鏡で窺っていた兵士が、双眼鏡を隊長に手渡し、ある方向を指差した。

 隊長が双眼鏡を受け取り、兵士が差した方向を見る。

「なんだ、あれは」

 その物体を認めるなり、日頃は冷静沈着な隊長が、思わず大きな声をだした。

 双眼鏡のレンズに映っていたものは、大きなアドバルーンのような人形である。顔の部分には、「へのへのもへじ」が描かれてある。

 激しい戦闘を繰り広げている地帯に、なぜあのようなものがあるのか?

 隊長は首を傾げた。

 もう一度、よく観察してみる。

 奇妙なことに、敵方の兵士の姿が見えない。

 ここ数分ほどは攻撃がなかったので、戦いは膠着状態に入っていたから、てっきり、敵は作戦を立て直しているものと思っていた。

 周りをじっくりと見渡しても、敵方の姿はどこにもなかった。

 おかしな物体が、こちらに近づいてきた。大きさは、二メートルくらいだ。

「撃て」

 隊長の命令と同時に、兵士の銃が一斉に火を噴いた。

 だが、アドバルーンみたにふわふわしているのに、弾は全部跳ね返った。

 兵士達が、次々とその物体に飲まれていった。人形の中には、豆粒のように小さくなった兵士達が、子供のような無邪気な顔をして、すやすやと眠っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

真実の恋?(現在連載中)

夜の世界に慣れていない、ひたむきで純粋ながら熱い心を持つ真(まこと)と、バツ一で夜の世界のプロの実桜(みお)が出会い、お互い惹かれあっていきながらも、立場の違いから心の葛藤を繰り返し、衝突しながら本当の恋に目覚めてゆく、リアルにありそうでいて、現実ではそうそうあり得ない、ファンタジーな物語。

 

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