引き留める事なんか出来やしないから。

もしも叶うなら、引き金を引いてあげたい。
たとえこの手が汚れても、アナタが楽になれるなら。

手を伸ばして

腕を伸ばして

指を伸ばして

口を開いた


貴方の声が歪んで消えて


手を伸ばして

腕を伸ばして

口を開いて

耳を塞いだ


私の声は響かず消えて


手を伸ばして

口を開いて

耳を塞いで

頬を濡らした


彼女の声が嗤って見えて


口を開いて

耳を塞いで

頬を濡らして

君を睨んで


私は私の声が聞けない

私は君の声が聞けない

君は私の声が聞こえて

君は私に声を掛けてて


耳を塞いだ私の耳には

誰の声も届くはず無くて

困ったように笑う貴方を


私は ただ 非難した 。


手を伸ばしたかった

腕を伸ばしたかった

指を伸ばして

口を開きたかったんだ


耳を塞ぎたくなかった

頬を濡らしたくなかった

君を睨みたくなかった

君と笑っていたかった


本当の私の声は、

私だけには届かない。

古代ギリシャの快楽主義者は、

現実の煩わしさから逃れることを良しとした。

人生を「快」を求めることに費やした彼は

72歳で死んでいった。


彼の名をエピクロスという。


晩年、エピクロスは私に語った。


『エピキュリアン=退廃的快楽主義者』

今じゃこんな図式が出来上がっているらしいじゃないか。

酒を飲み、薬に溺れ、女を抱く。

そんな連中こそエピキュリズムの体現者だと。

冗談じゃない。

俺はただ、現実から目を逸らしても良いのだと伝えたかっただけだ。

ただ精神をくだらない檻から開放しろと

そう伝えたかっただけなんだ。

肉体の快楽など知ったことか。

毎日続く苦痛や不満を取り除くことに比べたら、

一体その快楽とやらがどれだけ小さな事か、想像すれば分かるだろう。

永遠に続く苦しみから逃れ、

平静なる心を持ち続けられるなら、

どんな快楽も悦楽も要らない。

それがどんな欲望であっても耐えるだろう。

何よりも大切なものは、そんな単純なものではないんだ。

だから俺は…


彼はそこで息絶えた。


彼の肉体は葬られ、そして今は見る影も無い。

しかし肉体よりも精神に重きを置いた彼のその魂は、

果たして今、何処にあると言うのだろうか。


彼からの伝言は、

今も静かに続いているのだ。

泥に塗れて
僕は埋くまった
頭の中では
今も声が響いている

雨に濡れて
僕は君を待った
針の速さは
驚く程に進まない

風に噎せて
僕は立ち尽くした
君の言葉は
胸に刺さる棘のように

そして溢れる光の中で
僕は立ち上がった

街の喧騒は最早遠く
暖かな陽射しは僕の眼を射抜いて
空からの意思に突き動かされ
何よりも汚れ無き者になるために

満足なんか出来ないさ

事前に用意された幸せなんかじゃ


前も後ろも分からない世界で

自分で拾った石ころが

誰にも理解されない宝物になるみたいに


満足行く道を歩もう

たとえ人から笑われたって

そんときゃ一緒に

そいつを笑ってやるからさ


満足なんか出来ないさ

誰かに用意されたゴールなんかじゃ


右も左も変わらない世界で

たまたま見付けたお前らが

掛け替えの無い親友になったみたいに


満足の行く道を歩もう

たとえ誰かに馬鹿にされたって

そんときゃ一緒に

大声で叫んでやるからさ


人から与えられた自由なんて

そいつはただのゴミクズだ

たとえ皆が羨んだって

俺は欲しいと思わない


人から与えられた自由なんて

そいつはただのゴミクズだ

誰かの真似で生きるなら

誰か一人が生きりゃいい

誰がいつ何処で死ぬかなんて

僕には分からない


僕がいつ何処で死ぬかなんて

誰にも分からない


だから


毎日今生の別れみたいなものを感じてる

毎朝再会の喜びみたいなものを噛締めてる


少し離れるだけでも

何かが起こったら会えなくなってしまうのだから


何が起こるかなんて

誰にも分からない


だから


毎日を

面白可笑しく生きていこう


毎日が

笑顔に包まれているように


毎日を

面白可笑しく変えていこう


毎日が

いつ死んでも可笑しくないのなら


いつ死んでも良いように

毎日を最高の一日に変えていこう


そんでもって出来るだけ長く

その毎日を続けて生きたいと思う


そんな欲張りな僕を神様が叱るなら

とりあえずドロップキックをブチかます

打ち込まれて

取り込まれた


売り転がされ

虜にされる私と


其処に居合わせ

つまらなそうに眺める貴方


楔は何処に

貴方は何処に


絆では無いかもしれない

些細な擦れ違いで


縁無き出会いかも知れない

宴の最中の出来事で


足を留められ

動けない私と


其れを眺めて

愉しそうに去っていく貴方


楔は鎖に

貴方は彼方に


傷無き絆は

噎び泣く声すら届かない

亡霊を見た


それは美しくも恐ろしき幻で

姿形はそこにあるのに

存在感だけが浮き出るように

輪郭以外がぼやけて見えた


頭から離れない


消えない影が

朝も昼も夜も

現れては消える日々

次第に他の何かが見えなくなった


消えていく影が怖くて


見えることが恐ろしかった筈なのに

消えそうになると不安になって

追い続け追い求めた

次第に足は速まって


当たり前が入れ替わる


そこには君がいて

君以外は何もなくて

僕は怖いくらい幸せで

幸せは怖いものだと知った

広い荒野に

ポツリと歌う

一人の好好爺


手には花を

手に手を取って笑う人は

彼に見向きもせず


一人歌い歩く彼の足は

既に棒よりも曲がらず

上げては下げてを繰り返す


彼の声は

街の騒音に掻き消され


彼の顔には

それでも遠くを眺める

澄み切った双眸が輝く


渇ききった喉からは

静かに小さな歌が流れて

周囲に自然に溶けていく


誰も気付かない彼は

今も旅をして

野に咲く薔薇のように


当たり前のように幸せを振り撒く

遣わされたその場所は

失意渦巻く広場と社


人は並んで泣きついて

箱の中身に話を聞かす


並んでるのに先に行かない

何かを言われて此処に来たのに


箱が遠い

隣の人も遠くに感じる


地面が近く

熱が無い


箱にそっと近寄ってみる

眠り顔


葬列から抜け出して

鏡の前に立ってみる


合わせ鏡の世界には

やっぱり誰も映らない